Element Magic Trinity
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勝手にしやがれ!
エルザとティアが島にやってきた次の日。
「どこだ、ここは?」
一晩経ち、ようやくグレイが目を覚ました。
見覚えのないテントに若干戸惑いつつ、テントを出る。
すると、村人の女性が声を掛けてきた。
「良かった・・・目が覚めましたか?」
「!」
「驚くのも無理ないですね。ここは村から少し離れた資材置き場なんです。昨夜・・・村が無くなっちゃったから、村の人達は皆ここに避難してるのよ」
「村が、無くなった?」
その言葉に疑問を持つが、すぐにその疑問は解決する。
リオンが言ったのだ。『村を消して来い』と。
「くっ」
ズキッと痛みが走る。
「でもナツさんやルーシィさん、ルーレギオスさんのお蔭でケガ人が出なかったのがせめてもの救いです」
「アイツ等もここにいるのか?」
「えぇ。先ほど女の人がグレイさんが目覚めたら呼んでほしい、と・・・あ、いらっしゃったわ」
村人の視線を追うようにその先を見る。
「!ティア!?」
そこに立っていたのは、いつも以上に冷たい目でこっちを見るティアだった。
常に無表情の顔には微かに怒りが滲んでいる。
「来なさい」
それだけ呟き、くるっと背を向ける。
その背中を追いかけ、横に並んだ。
急ぐように歩調を速めるティアの横顔は、怒り以外の感情を全て消していた。
・・・まぁ、それはいつもとあまり変わっていないのだが。
「どこに行くんだよ」
「・・・」
「聞いてんのか?」
「・・・」
「おい」
「愚者に語る言葉など無いわ」
つまり「会話してる暇はない」と同じ意味だ。
顔も見ようとせず、足だけを進める。
そしてテントの前で足を止め、中に入っていった。
そこにいたのは・・・。
「!エルザ!?」
足を組んで椅子に座る怒りの形相のエルザ。
その横には縄で身体を縛られたルーシィとハッピーがいた。
「ルーシィ!ハッピー!」
2人はしくしく・・・と泣いている。
ティアはその2人を睨みつけると、エルザの横に立った。
「だいたいの事情はルーシィから聞いた」
「アンタはナツ達を止める側ではなかったの?グレイ」
グレイは沈黙する。
「呆れて物も言えんぞ」
「ナ・・・ナツとルーは?」
「それは私達が聞きたい」
グレイは目線をルーシィとハッピーに移す。
「ルーシィ・・・ナツとルーはどうした?」
「ナツは解らない・・・村で零帝の手下と戦ってたはずなんだけど・・・そいつ等は片づけられてたのに、ナツの姿が見当たらなかったの」
「ルーは?」
「あたしと零帝の手下の相手をしてたんだけど、途中で逃げたみたいで・・・」
ルーの察知した「危険」はこれの事だったのかもしれない。
「そ、それでね・・・とりあえずグレイの所に連れてけって言われて・・・」
「よくこの場所が解ったな・・・村の資材置き場だと聞いたぞ」
「オイラが空から探したんだよ。縛られたまま」
2人は慌てたような声でそう言う。
そしてエルザがすくっと立ち上がった。
「つまりナツはこの場所が解らなくてフラフラしてる訳だな」
「ならやるべき事は1つ。ナツとルーを連れ戻しに行きましょう」
「あぁ。グレイ、ナツとルーを探しに行くぞ。見つけ次第ギルドに戻る」
その2人の言葉にグレイは目を見開いた。
「な、何言ってんだエルザ、ティア・・・事情を聞いたなら、今この島で何が起こってるか知ってんだろ」
それに対し、2人は冷たく言い放つ。
「それが何か?」
「今重要なのはそれじゃないわ」
ルーシィがふるふると首を横に振る。
「何を言っても無駄だ」と言いたいのだろう。
先ほど説得して、2人とも同じような答えを出したのだから。
グレイは言葉を失った。
所変わって、ここは月の遺跡の前。
「ナツ~、ナツ~、起きてー!」
「んあ・・・いっけね・・・せっかくいい事思いついたのに、寝過ぎちまった」
そこにはエルザ達が探している2人・・・ナツとルーがいた。
2人は立ち上がり、遺跡を見上げる。
「さーて・・・始めっか」
「張り切っていくよ」
「私達はギルドの掟を破った者を連れ戻しに来た」
「残るはナツとルーの2人。それ以外の事には一切の興味が無いわ」
「この島の人達の姿を見たんじゃねぇのかよ」
「見たさ」
「それを放っておけというのか!?」
「掟を破った裏切り者にそんな事を言う権利はないと思うけど」
グレイは2人を説得しようとするが、2人ともそれを認めない。
「依頼書は各ギルドに発行されている。正式に受理されたギルドの魔導士に任せるのが筋ではないのか」
それを聞いたグレイは、一呼吸おいて言い放つ。
「見損なったぞ・・・エルザ、ティア」
「何だと?」
「何ですって?」
吐き捨てる様な言葉にエルザとティアの眉がピクッと動く。
「グレイ!エルザ様とティア様に向かってなんて事を!」
「様・・・!?」
こっちは漫才のような会話をしている。
「お前までギルドの掟を破るつもりか」
「素直に帰るのなら半殺しだけは止めてあげようと思っていたのだけれどね」
エルザは剣を構え、ティアは魔法鞭を先ほどルーシィに向けたのと同じ形態にして構え、剣をグレイに向け、鞭を撓らせた。
「ただでは済まさんぞ」
「そう言うのなら手は抜かないわ。死んだら己の身を恨みなさい」
だが、グレイは怖れる事をせず、向けられた剣を握った。
「!」
それを見たエルザは驚く。
「勝手にしやがれ!これは俺が選んだ道だ!やらなきゃならねぇ事なんだ」
剣を握った掌から血が流れる。
パッと剣を離し、顔だけをこっちに向けた。
「最後までやらせてもらう。斬りたきゃ斬れ、殺したきゃ殺せよ」
そう言い残し、グレイはテントから去っていく。
ポタ、ポタ・・・と剣からグレイの血が流れる。
ふぁ・・・とエルザの髪が靡いた。
「エルザ・・・」
「あぁ」
ティアのソプラノボイスに怒りが混じる。
声だけではない。目にも表情にも怒りがにじみ出ている。
「ちょ・・・エルザぁ~、ティアぁ~、おおお・・・落ち着いて・・・!」
「そうそう、グレイは昔の友達に負けて、気が立ってんだよぉ~・・・」
2人が震える声でそう言う。
エルザがギロッと2人を睨み、2人はすくみ上がった。
「エルザぁ~~~~~っ!」
「ナツー!助けてーーーーーー!」
そしてエルザは斬った。
・・・ルーシィとハッピーを縛っていた、縄を。
「行くぞ」
「え?」
突然縄を斬られ、突然「行くぞ」とまで言われたルーシィは声を上げる。
「これでは話にならないわ」
「まずは仕事を片付けてからだ」
それを聞いたルーシィとハッピーの顔に笑顔が浮かぶ。
「勘違いするなよ、罰は受けてもらうぞ」
「アンタ達の事を許した訳じゃないんだからね」
「「あい」」
ここは月の遺跡・・・の中。
「情けない・・・残ったのはお前だけか」
「おおーん」
遺跡の中にある玉座に『零帝』リオンが足を組んで座り、その前に申し訳なさそうにトビーが立っていた。
麻痺爪メガクラゲが刺さった額には湿布が貼ってある。
「妖精の尻尾め、なかなかやるな・・・まぁ『奴』がいるギルドだ。それくらい当然か・・・」
「俺が自爆ったのはナイショの方向で頼みます」
トビーの自爆発言にリオンは沈黙する。
それは呆れての沈黙とも思えるが、何かを考えているような雰囲気が漂った。
「これではデリオラの復活も危ういかもしれませんな」
「いたのか、ザルティ」
そこに仮面の初老の男『ザルティ』が現れた。
「今宵・・・月の魔力は全て注がれ、デリオラが復活する。しかし月の雫の儀式を邪魔されてしまえば、デリオラは氷の中です」
「くだらん・・・最初から俺が手を下せばよかっただけの事」
「おおーん。めんぼくない」
リオンの言葉に更に申し訳なさそうな表情をするトビー。
「相手はあの火竜と妖精女王、そして海の閃光ですぞ」
「相変わらず情報が早いな」
エルザとティアがこの依頼に参加する事になったのはついさっきの事だ。
「だが俺には勝てん。ウルをも超える氷の刃にはな」
それに対し、ザルティは感心したような声を出す。
「それはそれは、頼もしい限りですな」
ザルティの仮面の下の目が細まる。
「では・・・私めも久しぶりに参戦しますかな」
「お前も戦えたのかよっ!?」
思いがけない言葉にトビーが驚く。
「はい・・・『失われた魔法』を少々」
「失われた魔法!?おお?」
「フン。不気味な奴だ」
リオンがそう言ったその時、地鳴りのような音が響いた。
パラパラ・・・と天井から砂の様なものが落ち、遺跡全体がガタガタと揺れる。
ズゴォォォ・・・と音を立て、揺れが治まりかける。
「こ・・・これは!?」
「遺跡が崩れ・・・」
トビーが言いかけ、気づく。
「いや・・・傾いた!」
突如、月の遺跡は左側に傾いてしまった。
ドッドドドド・・・と音を立て、揺れが完全に治まる。
「早速やってくれましたな」
そう言うザルティの目線の先には煙。
何があるのかは全く見えない状態だ。
「ほれ・・・下にいますぞ」
煙が晴れ、崩れた床の穴からリオンとトビーも下を見る。
そこには2人の人影。
「!アイツ等!」
トビーが叫んだ。
「普段知らねぇうちに壊れてる事はよくあっけど、壊そうと思ってやると結構大変なんだな」
「だね。予想以上に疲れちゃったよ・・・いつもは無意識に更地にしちゃうんだけどな」
2人の人物はそう会話する。
「貴様・・・何のマネだ・・・」
リオンが憎たらしげに下を見た。
「建物、曲がったろ?」
「これで月の光は地下の悪魔に当たらないよ」
そこには遺跡を傾かせた張本人・・・ナツとルーがいたのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ティアさん怖い事言ってますけど、あれで通常モードですからね。
最悪の場合はもっと凄い事に・・・あわわわわ・・・想像しただけで恐ろしい事に・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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