ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十八話:揺れる夜と揺らがぬ朝
絶対に断るべきだと思いながらも、ベッドに潜り込んでくるヘンリーに文句を言うでも押し返すでも無く、ただ見ている私。
これは、不味い。
絶対に、不味い。
いくら何もされないと言っても、甘えてはいけないレベル。
いくら、変態ストーカーの襲撃が怖いからって。
不安な時に散々甘やかされて、抑えが利かなくなってるからって。
ただ、状況と場所が不味いだけであって、やってることは別に今までと変わらないわけで。
布団に潜り込んできたヘンリーに抱き締められて、うっかり安心してしまいます。
落ち着く。
すごく、落ち着く。
もう、怖くない。
でもダメだ、こんなのは。
心を奮い起たせて、なんとか口を開いて。
「……ほんとに?大丈夫、なの?」
でも出てくるのはそんな弱々しい声の、甘ったれた言葉で。
違うだろう。
そうじゃなくて、拒否するところだろう、ここは。
「大丈夫だよ。心配すんな」
なんでそんな、優しい声を出すの。
優しく、頭を撫でたりするの。
突き放してくれれば、怖くても一人で頑張るのに。
我慢できるのに。
……ダメだ、泣く。
もう、泣く。
それ以上なにも言えずに啜り泣き始めた私の頭を、ヘンリーも何も言わずに、ますます優しく撫でてくれて。
優しくしないでよ。
甘やかさないでよ。
ずっと一緒には、いられないんだから。
別れが、必ず来るんだから。
その時に、辛くなるだけなんだから。
そんな文句を散々考えながらも口に出すことは無く、迂闊にも安心し切って熟睡してしまったようで。
目を覚ましたら、ヘンリーの胸にしがみついてました。
……うわあ。
完全に、密着状態なんですけど。
大丈夫だったの?ヘンリーくん(十八歳)。
と思ってそろそろと顔を上げると、意外にもヘンリーも熟睡中で。
全く目を覚ます様子が無いので、明け方になってようやく眠れたとか、そんな感じかもしれないけど。
と、思ってたらヘンリーが目を開け、目が思いっ切り合いました。
「……おはよう、ヘンリー」
「……おはよう……?」
何故に疑問形。
しばし私の顔をじっと見ていたヘンリーが、視線を下に落とし、はたと何かに気付き。
「……!!」
真っ赤になって私の肩を掴み、引き離します。
……あれ?
耐性どこ行った?
「……ヘンリー?どうしたの?」
「どうしたって……!!なんで、おま……!!」
「ヘンリーが入って来たんじゃない、私のベッドに。添い寝してくれるって言って」
口元を手で覆って動揺を抑えていたヘンリーが、しばし考え込み。
「…………そうだった…………」
今度は目元を手で覆って、項垂れます。
そうか、寝惚けて忘れてたのか。
不意討ちも同然だったわけね、そりゃあ無理も無い。
しかしそうなると気になるのは、耐性は結局付いたのか付いてないのか。
「ヘンリー。ちゃんと眠れた?」
「……それなりに」
若干眠そうではあるが、酷いクマがあるということは無いし。
顔色ももう戻ってきてるし、嘘では無さそうだ。
やはり不意討ちでさえ無ければ、かなり大丈夫なのか。
「ラインハット。行けそう?」
「……ああ。行こう」
もうこれ以上、寄り道する場所は無いからね。
早く行って、国とデールくんと太后様を助けて。
それぞれの人生を、歩み始めよう。
朝食は食堂で取ることにヘンリーの同意が得られたので、食堂に下りて朝食を取っていると。
「昨晩は、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。お蔭様で、助かりました」
宿屋のご主人が、挨拶してきました。
ご迷惑はわかるが、助かったってなんだ。
「そちらの方が痛め付けてくださってたお蔭で、犯人は無事に捕まりまして。もうご心配いりませんよ!」
え?
「あの。捕まったって、昨夜のうちにですか?」
「ええ、勿論。すぐに休まれたようなので、お伝えするのが遅くなってすみません」
本当だよ!
昨夜のうちに聞いてれば、添い寝とか全く必要無かったじゃん!
……まあ、これから出発までの安全が確約されただけでも、かなり良かったけど!
にこやかに去っていく宿の主人が十分に離れたところで、愚痴を吐き出します。
「起こさないようにとか、色々気を使ってくれたんだろうけど。早く教えてくれれば、ヘンリーもちゃんと寝られたのにね」
「……いや……いいよ、別に」
ヘンリーは特に文句も無いようで、不満を顕にする私とはひどく温度差があります。
ヘンリーこそ、もっと怒っていいのに。
まあ、今さら言っても仕方ないことではあるし。
軽く流して、さっさと気分を切り替えたほうがいいか。
そんなわけで不愉快な存在のことはもう忘れることにして、身支度を整えて宿泊特典の安眠枕(ブドウの香り付き)もしっかり受け取り、アルカパの宿を発ってラインハットに向かいます。
スラリンを仲間にするなら、オラクルベリーでスライムの服を買っておくべきだった。
と思いながらもどうせ前衛に出す気は無いし、ルーラもまだ使えないのにわざわざ戻るほどでは無いので、どこぞで拾ったおなべのフタとブーメランを装備させて。
「この後、洞窟とか塔に入ると思うから。スラリンも連れてくから、少し戦いに慣れてもらうけど。スラリンはまだそんなに強くないから、前に出てきたらダメだよ。身を守っててね」
『スラリン!まもる!』
スラリンは良い子だからたぶん大丈夫だろうと思いつつ、念のため頭頂部にビアンカちゃんのリボンを結んで、賢さ対策をして。
するっと抜けて外れるかと思いきや、吸盤がくっつくように吸い付いて収まってました。
外そうとすれば、また簡単に外れたし。
ブーメランもおなべのフタも同じように吸い付いてるみたいだし、どういう仕組みだ。
スラリンを後ろに控えさせて戦闘をこなしながら東に進み、ラインハットとの国境の川にある関所に到着します。
十年前は、パパンとモモが一緒だったなあ。
と漠然とした思いに浸りながらヘンリーの後に続き、スラリンを連れて歩きます。
ヘンリーが、関所を守る衛兵さんに声をかけます。
「ラインハットに行きたいんだが。通れるか?」
「許可証はあるのか?」
「無いな。昔は、そんなものは要らなかったと思うが」
「太后様の命令でな。今では、許可証の無い者は通せないんだ。すまないな」
あれ。
ゲームの感じより、ちょっと物腰が柔らかいような。
「そう言わずに、通して貰えないか。トム」
「なぜ、私の名を。知り合い……では無い、よな?」
さらっと名前を呼ぶヘンリーに、衛兵さんが少々驚いてます。
ちょっと違ったけど、そこは合ってたのか。良かった。
「背中にカエルでも入れれば、驚いて退いてくれるか?ベッドに入れておいたときほど、反応は良くないだろうが」
「……そ、そんな……まさか……」
「久しいな、トム」
「まさか、本当に!ヘンリー王子様!!」
「ああ、そうだ」
「なんと、お懐かしい……!まさか、生きておられたとは!今、この国は」
「待て。話は気になるが、悪い話ならやめておけ。兵士が国を悪く言っては、色々と差し障るだろう」
「……はっ!」
ゴタゴタしてたから、町でラインハットの話とか聞き回って無かった。そう言えば。
でも、良い状況では無いのは間違い無さそうだ。
「通してくれるな?」
「はい!喜んで!」
衛兵のトムさんの見送りを受け、無事に関所を通過して地下道を通り、対岸に出たところでヘンリーが口を開きます。
「少し、見ていってもいいか?」
「来たこと無いの?」
八年間、この国の王子様やってたのに?
「ああ。体が弱いってことになってたからな。ほとんど、城から出たことが無かった」
「そっか。じゃあ、見てこうか」
王子様も大変だね。
このあと王兄殿下に収まれば、やっぱり自由には出歩けないだろうからね。
少しの手間なんだから、見られる時に見ておこう。
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