ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十九話:ピエール見参
堤防の上に登って眼前に広がる大河、それを取り巻く景色を眺めます。
季節は春を迎えて少し時が過ぎ、初夏にはまだ早いといったところなので。
十年前の寒々しいものとは違い、緑が溢れ花に彩られた、美しい景色です。
いつか、パパンとママンにも見せてあげたいなあ。
あとサンチョとモモと、ビアンカちゃんにも。
王様と友人だったくらいだから、パパンは見たことあるかも。
ヘンリーと見るのは、最初で最後になるのかなあ。
とか思いながら、とりあえず今ここにいるスラリンに見せてあげようと目をやると、既にヘンリーによって堤防の上に乗せられていました。
……うう、また負けた。
もはや私より、よほどモンスター使いらしい……。
……いや、保護者か。
どっちかというと。
スラリンも保護されてるのか、私のように。
同列か。スラリンと私は。
そんな私の内心を知る由もなく、景色を眺めていたヘンリーが呟きます。
「……こんなんだったんだな、この国は」
どういう意味だろう。
なにか、深い意味でもあるのか。
「出られなかったのもあるが。出たいとも、見たいとも、思って無かったからな」
そうなのか。
私は割と、アクティブに動き回っては止められてた気がするが。
個人差か、環境の違いか。
「……綺麗な景色だな。こうして見ると」
なんか、こういうの知ってる。
月が綺麗ですね。っていうの。
あなたと一緒に見るから、月が綺麗ですね。っていうの。
……いやいや、まさかそんな。
そんな風雅なことを、このヘンリーが。
しかも一緒にいるのが、私とスラリンではどうにも。
ヘンリーが目の前の景色から私に向き直り、微笑みます。
「見られて、良かった」
……よく、わからないけど。
嬉しそうに、見える。
たぶんヘンリーが骨を埋めることになるであろうこの国を、綺麗だと思えたなら、良かった。
本物の子供だったわけでも無いのに、見たいとも思えなかったのなら、尚更。
自分の生まれた国にも世界にも、全く興味が持てなかったみたいな。
そんなままでは、今は無いのなら。
「行くか」
「うん」
十分に景色を堪能し、スラリンを堤防から下ろして関所を後にします。
川の流れを眺め、話しかけて欲しそうに佇むじいさんに、特に構うことも無く。
……いや私は別に、構ってあげても良かったんだけどね?
ヘンリーが、なんかそんな感じじゃ無かったんだよね!
目もくれないっていうかね!
この後に控えるイベントを思えば無理も無い、仕方ない。
と、たぶん交通量も減って滅多に無くなったであろうチャンスを逃してしまったじいさんに、同情と軽い罪悪感を抱きながらも、やはりどうでもよくはあるのでさっさと割り切って、ラインハットの城下町を目指します。
が、ここからは、ただ戦うわけでは無い!
何故なら、ここでは!
彼が、現れるからです!
私の、騎士!
スライムナイトの、ピエールが!!
「ヘンリー!ピエールは、絶対に!絶対に、ゲットするから!スライムナイトは、私に任せて!」
「……わかった。危ない時は、俺も倒すぞ」
「うん!」
無理し過ぎてスラリンが死んだりでもしたら、悔やんでも悔やみ切れないからね!
そこは、勿論です!
ゲームであれば別に、誰が倒そうとも起き上がって仲間になってくれるけど、現実無理っぽいよね。
ヘンリーが倒して私の仲間になるとか、意味がわからないし。
と、打ち合わせを終えてターゲットを探していたところ、現れました!
スライムナイトの、集団が!
どれだ!どれが、ピエールだ!
とりあえず刃のブーメランで、一網打尽に!
と勇んで武器を構え、ヘンリーとスラリンには下がって貰って敵の接近を待つ私の視界の端から、ターゲットのスライムナイト隊に接近するものが。
なんだ?横取りですか?
でも人間では無いみたいってか、あれもスライムナイト?
なんだ、ピエール候補が増えただけか。
なら大丈夫だ、問題無い。
と余裕の構えで待ち受ける私の前で、異変は起こりました。
横合いから突進してきた追加の一体がそのまま集団に突撃し、攻撃を仕掛けたようです。
「なにあれ。同士討ち?」
「みたいだな。メダパニでもかかってるのか?」
「なんでよりによって、私の目の前で。なんか悔しい。行ってみよう」
「いいけどよ。別にあれでなくてもいいだろ」
「そうだけど、一応」
というわけで、何故か圧倒的な強さを見せ、スライムナイトの集団を次々に討ち取っていく一体が全滅させないうちにと、急いで近付きます。
近付いたところで、ヤツらの声が聞こえてきました。
「同族に刃を向けるとは!血迷ったか!」
「お主らには悪いが、あの方にお仕えするのは拙者であると、十年前から決まっておる!邪魔立てするなら、拙者を倒してからにして貰おう!」
随分しっかり喋るんだなあ、スライムナイトって。
口調が武士みたいになってるのは、メダパニの効果だろうか。
あと、魔物も個人差ってあるんだなあ。
強すぎでしょ、一体だけ。
「あ、全滅しちゃったね。集団のほう」
「……おい、ドーラ。まさか、あれ」
ヘンリーがなんか言いかけたところで、勝ち残ったスライムナイト(強)がこちらに向かってきます。
む、来るか!ピエール(仮)!
警戒を高め、刃のブーメランを投げ放とうとした瞬間、ピエール(仮)が騎乗していたスライムからヒラリと飛び降り、武器を置いて跪きます。
「お待ち致しておりました、我が主!」
あれ?
スライムナイトに知り合いは、まだ居ませんけど?
「ヘンリー。知り合い?」
「なわけ無いだろ。どう見ても、お前に言ってるだろ」
「その通り!拙者がお待ち申した我が主は、貴女様にござります!」
ヘンリーの言葉をすかさず肯定し、はっきりと私に向かって宣言する、ピエール(仮)。
あ、やっぱそうなの。
「えーと。特に、面識は無いと思うんだけど。なんで、私が主?」
「然もありなん。貴女様におかれましては拙者のこと等、認識もしておられなかったことでござりましょう。しかし拙者は、十年前のあの日。スライムナイトとしての初陣を踏んだあの日に、まだ幼い貴女様に、薙ぎ払われ。未熟ながらに訓練で培った、誇りも驕りもまとめて砕かれて、そのような狭小な事柄に囚われる己れの卑小な有り様と、幼き身に似合わぬ凄まじい気迫を以て目的に向かい邁進される貴女様の、気高くも美しい姿を引き較べて目を覚まし、誓ったのです。我が剣は、貴女の為に。貴女様が目的に向かわれる力となるべく、今日まで腕を磨いて参りました。どうぞ、拙者を。このピエールを、貴女様の臣下として、お連れくだされ」
セリフが長い。
長いが、わかった。
あの時、なんとかパパンに追い付こうと必死で進んでた時に、薙ぎ払った中に居たのか。
ピエールが。
急いでなければ経験値のために完全に殺りにいってただろうから、運が良かったというべきか、なるべくしてなったというべきか。
静かな熱い眼差しで私を見詰め、言葉を待つピエール。
微妙な顔のヘンリー。
いつも通りのスラリン。
全員の表情を見回して確認し、答えます。
「うん。いいよ。私は、ドーラ。よろしくね、ピエール」
元々、ピエールを求めてたわけだからね。
仲間になりたいと言ってくれて、しかも強いなら、他に言うことは無い。
「ドーラ様!有り難き幸せ!身命を賭して、お仕え致します!」
「いや、普通でいいから。変に命賭けたりしないで、普通に、仲間として。一緒に、頑張ろうね」
「有り難きお言葉!忠義の限りを尽くし、生涯お仕え致します!」
うん、固い。
固いね、とても!
まあ、いいか。
すぐに慣れるだろう、お互いに。
「早速ですが、ドーラ様。お仲間に、ご紹介頂けませぬか」
「そうだね。こっちの人がヘンリー、そっちのスライムはスラリン」
「ヘンリー殿に、スラリン殿ですな。旅仲間としては拙者が後輩に当たるゆえ、宜しくご指導ご鞭撻の程」
「……ああ。よろしくな、ピエール」
「ピキー?」
「拙者のスライムの名ですか。スラ風号と申します」
「ピキー!」
「有り難うございます。ほれ、スラ風号。お前も、礼を言わぬか」
「アリガト、スラリンサン!」
「ピキー!」
「ええ、スラ風号は、片言ながら人語を操りましてな。これは個体差でござりますゆえ、そうお気にされずとも」
「そうなんだ!それなら、ヘンリーとも話せるね!」
「ドーラ様は、スラリン殿のお言葉もおわかりになると。流石にござります」
「モンスター使いだからね!」
「成る程。流石にござります」
そんなわけで。
想定した流れとはかなり違いましたが、無事に騎士というか、武士を!
スライムナイト(強)のピエールおよび愛スライムのスラ風号を、ゲットしました!
戦力としても護衛としても頼りになりそうな力強い仲間を得て、今度こそ、ラインハットの城下町に向かいます!
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