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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  七十七話:アルカパの宿で

 ヘンリーに思いっ切り抱き締められたまま宿に入った私を見てどう思ったのか、目を見開いた後に泳がせて真っ赤な顔になった宿のご主人に、散々チラ見され。

 ……一体、どう見られたんだろう。
 男同士に見えたのか、普通に男女カップルに見えたのか。
 いいけど、もう。どっちでも。

 なんかもう色々とどうでも良くなって、この状態で三階まで階段を登るのも面倒くさくなり。

「ヘンリー。もうさ。抱いて」
「はあ!?」

 ヘンリーがすごい驚いてます。

「なんで驚くの?ヘンリーが言ったんでしょ、歩けないなら抱いてってくれるって」

 歩けなくは無いが、歩きにくい。

「…………そういう意味か…………」

 脱力したヘンリーが、もたれかかってきます。
 重い。

「嫌なら離して」
「……」

 脱力してたヘンリーが瞬時に立ち直り、ひょいと私を抱き上げます。
 はあ、らくちん、らくちん。

 奴隷労働で散々大岩やなんかを運んでたヘンリーが、今さら私を落とすとも思えないが、一応不安なので首に手を回します。
 やっぱり、赤くはなりません。
 本格的に、耐性が付いてしまったか。
 こうなったらなったで、ちょっと残念ではある。

 顔がよく見えるようになったところで顔色を窺いながら、ごにょごにょと聞いてみます。

「ヘンリー。……怒ってる?」
「何でだよ」
「大丈夫とか言って一人で動いて、やっぱり迷惑かけて」
「心配はしたけど、怒ってはねえよ。迷惑でも無いし」

 いっそ、怒ってくれたらいいのに。
 なんでそんなに、甘やかすかなあ。

「心配するのは、俺の勝手だろ。お前だって、最終的には一人でもなんとか出来るんだろうし。ただ、俺が守りたいだけで」

 それだよ。
 私は一人でなんとか出来るし、しないといけないのに。
 なんで、守ってくれるの?
 女だから?
 それともやっぱり、パパンの死に負い目を感じてる?

「いいだろ、理由なんか。お前はしたいことの理由とか、ちゃんと説明できるのかよ」

 ……できません。
 パパンとママンを何で助けたいかって、助けたいからとしか。
 色々と理由をくっつけることは出来るけど、その理由のひとつひとつを例えば潰されても、それで助けたくなくなるわけじゃない。

 でもなあ。
 困るんだよなあ。

「いいんだよ、お前は。俺がしたいって言ってるんだから、甘えてれば」

 いつかは、この手を離さないといけないのに。
 甘えることに慣れてしまったら、困る。

 だから、甘やかさないで欲しいのに。
 差し出された手は、本当は振り払わないといけないんだろうか。


 なんてことを悶々と考えてるうちに三階の部屋に着き、良い子でお留守番しててくれたスラリンに出迎えられ、ベッドに降ろされます。

「……帰ってきたとこだけど。もう、夕食の時間だね。食堂に」
「部屋に運んで貰おう」
「……大丈夫だよ」
「ああいうのは、思い詰めると何するかわかんねえだろ。念のためだよ」

 うーん。
 まあ、どうしても食堂に行きたいというわけでも無いし。
 何かあったらまたヘンリーに迷惑かけるわけだから、ここは従うべきか。


 ということで、部屋に運んで貰った夕食を、二人と一匹で取り。
 美味しいけどビアンカママンの料理とは全く違うことに、改めて彼らの不在をしみじみと感じ。


 またヘンリーに付き添われて、お風呂に向かいます。

「スラリンは」
「一緒に見張ってくれるってよ」
『スラリン!みはる!』

 ホントに言ってるし。
 何で、わかるんだ。

 そして私は、いつになったらスラリンとお風呂に入れるんだ。


 と、微妙に不満を感じながらも、スラリンも私を守ると張り切ってくれてるのはかなり嬉しいので、そのまま一人でお風呂に入り。

 体を洗って湯舟に浸かり一息吐いたところで、外から騒がしい声と物音が聞こえてきます。

 なんか、ヘンリーともう一人が怒鳴り合ってて、スラリンも威嚇してるような。
 そして武力を以て解決が図られた後に、バタバタと逃げ出す足音が聞こえたような。

 ……まさか、本当に、来た!?

 …………怖い!
 変態ストーカー、マジで怖い!!


 外が完全に静かになったところで、何となく物音を立てないように湯舟を出て、体の手入れや髪を乾かすのもそこそこに、服を着て廊下の様子をこっそりと窺います。

 何事も無かったような顔をしたヘンリーと、若干興奮気味のスラリンがそこにいて、すぐにヘンリーに気付かれました。
 気配消してたのに、何故だ。

「ドーラ。早いな」
「……うん。だって」
「大丈夫だ。もう、追い払った」

 やっぱり、ヤツか!

「……髪、濡れてるな」
「……」
「……早く戻ろう。風邪引くぞ」
「……うん」

 しがみつくという感じでも無く、何となくヘンリーの上着の裾に掴まってみたら、すぐに肩を抱かれます。

 この場合、あんまり手が塞がるのは望ましく無いのでは。

「大丈夫だ。あんなヤツ、片手でも」

 負けるとは思って無いけど。

「いいから、行くぞ」

 これでいいと思ってるわけじゃないのに、振り払えない。


 そんなこともありながら、特に何と言うことも無く部屋に帰り着いて、ふたりにお礼を言います。

「ありがと、ヘンリー、スラリン。もう大丈夫だから。ふたりも、お風呂行ってきて」
「いやいいよ、今日は。例の魔法、かけてくれれば」

 正直不安なので、甘えたい気持ちはあるんですけど。
 いい加減甘え過ぎなので、微笑んで言います。

「大丈夫だよ。ふたりがやっつけてくれたんだし。鍵もかけられるし、来ても私だって負けないし」

 私の笑顔をヘンリーが微妙な顔で見詰めて、溜め息を吐きます。

「全然、大丈夫な顔してねえし。お前がどう言っても、今日は行かない」

 大丈夫なのに。
 こんなときに甘やかされると、とことん甘えたくなるから。
 本当に、やめて欲しい。

「とりあえず髪、乾かせよ。本当に風邪引くぞ」
「……うん」

 全くその通りなので、ひとまず髪を乾かして。
 ヘンリーは勿論、スラリンも全くお風呂に行く気は無さそうなので、ふたりともキレイキレイして。

 折角買ってきた品をどうこうしようという気も無く、早々にベッドに入ります。

「ヘンリー。ラリホーだけど」
「要らねえ」

 そう言えば、耐性を獲得したんだった。

「いざと言うときに、起きられないと困るだろ」

 そっちか。
 そうだけど、眠れないのも困るだろう。

 ……ていうか、私が眠れるかなあ、今日は。
 だからって、自分にラリホーかけるのも怖いし。
 仕方ないか、一日くらい寝不足でも。
 明日には移動するんだから、今日くらいは我慢しよう。

「ごめんね、ヘンリー。じゃあ、おやすみ。スラリンも、おやすみ」

 ベッドを一緒にしようが宿代は同じなので、スラリンにもベッドがひとつ確保してあり。
 眠れない私が添い寝したらスラリンまで眠れなそうなので、今日は添い寝も諦めます。

 灯りを消したヘンリーが、しばらくその場に立ったまま私を見詰め、静かに口を開きます。

「……眠れないなら。添い寝、してやろうか?」
「はあ!?」

 あくまで静かに言い放ったヘンリーに、思わず大声を上げる私。

 そんな、十年前でもあるまいし!

「いや、それは、さすがに。不味いでしょ」
「大丈夫だろ。何もしねえし」

 いや、だって。
 中身何歳か知らないけど、十八歳でしょ、その体。
 我慢も、キツいんじゃないの?
 相手が私とは言え、体は美女ではあるんだし。
 一晩何もしないで添い寝とか、どう考えても大丈夫では無さそうな。

「大丈夫だよ。何かしようとしても、お前のほうが強いだろ」

 それはそうだが、そういう心配をしてるわけでは無いんだが。

「大丈夫だから。じゃ、寝るぞ」

 えええ!?
 十年ぶりの、押し売りですか!?

 どうしよう。
 絶対に断るべきなのに、なんだかもう。

 甘えたい。

 絶対に甘えたくないのに、ヘンリーが、甘やかすから。 
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