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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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人間ぽいヤツ(魔物)の事情

 
前書き
 本編五十話時点までのネタバレを含みます。
 未読の方は、ご注意ください。 

 
 私は、魔物だ。
 名前は、特に無い。

 人間に変化できるのが取り柄と言えば取り柄だが、できることといったらそれくらいで。
 優秀な同族は、人間の世界に入り込んで暗躍したり、情報を集めたり、そんな仕事を任されているらしいが。
 変化ができるだけの者に、そんな仕事は来ない。


 そんな私だが先日、その変化の能力を生かせる職場に配置された。
 人間の奴隷を使って、神殿を造らせる仕事だ。
 人間は、使うので、死なせてはいけないらしい。
 とは言え、人間を殺すことは考えても、生かすことなど考えたことも無いので、どうしたらいいのかよくわからない。

 とりあえず、同じく変化の能力を買われて配置された同僚たちと、相談してみる。

「人間て、どうやって生きてるんだ?」
「とりあえずなんか食わせて、寝かせとけばいいんじゃね?」
「人間て、なに食うんだ?」
「知らね」
「材料渡せば、勝手に作って食うんじゃね?場所だけ準備しとけば」
「材料って、なんだ?」
「町で、適当に買えばいいんじゃね?金はもらったし」
「そうか。じゃあ、そんな感じで」

 そんな感じで適当に買い揃えたものを、とりあえず与えてみたら、思った通り勝手に作って食べていた。
 これで、いいらしい。



 ある日、偉い魔物(ひと)が来た。
 傷だらけの人間の子供を押し付けてきた。

「奴隷として、使え」

 すごく偉そうだった。
 顔が怖かった。
 そんなこと思ってたら睨まれた。
 怖かった。

 死なせたらいけないんだろうが、回復魔法が使えるような魔物(じんざい)はいないので、奴隷の人間に任せてみることにする。
 奴隷は奴隷らしい格好をしないといけないらしいので、とりあえず服は着替えさせる。
 剥がした服とか道具とか金とか、失くして偉い魔物(ひと)に怒られたら嫌なので、一人分ずつまとめて、忘れないようにメモを付けておく。
『黒い髪の女。子供。工事開始前』
『緑の髪の男。子供。工事開始前』
 これで、よし。

 奴隷には優しくしてはいけないらしいので、傷だらけで痛そうだが心を鬼にして、奴隷のいる穴蔵に投げ込んでみる。

「死なない程度に、面倒を見ろ」

 本当に死なないかすごくどきどきしたが、あとでこっそり覗いてみたら、怪我は治って生きていた。よかった。



 工事を始めるように指示がきた。
 計画書に沿って、進めろということだが。

「これ、どうやって見るんだ?」
「知らね」
「俺らがやるんじゃねえし。適当に、なんかやらせればいいんじゃね?」
「そうか。じゃあ、そんな感じで」

 全くわからなかったので、とりあえずそれらしく奴隷を怒鳴り付けてみた。
 なんか、ざわざわしてる。ダメだっただろうか。

「どうした!さっさと、始めないか!」

 やっぱりよくわからないので、また怒鳴ってみる。
 なんでもいいから、なんかやってくれないかな。

 ムチをそれらしく振り回して待っていたら、この前の子供の、女のほうが出てきた。
 よかった、なんか進みそうだ。

 と思ったが、なんか言ってるだけで働いてくれない。

「口答えするな!いいから、働け!」

 また怒鳴ってみたら、すごい勢いで言い返された。
 なにを言ってるかわからない。
 笑顔なのに、なんか怖い。
 怖い。

「私の目を見ろ!!」

 すごい近くに寄られて、怒鳴り返された。

 ……怖い!
 本当に、怖い!
 なにこれ、なんだこれ!
 なんか、すごく、言うことを聞かないと、いけない気がする!
 言うことさえ聞いていれば、安心な気がする!!

「……計画書は?有るの?無いの?」
「……はい!あります!今、持ってきます!」
「そう。早くね」
「はい!!」

 よかった、許された!
 ここで逆らわなければ、大丈夫だ!
 これできっと、仕事も進む!
 この人についていけば、なにもかも大丈夫だ!!



 あの方は、ドーラ様と言うそうだ。
 勝手ながらお預かりしていた荷物は、そのまま預かっておくように指示された。
 丁寧に保管し、メモにお名前を書き足す。
 万一にも紛失しないよう、注意しておこう。

 ドーラ様の指揮のもと、工事は順調に開始された。
 とは言え立場上、ご自身も作業に参加されており、見た目上は私が指揮を取っている形だ。
 心苦しいが、ドーラ様のお望みなので、致し方ない。

 見た目を取り繕うため、奴隷たちをそれらしく怒鳴り付け、傷付けないようそれらしくムチを振るう演技指導も施された。
 作業は進むし、偉い魔物(ひと)には怒られないし。いいことづくめだ。
 やはり、この人についていけば大丈夫だ! 
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