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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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妹みたいな、妹では無かった娘

 
前書き
 本編六十六話から七十一話までのネタバレを含みます。
 未読の方はご注意ください。 

 
 初めて彼女に会ったのは、八歳の時だった。
 まだ一歳にもならない赤ん坊だった彼女は、逞しい父親に大切に抱かれて、この村にやってきた。
 片田舎の村とは言っても薬を求めて訪れる旅人は多く、閉鎖的な雰囲気は元々無かったし、近くの町の宿の主人の紹介まで持って訪れた父娘とお付きの男性は、村人に快く迎えられ。
 そしてその確かな実力と頼れる人柄で、あっという間に村での立場を築いた。

 そんな大人の事情が当時まだ子供だった僕に、きちんとわかったわけでは無いけれど。
 一番歳の近い子供として引き合わされ、

「ドーラと言うんだ。仲良くして、危ないときには守ってやってくれな」

なんて、子供の自尊心をくすぐってくれるような言い方をされて。
 本当は彼女には僕の守りなんて必要無かったんだけど、その時はそんなこともわからなくて。

「ドーラちゃん。僕が、守ってあげるね。よろしくね」

 この娘をずっと、僕が守ってあげるんだと。
 その意味もわからずに、ただそう思ったんだ。


 そうは言ってもまだ赤ん坊の彼女と、すぐに遊べるわけも無く。
 それでも、暇を見付けては家にお邪魔して、顔を見せてもらった。
 最初から綺麗で可愛い赤ちゃんだったけど、見るたびに可愛くなっているような気がして。
 いつまで見ても飽きなくて、遅くまで入り浸って母親に怒られて、連れ戻されるのが常だった。

 それから、少しずつ自分で動けるようになっていくのを、近くでずっと。
 妹の成長を見守るように、本当に近くで。
 時には手を差し出して助けたつもりになったりもしながら、ずっと、見守っていた。

 彼女は本当に、どんどん可愛くなっていった。
 村の大人たちも、将来は絶対に美人になると、いつも言い合っていた。
 彼女も僕を、おにいちゃんなんて呼んで慕ってくれて。
 家族以外では僕が一番彼女の側にいて、ずっとそんな日が続くんだと。
 そう、思っていたのに。


 六歳の誕生日を迎えたあたりから、父親の旅に着いて村を離れることも多くなった彼女だったけど、それはあくまで一時的なことで。
 あの時も、きっとすぐに戻ってくるんだろうと。
 サンチョさんからもそう聞いていたし、村の誰もが、きっと本人たちだってそう思っていただろう。

 少しは心配だったけど、あの強いお父さんと一緒なんだから何も心配いらないと暢気に待ってた僕らに、その報せは告げられた。

 隣国の王子の誘拐事件に巻き込まれて、彼女も、彼女の父親も。
 生存は、絶望的。

 まさか、と思った。
 あのパパスさんが付いていて、あんなに小さくて可愛いのにしっかりもしている彼女が、まさか、と。

 でも遺品としてサンチョさんに渡されたケープは、確かに彼女が身に着けていたもので。
 ぼろぼろに擦り切れて、焼け焦げていた。

 渡される場面にたまたま居合わせて、思ってしまった。

 ああ、本当に、彼女は。
 死んでしまったんだ。

 ふらふらとその場を離れて、どこをどう歩いたのか。
 いつの間にか、彼女とよく遊んだ広場にいて。

 隅にうずくまって膝を抱えて、彼女の笑顔を思い出して。
 もう十四歳になっていたのに、小さな子供のように泣きじゃくった。

 まだ六歳の、八歳も年下の娘に、自分でもおかしいと思うけど。

 好きだったんだ。
 妹なんかじゃ、無かった。
 失ってから、気付くなんて。

 無邪気な笑顔の合間に時折見せる大人びた表情や、寂しげな表情。
 遊んであげているつもりで、いつの間にか僕のほうが付き合ってもらっていたような。
 あとになって他の子供を知ってみればありえないほど大人びた、そんな彼女の内面も、可愛らしい外見も。
 それだけで全部を知ってるなんて思わないけど、それでも。
 彼女の全部が、好きだった。


 喪失感に囚われたまま、日々をなんとなく過ごして、それなりに仕事も覚えていい歳になって、いい加減に結婚でもと親にせっつかれるようになって。

 そんなある日、突然に。
 彼女が、帰ってきた。

 報せを聞いて急いで教会に行ってみれば、なぜか男の格好をした、でもなぜかそれすら似合ってしまっている。
 美しく成長した、彼女がいた。

 彼女に似つかわしい、整った顔立ちの、凛々しくも逞しい、若い男を連れて。


 シスターに連れられて彼女は教会の奥に姿を消し、連れの男が村の人と話している間、僕の耳は情報を取り入れながらも、頭はずっと別のことを考えていた。

 なんで、僕が彼女を守れるなんて思ったんだろう。
 何もせず、ただ側にいただけで。
 どうしてそのまま、ずっと側にいられるだなんて思ったんだろう。

 どうして僕は、何もしないできてしまったんだろう。
 彼女が生き延びた可能性を、考えもしないで。
 何かしていれば、少しでも強くなっていれば。
 まだ、彼女の隣にいられたかもしれないのに。

 今そこにいる、彼のように。


 わかってた。
 何を思っても、何をしてももう遅い。
 彼女の隣に、僕の居場所は無い。
 例え何かしていたとしても、最初からそんなのは無かったのかもしれない。
 だけど、それでも。

 好きだったんだ。
 ずっと、好きだったんだ。
 今でも、好きなんだ。

 何も言わずに、ただ黙って見送って。
 それで諦めるなんて、きっとできない。

 例え、彼女を傷付けても。
 それでもこの気持ちだけは、伝えたい。


 彼女に穏やかな生活を送らせたいだなんて耳触りのいい言い訳を、信じてくれたのかどうかはわからないけど。
 それでもそれは、村のみんなの願いでもあったから。
 みんなの協力で、なんとか気持ちを伝えることはできた。
 やっぱり、振られてしまったけど。

 自分で悲しませておいて、おにいちゃんぶって未練がましく手を伸ばす僕の身勝手さを断ち切ったのは、やっぱり彼だった。

 完全に負けた思いであとを任せて、それでもまだ未練がましく振り返って。
 彼に抱き締められる、彼女の姿が見えた。


 ……終わったんだな。

 気付いた時には失って、帰ってきても手に入れられる期待も持てないまま、また失って。
 本当に、これで。
 僕の恋は、終わったんだ。

 最初から、僕に釣り合う相手では無かったけど。
 それでも、できれば。
 僕が、隣にいたかった。
 
 

 
後書き
 家の前で焚き火してるモブがこの人という想定です。
 とてもどうでもいいですね。 
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