ローエングリン
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7部分:第一幕その七
第一幕その七
「私もまた」
「わかった」
王は騎士の言葉も受けてまた一つ決断を下した。そしてまた指示を出す。
「では三名ずつ前に出ろ」
「三人ずつですね」
「そうだ」
「わかりました」
伝令はそれに応えて指示を出す。これでザクセンから三人、ブラバントから三人出た。こうして三人ずつの計六人で円の闘いの場を作ったのだった。
「これでよし」
「ではおのおの方」
また伝令が周囲に伝える。
「くれぐれもこの闘いを妨げることのなきよう」
「はっ、それでは」
「その様に」
彼等もまたそれに応えて従う。こうして闘いになることになる騎士とテルラムントがそれぞれ前に出て跪いて誓い合う。そうして言うのだった。
「神よなにとぞ公正に我等を裁き給え」
「我は神を信じ我が力を信じず」
この言葉を誓いとしたうえでまた立つ。王は彼等の中央に来て厳かにまた告げた。
「剣の勝利によって判決を下し破邪顕正を示し給え。清き者の腕には猛き力を与え」
こう神に対して言うのだった。
「偽れる者の勢いは萎えて果てるよう。神よ、何卒力を貸し給え」
「主なる神と」
騎士とエルザも言う。
「今ぞ真の裁きを。我等は臆せず」
「ではあなた」
「うむ」
テルラムントもまた妻の言葉に頷いていた。
「どうかその御力を」
「わかっている。神よ、我が名誉を見捨てたまわらんことを」
それぞれ誓い合ったうえで剣を構える。騎士もテルラムントもそれぞれ剣を抜いた。
「さあ、どうなる」
「どちらが」
今ここに闘いがはじまった。
「むっ!?」
だが勝負は一瞬で終わってしまった。騎士の剣がテルラムントの一撃を弾き返しそのまま彼の身体をも倒れさせたのである。起き上がろうとするその喉元に剣先がある。これで終わりであった。
「勝負ありですな」
「くっ・・・・・・」
テルラムントは己の喉に指し示された騎士の剣を見て呻くしかなかった。
「抜かった・・・・・・」
「神の勝利により卿の命は私のものとなった」
まずはこうテルラムントに告げた。
「だが前非を悔いられるなら神はお許しになられる」
こう言って剣を収めた。全てはこれで終わり貴族達はそれぞれ突き刺したり前に置いていた剣を自分達の鞘に収めた。立会人達も剣を地中から抜いて収める。王が最後に己の剣を腰に収め厳かに告げた。
「勝利だ!」
「騎士殿が勝たれたぞ!」
「やはり奇蹟が起こったのだ!」
「騎士様・・・・・・」
「これで約束は果たされました」
騎士はエルザの前に進み出て静かにこう告げた。
「貴女に誓った約束は」
「有り難うございます。それでは」
「はい」
「貴女は次に何をお求めになられますか」
こうエルザに対して問うのであった。
「次は何を」
「貴方を」
恍惚として騎士に告げるのだった。
「どうか貴方を」
「私をなのですね」
「はい」
その恍惚とした声で答えてきた。
「どうか私を」
「わかりました。それでは」
「あの騎士は一体」
オルトルートは項垂れる夫の側に寄り添い騎士を見ながら呟いた。
「不思議な力を感じずにはいられない。一体」
「何もかもが終わった」
テルラムントはこう言うばかりだった。
「最早。わしには」
「響くのだ勝利の歌よ」
「騎士殿を讃えよう」
そして皆が騎士を讃えていた。
「その旅路に光栄あれ、その奇蹟を讃えよう」
「敬虔な騎士よ」
「奇蹟を起こした方よ」
「今ここに貴方を」
「貴方を讃えましょう」
皆エルザに寄り添う騎士を讃えていた。今は喜びの中にあった。しかしその中でオルトルートだけが。不吉な目で騎士とエルザを見ていたのであった。
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