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ローエングリン

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8部分:第二幕その一


第二幕その一

               第二幕  募る不安
 騎士がブラバントに来たその夜。皆ブラバントの宮城で彼を祝福していた。翌日にエルザとの祝宴も決まり宮城の騎士館では王を招いた宴が開かれていた。その左手にはエルザの館があり右手には宮城の寺院がある。その石造りの階段に今二人はいた。
 岸館からは楽しげな音楽が聴こえる。しかし二人は忌々しげにそれを聴くだけだった。窓から漏れる明るい光に対しても同じだった。やはり忌々しい目で見ていた。
「行くか」
 そのうちの一人が立ち上がりもう一人に声をかけた。見ればテルラムントである。
「夜明け前にここを去るぞ」
「行く必要はないわ」
 だがもう一人はこう言うのだった。階段に座ったままのこの女はオルトルートだった。
「別にね」
「何故そんなことを言えるのだ?我等はもう追放されるしかないのだぞ」
「大丈夫よ」
 しかしオルトルートはこう夫に対して言うのだった。
「それはね」
「それはまたどうしてだ?」
「あの灯りも今だけ」
 窓からの灯りを夫よりも忌々しげに見ていた。
「今だけだから」
「馬鹿を言うな。わしは負けた」
 苦々しい言葉であった。
「このことは否定できない。それもこれも」
「私のせいだとでも?」
「御前が今回のことをわしに言ったのではないか」
 こう言って妻を責めるのであった。
「違うか?」
「その通りよ」
「では御前のせいだ」
 答えは必然としてこうなった。
「全てな」
「けれどそれがどうしたというの?」
「わしは敗れ追放され」
 また忌々しげに語る。実に苦い言葉になっている。
「家門を傷つけ彷徨う運命となった。ドイツに居場所はない」
「だからどうしたというの?」
「御前は何もわかっていないのか?」
 あくまで動じない妻に対して問うた。
「今の我等の立場が。わかっていないのか」
「わかっているわ。だからこそよ」
「御前の占いに従い公女を訴えたのはいいが」
「公子は本当にいなくなっているわよ」
「それでもだ」
 テルラムントの言葉は愚痴になっていた。
「結果はこの有様だ。ラートボート家がこの地を支配するものだと言った挙句にだ」
「それは事実よ」
 オルトルートの声が暗くなった。
「我がラートボートの信じる神こそが本当はドイツを」
「神は見ておられる」
 ここでテルラムントはキリストの神を口にした。
「そういうことだった。全てはな」
「本来のドイツの神は違うわ」
「全くだ。ドイツは主のもの」
 彼は妻の言葉の本意には気付いていなかった。
「その通りだったな」
「だから。大丈夫なのよ」
 オルトルートはここで立ち上がった。
「何があろうとも」
「また何か考えているのか」
「あの騎士の神は」
「神は?」
「恐れるに足りないわ」
 館を見る目が憎悪で燃え上がっていた。テルラムントは妻のその目を見ていたがそれは自分が持っているものと同じだと思っていた。
「所詮ね」
「!?どういうことだ」
「何度も言うけれど見ていればわかるわ」
 だが彼女はこう言うだけだった。
「すぐにね。考えてみればいいわ」
「何をだ?」
「あの騎士のことよ」
 夫に顔を向けて問う。その顔は暗闇の中でえも言われぬ凄みを見せていた。
 
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