ローエングリン
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6部分:第一幕その六
第一幕その六
「ようこそこちらへ」
「公女の為ですね」
「はい」
騎士はまずそのことを認め彼等に答えた。そのうえで白鳥に顔を向けて言うのだった。
「白鳥よ、有り難う」
こう礼を述べた。
「さあ今は帰るのだ。私達が幸福になったその時に戻って来るように」
白鳥は静かに鳴いてそれに応えた。彼等の上の空は何時しか青く晴れ渡り騎士の背には白い光さえ見えるかのようであった。
「その時にまたそなたの務めを果たすのだ。ではその時までさらばだ」
「何という厳かな光か」
皆彼の光を見て声をあげる。
「この光は」
「何という気高く美しい方か」
「陛下」
騎士は剣を抱いたまま王の前に現われた。そうしてエルザの傍らに立ちつつ静かに一礼したうえで述べるのであった。
「こちらに参上したことをお許し下さい。陛下に神の御加護があらんことを」
「何故ここに」
「公女の為に」
エルザに顔を向けつつ答える。エルザは彼を恍惚の顔で見ている。
「参りました。では姫よ」
「はい」
「私に任せて頂きますね」
「是非共」
その恍惚とした顔での言葉であった。テルラムントは蒼ざめた顔になっているがそれとはまた対象的であった。
「御願いします」
「それでは私は貴女の夫となりこのブラバントの国と民を護り」
「その通りです」
全てはエルザの言う通りであった。
「御願いします」
「わかりました。ですが」
「ですが?」
「一つだけ御護り頂きたいことがあります」
その硬質の声でエルザに対して言ってきた。
「一つだけ」
「それは一体」
「私が誰で何故ここに来たのか」
騎士はこう言った。
「それを決して尋ねないで下さい」
「はい」
「宜しいですね」
うっとりとした顔で頷くエルザに念押しをしてきた。
「それだけは。御願いします」
「わかりました。私を御護り下さる貴方に対して」
エルザは今彼に対して誓ったのだった。
「誓いましょう。何があろうとも」
「有り難い御言葉」
皆その言葉をうっとりとして聞いている。だがオルトルートだけがその言葉を聞いて眉を顰めさせた。しかしそれは誰も気付かなかった。
「そしてです」
「そして?」
皆また騎士の言葉を聞く。
「公女に罪はありません。伯爵は間違っておられます」
「それではだ」
「伯爵、引き下がらせれよ」
人々はこうテルラムントに対して言って来た。
「この方は嘘は申されていないな」
「だからだ。それにこの方は神がつかわされた奇蹟の方だ」
その神々しい姿を見ての言葉である。彼等は騎士を天使と見ていたのだ。
「だからだ。ここは」
「引き下がられよ」
「戯言を」
しかしテルラムントはそれを拒んだ。
「私は騎士だ」
顔を強張らせつつもこう言うのだった。
「騎士は臆病を嫌う。それ位なら」
「どうされるというのだ?」
「闘う」
これが彼の決意であった。
「何があろうとも。闘おう」
「だからそれは」
「止めておくべきだ」
「それなら死を選ぶ」
彼はこうまで言った。
「正義は私にある。だからこそ」
「では陛下」
騎士もまたテルラムントの言葉を受ける形で王に申し出て来た。
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