ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ザイルくんの厳しい現実
前書き
本編を読んでないと意味がわからないかもしれないので、一応気を付けてください。
こっちだけ読むような物好きな方は、あんまりいないと思いますが。
前話を読んでないと、これも意味がわかりません。
夢のような、時間だった。
美しく気高い雪の女王様が、オレの腕の中で、悲しげに笑って。
オレがいるのに、こんなに近くにいるのに。
それでも、このひとの孤独を癒すことはできないのか。
「オレでは、足りないのか?」
うまく言葉を飾ることも知らず、馬鹿正直に聞いたオレに、あのひとはまた悲しく笑って。
「あなたがいれば、いいわ。でも、この世には。永遠なんて、無いの」
この美しいひとにそんなことを言わせる、どんなことがあったんだろう。
じいちゃんの洞窟と妖精の村しか知らない、狭い世界で生きてるオレには、わからない。
オレの孤独は、あのひとに救われたから。
オレもあのひとと同じく、妖精が憎いから。
せめてオレが、あのひとのかわりに。
あのひとが教えてくれた方法で、思い知らせてやる!
オレはそのあとも妖精の村に潜り込み、あのひとが教えてくれた妖精の宝、春風のフルートのありかも突き止めて。
盗みを働くようなヤツがいないのか、平和ボケしてろくに警戒もしてなくて、楽なもんだった。
まんまと、春風のフルートを盗み出した。
そしてこれもあのひとが教えてくれたように、氷の館に立てこもり。
正義の味方ヅラで妖精の手先がフルートを取り返しにくるのを、待った。
やってきたのは人間と妖精と、ネコみたいな見たことのないヤツだった。
人間は女で、まだほんの子供。
村の子供も、オレほどではないとしても、あか抜けない、やぼったいヤツらばかりだったが、それとはものが違うみたいな。
大きくなったらあのひとみたいに、もしかしたらもっと、美しくなるのかもしれないが……。
……いや!あのひとより美しくなるなんてことが、あるわけがない!
とにかくいまは、ただの子供だ。
妖精が弱っちいんだとしても、こんな子供になんとかさせようなんて、これだから妖精のヤツらは。
人間のお前にうらみはないが、うらむなら妖精をうらめよ。
ごちゃごちゃうるさい妖精を、人間がなんか言って黙らせて、妖精が最後のつもりかまた言ってくるのに言い返す。
「ザイル!後悔するわよ!」
「へっ!できるもんなら、させてみろ!」
……完敗だった。
昔は苦労したその辺の魔物も、簡単に倒せるようになって。
あのひとに目をかけられて、妖精どもからフルートもあっさり盗み出して。
強くなったつもりで、いた。
こんな子供と、ネコと、妖精に。
いいように、やられるなんて。
最初はブーメランで遠くから攻撃してきた子供が、途中で馬鹿にしたように棒に持ち替えて、
「よわすぎて、これで、じゅうぶんですね?」
なんて言ってきやがった!
だが実際、オレは負けたんだ。
そう言われても、しかたない。
……クソッ、妖精のヤツらめ!
自分じゃ勝てないからって、見た目弱そうな、そのくせ実は強い、こんな人間をひっぱってきやがって!!
だが、オレはこれで終わりじゃない。
この人間だって、いつまでもここにいるわけじゃないだろう。
「……返すよ。返せば、いいんだろ!?」
「そうよ、はじめから、素直にそうすれば」
勝ち誇ったように、言いかける妖精。
お前のてがらのつもりか?
フルートを取り返して、いまは勝ったつもりでいればいい。
だがオレが生きている限り、いつか!
また同じことをしても別の方法ででも、きっと思い知らせてやる!!
そう、思っていたのに。
「え?それだけ、ですか?」
チョロい妖精があっさり話を終わらせようとするのを、子供がじゃまする。
イヤな予感がした。
そして、それは当たっていた。
正義の味方のつもりだった。
妖精のヤツらにどんな目で見られようとも、自分のしていることは正しいと。
オレが正しいつもりでいたことの、全てが間違っていたと。
妖精と関係ない人間に、まっすぐにさとされて。
それでも食い下がろうとするオレに鼻で笑って、また考えさせる。
本当に、そう思うのか?
自分のことを、騙す価値のある、そんな大層なものだと本当に思うのか?
……ああ、そうだ。
オレは、馬鹿だ。
馬鹿な、ドワーフだ。
小さいのにこんなに強く賢い、美しい人間のこの人が、騙す価値がオレにあるだなんて、なんで思ったのか。
だが、それでも。
オレがどんなに馬鹿でも、あのひとは関係ない!
あのひとだけは、守り切ってみせる!
「どうして、したんですか?」
「ぼくが、クソ野郎だったからです!」
「それだけ、ですか?」
全ての罪を背負って終わらせようとするオレの目をじっと見つめる、強く賢く美しい人間の子供、ドーラ様。
……ダメだ。
オレごときが、この人に、隠し通せるわけがない。
「……それと!雪の女王様に、言われました!」
オレは、本当にダメなヤツだ。
惚れた女ひとり、守ることができない。
だけど、あのひととオレは、同じだから。
同じ罪を犯して、同じくドーラ様に裁かれるのなら。
そのときこそあのひとを庇い、守り通そう。
「う、うわああああ……ッッ!!」
「ザイルくん。おちついてください。だいじょうぶですから」
取り乱すオレを、優しく宥めてくださるドーラ様。
「ど、ドーラ、様……!!」
どうか、どうか助けてください。
オレはこのことを、どう考えればいいのか、教えてください!!
そんな混乱するオレの心まで見透かしたように、静かに語りかけるドーラ様。
「ザイルくん。ザイルくんは、ゆきのじょおうさまが、すてきだと、おもったんですよね?それは、みためだけ、だったんですか?」
「……ち、違い、ます……!だけど……!!」
あのひとを、たしかに美しいと思った。
だけどそれは、見た目だけのことじゃなくて。
あんなに美しいのに、誰からも好かれ求められるだろうに、なぜか感じる寂しさ。
オレと、同じような。
そういったものに、ひかれた、はずだった。
それなら、本当の姿がどうでも関係ない、と言わないといけないのかもしれない。
だけど、まさか、あんな……!!
「あのひとは、おんなのひとです」
「いや……!あれは、どう見ても……!いくら、ドーラ様の、お言葉でも……!!」
この方が騙すほどの価値はオレにはないと、思い知ったばかりだが。
それでも、疑ってしまう。
オレを慰めるためにこんな明らかなウソを、ドーラ様につかせてしまっているのではないか。
そんなオレの戸惑いすら恐らく見通しているだろう、ドーラ様が言葉を続ける。
「こころは、おんなの、ひとです。」
「……!?」
全く意味がわからない。
だが理解できないことをそのままにしてきた結果、こんな馬鹿なことをしでかしてしまった。
ドーラ様が仰るからには、なにか、意味があるはず……。
「こころと、からだが、おなじじゃないひとが、いるんです。あのひとと、おはなし、しました。あのひとは、おんなの、ひと、でした。」
一言では理解できない馬鹿なオレに、ゆっくりと、言い聞かせてくださるドーラ様。
だがそれでもオレが馬鹿すぎるのか、まだ理解できない。
説明を続けてくださるドーラ様。
「ほんとうは、からだも、おんなで、うまれたかったんです。おんなのひととして、ザイルくんを、すきに、なったんです。」
オレは、馬鹿だから。
あまりにも、ものを知らないから。
この世にはオレの知らない、理解できないことが、たくさんあるんだろう。
これはきっと、そのひとつなんだろう。
そのことだけは、なんとなくわかってきた。
「でも……!オレは……!」
だけどオレの、この気持ちは!
それがそうなんだとしても、ウソをつかれて、そうだと信じて抱いてしまった、まっすぐな想いは……!
気持ちだけで済まされない、あれこれは……!!
まっすぐにオレを見つめて言い聞かせていたドーラ様の、雰囲気が変わる。
「……だから、いなくなりました。ザイルくんに、ゆるしてもらえないと、おもって。いなく、なりました」
「……!」
たしかにオレは、あのひとを……いや、ヤツを許せないだろう。
顔を見たら、口汚く罵ってしまうかもしれない。
あのとき感じたあのひとの寂しさを、オレが癒したいと、たしかにそう思ったのに。
あのひとをあんなに悲しく笑わせたヤツらとオレも結局は、同じなのか?
……だけど、やっぱり!
知ってしまった以上、同じように想うことは、もう……!
そんなオレの葛藤すらやはり見透かして、ドーラ様が悲しそうに言う。
「あのひとは、もう、いません。このあと、どうしようかなんて。かんがえなくても、いいんです。もう、なにも……できないんですから」
オレごときのためにドーラ様が、そんなお顔をなさる必要はないのに。
だが、そうか。
オレがいまさら考えたところで、そのまま関係を続けることはおろか、うらみごとを言うことも。
「……もう……」
なにも、できないのか。
「あのひとは、おんなとして、ザイルくんを、すきになった。ザイルくんは、おんなの、あのひとを、すきになった。そして、もう、おわったんです。……それで、いいじゃ、ないですか?」
たしかに、ドーラ様の仰る通りだ。
あのときのあのひとはたしかに美しく、悲しげだった。
もう、なにもできないのなら、そのときのあのひとの姿まで。
オレのくだらない葛藤で、汚すことはない。
まるで、冬の間だけ美しく降り積もって、春になれば消えていく、雪のように。
美しい夢だったと、そう思えばいいんだ。
「ザイルくんは、あのひとが。すき、だったんでしょう?」
そうだ。
彼女の真実まで全て受け入れるなんて、そんな大層な男ではオレはないけれど。
あのときのあのひとのことは、たしかに愛しいと思った。
そんな簡単なことにも、言われなければ気づかないなんて。
オレは本当に、なんて馬鹿なんだろう。
「……はい。ドーラ様。ありがとう、ございます。オレなんかの、ために……!」
こんな馬鹿でくだらない、オレなんかを心配して。
大切なフルートをすぐにも届けなければいけない、貴重な時間を使って。
馬鹿なオレが理解できるまで、時間をかけて、わからせてくれるなんて。
感激のあまり、大昔にじいちゃんに殴られたのを最後に流したことのなかった涙が滲んでくるが、ここで泣いてしまってはあまりにも情けない。
必死にまばたきをして誤魔化すオレに、ドーラ様が優しく笑いかけてくださる。
「いいんです。さあ、もう、いってください。おじいさんが、しんぱい、してますよ?」
オレが泣きそうなのに気づいただけでなく、そのことは言わないで、この場を離れやすいようにしてくださるとは……!
いま、わかった。
さんざんオレを馬鹿にしたような言動も行動も、全てはドーラ様の広いお心、慈愛のなせるワザだったんだ。
馬鹿すぎて普通に言ってもわからないオレに、わからせるにはあれしかないと。
オレは本当に、なんて、なんて馬鹿だったんだ!
こみ上げてくるものを必死に抑えながら、それでも最後にこれだけは言っておかないとと、なんとか口を開く。
「ありがとうございます、ドーラ様!本当に、ありがとうございました!!」
それだけ言ったあとはもうこらえきれずに、すぐさまうしろを向いて走り去る。
あまりにも失礼な態度だが、ドーラ様なら!
ドーラ様ならきっと、わかってくださる……!!
そのあと妖精と顔を見合わせて爆笑するドーラ様のことなど一生涯知ることは無く、オレはこのとき、ドーラ様への忠誠の誓いを立てたのだった。
後書き
さらにそのあと風呂に入って寝落ちして、結局その日は届けられなかったなんてことも、ザイルくんが知ることはありません。
本編止めてザイルとかふざくんなと思う、そこのアナタ。
次は、ポワン様です。
ベラは無い。わかりやすいから、意味が無い。
ページ上へ戻る