ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ポワン様は見ていた
前書き
今日はこれで終わりです。
本編は、まだ書いてない。
私たち妖精の宝、ただ貴重というだけでなく、季節を司る役目を果たすためにも重要な、春風のフルートが盗まれて。
平和な村で、見張りを立てるような習慣も無く。
ただ美しいだけの宝ではなく、妖精の村長以外には奏でることも出来ないものを、まさか盗むような者がいるとも、考えなかったこともあるでしょう。
そろそろ春を呼ぶ時期だということで、担当の者が手入れをして、出しておいた一瞬の隙を突かれて。
なんと言おうと後の祭り、村長である私の責任も免れるものではありませんが、まずは目の前の問題を解決しなければ。
妖精の村の長に代々伝えられる占いを用いて示されたのは、小さな村。
そこに、私たちを助けてくれる、長じては私たちの力を必要とする、小さな戦士がいる。
そして、向かうべきは、ベラ。
長じて、小さな、など、引っ掛かる言葉はありましたけれど、妖精の村長の占いが、外れることはありません。
使者に選ばれたのが、そそっかしいところの多々あるベラだということも、引っ掛かりはしましたけれども。
捜索や交渉には、お世辞にも向いているとは言えないベラですが、ここぞというところの判断を、間違うことは無い子です。
そのことと行動力の高さを買って、目をかけ、重く用いているのも私です。
占いがこうと示すからには、この子が向かうべき理由があるのでしょう。
納得し、私の判断で送り出したその結果は……頭の痛くなる部分もありましたが。
それでもベラは、間違いなく戦士様を連れ帰ってきました。
懸念していた通りの、本当に小さな、可愛らしい戦士様。
この子の親であったなら、箱にでもしまい込んで、守り慈しみたくなるような、美しく愛らしい子供。
瞳の光に意思の強さは感じても、外見だけ見ればとても荒事になど向かないような。
それでも間違いなく、この子がそうであると。
私たちのこと以外にも、大いなる運命を背負った存在であると、一目見た瞬間にわかりました。
村の様子に興味を持っている様子だったこと、にも係わらずベラが急かすように連れて来てしまったこと、ベラに言っておくべきことがあったこと等々。
諸々の理由を付けて、ベラに言い聞かせる時間を取るついでに、小さな戦士様、ドーラの様子を窺います。
占いが外れることは無いこと、私の感覚も間違い無いと示していること、それでも。
こんなに小さな子供に、頼ってしまって良いものか。
客人を放って内輪の説教をする形になってしまっている私の態度にも動じること無く、連れのキラーパンサーの子供と村の景色や部屋の様子を楽しんでいる、ドーラ。
子供ゆえの無邪気さであると、取れないことも無いのですが。
私がお説教を始めた当初は、様子を窺うようにしていました。
それも驚いたり怯えたりと言ったことでは無く、やはりそうかと納得したり、どれほど時間がかかるのかと考えたり。
まるで、大人のように。
一瞬のことで、それだけなら気のせいだと、思ったかもしれませんけれど。
占いの結果に私の感覚、それに今、見たこと。
やはり間違い無いのだと、私が考えるのには十分でした。
あとは、私の罪悪感だけ。
こんな子供に全てを託して、座して待つことへの。種族は違っても、大人としての。
剣を振る力を持たない妖精として、その村長として、自ら解決に向かうのは、荒事になると考えられるこの状況では、無謀でしか無いのですけれど。
どうするのが正しいか考えることと、そうすることで良心が咎めないのかは、また別のことですから。
それでもそんな葛藤は、私ひとりが抱えれば良いことです。
「どうか、フルートを、取り戻していただけませんか?」
私が何を思い、悩んだとしても、出来ること、するべきことは決まっています。
そして、彼女は断ることも出来るのです。
「はい!はるがこないと、おやさいもつくれなくて、みんな、こまりますから!がんばります!」
快く受けてくれたからと言って、私の罪や責任が軽くなることも、無いですけれど。
ベラをお供に付けてドーラを送り出し、そのままベラにかけた遠見の魔法で、ふたりを見守ります。
村長としての仕事は当然ありますが、フルートが無い状態で出来ることは既に終え、あとはフルートが戻るのを待つばかり。
見守ったところで、私に出来ることなど無いのですけれど。
危ない場面を見たとしても、そのときに動くのでは間に合うはずも無く。
仮にその場にいたとしても、戦いの場では、ベラほどにも役には立てないでしょう。
私に出来ることは、ただ、己の罪と向き合うこと。
こんな幼い子供を、戦いに駆り立てたという、事実と。
フルートを盗んだ元村人のドワーフのお孫さんは、問題無く退けて。
これも、いずれは向き合わなければならないことと覚悟し、それでもこれまで機会が無く……。
いえ、無かったのでは無く、作らなかっただけですね。
村長の仕事を引き継いで間も無く、どれほど忙しかったのだとしても。
その気があれば、時間は作れた筈なのですから。
彼のことは、前任の村長からも、頼まれていたのですから。
「本当は私がするべきことなのだろうが、私の謝罪は受け入れられないだろう。私も、許して欲しいとは思っていない。私を悪者にして良いから、どうか彼を。憎しみから解き放って、村に受け入れてやってくれ」
そう言って、妖精の城でのお役目を果たすために村を発った、前の村長様。
近くに仕えていた者として、あのドワーフの方を追い出すことにどれほど苦しまれたか、知っていたから。
あの方の意思を継いで、村の門戸を広げることにさらに力を注いで。
そうすることで、いずれは彼らも戻って来やすくなると、信じて。
それでも肝心の彼には歩み寄る糸口を見出だせないまま、ここまで来てしまった。
フルートが盗まれたことすらも、私の力不足が原因。
私は目を逸らさずに、見届けなければいけない。
そんな私の罪悪感を、笑い飛ばすように。
意固地なザイルの勘違いすら、笑い飛ばして。
ドーラは、私が長い間悩み、そして解決出来ずにいた問題を、いとも容易く解決してくれました。
同じやり方をしろと言われても、私にはきっと出来ないでしょう。
あれほど頑なだったザイルの心を、他のやり方でどうすれば解きほぐせたのか、今もわかりません。
あの幼さで、どうすればここまでのことが出来るようになるのか。
不気味に思っても良いところなのかもしれませんが、私はそうは思いませんでした。
どれほどのものを、あの子は背負っているのか。
占いの結果に間違いは無いと、あの子ならきっと出来ると。
その判断が間違っていたとは思わないけれど、このことまであの子に背負わせたことは、本当に正しかったのか。
後悔しても、今さらどうにもなりません。
そして解決出来ると知っていれば、あのときの私はやはりそうしたでしょう。
私に出来るのは、私の罪と向き合うこと、そしてこのあと、出来ることを考えること。
そうして思い直した私を打ちのめすかのように、次の戦いは厳しいものでした。
戦いになるとは、思っていたけれど。
そう考えたからこそ、私たち妖精だけでは解決出来ないと、助けを求めたけれど。
あれほど強い魔物がこんなところにいるとは、想定外でした。
自分の判断の甘さを呪い、駆け付けたい気持ちと、行っても足手纏いにしかならないと押し留める冷静な判断とが鬩ぎ合い、結局はただ見詰めるしか出来ない私。
それでもドーラは、ドーラとベラとモモは、勝ってくれました。
フルートのことよりも、ただ、無事に帰ってきて欲しいと。
無傷とは言わなくとも、命だけは落とさないで、私に治すことが出来る状態で。
逃げても良いから、帰ってきて欲しいと。
役目も忘れてそんなことすら考えてしまった私を、やはり笑い飛ばすかのように。
何度か危ないと思うところもあったけれど、後から考えれば全く危なげ無く。
間違い無く、勝ってくれました。
そして、取り乱して命乞いを始めた相手に、躊躇無く止めを刺そうとするドーラ。
いえ、躊躇はあったでしょう。
子供ゆえの無邪気な残酷さで、頓着しないか、或いは楽しんでいるようなら、大人として諭せばいい。
命は取りたくないと、殺したくなどないと。
感情ではそう思いながらも、見逃せばどうなるか冷静に考えた上で、殺すと決めて、動いたドーラ。
……でも、いけない!
あなたにそこまでの覚悟を決めさせるどんなことを、あなたが抱えているのかはわからないけれど。
まだ、幼いあなたが。
私たちなどのために、そんなことをしては、いけない!!
「ちょ!!ドーラ!待って!」
その場に自分がいないことを今ほど呪ったことは無いと、悔やむ私に応えるように、ベラがドーラを止めます。
ああ、本当に、この子は。
本当に大事なところで、間違えない。
占いに従って、正しく使命を果たしてくれる、正しく選ばれたドーラを送り出した私の判断は、正しかったかわからないけれど。
ベラを付けたことだけは、間違い無く正しかった。
選ばなかった選択肢を考えて、悔やむくらいならば。
私はこれから、私に出来ることを考えましょう。
まずは笑顔で、ドーラたちを迎えること。
そして旅立つあの子を、私に出来る精一杯で、送り出すこと。
未来への、約束。
あなたにしてもらったことに、何をしても報い切れるとは思わないけれど。
あなたが困ったときには、きっと力になりましょう。
疲れたあなたが、帰ることの出来る場所のひとつに、なりましょう。
あなたの道行きが、辛いだけのものになりませんように。
同じだけの、より以上の幸せに満ちたものでありますように。
ここからいつも、祈りましょう。
後書き
視点を変えるとえらいシリアスになるという話。
パパンも、そうだったよね!
ページ上へ戻る