DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル
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Chapter-5 第18話
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル
Chapter-5
勇者ロト
第18話
ハルカがラダトームへ戻ると、控えめながら、ハロウィンの飾り付けがあった。
所々、カボチャをくりぬいたランタンが置かれていた。
子どもたちは魔女やリカント男などの仮装をしている。
今日はパーティがありますよ、と戦士団の仲間がハルカに教えてくれた。
「ハルカ様」
ハルカが城に戻ってきたのを、ローラ姫が出迎えた。ローラ姫は鮮やかなオレンジ色のドレスを着ていた。カボチャ色よっと笑いながら言った。ハロウィンにちなんでね、と。
「ローラ姫、ただいま」
「お帰りなさい!」
嬉しそうにローラ姫はハルカに抱きつく。ハルカはローラ姫の頭を撫でる。
お互い、大好きであるのだ。もう、恋人同士である。
「そうだ、新しい鎧というのは」
「そうでしたわ、お父様は忙しいので、私がご案内しますね」
「仕事ですか?」
「ええ」
そう応えたローラ姫の表情は少しだけ寂しげであった。ハルカは言及しようかと思ったが、やめておいた。
「こちらですわ」
ローラ姫は何とか笑顔をつくり、ハルカをとある部屋まで案内した。
そこはハルカが初めてあの鎧兜を身に着けたあの部屋だった。
「あまり変わっていないように見えますが、強化魔法金属で出来ている、らしいのですよ」
確かに今着ている鎧と、大きくは変わっていない。ただ、首周りが違っていた。立て襟のように首周りの部分が追加されていた。そして、質素なテーブルにはアームカバーのような物が付属されていた。
更に、厚手の長袖シャツと指先まで覆われた丈夫なグローブ。
「冬仕様、といったところですね」
「はい、ハルカ様」
ハルカは頷くと、新しい鎧に着替えた。確かに今までより、温かく、着心地が良い。
「素敵ですわ、ハルカ様。あ、いつも素敵ですね」
「ローラ姫、可愛いですよ」
「まあっ」
二人は顔を紅色に染めて笑いあった。一人で闘っているハルカにとって、ローラ姫の存在は癒し、そしてとても愛しい存在なのである。
「今までの鎧はどうするのか、ローラ姫はご存知で?」
「強化して、来年の暖かい時期に着られるようにしておきますってお父様が言ってましたわ」
ハルカには物がかなり入る(上限はある)魔法の道具袋がある。夏服の鎧も入るわけである。
「……そうだ、今夜、ハロウィンパーティがありますの。ハルカ様も参加します?」
「いいですけど、僕は仮装できるものなんて……」
「しなくても大丈夫ですわ。私も仮装はしませんの」
「ならば、参加します」
「では、夜までゆっくり過ごしましょう」
ローラ姫はドレスをひらひらしながらくるっと回る。
「はい、ローラ姫」
楽しそうなローラ姫を見て、ハルカはやはり笑顔のローラ姫が大好きだな、と感じたのである。
ローラ姫の部屋で穏やかで楽しいティータイムを終えると、あっという間に夕方を迎えた。
ハルカとローラ姫はパーティ会場に連れられ、あの時(ローラ姫帰還記念パーティ)と同じように隣り合って座った。
国王・ラルス16世は一段と楽しそうであった。
「王様、今日は一段と機嫌がよろしいですね」
「おお、勇者ハルカか。実は我慢できなくて少し酒を飲んでしまったのだよ。控えめなパーティながら楽しんでくれ」
国王の顔は確かに赤かった。しかし、ハルカは酒臭さを感じなかった。その代わり、香水のような匂いを感じた。
「もう、お父様ったら、はしゃいでいらっしゃるのね。お父様もまだ若いですものね」
ローラ姫は特に疑問もなく父親に微笑んだ。今までの心配事が消えたわけではない。けれど、もしかしたら寂しさを感じているのかもしれない、とも、最近考えるようになったのだ。
「私も大人になれって事かしら」
ボソッとローラ姫が呟く。
「女の人の香り……ラルス16世は新しい王妃でも……?でも、ローラ姫……」
「お父様も、私がさらわれて離れ離れになって、寂しいと思ったから、新しい王妃が欲しくなったかもしれませんわね。私のことを思っている一方、私をもう大人だと思っているのかしら……もう少しで15になりますし」
それでも寂しいとは思っている、とも言っていた。ハルカは、もしかしたら、自分とローラ姫の関係を理解しているのかもしれない、自分とローラ姫が長い間一緒にいても、国王は何にも言わない。さらに、
(僕が竜王を倒したら、ここアレフガルドを離れるかもしれないという心情を見抜いているのか……!?いや、これはまだ他の人、ローラ姫にさえ話してはいない。……将来を考えて、外の大陸に複数の国を作ろうと……考えていることを)
とも思ってしまった。当然、戦士団は竜王討伐後、辞める予定で。
(まあ、今考えても仕方のないことだ。竜王を倒してからでも、遅くはないだろうし……)
ハルカはただ黙りながら、紅茶をすすっていた。
そんな時、横からローラ姫が話しかけてきた。
「ハルカ様、明日また出発なさるのよね」
「……ああ。ロトの鎧を手に入れるために」
「まあ。きっと危険ですわよね。伝説の鎧ですから、簡単には手に入らないと思いますし…」
「そうでしょう。恐らく、魔物が守っている、僕はそう聞いてますから。もちろん負けるわけにはいかないですが」
「お気をつけて。……私は力も無いし、呪文も威力の低いバギと回復呪文しか使えませんから、まともに戦えないですし」
「貴女を危険な目に晒したくないですし、ね。貴女は、僕の無事を祈っていてください、愛してますよローラ姫」
「はい、私も、ハルカ様のこと、愛していますわ」
ハルカとローラ姫は、一瞬だけ軽く、チュッと口付けを交わした。
幸い、誰にも見られてはいなかった。
ハルカは朝早く、まだ暗いうちに出発をした。
ローラ姫は起きて(朝食を作るため、らしい)、ハルカを見送った。
「大したものではありませんが」
と、ローラ姫はハルカに、昨晩作ったビスケットを渡した。
「あまり長持ちしないかもしれませんが……食べてくださいね」
「ありがとうございます」
ハルカは嬉しそうにそれを受け取って、魔法の道具袋に入れた。
「僕は絶対に帰ってきますからね」
「はい!何かあったら、“王女の愛”で…」
「解ってますよ、では、行って来ますね」
「はい、ハルカ様、行ってらっしゃいませ!」
ハルカとローラ姫はお互いに手を振り、ハルカはアレフガルドの大地へ足を踏み入れた。
数日間かけ、ドムドーラに到着した。ローラ姫からのビスケットはもちろん既に食べていた。
王女の愛で、とても美味しかったと、僕の好みの甘すぎない優しい味だとローラ姫に報告していて、ローラ姫は当然嬉しそうに何度もお礼を言った。
(いや、お礼を言うのは僕の方なんだけど。さて、ロトの鎧は何処だ?魔物は何処だ?)
店の跡地のような場所を探した。途中でキラーリカントや、スターキメラ(ルヴァシドより少しからだが小さいものばかり)などを次々と倒していった。
まだ、ドムドーラは前に入った時と同じ異臭を漂わせていた。
(父さん、母さん……)
そして数十分後、枯れかけた大木を見つけた。その隣には、“YUKINOF”とかかれた看板があった。
見つけた、とハルカは思った。腰から炎の剣を握り、大木の方へ、注意深く、近づいていった。
その時だった。
地面が一瞬揺れたかと思うと、低い音を立てて、毒の沼からずるずると何者かが出てきた。
それは全身鎧と、盾と斧を持った魔物であった。
ハルカは目にした瞬間、寒気と怒りのような感情が芽生えた。
「貴様っ…………!!」
それは悪魔の騎士と呼ばれた魔物。ハルカはまだ赤ん坊だったからハッキリと見てはいない。しかし、感じていた。
「僕の両親を亡き者にしたのは貴様か!」
ハルカは声を張り上げる。
「……なんだ、生きていたのか。まあ、おかしな予感はしてたんだがな。ああ、そうさ。俺、ザクレスはお前からお前の両親の命を奪った。そうか、お前の母親が逃げていたせいで、お前は生きていたんだな」
「やはり貴様か!」
ハルカは炎の剣を掲げ、悪魔の騎士ザクレスに切りつけようとした。
「ふふ…お前も永遠の眠りにつかせてやろう……ラリホー!」
「!?」
眠りの呪文!ハルカは一気に眠気に襲われた。
「さあ眠れ!二度と目を覚まさないようにしてやるさ。ふはははははははは!!」
(くそっ……!ここで眠ったら僕は殺される!こうなったら……)
ハルカが取った行動、何と剣を足に突き刺したのだ!
「な!?」
悪魔の騎士ザクレスは自らの体を傷つけるというハルカの行動に驚く。
利き足でないほうの足に突き刺した。ブーツから血が流れ出る。痛みも伴う。
そう、痛みで目を覚まそうという寸法なのだ。
「マホトーン!!」
「貴様……何をした!ラリホー!……畜生!何も起きねえ!」
悪魔の騎士ザクレスがもたついている間に、ハルカは足にベホイミをかけた。足の傷はあっという間に消えた。血の跡は少し残ったが。
「貴様のラリホーを封じてやったんだ。後は……僕との殴り合いだね」
「まあ、受けてたとう」
ハルカと悪魔の騎士ザクレスはお互いに斬りつけあった。お互い盾でガードした。
そのせいか、ハルカの鉄の盾も、悪魔の騎士ザクレスの盾も壊れてしまった。
「父さんと母さんの仇!!」
「返り討ちにしてやる!」
悪魔の騎士ザクレスの斧が振り下ろされる。ハルカは危うく取り乱しそうになる。
しかし間一髪、炎の剣でそれを防いだ。
戦いは30分以上にも及んだ。
ハルカの体はボロボロになっていた。悪魔の騎士ザクレスのほうも傷だらけだった。
「どちらが早く力尽きるか。それは貴様だ」
悪魔の騎士ザクレスは斧を軽々と振り回す。
「いや、貴様だ……閃光よ!敵の体を焼き尽くせ!!ベギラマ!!」
ハルカは自然と口からベギラマの呪文がこぼれた。そしてそのベギラマは悪魔の騎士ザクレスの体の動きを奪う。
「貴様!よくも!」
「それは僕の台詞だ!!止め、“死十閃”!!」
ハルカの炎の剣から黒い十字の線が描かれる。悪魔の騎士ザクレスの体を捕らえる。
「あああああああっ!!畜生!竜王様……万歳!貴様など……ぐふっ」
耳を劈くような大きな声、悪魔の騎士ザクレスの断末魔である。
そして、ガラガラと音を立てて、悪魔の騎士ザクレスの体は崩れ去っていった。
ハルカはハアハアを息を切らしながら、深呼吸して落ち着くと、炎の剣を腰に収めた。
「父さん……母さん……僕…」
これ以上は言わないでおいた。後は、竜王を倒した後、もう一度訪れて、報告しようと思いついたからである。
そしてゆっくりと大木の側により、近くに都合良くおいてあったスコップで根元を掘った。
すると……大きな宝箱が見えた。
それは、古いものらしく、どこか錆びていた。
しかし、ハルカがそれをあけると、息を呑むような美しい青色の鎧が現れた。
(ロトの鎧!)
ハルカはその鎧を手に取る。思っていたより、重くはなかった。しかし、伝説の勇者ロトがこれを着て大魔王ゾーマと闘ったのかと思うと、ハルカの胸は高まる。
(もし、僕が本当にロトの子孫なら……。ねえ、ロト様、この鎧、僕が着てもいいですか?)
すると、鎧が輝きだした。ハルカは驚いて思わず目を閉じた。
少しして目を開けると手には何もなかった……いや、ハルカは解っていた。
今、自分はロトの鎧を身に着けているということを!
ハルカは自分の体を見た。見事なほど、ハルカの体にピッタリ合っていた。
(軽い……凄い、力が湧いてくるみたいだ!……ん?)
ハルカは毒沼に足を突っ込んでみた。痛くない!
ハルカは毒沼を恐る恐る歩いてみた。全くダメージを受けない!それどころか、体力が回復していくような感覚がある。
「凄い…ロトの鎧……」
――ああ、ハルカ、僕の素敵な子孫、似合っているよ――
(ロト様…?)
優しい男の人の声、それはやはり勇者ロトのものだろうか。
ハルカは心が満たされていく感覚を覚えた。
(僕、頑張っていくよ……)
ロトの鎧の能力は他にもあり、着脱が自由に可能である。
つまり必要な時にロトの鎧を着ることが出来る。
ロトの鎧を着ていないときはハルカはいつもの鎧に戻る。ロトの鎧は自動的に魔法の道具袋に入るのだ。
常にロトの鎧を着ているわけにはいかないのは、ロトの鎧は元々、大魔王と闘うために用意されたものであり、普段から着るための物ではないからである。勇者ロトもロトの鎧――光の鎧――は、大魔王ゾーマとゾーマの手下と戦うときのみに身に着けたのだ。
(でも、毒沼やダメージを受けるバリアを歩く時にも使いそうだね)
ふと、ハルカは賢者のすむ神殿を思い出した。あそこには、ダメージを受けるバリアが張られているのだ。
「メルキドにいかなきゃね。盾も壊れたし、そろそろ水鏡の盾も買える頃だろう…ルーラ!!」
ハルカは手を天に掲げ、呪文を唱えた。ハルカの体は一気にメルキドまで飛んでいった。
「ハルカ様!無事でしたのね!ロトの鎧……手に入ったのですね!」
「ええ。僕の手中にありますよ。今日は、メルキドで一夜を過ごしますね」
「はい、ハルカ様。いつでも、私は貴方の帰りを待ってますわ」
「ええ。待っていてくださいね」
メルキドの宿屋でローラ姫と会話を交わしたハルカは、その晩、よく眠れたという。
(次は、……“証”、だな)
後書き
この小説では勇者ハルカは、公式イラストで描かれている鎧兜(ただし、少しのアレンジあり)で旅をしていますが、ロトの鎧は外せませんでしたね。能力は原作通りです。
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