DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル
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Chapter-5 第19話
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル
Chapter-5
勇者ロト
第19話
肌寒いトパーズの月の朝が来た。
ハルカは朝食をとると、主人に挨拶をして、宿屋を後にした。
旅立ってから、3ヶ月以上が経つ。
それは長いのか短いのか、ハルカにはよく分からなかった。ただ、色々なことはあった。
それがハルカにとって、有意義な時間だった。
独りぼっちで傷つきながら歩き回り、ローラ姫という愛しい存在と出会い、新しい技を会得し、突き進んでいく。
もう後戻りは出来ないし、後戻りする気もない。
ロトの鎧を手にいれ、ハルカはまた勇者ロトの子孫という証拠をまた新たに手に入れたのだ。
あと、必要なのは“証”である。3つの神器一つで、最後の一つ。すべて揃った時、聖なる祠へ、ようやく足を踏み入れることが出来るのである。
ただし、それが何処にあるかはまだハルカには分かっていなかったのだ。
そこで、あの神殿に向かうこととなる。
ハルカはメルキド中央の賢者の住む神殿に立ち寄る前に、壊れてしまった鉄の盾に変わるものとして、武具屋2階にて水鏡の盾を購入した。
それはとても美しい碧色で、思っていたよりも軽い。武具屋の男の話によると、とても強い盾だが、やや力のない僧侶でも扱えるという、見た目も性能もいい大昔から非常に人気の高い盾だという。
「昔はラダトームでも売っていたらしいぜ。でも今はここでしか買えなくなっているんだ。昔よりこの盾も珍しくなりつつあるからな。まあ、昔から高価だったがな」
「そうなんですか。では大切にしないとですね」
「お前みたいな勇者にはピッタリだな。これがあるだけでも違うぜ」
武具屋の男は楽しげに話す。何だかニヤニヤしている。
「ありがとうございます」
少しだけ苦笑いをしながら、ハルカは礼を言った。
ハルカは水鏡の盾を掲げてみる。なるほど、動きの負担にもならず、快適に感じる。
準備は整った、とハルカは頷く。
それでは、と、ハルカは武具屋の男に挨拶をし、店を出た。
(さて、今日の本題だ)
ハルカは大きな神殿の前に立っていた。
ここの話は何度も聞いている。特にダメージを受けるバリアの話。
一体何の為に設置したかは誰も解らないと言う。
(僕の考えが正しければ、ロトの鎧で入れって事か?)
ハルカは軽く念じると、一瞬のうちにロトの鎧へと衣裳を変えた。
そして、勇気を出して、神殿の扉に手をやり、中に入った。
足を踏み入れた直後、ハルカは自分の足元を見た。そして飛び上がりそうになった。
明らかに危険な床が一面に敷き詰められていたのだ。
床は妙な模様で、バチバチと音を立てながら小さな稲妻が所々で光っていた。片隅に、焼け焦げた何か(大きさ的に人間ではないようだが)が転がっていた。
「……これはなんと言うか、人を殺しにかかってないか?」
はっきり言って、人間が立ち寄る場所ではない、とハルカは呆れていた。
それでも、ロトの鎧の力で全くダメージを受けることなく、奥の部屋へと進んでいく。
妙な床を越えた先は普通の床になっており、大理石のテーブルがあり、その向こうに、一人の老人が座っていて、じいっとハルカのほうを見つめていた。
「……客か。ほう、ようやく待ち人来たり、じゃな」
「……はあ、あの床、貴方が仕掛けたものですか」
老人は首を大きく動かした。
「ご名答。ここはわしが望む者以外は立ち入ることを許さないからな」
「望む者って、僕の事ですか」
「そうじゃ。その鎧を見れば解る」
もちろん、ロトの鎧のことである。
「あの、だからって、あの仕掛けはどうかと思うのですが。死者も出ているんですよ?何だか間違っている気が、僕はしますけど」
ロトの鎧を手に入れたものしか入ることしか許せないのならばせめて毒沼にしておけばよかったのに、と思うハルカ。毒沼の方がダメージ量が少ないのだ。と、ハルカは呆れた表情で老人――賢者を見た。
賢者は怒るどころかカッカッと笑いながら、
「やりすぎたか。すまんすまんってそなたに言っても仕方ないがな」
ハルカは怒りより呆れの方が大きく、大きなため息をついた。
(この人に何言っても駄目かもしれない……)
これ以上仕掛けの話しても無駄だと判断したハルカは、賢者に“証”のことについて話を聞き出すことにする。
「あの、貴方はご存知でしょうか?」
「ロトの印か?」
ロトの印、それが、ハルカの求めていた印なのである。
「そうです!僕はそれを探していたのです!もしかして、貴方が持っているのですか?」
「いや、わしは在り処は知っているが、持ってはおらん」
「在り処?それは何処にあるのですか?」
持っていない、ということに関しては少しガッカリしたが、在り処は知っているということで、納得は出来た。
「メルキドのちょうど南の、広い毒沼に隠されておる」
「……は?」
ハルカは唖然とした。大事に保管されているかと思っていたら、毒沼に放置されているのだから。重要な物が。
「うーんと……あ、あったあった」
賢者は後ろの汚い棚から、一枚の紙切れを取り出した。
ハルカは渋い顔で受け取った。
「……ここにロトの印が隠されているんですか?」
紙切れにはメルキド周辺の地図に、毒沼のとある場所に赤い×印がが書かれている物であった。
「そうじゃ。ロトの印の在り処を知っているのはわしだけじゃからな」
「……そうです、か」
ハルカは神殿の仕掛け、賢者の態度、ロトの印のありかについて呆れながら、それを顔に出さず、作り笑顔で賢者に礼を言った。
「ありがとうございます。では僕はこれで失礼いたします」
「頑張ってくるのじゃぞ」
ハルカは苦笑しながら、神殿を後にしたのであった。
(ロトの印があんなところにあるとはね……どうして毒沼に放置しているんだか)
ハルカは簡単には手に入らないとは思ってはいたものの、まさか毒沼の中にあるとは思ってもみなかったのである。
しかし、少し考えると、
(つまりは、それだけ重要なものなのだから、簡単に手に入らないようにしているということなのだろうな……)
と、解釈して、自分で納得させた。
ハルカは元の鎧姿に戻ると、メルキドの街で食料と薬草茶の入った魔法の瓶(魔法がかけられている、保冷保温効果のある青透明の瓶)を購入し、メルキドの町を出た。
メルキドから山を隔てて南にあり、魔物もいたこともあり、倒しつつ進んで、3日かけてようやく目的地にたどり着いたのであった。
ハルカは再びロトの鎧姿になると、毒沼に足を踏み入れた。
「何か臭い」ハルカは思わず顔をしかめた。
それでも紙切れ片手に毒沼を進んでいく。
すると、音がした。
「……ローラ姫?」
“王女の愛”の音である。
「ローラ姫?どうなされたのですか?」
「いつもハルカ様からかけてくるので、たまには私から話しかけたかったのです。すいません、ご迷惑でした?」
「いえ、全然。ただ、探し物をしている最中でしたけど」
「探し物?とても重要なものでしたのね。失礼いたしました」
「いえ。僕は大丈夫ですよ。お気になさらず」
ハルカは会話しながら探せるように、“王女の愛”を首にかけた。
「ハルカ様、重要なものって何ですの?あっ……」
ローラ姫は言ってはいけないことだと重い、思わず黙ってしまった。口を手にあてたのであろう。
「ロトの印、ですよ。僕が本当にロトの勇者である証を探しているのです」
「まあ…」
「それが手に入れば、雨の祠に、貴女を連れて行くことが出来ます。僕や姫様の秘密が、解るかも知れませんね……」
「そうでしたわね。私も、お母様の事、詳しく知りたかったのですから、解るかもしれませんわ」
雨の祠の賢者の言葉。ただ事ではないということはハルカもローラも感じていた。
不安、はあまりなかった。むしろ、早く知りたい、真実なら早く知りたい。そう思っているのだ。
「あ、私、邪魔しましたわね。すみません」
「いいえ。作業じみたことが楽しく思えてきましたよ」
だだっ広い毒沼からロトの印を拾い上げるのは安易なことではない。紙切れに書いてあるとはいえ、本当かどうかはわからない。騙されているのかもしれない……。
「それは嬉しいですわ。でも、……大変でしょう?私も力になれれば……」
「いいのです。貴女の声が聞けて僕は満足です……ん?」
ハルカは毒沼に突っ込んだ手に何かがぶつかる感じがした。硬貨のようなメダルのような。
「どうしました?」
ハルカはそっとその硬貨のようなものを拾い上げた。毒沼のヘドロはあっという間に取れ、現れたのは、金色に輝き、ロトの紋章に中央には宝石が埋め込まれている美しいもの……。
「……これ、だ。これが…ロトの印……」
「見つけましたのね!?」
「ええ!僕はついに見つけたのです!かつて、ロト様がお守りとして持ち歩いていたあの伝説の……ああ、美しい……。貴女にも見せてあげますよ」
ハルカも、ローラ姫も興奮の声を思わず上げた。探し物がようやく見つかったのである。
「ハルカ様……」
「ローラ姫、では、僕はこれで失礼しますね」
「ええ、ハルカ様。いつでも私は待ってますわ。でも、なるべく早く…」
「解ってますよ」
王女の愛を使っての通信を切ると、ハルカはルーラを唱えた。
「ハルカ様……私、ちょっと怖くもあるのですよ。でも、信じてますわ」
メルキドの賢者のところに再び訪れたハルカは、ロトの印について、他に知っていることはないかを賢者に問いただした。
賢者は困った表情で話してくれた。
「ロトの印はロトの血を引くものしか触れることを許されないのじゃ。ロトの血を引くもの以外が触れると、かなり熱く感じるようになって、感覚がなくなるほどの大火傷を負うのじゃ。お主はやはりロトの血を引くものであったな」
ハルカは自分の手にあるロトの印を見つめていた。
(僕はロトの血を引くもの……そう、竜王を倒せるのは……僕だけだ。僕も、ロト様のようになれるのかな)
そしてロトの印を握り締めた。力が湧いてくる気がする。そして、ぼやけながらもロトの姿を思い浮かべた。どんな人か、たまに聞こえてきた声がロトだとすれば、穏やかながら、勇敢な男だろうか。
ハルカは賢者と少し話をした(大した話ではない)後、賢者に会釈をすると、神殿を後にした。
――ついに手に入れたんだね。待ってるよ、勇者ハルカ――
「え?」
ハルカはルーラを唱える前、謎の声を聞いた。勇者ロトの声かどうかはまだわからない。
しかし、それ以上に気になるのが、待ってるよ、の言葉。
これは一体、どういうことを示しているのか……もしかしたら、勇者ロトに会えるのか?
(……まさか!)
勇者ロトは400年昔の人物である。会えるとは思えない。普通ならば。
(僕の空耳、とは思えない……。とりあえず、帰るか)
ハルカはメルキドの人気のない場所で、ルーラを唱えた。
ハルカがラダトーム城へ戻ると、ローラ姫が嬉しそうに出迎えてくれた。ハルカが王の間に入ってきた瞬間、ローラ姫が抱きついてきたのだ。
「もう、姫様ったら」
もちろん王もいた。しかし王は怒りもせずただ笑っていた。
「ローラ姫は本当に勇者ハルカが好きだな」
「ハルカ様、ロトの印、あの、見せてください……」
「ええ、見せるだけですよ。話に聞いたところ、ロトの血を引いたもの以外が触れると、大火傷を負うんですから」
「分かりましたわ。見るだけですわね」
ローラ姫は素直に笑顔ではっきりと答えた。
ハルカは頷くと、ロトの印をローラ姫に見せた。
「まあ、綺麗ですわね。ハルカ様だけが触れることを許された……あっ」
何かの拍子でローラ姫がよろけ、転びそうになる。ハルカは慌ててローラ姫を抱きかかえた。
「すみません……」
「勇者ハルカよ!ロトの印がローラに……!」
青い顔をして、王が叫んだ。ハルカも青ざめた。
右手に持っていたロトの印がローラ姫の背中に触れていたのだ。
やばい!ハルカはパニックを起こしそうになった。しかし、手を離せばローラ姫は床に叩きつけられる……。
ところが。
「……え?私、背中は全く熱くありませんわよ?」
「え?」「なんじゃと!?」
ハルカとローラ姫が体制を整えると、ハルカはローラ姫にロトの印を触れさせた。
全く熱くない、と答えた。
「ローラ姫……貴女も、ロトの血を引くものだったんですね……?」
「そんな!私はハルカ様と違って非力で……でも、どうして」
ハルカは一呼吸おいてこう言った。冷静になれた。
「後で真実が判るでしょう。雨の祠に、ローラ姫、貴女を連れて行かなければなりませんから。その時に、きっと…」
「ハルカ様……」
後ろの国王も頷いていた。彼もまた冷静だった。自分の愛した王妃は優しくて美しいがどこか不思議な人だった。異世界から来たの、と言っていた。最初は信じなかったが、今は信じられる。
「今日はもう遅い。城で休みなさい」
「はい、王様」
国王の計らいで、勇者ハルカとローラ姫は同じ部屋で眠ることにした。さすがにベッドは別々であったが。
そして、二人は、不思議で、そして素敵な夢を見ることとなる。
そう、ハルカとローラ姫は、勇者ロトと仲間達と会うこととなる。
その中で、勇者ハルカは勇者ロト――勇者レイルの子孫であることが解った(当然のことだが)。
そして、ローラ姫が何故ロトの印に触れても大丈夫だったかが解った。ローラ姫もロトの血を引く者だったのだ。ただし、、ロトの妻、僧侶プラチナの血を引いているというところでハルカとは少し違っている。。
つまり、勇者ハルカは勇者ロト――勇者レイルの血を継ぎ、ローラ姫は勇者ロトの妻――僧侶プラチナの血を継いでいると言うことである!
後書き
以前書いた、“王女の愛――DQ3からDQ1へ”へと繋がっています。
その作品は、ハルカ・クロニクルより以前に書かれているので矛盾や違っているところなど生じているかもしれません。
が、ほとんど、その作品と同じような出来事が起きたことになっています。
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