DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル
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Chapter-5 第17話
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル
Chapter-5
勇者ロト
第17話
「……やっぱり、でかいな、あんたは」
「……」
今、ハルカの目の前には巨大なゴーレムがいた。3メートルはゆうに超える。
かつてはメルキドの街の守り神だった。しかし今は、ただの凶暴な魔物と化してしまった。
竜王軍がメルキドを襲わなかったのは、大事な部下が、ゴーレムに殺されたからである。彼らは、攻略法を知らなかったのだ。
(……間抜けな奴らだ。まあ、そっちの方が僕には好都合なんだがな)
ハルカは、妖精の笛を手にし、ゴーレムの前で笛を吹いた。楽器類はほぼ初めてだったハルカだったが、慣れたような手つきで音色を奏でていく。
妖精の笛の音色は美しく、善き心のものにとっては癒しの音色となる。
ゴーレムは目をゆっくりと閉じ、眠りについた。
今だ、といわんばかりにハルカは腰から鋼の剣を握り、切りつける。
しばらくすると、ゴーレムは目を覚ます。幸い、ゴーレムは動きが鈍い為、動き出す前に笛を吹き、眠らせることが出来る。
そんな作業じみたことを数回繰り返していたが、ハルカは文句一つ言わなかったし、思わなかった。
ただ、ゴーレムを倒すことだけに集中していたからである。
ゴーレムの破壊力を知っていたハルカは、ゴーレムが目を覚ましたら動き出す前に素早く笛を吹き、眠らせる。
なお、ラリホーは効果がない(と、ハルカは知っていた)。
段々とゴーレムの体が崩れ始めた。
(……!)
ハルカがゴーレムを倒したという印だった。
ガラガラと大きな音を立て始めていた。ハルカはとっさにゴーレムから離れた。
巨大なゴーレムは大きな音をたて、砂埃を巻き上げ崩れていく。
ゴゴゴゴゴ……。地揺れが起こったような感じがする。
(メルキドの人たち、驚いているかもな)
そして、ゴーレムは崩れきり、ただの岩石に戻った。
ハルカはゴーレムの残骸を踏み越え、メルキドの街に入る。
すると、ハルカは若い門番の兵士に迎えられた。アレフガルド王国の中で、兵士が居るのはメイン都市のラダトームと、ここ、城塞都市メルキドのみである。どちらも勇者ロトの前の時代からから兵士を雇っていた。
メルキドには、“メルキド兵士団”というのが存在する。ここにいる兵士は皆例外なく所属している。
「ああ、貴方ですか」
城塞都市メルキドは周りは高い塀に囲まれており、簡単には入ることは出来ない。メルキドの人々はどのように出入りしているかは、メルキド兵士曰く、「企業秘密」との事。(企業って何のことかと突っ込んではいけないな、とハルカは思ったという)。
「ゴーレムを倒したのが、ですか」
門番の兵士は苦笑いをしながら頭をかいていた。
「そうです。ここのゴーレムは私達でも歯が立ちませんでしたからね。さすがです。昔話で聞いた、“妖精の笛”を使われたのですか」
「ええ。おかげで攻撃を喰らわずに倒せましたけど」
「そうですか。……私達ももっと鍛えなければ、これからは私達がメルキドを守らなければなりませんからね」
「お前はあんまり頼りにならないがな」
途中で入ってきたのは中年の兵士。彼も門番の兵士であり、恐らく若い兵士の上司だろう。
若い兵士はまた苦笑いしながら頭をかく。
「お前はさすが強いんだな。ゴーレムはパワーだけでなく、打たれ強いからな。やつはそう簡単にくたばるもんじゃなかったよ」
「ええ。僕は……竜王を倒す為に旅をしているのです」
ローラ姫を救出したからと言って、すぐさまハルカが勇者ロトの子孫だと信じてもらえるとは限らない、そうハルカは感じていた。
しかし、兵士達は肯いてハルカを見つめただけであった。
「そうか。……ここで情報を集めることが出来るかもしれん。俺はロトの鎧の話を何処かで聞いたことがあったし」
「ロトの鎧……!」
「詳しくは俺も知らんが、メルキドには詳しく知っている奴もいる。特にここに住む賢者がそうだ。しかし……」
中年の兵士は渋い顔をした。何か良からぬ情報があるのだろうか。
「しかし?」
「あそこには強力なバリアが張っておる。足を踏み入れると体に大ダメージを与える。不用意な若者が安易に足を踏み入れて死んでしまった話を聞く」
「……」
ハルカは絶句と呆れの表情を浮かべた。何の為にそんなことをしたのだろうかと思っていた。
「まあ、それ以外にも色々あると思うから思う存分歩き回るといい」
「……はい、解りました」
ハルカはメルキド兵士二人に礼を言うと、歩き出した。
メルキドの街は石造りの建物が多い街。
ラダトームやリムルダールとはまた違った町並みである。
今は夕方。夕飯の準備をする女性の姿が多い。
「今日の晩御飯は何にしようかしら……」
そんな声もちらほら聞こえてくる。
「いらっしゃい!今日は大根が安いよ!」
威勢のいい男性の声も聞こえる。
(大根って、どんな食べ方するんだろう?……僕には想像つかないけど……サラダ?)
大根の存在は知っていたが、ハルカはそれを使った料理をほとんど知らない。しいて言えば、異国の食べ物のような“大根おろし”位なものか。
その日ハルカは、宿屋に泊まることにした。
部屋でハルカはローラ姫と会話をした。
ハルカはメルキドにいること、旅の出来事、ローラ姫は料理と裁縫の修業の話をした。
「近いうちに帰ってきてくださると嬉しいのですが」
「……と言いますと?」
「お父様達がハルカ様のために新しい鎧を作ったのですわ。もうすぐ寒い季節ですから、寒さにも強いように、魔法の力が宿っているんです」
オパールの月も終わりを迎える。段々と冷えてくる。余談だが、メルキドにはハロウィンの習慣はない(町の人から聞いた)。
「そうですか。では、近いうちに。ローラ姫、貴女へのお土産、いりますか?」
「いいえ。ハルカ様の元気な姿が見られれば……」
ハルカはふとした時に、ローラ姫は可愛いと感じてしまうのである。
「そうですか。そういえば、貴女のお父様に変化は何かありました?」
「ええ。とある女の人とよく会っているようなのです。その女の人は私にも優しく挨拶してくれて、とても人が良さそうですが…。目的はまだお父様も女の人も話してくれませんの」
ローラ姫の声は心配そうで、少し小さかった。
「何かあったら、僕が……。いえ、何でもありません。えっと……」
僕がローラ姫を守る、いや、ローラ姫を傷つけるものは僕が許さない、と言おうとしたが、やめておいた。
(僕は臆病者?いや、まだよく分からないまま首を突っ込むのは良くない。……詳しく知りたい)
「ハルカ様、私を気遣って下さるのですか?ありがとうございます。今の所、私は元気ですわ」
ローラ姫はまた明るくて可愛い声に戻る。ハルカはホッとした表情を浮かべた。
「では、また、姫様、想っていますよ」
「私もハルカ様をお慕いしております」
そして“王女の愛”の会話の終わりにいつもやること、二人とも王女の愛に口づけをすることである。
そして。
翌朝、ハルカが街を歩いていると、2階建ての武具屋を見つけた。
そこには、
“炎の剣 9800G 水鏡の盾14800G”
と書かれていた。
(……高いな。しかし、欲しい。魔物を倒しまくるか)
「おや、旅人さん、この剣と盾、欲しいんですか。僕も欲しいんですけどね、高くて手が出せないですよ。この二つは旅人憧れの武具なんですが」
通りかかりの男はそう言った。
「そうですね。良い物でしょうから、高いんでしょうね」
そう言って、財布を見る。
(……炎の剣は何とか買えそうかな)
結局、ハルカは2階建ての武具屋に入る。
そして炎の剣を購入した。
高い買い物ではあったが、強力な魔物と戦うには役に立つだろう。
そう思っていたら……。
武具屋の1階に降りたとき、若い男がハルカに話しかけてきた。
「あなた、確かローラ姫を助けた勇者さんですよね?」
「そうですけど……」
「あなたなら着こなせるのではないかと思って、……ロトの鎧のことです」
「ロトの鎧……」
「ゆきのふと言う僕のおじいさんが、ドムドーラの何処かに、それを隠したと聞いています。竜王軍から逃れる際、“わしの店の近くにロトの鎧を隠した”と、ゆきのふじいさんが遺言でそう言っていたのです……多分その話は本当でしょう。あの大木の近くに、見たことのないような、全身鎧で覆われた恐ろしい魔物を見かけたと言う人もいましたから、そいつが…」
「ロトの鎧を守っているということですか」
「ええ……あの、行かれるなら気をつけてください。あの魔物は……きっと…」
若い男は汗を流し体を震わせた。恐ろしい魔物だということが、ハルカには分かった。
だからといって、ハルカは全く怯むことはなった。
(僕も全力で相手しないと。……水鏡の盾は、必要かもしれない)
ハルカは若い男に礼を言うと、武具屋をさっさと後にした。
しばらく歩いていると、シンプルな造りの建物が見えた。
中に入ると、いくつものお墓が並んでいた。
「あら、旅人さんですか…?」
そこには一人の若いシスターが座っていた。お祈りの最中だったらしい。
「お邪魔してすいません。ここは……」
「ええ。魔物に襲われて亡くなったものたちのお墓です。ここ周辺の魔物は特に強いですから……不用意に外に出て、襲われてしまったのでしょう……中には、メルキドのものではない方のお墓もあるのです。旅人さん、お願いがあります。この方達の為に祈ってくださいませんか?」
ハルカは頷いた。
「分かりました。お祈りします」
ハルカは、ある人のお墓の前に座り、祈った。シスターのお手伝い、といったところである。
「優しいお方ですのね。ここを訪れる旅人は少しだけお祈りして去っていくのです。しかしあなたは私の仕事のお手伝いをしてくれました」
「この方達ももっと生きたかったでしょうね。僕……実はドムドーラの生まれなんです。ドムドーラの人たちは……もっと生きたかったのに、竜王軍に襲われ……。僕の両親も……」
ハルカは急に心苦しくなった。辛いことを思い出したのだ。ある時、遺された実母の手紙を改めて読んで、涙したこともあった。一人の時にである。
「まあ……お辛い経験をなされているのですね。あなたにも神、そしてルビス様のご加護がありますように」
シスターはハルカのために十字をきってお祈りをしてくれた。
ハルカは心苦しさが少し、取れた気がした。
「ありがとうございます。僕はまた、旅に出ます」
「そうですか。では、無事をお祈りいたします」
メルキドを一回り歩いたところで、中央に大きな神殿のような建物が見えた。近づいてみると、どうやらここが賢者の家のようだ。
下手したら命を奪うバリア……。ハルカはどうしても入る気にはなれなかった。
(まあ、何か良策はあるかもしれないけれど…。というか、この人が残り一つの神器を持っている賢者かもしれない……どうしたものか)
少し考えた結果、まずはロトの鎧のことを先に考えることにした。
(……その前に、ラダトームへいったん戻ろうかな)
帰る前にもう少しメルキドの街を歩いていると、見張り台のような塔があった。
鍵は開いていて、ハルカは悪いと想いながら、こっそり塔の中へ入った。
塔の屋上には一人の兵士がいたが、彼はハルカを怒りもせず、むしろ歓迎してくれた。
彼はマイラにいた女性、セアラの恋人だったのだ。
「やあ、君のおかげでセアラが無事だって…。本当にありがとう!今でも《キメラ便》で文通しているんだ。この世界の魔物が大人しくなったら帰ってくるって。ロトの勇者が竜王を倒してくれる日を楽しみにしてるよ。もしかして、それって……君のことかい?」
「ええ。竜王を倒す為、僕は旅をしているのです」
「そうか。竜王の爪はとても鋭くて何もかも切り裂き、竜王の吐く炎はいかなるものも焼き尽くすとかうろ覚えながら聞いたことある。ハルカ、それでも行くのか?」
名前は雑談で既に名乗っている。
「当たり前でしょう?」
ハルカはキッパリと即答した。顔は真剣そのもの。
「そうか。さすがロトの勇者、真の勇者だ!信じてるぞ」
兵士はポンとハルカの肩を叩く。と、「おっと、すいません」と何故か謝った。
「ロトの勇者様にこんなことは失礼だな」
「……いや、別の僕はかまいませんよ。それに、まだ、“証”を手に入れていない」
「“証”か……。まあ、ハルカなら手に入るさ。私の恋人を救ってくれたお前なら」
兵士は笑顔でハルカに向けて親指を上に向けて手を突き出した。
「頑張ってくれよ、ハルカ」
「……はい!」
高台から降りたハルカは空を見上げた。青くも濁った空。竜王軍が汚してしまった空。
(いつか僕が澄んだ青空に変えてみせる)
そう思い、ルーラを唱えた。
後書き
いまさらながら、毎回どこかに勇者×ローラ姫を入れたがる私です(笑)。
大根が安売りしているところは出してしまいました。あの世界ではどうやって食べられているんでしょうね?
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