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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第四話

太陽の畑

幻想郷で一年中向日葵が咲いている名所。すべての向日葵は太陽の方向を向いており、それぞれが花としてのきれいさを存分に引き立たせている。

そんな中、花の間を縫うように、数人の兵士がある場所に向けて進攻していた。


「……見えるか?」

「いえ。何も見えません」


兵士たちは警戒心を高めながらも、慎重に進んでいく。

何本もの向日葵を踏み倒しながら。


「……捜索開始から約三時間か、今のところ目標との接触はおろか……視認すらできずか」

「隊長、どうしますか?」

「一度引き返して体勢を整えてもいいだろう。総員撤退を開始しろ」

「了解」


疲労などが重なったのもあってか、隊長は撤退の判断を下していた。隊員達もすぐさま対応を始める。

そんな隊員達の近くで、ある人物が目を光らせているにも関わらず……


(しかし妙だな……事前の連絡ではかなりの兵士が負傷したと聞いていたが、第一目標はおろか、他の妖怪すら見えん。ここで一体何があったというんだ……?)

「今日は……約六十本ね……かわいそうに……」

「!?」


突然トーンを低くした女性の声が辺りを駆け抜けていく。

撤退モードに入っていた兵士たちは、すぐさま銃を構えないおし戦闘態勢に入っていた。だが、肝心の声の主の姿はどこにもおらず、緊張感だけが周りにあふれ始めていた。


「どこにいる!姿を見せろ!」

「あら、分からないの?すぐそばにいるじゃない。気配で感じれないなんて……やっぱり外来人でも、人間は人間ね」

「訳のわからないことを言ってるなら姿を見せればどうだ!この臆病者!」


部隊長は何も考えずに『臆病者』と言って相手をあおっていく。だが、それこそが逆効果であったことを、この時は誰も分かっていなかった。


「臆病者? ぷっ……あははっ……アハハハハハハッ」


姿を見せない女性は、いきなり大声で笑い始めた。


「なにがおかしい!」

「臆病者ねえ……私にそんなことを言ってきた者って……何年ぶりかしら?」

「そんなことは知らん!言われたくなければ、姿を見せてみろ!」

「別にいいわよ? けど、それだけ大口をたたくのなら……期待させてよね?」

「何を言って……!?」


隊長は何かを言いかけた瞬間、背筋を駆け抜ける急激な悪寒に襲われていた。

身の危険を察知した隊長は、すぐさま背後を振り向く。だが、その場に妖怪の姿は見えず、部下の兵士たちが辺りを警戒しているだけであった。


「誰もいない……か」

「やっぱり期待外れ」

「えっ……!!」


いきなりぼそっとした声が聞こえたかと思うと、何かが強くたたきつけられた音が周りに響き渡る。

その数秒後、兵士たちの目に映ってきたのは、その場でぐったりしたままピクリとも動かない隊長の姿と、チェック柄の服を着た女性の姿だった。


「なっ……あれが……風見幽香……」

「あらあら、たったこれだけの力でのびちゃうなんて……やっぱり人間は人間なのね?」

「うっ動くな!!」


なにが起きたか分からず呆気にとられていた兵士たちだったが、すぐさま我を取り戻すと、現れた幽香に向けて銃口を向けた。


「……あなたたちもこうなりたいの?」

「うっ……うるさい! 近寄ったら撃つ!!」


そう言って幽香に銃口を向けたまま睨みつける兵士。だが、銃を持つ手は微弱ながらも震えていた。

幽香はそんな兵士達をじっと見ていたが、急にフッと鼻で笑うと、ゆっくりと兵士達に近寄り始めた。


「あなたに私が倒せるの?」

「ぐっ……」

「口だけは達者……最近ここに来る外来人はそんなのばっかね」

「だっだまれえええ!!」


幽香の言葉に触発させられたのか、兵士は叫びながら引き金を引こうとする。

だが、引き金を半分まで引いた瞬間、すでにその場所から彼女の姿は見えなくなっていた。


「なっ……」

「殺気が丸見えよ。そんなんじゃ相手を殺せやしない」

「ひっ……がはっ!!」


声に反応して振り返ろうとした兵士だったが、それも間に合わず思いっきり吹き飛ばされていた。

その後、兵士がいたところに、幽香がゆっくりと姿を現す。その顔はどこか楽しそうな表情を浮かべていた。


「まったく、ど素人にもほどがあるわね」

「うわああああああ!!」


恐怖心に煽られた一人の兵士は、何も考えることなく弾をばらまいて幽香を遠ざけようとする。

だが、幽香にとってはこんな安易な攻撃は無駄にすぎなかった。


「やめなさい。花にあたったらどうするの」

「!?あっ……がっ……」


一瞬で兵士の懐まで飛んだ幽香は、兵士の首を握りながらそう言った。

呼吸ができなくなった兵士は、足をばたつかせながらなんとか振りほどこうとする。しかし、相手の力がよっぽど強いのか、何度やっても抜けられそうになかった。

酸素がいきとどかなくなり、兵士の目にはうっすらと涙が浮かび始める。それをみた幽香は、再び笑みを浮かべていた。


「無様なのね。たとえ相手が妖怪だったとしても、男が女に勝てないなんてね!!」

「!?」


満足したのか、幽香は兵士を思いっきり地面にたたきつけた。

なんとも言えない衝撃音が辺りを響き渡る。そのまま、兵士はなにも言うことなく倒れたままになっていた。


「ひっ……」


目の前の惨劇を見せつけられ、兵士たちはもはや動けるほどの精神力を保ててはいなかった。

逃げ腰状態の兵士達を見た幽香は、再び笑みを浮かべるとゆっくりと兵士たちの近寄っていく。まるで楽しんでいるかのように……


「倒れたのは三人……生き残ってるのも三人……さて、どうしてあげようかしら?」

「くっ……来るな!」

「あらあら、人間って追い詰められたらそんなことを言うのね。だからって結果は変わらないのに」


幽香はそう言うと、土からツタ状の花を出し、その場にいたすべての兵士をつかみあげていった。


「うわああああ!!」

「二度とここに現れないで。ここではあなた達の命なんて、この花達よりも軽いものなのよ。でも……殺されたいならいつでも来なさい」


幽香はそう言った瞬間、兵士たちを思いっきり畑の外に向けて投げていった。

すべての兵士を投げきり、フゥと溜息をつく幽香。辺りには傷ついた向日葵が、その無残な姿を見せていた。

幽香は何も言わずにその向日葵に近づくと、これ以上傷つけないようにしながら優しく持ちあげた。


「ごめんね……痛かったでしょ? すぐに元に戻してあげるわ」


幽香がそう言った瞬間、傷ついた向日葵は一瞬で土にかえり、その数秒後には新しい向日葵がその場に現れていた。

そのまま幽香は自分の能力を使い、すべての向日葵を元に戻して行く。数分後、太陽の畑には、再びきれいな向日葵が黄色大地を生み出していた。


「これでいいわ。……あれだけ忠告しても、明日には新しい兵士がまたやってくる。そしたらまた、この子たちが傷つくだけ……。いっそ私が離れたほうが……いや、離れてもあいつらが来てまたこの子たちが傷つくだけ……何かいい方法はないのかしら」


革命軍が来てからほぼ毎日のように、太陽の畑に兵士たちが現れるようになっていた。目的はもちろん、風見幽香の捕獲だろう。

だが、どれだけ多くの兵士が来ようとも、幽香にとっては5割も実力を出さずに倒せる程度のものばかりだった。それにもかかわらず、革命軍はひたすら同じ戦力を投入し続ける。それも違う人ばかり。

幽香の実力を知った兵士なら、恐怖心に追いやられてここに現れるはずがない。人員の多い革命軍は、それを回避するためにわざと初見の兵士を送っているのだろう。

そろそろ革命軍のやり方にいらだちを覚えていた幽香だったが、かといえどむやみに命を取ろうとはしない。他の人たちもそうしているからだ。どうすればいいものかと、頭を悩ませていた。


「まあ……なんとかするだけね。……東から三人。でもやつらじゃないわね」


幽香はそう呟くと、日傘をさして歩き始めた。












その頃、太陽の畑の別の場所では、俊司達が風見幽香を探していた。


「そういえば、あなたにこれを渡してませんでしたね」


映姫はそう言うと懐からある物を取り出し、俊司に差し出した。


「これは……俺の武器ですか?」

「ええ。生前にあなたが使っていた武器とスペルカードになります。さすがに丸腰ではつらいでしょう?」

「助かります」


俊司は武器とスペルカードを受け取ると、いつも通りの場所にしまっていった。


「変わった武器だねぇ? それともあたいみたに模造品なのかい?」

「ちゃんと使えますよ。今度教えましょうか?」

「それはまた今度にしてください。今はやるべきことに集中しましょう」

「その必要はないわ」


急に女性の声が響いたかと思うと、目の前の花畑からチェック柄の服を着た女性が現れた。


「誰かと思って来てみたら、地獄の閻魔様が何の用かしら?」

「久しぶりですね風見幽香。こっちはどうなんですか?」

「思ってるとおりよ。あいつらが来てバカみたいにやられてるだけ」


幽香はそう言うと、ゆっくりと息を吐いて日傘を閉じた。


「で? 閻魔さまがなぜ……死神と外来人を連れてるのかしら?」

「正確にいえば元外来人の亡霊ですがね。私達の目的はあなたに会いに来ただけ。ただそれだけです」

「へぇ……私にね?」


幽香はそう言うと頬笑みを返してきた。


「その前に一ついいかしら?」

「なんですか?」

「その子の顔見せてもらえる?」

「……周りに誰かいますか?」

「さっき追い払ったところ」

「ならいいでしょう。俊司君」


俊司は言われた通りフードをはずし顔を出す。幽香はまじまじと俊司の顔を見た後、なぜか笑みを浮かべていた。


「あなた……名前は?」

「里中俊司です」

「……好きな花はある?」

「花……ですか」


唐突の質問で一瞬呆気にとられた俊司だったが、なんとか思考を戻すと一番好きだった花言葉をもつ花の名前を口にした。


「グラジオラスですかね……」

「理由は?」

「花言葉が『努力』ですよね。だから……です」

「ふうん……」


幽香はその後、何も言わずに俊司を見つめると、何を思ったのか急に笑みを浮かべていた。


「いいわ。信用してあげる。あなた、ここに来る前に倒れた向日葵をなんとかしたでしょう?」

「えっ……はい。なんでわかったんですか?」

「ここの子たちが言ってるわ。花を大事にする子はこの子たちの味方。だったら、私の味方ってことよ」


そう言って幽香は再び日傘をさした。
 
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