東方攻勢録
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第五話
「で、私に会いに来て何をして欲しいの?」
「それは私から」
映姫はそういいながら幽香の前に立つと、そのまま話を続けた。
「現在この三人で活動を行っているのですが、何分人数的に戦力不足が見受けられます。それで、あなたにもご同行をお願いしに来たのです」
「なるほど。でも、私はここを離れるわけにはいかないわ。ここを離れてしまうとこの子達があいつらに汚されてしまう……。それとも、ここを離れることで私にとってのメリットもあるのかしら?」
「ええ。もちろんあります」
映姫は幽香の問いかけに即答していた。
幽香は驚いていたのか、一瞬キョトンとしていた。だが、すぐに不敵な笑みを浮かべると、面白そうにしながら話を進めた。
「自信満々なのね。私が納得できるものなのかしら?」
「100%ではないですが、少々満足できるとは思います」
「へぇ……言ってみなさい」
「第一にここを離れると、革命軍はここに来る必要性がなくなります。おそらくですが、革命軍がここを訪れるのはあなたを捕まえるため。対象であるあなたが移動すれば、あなたを追いかけてくるはずです」
「なるほど。でも、必ずここに来なくなるとは言えないわよ?」
「そのとおりです。なので、単にここを離れるのではなく、別の場所で戦闘を行っていただきたいと思います。そうすればここにあなたはいないと、相手側にも情報として回っていくでしょう」
「なるほどね。でも、それはそっちにとってデメリットでもあるんじゃないの?」
幽香の言うとおり、行動をともにしていれば標的にされる可能性は高くなる。いくら個々の能力が高いとはいえ、必ず無傷で通れる保障などどこにもない。
だが、何を言われようとも映姫にはその答えが見えていた。
「大丈夫です。私たちには彼がいますし」
映姫はそう言って俊司に視線を向けた。
「えっ……俺ですか!?」
「へぇ? 元外来人だからそこまで強くないって思ってたけど……そうなんだ」
「彼の能力は光るものがあります。成長速度・身体能力・戦況分析のどれを見ても、ある程度の戦闘はそつなくこなせるでしょう。まあ、かといって強力な妖怪を倒すくらいの実力があるわけではありませんが」
「そう。元外来人としては能力が高いんじゃないの?」
「そうですね。それに、彼は『危機を回避する程度の能力』の持ち主です。並大抵のことではやられません」
「あら、変わった能力なのね?」
俊司の能力『危機を回避する程度の能力』は、自身の死に直面したとき、完全に不可能でなければその死を回避することができる。
ただし、何らかの理由で逃げ道がない場合は、能力が発動せず死亡してしまう。さらに欠点があり、俊司自身が任意で発動することはできない。それが仕様なのかどうかは不明だが……。
「彼の能力は確かに可能性を秘めています。そこで……」
映姫はなぜかそれ以降の会話を、俊司に聞こえないように幽香の耳元で話した。一連の話を何も言わずに聞いていた幽香だったが、急に俊司のほうを見て不適な笑みを浮かべるた。
「なるほどね……なら、ちょっと試させてもらいましょうか?」
「試すって何をですか?」
「あなたの能力」
「えっ……!?」
俊司が声を出したと同時に、幽香は俊司の目の前まで来ていた。
何が起こっているのかわからず、あっけにとられる俊司。だが、幽香はそんな少年を見ながら少し笑っていた。
その数秒後、俊司の視界は暗転していった。
「あらあらのびちゃったわよ?」
幽香はすぐそばで倒れたままの少年を見ながらそういった。
「かまいません。それが狙いでもありますから」
「かわったことするのね?こんなことをしなくても、口答でよかったんじゃないの?」
「たしかにそれでもいいかもしれませんが、まずは身を思って知ることも大切でしょう。まあ、私自身が確実にそうなると証明したかっただけでもありますが」
映姫はそういって溜息をついた。
「しかし、本当に予想通りの展開ですね」
「本当にこの子が能力を持ってるの? そうとは思えないけど」
「能力を持っているのは事実です。扱いきれているかどうかでは微妙ですが……」
映姫はそういいながら少年を見る。その目には、確実に何かを捉えていた。
「……ここは……またか」
気がつくと、俊司は暗黒のような世界に立たされていた。
(命拾いをしたな少年)
「おかげさまで。まあ、命は落としましたけどね」
少しボーっとしていると、いつもの声が俊司の頭の中に響き渡った。もう三度目となって、このやり取りもだいぶいたについてきたようだ。
(それもそうか。しかし、また奇妙な運命に巻き込まれたな)
「なんかこれから先を知ってるような言い方ですね?」
(そんな気がしているだけだ)
「……そろそろ教えてくださいよ。あんたは誰なんですか?」
俊司はそう問いかけてみるが、声の主は答えようとはしない。理由があるのか、ただ単に正体を明かさないだけなのかはわからなかった。
「また黙秘ですか?」
(まだ時期ではないということだ。わかってくれ)
「時期って……まあいいですけど」
(すまんな。で、これからどうするんだ?)
「とりあえず映姫さんについていきます。ほんとはみんなのことが気になりますが、しかたないですね」
(まあ妥当だろうな。いずれほかの人にも出会えるだろう)
「そうですね」
(道なりに進めばいい。そうすればいずれと道がひらける。がんばれよ……)
なぞの声がそういったあと、俊司はなんともいえない感覚に襲われていった。
「……うっ……いって……」
目を覚ますと、青々しい空とひまわりが視界に入っていた。それに、なぜかはわからないが頭痛がひどい。なにか大きな衝撃を受けたかのように、頭がガンガンしていた。
「なにが……」
「あら、気がついた?」
そういいながら俊司の顔を覗き込んできたのは、幽香だった。
「えっ……幽香さん?」
「ずいぶん気を失ってたのね」
「気を……失ってた? でもなんで……!?」
ゆっくりと体を起こした俊司は、自身の周りをみて驚いた。
周辺の土は大きくへこみ、大きな衝撃が加わってクレーターのようになっていたのだ。それに、俊司が気を失っていたことも考えると、ここでなにかが起きていたのは事実。
俊司はゆっくりと気を失う前の記憶をたどり始めた。
「……幽香さん、俺になにかしましたか?」
「あなたを攻撃しただけよ。地面に思いっきりたたきつけただけ。」
と、幽香はすまし顔でそう言った。
「な……なんでそんなことを?」
「それは私から説明します」
そういって間に入ってきたのは映姫だった。
「映姫さん?」
「簡単な話です。あなたの能力を試しただけです」
「……能力?」
「今のような攻撃をうけると、いままでのあなたならどうなっていましたか?」
「そりゃあ……死んでた……!?」
俊司は何かに気づいたのか、目をカッと見開いていた。
「そう……死んでいたんですよ。ですが、今のあなたは亡霊です。すでに死んでしまったあなたが再び死ぬことはありません」
「……」
「あなたの能力はあなた自身が『死んでしまう場合にのみ』自動で発動します。ですが、死ぬことのないあなたにとってほんとうの危機は、肉体の封印を解かれ滅んでしまうこと。そうなってしまえば、あなたの魂は今度こそ消えてなくなってしまうでしょう」
「つまり……おれの能力はもう使い物にはならない……ってことですか」
俊司は顔をうつむかせたままそう呟いた。
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