とある覚悟は金剛不壊
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『東方晟成』 ③
七月十四日 とある高校
「…………やれやれだぜ……」
転校生が何の気なしに呟いた声は、生徒達の…そして月詠小萌の耳にもしっかりと『届いてしまった』。先程までばか騒ぎしていた三人も口を閉じて、クラスはシィ~ン……としてしまった。
「ひ、東方ちゃん……もしかして……『嫌い』になりました? このクラス……」
ウルウルと涙を目にため始めた小萌。生徒達も転校生が気を悪くしたのではとざわつき始める。外見年齢推定6歳ぐらいの彼女が今にすうも泣きそうになっているのを見て、転校生『東方晟成』は慌てて取り繕う。(教室の窓際の席にいる青髪の男子生徒が鬼のような顔で睨んでいたのは言うまでもない。)
「い、いやァ違うっスよ~! な、何つゥか…その……あんまし『変わンねえなァ』って、思って……」
「ふぇ?」
小萌が泣き止んだのを確認して、東方晟成は続けて説明した。
「ほら、学園都市って科学が発展している所って聞いてたもんスから、「インテリな奴等ばっか」ってイメージがあって……ちょっと安心したっスよ。『良さそうなクラス』で」
照れ笑いを浮かべながら晟成は答えた。晟成の言葉にクラスの生徒達は緊張をといた。今の晟成の言葉で彼の人柄が何となく掴めたからだ。この転校生と打ち解けるのに、そんなに時間はかからないと全員が思った。
「そうですかぁ……ホッとしました~♪ 転校初日早々、学校嫌いになられたらどうしようかと思いましたよ~♪ 」
月詠小萌はパァっと笑顔に戻った。それを見て晟成はホッと胸を撫で下ろした。子供(?)の泣き顔を平気で見れるほど、彼の神経は太くなかった。
「じゃあ、そろそろ皆さんお待ちかね……「転校生に質問タイム」を始めま~す♪ 東方ちゃんに質問ある人いますか~?」
「「「ハイハ~イッ!!」」」
小萌の言葉と同時に生徒達が一斉に手をあげる。転校生、それも『学園都市の外』から来た晟成に、全員興味津々だった。
「皆さ~ん、落ちついてなのです。一人ずつですよ~。じゃあ、まず………青髪ちゃんッ!」
「やりぃ~ッ!」
小萌が指名したのは、先程ばか騒ぎしていた青髪ピアス(犯罪者予備軍)であった。青髪は席を立ち、晟成に『クラスの全員が聞きたいであろう質問』をした。
「何でこんな時期に転校してきたん?」
その質問の答えを聞こうと、クラスは再び静寂した。
「うーん……何て言やァいいのかな…?」
質問にどう返答しようかと晟成は腕を組んで頭をひねらせる。生徒達はドキドキしながら返答を待つ。
「フフフ~……やっぱり皆さん、『それ』が気になるようですね~♪ 」
沈黙を破ったのは月詠小萌であった。彼女はニタニタとしながら生徒達を見る。その顔は「私だけはその事しってますよ」と言っているような顔だった。
「コホン……シャイで恥ずかしがり屋さんな東方ちゃんに代わって、先生が説明するのです♪ 」
「いや、別に恥ずかしくは……」
「実はですね~、東方ちゃんは家庭の事情で転校してきた訳ではないのですよ~」
「聞いてねェし……」
小萌はまるで自分の事のように、自慢そうに答えた。
「なんとですね~…………東方ちゃんは、あのッ! 「学園都市第七位」に次ぐ、「世界で二番目に大きい『原石』」として転校してきたのですよ~♪ 」
「「「えええェェえェえェェええええええええええええええええええええッ!!!!」」」
その日、とある高校で「声の振動」だけで校舎が揺れるという現象が起きたとか、起こらなかったとか……
六月二十日 宮城県 仙台市
「はぁッ!? 『学園都市』ィ!? いきなり何訳分かンない事言ってんスか、アンタ等ァ!」
夜遅くに突如訪ねてきた身元不明の謎の大男が、「突然だが転校してくれ」と頼んできたらどうするか?
普通は「イカレているのか?」と聞き返すだろう。晟成もそうした。
「そもそもッ! アンタ等があの『SPW財団』の人間つぅのは分かった……けどよ~~、俺にそんなお偉いさんに知り合いなんていねェ。初めて合ったばかりの人間に、何で「転校しろ」なんて言われなきゃあならねェんだッ!」
「………言った筈だ。「我々は君を探し続けていた」と……」
晟成が声を上げ問いただしている一方、男は平然としながら答えた。
「東方晟成君……君は学園都市が『どんな所』か知っているかね?」
質問を質問で返してきた男に、何か言ってやろうと思った晟成であったが、話が進まないと思い男の質問に答えた。
「……科学が『世界で一番』発達している所だろ? 『外(ここ)』より数十年技術が進んでいて、いろんな研究が行われている場所……だっけか?」
「フム、それは一般的な解答だな……」
ズズ…とお茶を口に含み、喉をならして飲み干した後、男は続けて言った。
「学園都市は……最先端の科学によって、『超能力』を開発することを目的としたサイバーシティなのだ……」
「ッ!?」
『超能力』という単語に晟成は反応した。男は言葉を続ける。
「人間の脳には、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』なる機能が存在するらしい。学園都市は、その機能を科学的手術で開花させ、『超能力』を発現させているらしい……それが、『学園都市の真の顔』だ」
「…………」
晟成は男の話を静かに聞いていた。暫く沈黙が続いた後、男は晟成に質問した。
「東方晟成君。君は………『超能力者』だね?」
「ッ!」
心臓を握られたような感覚が晟成を襲った。いったいこの大男達がどのような理由で自分を訪ねてきたかは知らないが、一つだけ理解した。
「コイツ等は、自分の『能力』の事を知っている」のだと……
それからの晟成の行動は早かった。すぐに立ち上がると、机から離れ入り口近くの壁まで後退した。
「……何モンだ、アンタ等………いったい何が『目的』だァッ!」
晟成は男達に最大まで高めた警戒心を向ける。男達はそれをサラッと受け流す。
「…………今、君に対して言える確かな事は……我々は『君の敵ではない』という事だ…」
「………………」
晟成は警戒をゆるめない。男達の一挙一動に注意を払う。
「……我々SPW財団は、『医療の発展』と『自然動植物の保護』を目的とした組織だ。だが、それは表向き……我々財団の『真の目的』は、『君のような能力を持つ者』を保護することなのだ……」
「『保護』、だと…?」
「そうだ。先程、私は君に学園都市の真実を話したが、アレには続きがある……」
「?」
「学園都市は『科学的手術』によって超能力の発現を『研究』している場所だ。つまり………学園都市は『研究』という名目で『人体実験』を行っている……という事だ」
「ッ!? 」
人体実験……それは人として犯してはならない禁忌。そんなものが平気で行われているという事実に晟成は言葉を失った。
「……学園都市にいる『超能力者』は、全員学生だ。元々学園都市は『そういう所』だからね。学園都市では義務教育と同じ扱いで全員が「カリキュラム」と呼ばれる能力開発を受けている。脳に電気ショックを与えたり、薬物を投薬することで能力が発現する…らしい」
「……信じらんねェよ。薬飲んだだけで超能力者になるなんて…」
「もちろん、全員が『そう』という訳ではない。『超能力者』と呼ばれるほどの力を持っているのは、『七人』しかいないらしい。」
男は湯呑みに残ったお茶を全て飲み干し、話を続けた。
「………そして、先程言った通り学園都市は『超能力の開発』という名目で、非人道的な実験を行っている。脳に電気ショックなんて『やさしい』ものなんかじゃあない……中には吐き気をもよおす、心がドス黒い気分になる実験(もの)まである……」
晟成は言葉が出なかった。世界各国の支援を受けて、最先端技術を生み出している場所が『そんな所』だった事に信じられないでいた。
「……仮に、本当に学園都市がそんな所なら、何で警察が動かねぇ? いくら最先端の技術を開発している所っつったって、許されるモンじゃあねェだろッ?」
「簡単な答えだ。『その警察自体が機能していない』からだ」
「はぁ?」
「学園都市は外(こちら)とは治安体制が変わっているのだ。警察のような組織はあるにはあるが、拭えているのは表面のみ……内部までは行き届いていないのだ」
「……じゃあ、アンタ等は何でそんな事知ってんだ? それに、知ってんなら何で外(こっち)の警察に伝えねェッ!」
「返答は一つずつしよう……まず一つ目の質問だが、それは学園都市に我々SPW財団のスパイがいるからだ。時間はかかったが、現在我々はかなり学園都市の深淵まで近づいている。そして二つ目の質問だが……外(こっち)の警察組織では手におえる相手ではないから伝えていない」
「手におえないって、何で?」
「『それよりさらに上の組織』が学園都市に加担しているからだ。警察組織の権力では、もはや立ち向かえる相手ではなくなっている……それほど学園都市には巨大な力があるのだ……」
「…………」
晟成は男の話を聞いた後、壁から離れ元の机の場所に戻った。まだいくつか疑問はあるが、この男達が嘘を言っているとは思えなかった。
「……アンタ等の話、『ひとまず信じる』。だけど、アンタ等が本当に俺の味方っつンなら、何で俺を『学園都市に転校』させようとする?」
「木を隠すなら森の中……学園都市(やつら)から君を守るには、あえて学園都市(やつら)の懐に君を置いたほうが守りやすいのだ。もちろん、君を学園都市(やつら)の手に渡さない為に我々も尽力する……」
「……分かンねェ…何で俺の為にそこまでやる? いったい何故……?」
晟成はずっと思っていた疑問を尋ねた。
「簡単な答えだ……それは、『我々がSPW財団』だからだ」
当然のように男は答えた。晟成は男の目に何かキラリと光るものを見た。巨体の大男には似合わない、しかし何処か気持ちのいい爽やかなモノが感じられた。
「……答えになってねェスよ、それ……だが、『グレート』……! 分かった……アンタ等を『信じる』……!」
「…ありがとう…」
ガシィっと二人は握手する。ほんの数分の間に、二人の間には奇妙な友情が築かれていた。
「でもよ~、転校つったって急にできるモンじゃあねェだろ?」
「安心したまえ、我々が何とかする。君は身支度だけしてくれればいい」
「ふゥ~ん…………なァ、一つ『頼み』があんだけどよォ、いいか?」
「何だね?」
頭をポリポリとかいて、晟成は言った。
「頼まれている『依頼品』、全部直してからでいいか? 転校……」
「……フ、あぁ…構わないよ……」
それから暫くして、東方晟成は学園都市へ転校した。
『世界第二位の原石』という設定で……
七月十四日 とある高校
「せ、世界第二位の『原石』!?」
「そ、それってつまり、『超能力者』ってこと!?」
小萌の説明の後、教室はザワザワと騒がしくなった。転校生『東方晟成』が『原石の能力者』だという衝撃事実に興味をもたない生徒は一人もいなかった。それは先程までばか騒ぎしていた三人も同じだった。
「ほへぇ~! こいつはビッグニュースやん! ウチのクラスに『超能力者』が来るなんてぇ~!」
「こりゃあ、美少女よりビッグなゲストが来たにゃあ~♪ 」
「(『原石』……『あいつも』…)」
生徒達がどんどん騒ぎ初めて、先に進まないと感じたのか…小萌は手をパンパンと叩いて生徒達を静粛させる。
「はいはい、静かにするですよ~。東方ちゃんに興味もってくれるのは嬉しいですけど、HRもそろそろ終わりですから、東方ちゃんへの質問は終わってからにしましょう♪ 」
「はいはい、先生! 東方君の席は何処にするんですか!?」
小萌の言葉を無視して一人の女生徒が質問した。その質問は女子生徒全員(一部除く)が気になっていたものだった。
「そうですね~、東方ちゃんの席は~……あそこの窓際の端っこです~♪」
小萌が指差す場所は、先程ばか騒ぎしていた三人の近くであった。東方晟成は小萌の指差す場所に歩いていった。
「おぉ~、転校生君♪ さっきゴメンなぁ~♪ 僕んことは『青ピー』って呼んでな!」
「俺のことは『ツッチー』でいいぜよ? こっちも『マサやん』って呼んでいい?」
「お前等なぁ……あ、俺は『上条当麻』。よろしくな」
晟成がそこにいくと三人は友好的に接してくれた。それが嬉しかったのか、晟成は笑みを浮かべてかえした。
「おう、よろしくな」
これが、後にこの学園都市がまきおこす大事件に立ち向かう二人の青年のファースト・コミュニケーションだった。
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