とある覚悟は金剛不壊
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『東方晟成』 ②
六月二十日 宮城県 仙台市
「お~い、『晟成』君。ちょっと、見てほしいんじゃがのぉ~」
「またっスかァ~~? 良平じいちゃん。今度は何壊したんだよ?」
広い数寄屋住宅の玄関で、老人と若い青年が会話していた。家を訪ねてきたのが老人の方で、出迎えたのが青年の方である。
「これなんじゃがのぉ~……」
老人は風呂敷に包んで持ってきた物を青年に渡した。それは、見事に真っ二つにへし折れた『杖』であった。
「ほへェ~……また随分とハデに壊したっスねェ……」
「どうかのぉ~……『直せる』かのぉ~、『晟成』君? 婆さんと一緒に選んだ『思い出の品』なんじゃよ……」
名残惜しそうに杖を見つめる老人。何十年と使ってきたのだろう、杖にはへし折れたあと以外にも無数の細かいキズがあった。
「………大丈夫っスよ、じいちゃん。俺がキレイに『直し』ますよ!」
青年は笑顔で老人にそう言った。
「……そうかい……じゃが、いくら晟成君でもこれは……」
「任せてくださいッ! 今まで俺が『直せなかった物』があったっスかァ~? 『どんな物でも修理する』……それが「東方修理屋(うち)」っスよッ!」
玄関の上にかけられた看板を指差して青年『東方晟成』は答える。看板には達筆で「東方修理屋」と書かれていた。
「そうかい……じゃあ頼むよ」
「おうッ! 任せてくださいっスッ!」
晟成は笑顔で老人から杖を受けとる。
「晟成君~、居る~?」
老人と会話している晟成に声をかける人物が一人。晟成は声が聞こえた場所に目を向ける。
「あ、島津のおばさん…どうもっス」
「こんにちは。晟成君、先日頼んだ『あれ』……もう『直った』?」
「あ~! 『あれ』っスかァ! ちょっと待っててくださいっスッ! あ、じいちゃんもちょっと待っててッ!」
40代ごろの主婦が晟成に訊ねてきて晟成に催促すると、晟成は家の中へ入っていった。そして、
「はいッ! 完璧に『直した』っスよ~!」
家の中から戻ってくると、晟成は少し大きめの木箱を持ってきた。木箱を受け取った主婦は、箱の蓋を外して中身を確認した。
箱の中には、和風でおごそかな見るからに高そうな壺が入っていた。
「まぁ~! 凄い! 完璧だわ! 『割れたあと』なんて全然わからないッ!」
「『それ』が売りっスからねぇ~」
主婦がこの壺を晟成に持ってきたのは三日前。謝って割ってしまった家宝の壺を修理できないかと、相談しに来ていたのだ。バラバラに砕け、粉になっている箇所もあったというのに、壺は元通りに直っていた。
「ほんと…毎度思うけど、いったい『どうやって修理している』の? 」
「……すんません、ちょっと『企業秘密』でいえないんスよ…」
主婦の疑問に晟成はバツが悪そうに答えた。『どうやって修理しているか』は、教えたくないらしい。
「まぁ、ええじゃないか島津さん。晟成君はこんなにキレイに物を直してくれるんじゃ……感謝してもしきれんよ…」
「……そうですね、おじいちゃん。ありがとうね晟成君」
「いいっスよ、それが俺の仕事っスから」
「あ、そうそう……渡し忘れるところだったわ……はいこれ」
「ン? 何スか?」
ぽんっと手を叩き、主婦は晟成にタッパーを渡した。晟成はそれを受けとると、中身を確認しようと蓋をあけた。
「おほ~! 旨そう~ッ!!」
タッパーの中には、美味しそうな煮物が入っていた。
「お裾分けよ。いつもお世話になっているのだもの……これぐらいしないとバチが当たるってもんだよ」
「ありがとうございますッ! いや~、俺育ち盛りだからこういうのスッゲェ嬉しいっスッ!」
食欲をそそる何とも言えない煮物の香に、晟成は唾液で口の中を濡らした。
「………偉いねぇ晟成君は……」
「? いきなり何スか、良平じいちゃん?」
突如かけられた老人の誉め言葉に、晟成は顔を赤く染める。
「いやね……まだ二十歳にもなっていない子供が、『一人』で親の後継いで、店立派に立て直すなんて……並大抵の努力じゃできんよ……」
「……そんな大層なもんじゃねえっスよ、俺。ただ俺は、この仕事を継ぎたいと思ったからやっているだけっスよ……単純にそれだけっス……」
晟成は老人の目を見て答えた。どこまでもまっすぐな爽やかな目で……
「ハッハッハッハッ!! 言うのぉ~ッ! いやいや、わしの孫もこんなんじゃったらのぉ~……」
「それを言うなら私もですよ、おじいちゃん。うちの息子、晟成君と同い年なんだけど……どこでひねくれちゃったのか、この間髪の毛ギラッギラの金髪にしたんですよ~……」
老人と主婦は身内と晟成を重ね、どうしてこうならなかったと嘆いていた。晟成は空気が若干重くなっているのを感じた。
「(…あ、あれ? 何か重い(ヘヴィ)空気…)………い、いや~…そんなお孫さんと息子さんと比べられるようなもんじゃあねぇっスよ、俺ェ。大したことしてねえし……」
「いやいや、謙遜せんでもよろしい。わしの孫に晟成君の『優しさ』が少しでもあればのぉ~……」
「うちの息子に晟成君の爪の垢を、そのまま飲ませたいですよ……」
はぁ……と深いため息をついて二人は黙った。
「(……や、やっべぇ~~……空気が重てぇ~!)……じゃ、じゃあ良平じいちゃんッ! 杖直しとくっスから、三日後にまた取りにきてくれなッ! 島津のおばさんもタッパー今度返しに行くからッ!」
「そうかい……それじゃあ頼むよ」
「また何か作ったらお裾分け持ってくるからね」
そう言うと二人は帰っていった。帰りの際、「うちの孫が…」「うちの息子が…」と二人が会話していたのだが、晟成は聞かなかったことにした。
「………ははは……さて、『修理』にとりかかるか…」
二人を見送ると、晟成は受け取った杖とタッパーを持って家の中に戻った。
東方晟成は、父親と母親の三人家族で暮らしていた。『暮らしていた』と過去形なのは、現在東方晟成は一人で暮らしているからである。
彼の家は代々「修理屋」を営んでおり、晟成は四代目であった。彼の父『東方貞成』は国宝級の宝物の修理に携わったこともある一流の職人であった。母『東方智子』は家庭的で温和な優しい母親で、東方家は近所でも有名な仲の良い家族であった。
そんな幸せな東方家に不幸が訪れたのは、晟成が4歳のころだ。
季節は夏。晟成の母『東方智子』が急死したのだ。原因は不明…謎の高熱を発し、体の免疫力がどんどん低下していく奇病にかかったのだ。突然の母の死に、まだ幼い晟成は何が起こったのか理解できなかった。
それから暫くして、季節は冬。今度は晟成が母親と同じ奇病にかかった。当時、仙台市は観測史上最高の大雪に襲われた。雪のせいか電波が悪く電話が繋がらないため、父親は大雪の中、晟成をかついで病院に向かった。
しかし、それが不運であった。仙台市を襲った大雪は、容赦なく父『東方貞成』に極寒の冷気をあびせ、体温を奪っていった。あまりの寒さに手足は麻痺し、さらに積雪が疲労を増大させ、歩くことすら困難であった。しかもその冷気が晟成の高熱を悪化させ、文字通り晟成は「死の淵」をさ迷った。
それでも、父『東方貞成』はそんな猛吹雪の中を、進んでいった。息子を助けるために、愛する家族を今度こそ救うために、文字通り「命をかけて」……
その後、病院につくと東方親子はすぐに治療をうけた。医師達の懸命な努力によって、晟成は一命をとりとめた。しかし、父『東方貞成』はも猛吹雪のせいで手足が腐り、そこから菌が入り込んで病死した。
晟成は4歳で天涯孤独となった。
「よ~し、じゃあ始めるか…」
作業部屋と書かれた室内で、晟成は眼前に広がる無数の破損物に対峙していた。それらは全て、晟成が依頼された依頼品であった。中には今日頼まれた「真っ二つにへし折れた杖」もあった。
依頼品はどれもこれも酷い有り様で、とても修理できるとは思えない状態だった。
しかし、こんなものは晟成にとっては朝飯前だった。『この程度』の依頼品は、何度も『直してきた』からだ。
晟成は依頼品を一ヶ所にかため、作業がしやすいようにした。そして……
ズッギュウウウウウンッ!!
晟成の右腕から『半透明の腕』がはえた。その『半透明の腕』が依頼品に触れた。すると……
「よし、『修理完了』ッ!」
『半透明の腕』が触れた途端、依頼品は『キズあと一つなく元通り』に『直っていた』。「真っ二つにへし折れた杖」はどこで折れたのか判別つかないほど、むしろ新品のように『直っていた』。
彼がこの『能力』を認識したのは7歳の時、友人が誤って滑り台から転倒し足を骨折した時だった。体験したことのない激痛に友人は泣き叫び、周りの他の友人達はどうしたらいいか分からずアタフタしている中、晟成は友人にかけより応急手当をしようとした。
友人の足に晟成が『触れた』時、それは発現した。
晟成が触れた途端、友人が泣くのを止めた。狐に摘ままれたようにきょとんとしていた。そして、友人は何事もなかったように立ち上がったのだ。
この日を境に、晟成は『自分には特別な力が宿っている』ことを理解した。
骨折の怪我も、折れた杖も、砕けた壺も、どんな破壊も元に戻す『優しい能力』を宿していることを……
修理した依頼品を片付け、晟成は作業部屋を後にした。先程貰った煮物をオカズに晩飯でもしようと考えていた時、
ピンポーン
玄関から呼び出し音が聞こえてきた。晟成は廊下の壁にかけられた時計で時間をみる。七時過ぎだった。
「『またあの野郎』か~~? しつけえな……」
この時間帯にこの家を訪ねてくるのは一人しかいない。キッツイ香水の匂いがする新聞会社の勧誘だ。うっとおしいなと思いながら、晟成は玄関に向かう。
ガラガラガラ‥‥
「すんません~~……うち、新聞はいらないって言ってんスけ……ど……」
ぼやきながら扉を開けると、晟成はフリーズした。扉の先には、いつもの新聞会社の回し者ではなく……
高そうな黒いスーツを着て、眼球がスッポリ隠れるほど大きく真っ黒なサングラスをかけた大男が三人も立っていたのだ。
「………『東方晟成』君、だね……?」
自分の声よりもかなり低いドスのきいた声で、真ん中にいる大男が晟成の名を呼んだ。
「…………(コクッ)」
晟成は突然の訪問者に、無言の相槌で応えた。ビックリすぎて声が出なかったのだ。
「……どぞ……粗茶、ですけど……」
「どうも……」
謎の集団の訪問から数分後。晟成は男達を客間に案内し、お茶を出した。男達は簡潔に礼を言うと、そのまま黙りこんだ。重たい空気が流れていた。
「……あ、あの~……一つ、聞いていいスか?」
「……どうぞ……」
晟成は勇気をふりしぼって男に質問した。
「………どっかで…お会いしましたっけ…?」
「………………」
沈黙が続く。心臓がバクバクいっているのを晟成は感じた。気持ち悪い汗が背中をつたう。暫くして、男はかたく閉ざしていた口を開いた。
「………………初対面だ……」
「………で、ですよね~~~ッ!!」
男の返答に晟成は胸を撫で下ろす。
「いや~~~ッ! マジで緊張したっスよ~~ッ! ほら、もしどっかで会ったことある人なら、今の質問スッゲェ~失礼じゃないスか~ッ! いや~~~良かったッ!」
緊張の糸が切れたせいか、晟成は饒舌に気持ちをぶちまけた。晟成の言葉を男は静かに聞いていた。
「ははは……あれ? ちょっと待ってください……」
ふと、『ある疑問』が晟成の頭の中によぎる。
「……じゃあ……『アンタ等誰っスか』?」
当然の疑問だった。面識もない人間が夜間にいきなり訪ねてきたのだ。普通なら家に上がらせることすらしないのだが……
東方晟成のもって生まれた性格が、「外で立ちっぱなしっつうのも、可哀想だしな」という考えにいたったのだ。
「………確かに、我々と君に接点はない……だが、我々は『君を探し続けていた』……」
「俺を、探してた?」
「遅くなったが、自己紹介をしよう。私は『SPW財団』で研究をおこなっている『科学者』だ……」
「『SPW財団』……? あの?」
『SPW財団』……20世紀初期に設立された財団で、『医療の発展』と『自然動植物の保護』を目的とした人々の生活と福利厚生のために動く団体のことである。一財団であるのも関わらず、その影響力は世界経済を動かすほどのものである。
「……いや、アンタ等がそのSPW財団の人間っつうのは分かりました。でも……いったいそんなお偉いさんが俺に何のようっスか?」
「単刀直入に言おう、東方晟成君………」
差し出されたお茶をぐいっと飲み干し、男は晟成に告げた。
「君には…………『学園都市』に転入してもらいたい。」
「………………はぁあああああああああああああああああッ!?」
魂が月までブッ飛ぶほどの衝撃告白が、晟成に告げられた。
後書き
感想とかほしいにょ(*^^*)
後、今後のストーリーなんだけど、晟成が『能力』を持っていることを皆知っているって設定でいこうかどうか悩んでいる………
読者諸君ッ! 君達の意見を聞こうッ!!
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