ドン=ジョヴァンニ
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 悔い改めぬ先
己の屋敷から逃げ延びたジョヴァンニとレポレロ。今二人はまた夜道を歩いていた。
「レポレロ、いるな」
「いますよ」
余裕の表情のジョヴァンニに対してレポレロは違っていた。彼は全速力でここまで走ってきたので肩で息をしてひいひいと言っていたのである。
「けれどもう」
「もう。何だ?」
「もう辞めさせてもらいます」
たまりかねた声で言うのだった。
「これでもう」
「また妙なことを言う」
ジョヴァンニはレポレロの辞職願いを聞いてこう返すのだった。
「辞めるというのか。私が御前に何をした」
「殺されかかったじゃないですか」
このことを話に出すレポレロだった。
「旦那はさっき私を」
「あれは冗談だ」
「けれど私は本気です」
それは顔にもはっきりと出ていた。
「もうこれでお暇します」
「まあ待て」
だがここでジョヴァンニは去ろうとする彼を呼び止めた。
「いいものをやろう」
「いいものとは?」
「ほら、これだ」
懐から出してきたのは四枚の金貨だった。
「これをやろう」
「まあいいでしょう」
現金なものでそれを受け取ると態度を変えるレポレロだった。すぐにジョヴァンニの手からその金貨を受け取って素早く自分の財布の中に入れてしまった。
「今回だけですよ」
「わかっている」
「これが慣例になってはいけませんよ」
受け取ってから言うから何の説得力もないがそれでも言うレポレロだった。
「あたしの様な人間はお金で誘惑できませんよ」
「まあそれはいいとしよう」
この話を途中で止めさせるのだった。
「御前は私が言うことをしていればいいのだ」
「女遊びを止められては?」
「馬鹿を言え」
この言葉も一蹴してしまった。
「御前は知っている筈だ」
「知っているから言うんですよ」
「では言おう」
ジョヴァンニは半ば売り言葉に買い言葉で言うのだった。
「私にとって女はパンや空気よりも大事なものなのだ」
「それで続けるんですか」
「全ては愛情だ」
こういうことにしてしまうのだった。
「一人の女に対して信義の篤い男は他の者に対しては無慈悲なものだ」
「そんな言葉初耳ですけれど」
「私の言葉だ。当然だ」
だからだというのである。
「私のように寛容な心を持った者はな」
「どうだっていうんですか?」
「万人を愛するものだ」
そういうものだというのだ。
「女達はこのことを知らないで私の好意を偽りと言うのだ」
「だといいですけれどね。それで今度は何をお望みですか?」
「ドンナ=エルヴィーラの侍女だが」
「ここにも連れて来てるんですか」
「いない筈がない」
彼は断言した。
「私にはもうそれがわかるのだ」
「また勘ですか」
「勘こそが最も重要なのだ」
それこそがだというのである。
「それでだ。見たことはないのか」
「ええ、全然」
主の問いに対して首を横に振って述べる。
「どんなのですか?」
「結構いいぞ」
彼女ももうチェックしているジョヴァンニだった。
「それでだ」
「ええ。それで?」
「今度は彼女だ。いいか」
「真夜中にですか」
長い夜である。この夜の喧騒の中で実に様々なことが起こっている。
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