ドン=ジョヴァンニ
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第一幕その二十二
第一幕その二十二
「間違いない、あれは」
「どうしたんだ?」
「げっ、旦那まずったか!?」
「そんな馬鹿な」
召使達も召使達で動きを止めた。
「あの旦那に限って」
「そんなことは」
「助けて!」
ここでまたツェルリーナの声がする。
「どうか。どうか」
「旦那、やばいですよ」
レポレロはもうジョヴァンニのところに向かっていた。
「このままだと」
「今です」
「ええ」
「それでは」
エルヴィーラ達三人は顔を見合わせて頷き合う。
「行きましょう」
「そして今こそ天罰を」
与えようとした時だった。何と部屋の中にジョヴァンニが入って来た。見れば右手に剣を持っており左手でレポレロの後ろ襟を掴んで猫の様に持っていた。
「もう許せん!」
「えっ!?」
「どういうこと!?」
「レポレロさん!?」
皆、召使達も含めて彼がレポレロを捕まえて出て来たのには驚きの声をあげた。
「何が何だか」
「どうしたっていうの!?」
「もう許さん。私が成敗してくれる」
「あの、旦那」
当のレポレロも訳がわからず目を点にさせていた。
「一体これは」
「成敗してやる。新妻を手篭めにしようなどとは」
「何で私なんですか」
レポレロの抗議も当然だった。猫の様に掴まれたまま抗議する。
「私が何をしたっていうんですか」
「そんなことでは騙せません」
「その通り」
だがエルヴィーラ達は違った。ここで三人一斉に仮面を取ってジョヴァンニに対する。
「ドン=ジョヴァンニ!」
オッターヴィオは拳銃を出しながら彼の名を呼ぶ。
「ここで天罰を与えてやる!」
「私の目は誤魔化せはしません」
エルヴィーラがジョヴァンニに対して告げる。
「そう、決して」
「むっ、ドンナ=エルヴィーラか」
「そう、私です」
きっとジョヴァンニを見据えての言葉だ。
「私がいるからには貴方の勝手にはさせません」
「またここで出て来るとは」
「悪党よ、これで最後です」
最後にアンナが彼に告げた。
「もうこれで」
「まさかここに来るとは」
「ツェルリーナ」
「マゼット」
この間に部屋に戻って来たツェルリーナはマゼットのところに帰った。見れば服は全く乱れていない。
「私は大丈夫よ」
「そうか。なら後は」
「ええ。あの旦那を」
二人はエルヴィーラ達のところに向かった。これで五人。ジョヴァンニの方にはレポレロがいる。しかし数での劣勢は明らかだった。
村人達も召使達も見守るだけだ。彼等は何が起こったのかまだわかりかねているところがある。だが五人の中心人物であるエルヴィーラは言うのだった。
「覚悟するのです、ドン=ジョヴァンニ」
「私に覚悟せよというのですか」
「その通りです」
その目はじっとジョヴァンニを見据えていた。
「今ここで。悔い改めるのです」
「戯言を」
だがジョヴァンニはエルヴィーラのその言葉を一蹴した。
「私に悔い改めろというのか」
「さもなければ貴方のことが世界に知れ渡り」
「結構なことだ」
ジョヴァンニはこのことを一蹴した。
「私の名が知れ渡るのならな。結構なことだ」
「その悪事が知れ渡るでしょう。そして何時か裁きの雷が落ちることでしょう」
「雷であろうと嵐であろうと」
ジョヴァンニはエルヴィーラに何を言われても怖気付くことさえなかった。
「私は恐れぬ。世の終わりが来ようとな」
「嵐なんてものじゃないよ」
五人は今まさにジョヴァンニを取り押さえようとしている。しかしここで召使達は混乱したのか部屋の灯りを次々に消していく。場は次第に暗闇に包まれてきている。
「けれど旦那は恐れることなんてないし。どうなるんだろうな、一体」
「ではレポレロよ」
「あっ、はい」
ここでレポレロに声をかける。彼もそれに応える。
「去るぞ」
「去るぞって」
「この場を去る」
「あっ、ちょっと旦那」
「待つのです!」
エルヴィーラが先頭に立ってジョヴァンニを追おうとする。だがそれは適わなかった。
「あっ、暗闇が!」
「ドン=ジョヴァンニ!」
「一体何処に!」
「闇夜は私の永遠の味方だ」
ジョヴァンニはレポレロと共に闇の中に消えながらこう五人に告げた。もう部屋の中は完全に真っ暗闇になっており驚く村人達の声が木霊する。
「誰が消したんだ!」
「何も見えないぞ!」
「さらばだ!」
その中でまたジョヴァンニの声が聞こえた。
「私を悔い改めさせることなぞ誰にもできぬ!」
最後にこう言い残して何処かへと消えた。しかしエルヴィーラも他の者達も諦めてはいなかった。
「次こそは」
「必ず」
暗闇の中で歯噛みしていた。騒動はまだ続くのだった。
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