ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第18話 もう1人の少女
そして、キリトとの待ち合わせ場所である噴水広場に到着したリュウキは、噴水の周囲を囲む様に飾られている花壇に腰掛けていた。別に他にベンチ等はあるのだが……、如何せんこの場所には他のプレイヤーが多い。 攻略会議となった場所だったから、仕方ないと言えばそうだ。もうちょっと待ち合わせ場所を考えたら良かったと、少なからず後悔はしていたが、もう 時間も迫ってきているし、面倒だと言う事で、態々場所を変えるメッセージは送っていない。
そして更に暫くしての事。
「よう。おはよう、リュウキ」
後ろから声をかけられたのだ。誰かが近づいてきている事は判ったが……その声から誰か、直ぐにわかった。
「ああ。……キリトは正面からくるのを嫌うんだな?」
リュウキは、軽く返事を返すと、そう言っていた。
よくよくコレまでの事を思い返して見ると、初めて会った時もやや後ろから。攻略会議で会った時もそう。βテスト時代でも、基本的にキリトが声をかけるのは後ろからだったと記憶している。正面からは殆どない。
「ん? 特に気にした覚えは無いがな」
キリト自身はそうでもないらしい。そう答えると、そのままキリトはリュウキの隣に腰を下ろした。
「それで……話とは何だ? 態々メッセージをくれたんだから何かあるんだろう?」
リュウキはキリトにそう聞いた。実はキリトからメッセージをあの会議後、あの場所から離れた後に貰っていたのだ。多分、レイナがリュウキを連れ出さなければ 昨日の内に話は済んだだろう。
「ああ……、リュウキと色々答え合わせ……、と言うオレとしては、お前の推測を聞きたいんだ」
キリトは腕、そして足を組むと、真剣な表情になった。
「今回のBOSS……。コボルトの王が相手だが、あの場の面子で大丈夫と思うか……?」
表情は真剣そのもの。そのままリュウキにそう聞いていた。彼が間違いなくこの世界で一番のプレイヤーだと理解できるからだ。少し悔しいと思っていたが、この状況になった今、意地を張るべきでは無いのだから。
「……そうだな。あの場の人数だ。単純に考えて十分な戦力だろう。確か44人……だったらな。だが、勿論不安要素もある。それは死亡した時の蘇生アイテムが無い事。そして、普通のゲーム時の時との違い。……死ぬなど考えられぬ状態でのプレイと今の差。それらの悪条件がある以上は軽くは見れない。切欠があれば、状況は良くも悪くもなる」
キリトの問いにリュウキはそう答えた。
リュウキは基本的にいつも、真剣な表情だが、この時はいつも以上だとキリトは感じていた。
「………だから流石に、44人もいたんじゃ、死人が出ないように1人1人を全員をカバーなんて事は出きはしない。……皆のそれぞれの実力に期待するしかない」
そう付け加えて言っていた。
リュウキも、この世界で誰かが命を落とす事、それを何よりも防ぎたいからだ。逆にキリトは彼の言葉を聞いて、決意を感じて真剣な表情から、表情を落とした。
……自分だけが生き残れれば良いと考えていたからだ。
その自分とは違ってリュウキは……と キリトは感じたのだ。
「ッ……」
キリトは言葉を出す事が出来なかった。その表情を見て、大体察するのはリュウキ。
「キリト。あのキバオウって奴の言葉なら、気にするなよ。……皆其々がとった行動に、正解も無ければ間違いも無いと考えている。……そしてオレは、お前の行動は、間違えてないと思う。無理にでも連れて行けば、蟠りも生まれていたかもしれないしな」
リュウキは、キリトの表情はその事だと推察していた。
「えッ!?」
キリトは驚きながらリュウキの方を向いた。
「この生き死にのデスゲーム。……それに直ぐに順応なんて出来るわけが無い。あのキバオウと言う男が言うような行動など。直ぐに冷静になって、10、000もの人間を先導する様な事が出来る筈が無いだろう。……自分の事で手一杯のはずだ。 逆にクエストを行い、旨い狩場の事。それは情報を取得し、提供したとも取れるだろう。アルゴの発信力のお陰で、プレイヤーには伝わって言ってるんだからな。まぁ……オレが言っても説得力ないか?」
リュウキは、そう言うと。オブジェクト化したアイテムのパンを齧った。
「はは……リュウキ。ひょっとして、オレの事を慰めてくれてるのか?」
キリトは、笑いながらリュウキを見ていた。いつものリュウキのキャラじゃないって思えた。β時代 いつも置いて前を只管進んでいた彼とは違って見えた。
「ッ……そんなんじゃない。お前が今回の事を引き摺って、その油断でBOSSにやられてしまっては目覚めが悪いからだ」
リュウキは、キリトから顔を逸らしてそう返した。明らかに図星である。
「そうか……ありがとな。大丈夫だ」
キリトはそう言って笑っていた。
確かに……大丈夫のようだ。キリトは自分でも判る。心が少しだけ軽くなったから。
逆にリュウキは、……キリトを見て これは余計な世話だったか?とも思えてしまっていた。
「あ……そうだ。もう一ついいか?」
突然キリトが……なにやら挙動不審になりながら口を開いた。
「……ん? 別に構わない。ついでだし、何かあるなら言える時に」
キリトの頼みなら、特に問題ないと思っていたリュウキだったが……、即座に拒否する事になる。
「ああ……実はな、お前と話がしたいって言うヤツg「断る」って、はやっ!」
リュウキの即答にキリトは驚いていた。
どうやら、想像以上に、リュウキはこの手の話には敏感になっていたようだ。条件反射、とも言えるだろう。
「あー、違うからな? 全然違う違う。これまでの様なそんな感じじゃない」
キリトは両手を振りながらそう言った。
《白銀のなんちゃら〜》関係の話じゃないと必至に言っていた。
それに、キリトはなにやら真剣な顔つきもしていた。リュウキは、よくよく考えたら、キリトからこの手の紹介など受けた事はなかったから。基本的に大体がアルゴだからだと言う事も思い出していた。紹介が有りまくったのは。後は自力で接触してくるプレイヤー達。
「……? ならなんだ?」
リュウキが訝しみつつも、疑問を浮かべていたその時。
「ちょっと……、いいかしら」
また 後ろからだ、後ろから声をかけられた。今度は気付かなかった。……それ程夢中になっていたのだろうか?
「………?」
「おい……。言うまでくるなって言ったのに……」
キリトは、誰がきたのか判って、少し頭を抑えながら項垂れていた。
まだ、リュウキから了解を得られていないのだから。
「少しだけだから……、そんなに時間はとらせない」
声色から女性だろう。言葉短く彼女はそう言った。それも 歳が近しい少女……。声色はレイナに良く似ているとも感じていた。声だけの情報だったが、リュウキはそう感じられた。
「……なんだ?」
リュウキは後ろに振り返らずにそう聞いた。
「……あなた。昨日誰とパーティを組んだの……?」
彼女の言葉は本当に短かった。確かに時間はとらせないようだ。
(――……さて、と 一体どうしたものか)
彼女の問いには直ぐに答えず、リュウキは考えていた。
恐らく、目的はレイナの事だろう。
レイナが逃げ出した時にいたプレイヤーだという事もこの時はっきりとした。間違いは無いだろう。レイナは勿論、このプレイヤーも 接触をする事に躊躇している。
だから、間接的に訊いてきたのだろう。
「……その知りたい理由はなんなんだ?」
リュウキは質問に答えず、その理由を聞いていた。
「教えて……お願いッ。」
理由をリュウキは聞きたかったのだが、その答えは返ってこなかった。ただ、聞きたい。真実を知りたい。十中八九は判っている筈だが、100%にしたいと思っているようだ。そして、その声色は真剣そのものだった。
真剣なのと、心配なのが半々に混ざった感じだ。
だが、それを感じても、リュウキは首を左右に振った。
「これは個人情報ともなる。安易にその情報は流せない。それにそれは、ネットゲームのマナー違反……だろ?」
そう易々と返せる情報でも無いのは事実だ。確かにレイドと言う数パーティを入れた大パーティでBOSS攻略に挑むが、それでも個々の情報の全てを提示しなければならない事はない。
だから、リュウキはそう返した。
でも、本当の理由は、今日のレイナの姿を見ていたからなのかもしれない。どうするのが正解なのか、リュウキには判らないから。
「ッ……」
リュウキの言葉を訊いて、彼女は何も言えなかった。
暫く沈黙した後に、漸く掠れた声で、言葉を絞り出す事が出きた様だ。
「ねぇ……。あの子……私のこと……怒ってた……? 私を、嫌ってた……?」
彼女はそう聞いていた。その声から察する。今にも泣きそうな声だった。直接会いにいけないところを見ると、この人物もレイナと同じ心境なのだろう。
「…………」
リュウキは、答えない。
これは互いにすれ違った結果のようだ。この彼女が思っているのとはまるで正反対なのだから。
「それは自分で聞けばいい……。本人もそれを望んでいる。……お前の思っているような事は無いと思うぞ」
リュウキは……そう答えた。自分で聞けと言っているが、もう既に答えを教えてもらったようなものだった。
「っ………」
彼女は再び言葉を詰まらせた。
「今日までに、心を決めるとも言っていた。……それ以上は何も言ってなかったな」
リュウキがそう言うと。
「わかった………。ありがとう」
彼女は頭を下げていた。
「後……お願い。守ってあげて……彼女を……」
最後に震える声で懇願をした。その言葉を聞いてリュウキは頷く。
「……ああ。パーティを組んだ以上は仲間だ。やるよ」
少し、その声からぶっきらぼうに聞こえるんだけど、何故だか判らないけれど、心強くも聞こえてきた。初めて話をする人なのに、と彼女はそう思っていたのだ。
「ありがと………」
最後に礼を一言いうとそこから離れていった。
「互いに大変だな。」
リュウキはキリトに苦笑いをしていた。どうやら、互いに似た様なパートナーとパーティを組んだのだから。……格好も似た様な相手かと思えば関係者だったから。
「ああ……アイツも強い決意で《はじまりの街》から出てきたって言っていた、……守りたいとも言っていた。そして、後悔もしているともな」
どうやら、キリトもある程度は話を聞いていたようだ。今回の事、十中八九はあの子の為だと言うことだろう。
「……優しいな」
リュウキはふっと浮かび上がった言葉を言っていた。別に考えていった言葉じゃない。キリトの姿を見て、訊いて 不意に言葉が出てきたのだ。
「え?」
キリトはこちらを向くが、直ぐにそっぽ向く。
「今日のAM10:00だ。……遅れるなよ」
リュウキはそう言うと、立ち上がって歩いていった。
「ああ、リュウキは何処に?」
確かに10時まではまだある程度は時間がある。だが、今からダンジョンに言ったり、フィールドに行ったりする程の時間は無い。故に出来る事は限られてくる。
「……ああ、回復アイテムを揃えにだ。……そう言えば随分前に切らしていたのを忘れててな」
リュウキは、そう言うと、この場所から離れていった。正直、結構衝撃発言だったと思えるキリト。
「……はは。やっぱり、アイツはありえないな」
キリトはその後姿を見送ると、苦笑いをしていた。このゲームがデスゲームとなって1ヶ月。この世界でHPが無くなれば、その先で待っているのは死。それが絶対条件だった。
ならば、HPを回復することが出来るポーション等、回復結晶等のアイテムは文字通り生命線だ。それなのに、彼は……リュウキはこう言っていた。
『随分前に切らしていたのを忘れてた』
腕に自身がある者は、確かに必要最低限の道具だけで十分と言うが、今の状況を考えると突出しすぎだと思える。だが、キリトは、あの男についてはよく知っているつもりだ。自分もソロ中心だが、彼とは何度も会い、βテストの時はパーティも組んだ。別に今更アイツが何をしたとしても驚かない。
そして誰よりも頼りになる男なのだ。
「………彼はいったい」
離れていた彼女がキリトの傍にまで来ていた。彼女も彼の言葉を聞いていたんだろう。ありえない行動の裏に隠されたものを見極めようとして……。
「……大丈夫。かしら………」
僅かに震えてそう言っていた。『大丈夫か』と言う言葉をさしているのは恐らくリュウキと一緒にいたプレイヤーの事だろう。
「大丈夫さ。アイツはシャイな男だが、腕は超が付くほどの一流。この世界でもトップクラスだと思ってる。……紛れもなくな。そして、約束を違える様な男でもないさ」
キリトがその男を見る目は憧れも有り、目標でもあるような瞳だった。いつかは追いついてみせる……そう言わんばかりの目だった。
「………そう」
彼女は俯き……そして 再び離れていった。去っていく彼女の方をキリトは見た。
視界の端に表示されている彼女のHPバーの隣にある名前。
――……その名前はAsuna。
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