ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第17話 悪夢と少女の苦悩
そして、アルゴはここから、去って行った後、再びこの宿屋には、リュウキとレイナと2人きりになった。
確かに静けさは取り戻す事ができて良かったと思えるが、その変わりに生まれたモノがあっのだ。それは目の前にいるレイナのことだ。
「………それで?」
リュウキは、とりあえず口を開いた。先ほどから生まれたモノ、気になった事をレイナに訊く為に。
「な……なによっ……」
レイナは、レイナで、リュウキからあからさまに距離をとり、完全に警戒しているようだった。アルゴが来る前までは、緊張している様子だったのだが、180度変わっている。そのレイナの行動がリュウキにはわからない。そしてもう1つ感じた事もある。
警戒心は判る。だがもう1つの感情、その表情に現れている感情が判らない。
「何を怒っているんだ? さっきから」
そう、レイナの表情には、怒りが。怒りの感情がその表情に現れていたのだ。この世界はその手の感情は 現実世界の様に隠すことは出来ない。アバターの表情として顕著に現れてしまうのだ。
そして原因も大体は把握出来ている。アルゴが何やら上機嫌、笑いながら帰っていって、レイナと2人きりになった時からずっとだった。故にアルゴが原因だろう。
なんと言うか……、直感で言えばレイナは、ムスっとしているのだ。
「べ、別に私は、お……怒ってなんか……ッ……」
明らかに怒っている様子なのだが……、本人曰く、それは違うらしい。
リュウキは、レイナのその返答を聞いて、これ以上話しても同じだろうと思った。兎に角、よく判らないが、とりあえずレイナは怒ってはいないらしい。それを信じる? 事にした様だ。
「まぁ……ならいいか。別に」
リュウキは、そう一言いうとこの話題には もう触れない。と言わんばかりにレイナから視線を外して、再び情報誌へと視線を戻した。
「む〜〜……」
当のレイナはと言うと、あんなやり取りをして、見てて、それなのに、あっけらかんとしてるリュウキを見て益々不満が募るようだった。かと言って、何か して欲しい事でもあるのか? と言われれば特にない。なんだか、納得がいかないのだ。……判っていないリュウキにとってみれば 理不尽甚だしい。
でも、そんな事はさっぱりわかってないリュウキはと言うと、メニューウィンドウを出し、部屋着へと着替えていた。
それが完了した後、再びレイナの方を見た。
「それで、これからどうするんだ? とりあえず、希望していた風呂には無事に入れたようだが」
リュウキは、そう聞いていた。彼女の目的は、宿と言うより 風呂を借りる事に合った様だから。それを訊いたレイナは、一先ず表情を戻すと。
「う……うん。それは、どうもありがとう。お、お風呂……すっごく良かったよ」
レイナは、その事については顔を赤らめながら頭を下げて礼を言った。男の人の泊まっている宿のお風呂を借りた。その事実が彼女の表情を、頬を赤く染めているのだ。
「ん。その件は別に構わない。それよりも、この後はどうするか? ……と聞いているんだが」
リュウキは、取り合えず、レイナからの感謝は受け取ると、そのままの姿勢で、表情で レイナにそう聞いた。
「えと……わた……わたしは……」
言い淀むレイナを見てリュウキは、まだレイナは何か混乱しているのか? と思っていた。
そして同時に、怒ってみたり、次には混乱してみたり、……随分と忙しい人間だとも思えていた。だが、それでも判るのは、レイナは決して悪い人間じゃないと言う事、それは間違いないと思えていた。
確かに出会いから、この間、この短い時間だったが、よく判った。だからこそ、リュウキは別に問題ないと判断した。
「まだ決まってないと……。なら 後は好きにしていい。オレはもう休ませて貰う」
リュウキは そう言うと、オブジェクト化していた情報誌をアイテムストレージに戻し、消失させると、今まで座っていた椅子から立ち上がり、直ぐ傍に備えられていた大きめのソファに腰をかけた。
「えっ……?」
レイナは少し慌てていた。
確かに、リュウキの言う通り、今後の事は、頭の中でさえ はっきりとまだ決まってない。
この場所に来た時は、お風呂に入る事で頭が一杯だったからだ。何も頭に入っていなかったのだ。だけど、今思うのは、昨日まで泊まっていたあんな酷い宿屋に再び戻るのは……、とも考えていた。リュウキが宿泊しているこの場所を見て、尚更だろう。
だが、そんなレイナの葛藤は勿論、全くわかっていないリュウキはと言うと。
「……明日は、集合時間より前に、キリトと少し会う予定がある。だから、オレは集合よりも早めにここを出る予定だ。……お前も遅れないようにしろよ」
リュウキは、そのまま腕を組み、脚を伸ばしきり 楽な姿勢のままで目を閉じた。
「え……? あ、あの……ちょ、ちょっと」
目を瞑ったリュウキを見てレイナは慌ててリュウキの傍へと寄ってくる。
「ん……?」
レイナが近づいてきたのを感じたリュウキは、片目を開ける。レイナはリュウキの顔を見ながら。
「その……、なんで、こっちのベッドを使わないの……?」
聞きたかったのは、その事である。
レイナがいる方には、本人も認めている眠りやすい大き目のベッドがあるのだ。それは見ただけでも判る程のふかふかのベッド、そして羽毛布団もある。なのに、リュウキは、それらは使用せず、備え付けられているソファーに腰をかけ、今 正に眠りに付こうとしていたのだ。……レイナが疑問に思うのも仕方が無い。
だけど、この後が問題だった。
リュウキの言葉が問題発言。その言葉を訊いて、レイナは今度は驚きを隠せられなかった。
「ん? ああ、なんだその事か。……別に大した意味ではない。ベッドは お前が使うかもしれないだろう? と思っただけだ」
リュウキは、そう言うと、再び目を瞑った。
「っっ!!」
レイナは、驚いて、思わず立ち上がりそうになったのだ。
「(――――ま……まさか、自分が今日知り合ったばかりの男性宅? で安易に眠るなんてっ! そんな風に思われてるの!?)」
レイナは、そう思われているのか? とパニックになりそうだったのだ。昨日今日の付き合いどころではない。つい小1時間程前に知り合っただけであり、親しい間柄でもない。赤の他人なのに、この場所に泊まっていくなんて選択肢が自分にあると思っていたのか?と。
だが、リュウキは別にそんな難しくは考えていなかった。
「……何を驚いているのかは判らないが、別に此処から、出て行くのも良いし、そのベッドを使って、此処で眠るのも良い。それはお前の自由だ。……だが、オレは寝る場所に特に拘りは無いから、な。少しでも、ただ眠れれば良いそれだけだ。……睡眠は、ある程度は必要……だ。………じゃあ、オレはもう寝るから、な」
リュウキはそう言うと、深く呼吸をして、完全に睡眠の体勢にとった。
この世界において、他のプレイヤーの前で油断しきっているところを見せるのは良くない事だ。……確かに、宿システム上では守られているのだが、方法は無い訳じゃない筈だから。それに、どんなシステムにもバグは存在するのだから。そして、抜け道もあるだろう。だが……リュウキには、目の前のプレイヤーには悪意の類は感じないと判断したのだ。そして、仮に何かあったとしても、対処できる自信が彼には合った。だから、レイナの前で目を瞑り休んでいた。
「あ……えっ……あれ……。……あれ? ほんとに寝ちゃったの……?」
リュウキの言葉を理解しようと必死になっていたレイナはと言うと、あっという間に眠ってしまったリュウキを見て、思わず呆気に取られてしまっていた。……そして、あまり言葉が出てこない。
様々な葛藤がレイナの中で交差し 試行錯誤、色々と状況を分析してある結論に達した。
どうやら、この人は、今がどういう状況なのか 判っていないように見えた。いや、例えそう言ったとしても、返ってくる言葉は容易に予想できる。
『……ん? ただ 浴室・寝る場所を提供しただけだろう? 何を慌てる事があるんだ?』
十中八九、間違いなくそう返答するだろう。短い付き合いでも、言われなくても、それくらいはレイナには判った。
「(………む〜)」
判ったのに どこか、納得できないレイナ。
つまり、どう言う事かというと、異性について。詳しい年齢は判らないが、明らかにまだ 若い男の子だと言うのに。どうやら、この人は思春期の男の子感性を持ち合わせていないようだと悟った。仮に、仮想空間とは言ったとしても、一つ屋根の下で男女が共に夜を明かす。そんな状況なのにこの態度だから。
「(って、あれ? も、もしかしたら…………)」
レイナは、ある事を察して、はっ! とした。
「あ……あれ? ……ひょっとして、わたしって……。彼に女として 見られてない……?」
そう思ってしまったのだ。
つまり、男同士の様な感じで意識しない問題ない。そもそも異性として見ていない。だから これだけ普通、と言う可能性もあった。……本人に確認をする訳にはいかないから、事実関係は判らないけれど……。レイナは表情を僅かに暗める。
「(―――……なのだとしたら、凄く寂しい。ものすごーーーく……。だって……おねえちゃんは、あんなに……、とっても綺麗なのに……)」
姉の容姿は、妹の自分から見ても、本当に惚れ惚れする。凛とした佇まいだってそうだ。
でも……、リュウキの寝顔を見ていたらそんな気分は吹き飛んでしまった。彼の今の顔を見ているだけで、自分の顔が赤くなるのを感じていた。
「う、ん………やっぱり、彼 すぐ可愛い顔をしてる……。こんな事、言っちゃ怒るかも……だけど」
小さく呟くレイナ。 あの初めてフードを取ったその瞬間から 目を離せず思わず魅入ってしまった。だから、レイナはついついリュウキの寝顔を見てしまう。『今なら気づかれずに、見れる』と内心思ってしまっているのは内緒だ。
もうリュウキは、数秒もしない内に、規則正しい寝息が聞こえている。 だから、もう本格的に眠ってしまったようだ。
「寝顔も……本当に。ん〜……。これは、私より歳下かな……? いや、同い歳かな……?」
リュウキの顔を覗き込みながら、レイナは考えていた。アバターに関しては、あの運命の日。全てを暴露されてしまって、本来の素顔、現実での素顔となってしまっている。
故に、この顔こそが、現実世界の彼の顔なのだ。……誤動作があったとしても、そんなにかけ離れているとは思えない。現に 自分の顔、そして姉の顔は全く同じだったから。
レイナは暫くリュウキの寝顔を見つめていた時だ。
「ん……」
リュウキの吐息が聞こえてきた。どうやら、思った以上に彼に接近してしまっていたらしい。
「ッッ!!」
それでレイナは、我に返っていた。
「わ……私ってば、なにを! お、男の子の寝顔を覗くなんて……っ。 ……え……えっとっ!」
レイナは慌てながらも起こさない様に……静かに動き、ベッドから毛布を取り出した。備え付けられている設備であり、まだまだ余分に存在する。
「………ありがと。 えと……リュウ……キ君……?」
レイナは、リュウキに毛布を体にかけてあげた。この時、初めて彼の名を口にしたかもしれない。
――……何故だろう。心に響いてくる。
レイナは言いようのない浮遊感に似た何かを感じ取りながら。
「その……借りるね。ベッド……。おやすみなさい……。ありがとう……」
リュウキに最後にもう一度 確認を取る。聞こえているとは思えないけど、そう言い頭を下げると 彼が薦めてくれたベッドに腰をかけた。
その感触。ベッドの座り心地は本当に、今までの宿の硬いベッドとは比べ物にならない。
程よく柔らかく、包んでくれている様な感覚がする。座っているだけで、これなのだから、横になったら、きっとあっという間に眠れるだろう。 レイナはそう確信できていた。
現実世界で言う、高級マット使用の高級ベッドだろう。
「わぁぁ……。ふっかふかだぁ、 それに、とっても暖かい……それに……良い匂いも……」
ベッドのシーツや布団は全て手入れしてくれているのだろうか。
思い切り潜り込む様に布団を被り、そして頭だけを外に出す。身体はぽかぽかしていて、そして この部屋特有の香り。オリーブの香り……だろうか? それもとても心地良さを醸し出していた。
「こんなところを……譲ってくれるなんて……。リュウキ君、本当にありがと、おやすみ、なさい。 ……………おねえちゃん。おやすみ、なさい……」
そして、そのままレイナもリュウキに続いて、眠りについた。
眠りに入れたのは問題なかった
眠った先に待っているモノは、どうしても同じ光景。見るのは、やはりあの光景だった。
それは、ある日の朝の事。
その日は、兄が急な仕事が入り、家を空かしていた。
兄の部屋には、数台のナーヴギアが置かれている。……兄は、これを凄く楽しみにしていたんだ。ナーヴギアのソフト《SAO》をプレイする事を本当に楽しみにしていた。。
『私達……兄妹3人で……やりたいな?』と言ってくれていた。
でも……、最初はお姉ちゃんはまるで興味無かったんだ。だから私は言った。
『きっと凄く楽しいんだよ! だって……お兄ちゃんがあそこまで言ってるんだからさ? お姉ちゃん……息抜きだって大切だよ? お姉ちゃんが毎日頑張ってるの、私知ってるっ! 私もやるからお姉ちゃんも一緒にやろっ!』
兄は、なんとナーヴギアを3つ、そしてソフトも3つも購入していたのだ。1つでも決して安くないのに、3つもとなると恐ろしくて値段が聞けない。 姉はあまり興味は無いって言ってたのに、妹である私達と一緒にプレイしたいって、買ってくれたんだ。
そして、自分が誘った時 お姉ちゃんは、初めこそは、渋っていたけど。
『まあ、いいかな?確かに息抜きは必要だもんね? でも、レイもしっかり勉強もするんだよ? 期末試験が近づいてるんだからね』
姉はそう言うと、一緒にナーヴギアを装着した。そして、その後……示し合わせてこう言ったんだ。
『リンク・スタート』
それが……悪夢の様な出来事の始まりになるなんて、その時は思いもしなかった。
降り立ったのは、地獄の様な世界。想像していたものとは訳が違う。1人、1人……とどんどん失われていく命。
そんな世界から、抜け出せなくなってしまって……。
――……私のせいで……お姉ちゃんが……。
目の前に、お姉ちゃん……が……1人で……歩いてく……。
『……ゴメン……なさい。……ゴメンなさい……ごめ……、……怒ってる……よね? ……お願い……お願いだから……こっちを向いて…… 私、……何でもするから……。……行かないで、……お願い……』
離れていく姉を必死に追いかけるレイナ。涙が頬を伝い、脚が棒になってしまっても、決して止めない。走り続ける。……でも、それでも 姉は待ってくれない。寧ろ 離れていってしまう。
『――ま、まって……アス……ナお姉ちゃん……』
その次の瞬間だった。悪夢の終着点は。
世界は、突然真っ白に染まったんだ。色のない世界は、生気すら感じる事が出来ない。無色の地獄。そんな世界を1人で歩いていた姉が。
“パキャアアアアンッ………”
姉が、姉が……。自分の目の前で……大好きな姉が……砕けッ……。
あの日からずっと見る夢。何度見ても慣れる事はない。死ぬ事が出来ないぎりぎりの力で 首を絞められ続けているかの様に、息苦しさだけが感じる。
「―――ッ!!!」
レイナは、まるで、自分の心臓がとびはねたかの様に錯覚し、その反動で飛び起きていた。この世界で夢を見るなんて機能が付いているなんて思えないのに、見てしまう。
あの時から……ずっと、後悔しているんだから。後悔し続けても、過ぎた事は変わらない。ずっと、動悸が止まらない。
「ん……大丈夫か?」
そんな時、後ろから声が聞こえてきた。悪夢から目が覚めたその次に、声が聞こえてくる。
「っ……、だ……だれっ!」
レイナは、錯乱しそうになった。直ぐにベッドから起き上がって 声の主から距離をとった。
「どうしたんだ? ……昨日の事、忘れたのか?」
そこにいたのは、カップを片手に持っている少年、あの鮮やかな銀髪を持つ少年だった。彼はそう言い終えると、目を細めながら レイナを見た。何かを探る様に。
「ん。成る程……。精神状態が不安定、のようだな」
彼は、カップを置き、確信した様にそう言っていた。
レイナは、その言葉の1つ1つを 脳内で再び再生させた。特に《昨日の事》についてを。
それらのパズルのピースを頭の中で合わさっていった。時と共に、形を成していく昨日の記憶。
「……落ち着いて、これを飲むといい」
思い起こそうとしていた時、そう言って彼から渡されたのはカップだった。その中の香りは……更に自分自身を落ち着かせてくれた。
「あっ………」
レイナは、この時全てわかった。彼は、彼の名前は《リュウキ》。昨日の攻略会議の時にパーティを組んでくれた人であり。そして、昨日、お風呂を……、それにこのベッドだって……貸してくれた人。レイナはそこまで思い出した後、素早く行動を起こした。
「そ、そのっ! ご……ごめんなさいっ!!」
直ぐに頭を下げた。沢山お世話になった人なのに、パーティを組んでくれた人なのに、まるで邪険するように、怖がる様に、敵を見るようにしてしまったから。
「……別に構わない。詳しくは聞かないが、原因は昨日話していた事、なんだろう? デジタルの世界とは言え、脳でプレイをしているんだ。……そう言う事もある。それより、それを飲んでみろ。これはオレのオススメだ」
リュウキはそう言うと、カップを口に運んだ。
「あ……、う、うん。ありがとう……」
レイナも同じように口に運んだ。口に運ぶ前からわかっていた。そのとても良い香りがするから、美味しいんだという事が。
(これは……ハーブティ……?)
香りと共に、口の中に含み、味覚エンジンを全開にして(意識して)ゆっくりと味わうレイナ。現実世界で、これと同じ様なのを飲んだ記憶があった。勿論若干は違うけれど。
「これは、《アスティアの葉》で作るハーブティだ。……別にステータス系には なんら関係ないものだが、脳を休め・落ち着かせる効果がある。リラックスが出来る、と言った所だろう。……どうだ?」
リュウキは、レイナにそう聞いてた。レイナはゆっくりと頷く。
「え……、う……うん、凄く……美味しい、よ。ありがとう」
「構わない」
リュウキはそう一言だけ返すと、カップを置きメニューウインドウを呼び出した。
そして、≪装備フィギュア≫で装備を選び操作をしていく。……数秒も経たない内に、彼の姿は昨日のモノ。白銀のローブに身をつつんでいた。
「オレは、もう行く」
「え……?」
リュウキが言った言葉の意味をレイナはわかってなかったようだ。今日が何の日なのかも。
「昨日行ったとおりだ。……キリトと話があるからな。お前も一緒に来るか? ……例のローブの人物と話す絶好の機会かもしれないぞ? まあ、キリトと一緒にくるかどうかはわからないが」
リュウキはそう提案するが、レイナは俯かせた。
「ごめ……んなさい。まだ……ちょっと……」
まだ、心が定まっていない。レイナは、そう言っているようだ。あの起きた時の様子を見れば、深い闇の様なモノも見えたから、リュウキは無理もないと思っていた。
「……構わない。強制はしない。ここは好きに使ってくれていい。ただ……、今日遅れるなよ?」
遅れるな、というのは、今日の集合時間の事だ。レイナは完全に思い出していた。……今日がBOSS攻略の日なのだということを。
「わ……わかってるわ。大丈夫」
レイナは頷いた。もう、失態はしない。と自分に言い聞かせながら。
「ん……。じゃあまたな」
リュウキは、そう言うと、此処を出ていった。
ばたん、と扉が閉まり この家にいるのは自分1人になる
「(……わたしってば、ダメだな。……本当に色々と助けてくれてるのに。リュウキ君の寝顔見て、少しは心が穏やか……っ)………あ!」
残ったレイナは……あることに気が付いた。それも……重大な事にだ。
「わた……わたしの寝顔や……、起きたときの顔……見られた………?」
いや、それは間違いなく見られているだろう。何故なら、リュウキの方が先に目が覚めていたんだから。見たかどうかは、リュウキにしか判らない。
はっきりしているのは、自分が起きた瞬間、リュウキとレイナはの顔を見合わせていたと言う事。
「ッ〜〜〜〜////」
レイナは顔を再び一気に紅潮させた。そして、次に顔を両手で抑える。確かに昨日、自分も見てしまってけれど、今はそんな事は考えてられない。
レイナは慌てて部屋の備え付けの鏡で顔を確認した。髪はショートヘアだから……そこまでは乱れてないけど。 口元周辺が……。
「あ……ちょっと……。ここ……あ、あぅぅ………///」
何がついているのか? それはレイナの為にも説明を割愛する。
……次は気をつけよう、とレイナは顔を赤らめながらも、そう感じずにはいられなかった。
そもそも、次があるのか? また、一緒に眠ったりするのか? と言うことについてはレイナはこの時全く考えていなかったのだった。
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