ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第19話 BOSS直前チュートリアルです
そして、同日AM:10:00
《トールバーナ》の噴水広場前にて、全員が集まっていた。
全員が集まったのを悟ると、先頭に立った青髪の騎士 ディアベルが声を上げた。
「みんな! いきなりだけど――、ありがとう! たった今、全パーティが。44人全員が1人も欠けずに集まった!」
その言葉の後、一斉に歓声が広場を揺らした。そして、滝の様な拍手。その中には勿論キリト、そしてフードを相変わらず付けたリュウキやAsuna、そしてレイナもいた。
「実を言うとさ、オレは1人でも欠けたら今日の作戦は中止にしようと思ってた! ……でも、そんな心配はみんなへの侮辱だったな! 今日、オレは最高のレイドが組めて凄く嬉しい! オレが言う事は1つだ。誰もかけることなく……帰ってこようぜ!」
ディアベルは、右拳を突き出し高らかにそう宣言する。
そして笑顔で答える者、口笛を吹き鳴らす者、そして同じように拳を突き出す者。その彼のリーダーシップに今更ケチをつけるものなどはいない。……実際に大したものなのだ。
これからの戦いは誰も経験したことのない命を賭した戦いが待っている。
その上で、メンバーを集め、奮い立たせたこの手腕。44人ものプレイヤーを1つに纏めたと言っていい手腕。その全てが素晴らしいと誰もが言わざるを得ない。
だが…… 緊張し過ぎればそれは、恐怖心を呼び起こす毒になるように、楽観もしすぎると油断を呼ぶものだ。
この時、……キリトは考えていた。
(確かに あのβテストの時ならば、勢い余っての潰走もただの笑い話になるだけなのだが……。今回は、笑い話ではすまない。誰かが命を落とす可能性もあるんだ……)
悪い予感は、止む事無く頭の中に何度も流れていた。連想をさせていたその時だった。
キリトの肩に軽い感触があったのだ。
振り向いて見ると、そこにいたのはあの男。
「……さて、気を引き締めなおすか。……少なくともオレ達はな」
小さな声でそう言うのはリュウキだった。彼もキリトの様に考えていたのだろう。だからこそ、キリトが葛藤していた事に気づいてそう言っていたのだ。
「……ああ。そうだな」
キリトは頷いた。これから何が待ち受けているか判らない。だからこそ、想定外の事も視野に入れなければならない。そうなれば隣の男は、非常に頼りになるのだ。
そして、互いに拳を出し……。
コツンッ、と闘志を一緒に出すように、拳をあわせていた。
キリトとリュウキが拳を合わせていたその時、同じ場所だが、キリト達と少し離れたところで2人のプレイヤーがいた。
「……ねえ?」
それはフードを被った者同士だった。話しかけているのは、プレイヤー名《アスナ》。そして相手は、《レイナ》だった。
接触は、アスナの方からだった。
「……今は、ゴメンなさい。コレが終わったら……きっと、話……出来るから。今は、今はコレに集中させて……。《お姉ちゃん》」
「ッ……」
アスナは姉、と呼ばれるプレイヤー。そう、彼女達は姉妹だ。
共にSAOと言う魂の牢獄に囚われた実の姉妹だった。
アスナにとっても レイナにとっても それは、辛い思い出だった。
今回の街にまで来るときに、フィールドでレイナは瀕死に近い状態になったのだ。
HPバーが注意値から、危険値へ変わっていく。
それを目の当たりにしたアスナは、―――サァ……っと、一気に青ざめた。
―――……最愛の妹が死んでしまう。
それを目の当たりにしたアスナは、発狂しそうになってしまったのだ。例え死んでも、ゲームに負けたくない。でも、この世界でのたった1人の家族、妹だけは失いたくなかった。
その2つの感情が混ざりあい、混濁した。
その日の戦闘は、無事に終える事が出来たが……、心の底で秘めていた感情が表面に出てきたのだ。もう、消える事はない。
だからこそ、アスナは、前の街でレイナを説得しようとしたのだ。今からでも戻って《始まりの街》待つようにと。
そこならば、死ぬような事は無く。場所も広いし物資もある程度は揃っている。困る事は無いだろう。
だが、レイナは首を縦には触れなかった。以前アスナは、あの町で腐っていくぐらいなら死んだ方がマシだと言っていた。それをレイナも勿論聞いていたのだ。
だから、あの日に姉妹で共に誓った事だった。『最後の最後までゲームに負けず、抗おう』と。
――……あの約束はなんだったのか、あの誓いはなんだったのか。
だから、そのアスナの言葉に、アスナの提案にレイナは嫌がって拒否をした。姉の言う事を拒否したのは生まれてきて初めてだった。いつも、仲が良くて理想的な姉妹だったから。
レイナはアスナと一緒に行く、と戻らない、ついて行くと言って決して譲らなかった。
意思を曲げないそんなレイナを見て、アスナは強く叱りつけたのだ。
そして、レイナの事を罵ってしまった。
自分の心にも思ってもない言葉をレイナに言ってしまった。心配している事の裏返しだとは判っていても、止まらなかった。
そして、最後に見たのは、涙を流しているレイナの姿だった。
レイナは、アスナを押しのけて外へと飛び出していった。
アスナは、我に還ると直ぐにレイナの追いかけたが、外にはもうレイナはおらず、探しても何処にもいなかったんだ。
あの日から、アスナは、ずっと 後悔していた。
なんで、あの時妹の気持ちをわかってあげられなかったのか。自分自身に腹が立つ程に、それからずっと……彼女を想っていた。町についてもまずは、妹を探した。一度、《はじまりの街》に戻って、黒鉄宮の《蘇生の間》へも向かった。
その場所には大きな金属製の巨大な碑が設置されている。
話しによれば、βテスト時代には存在しなかったものであり、その表面には1万人のプレイヤーの名前が刻まれている。……そして、死んでしまった者の場所に打ち消し線が刻まれるのだ。妹が、レイナが無事かどうかを確認をしていたんだ。
何度も、何度も……。
「おい」
そんな時キリトがアスナに声を掛けた。
「そろそろ出発だぞ」
キリトがそう言うと、アスナはコクリと頷き、後ろに続いた。
「………お姉ちゃん」
そんなアスナの後ろ姿を見て呟く。姉の葛藤、そして姉の想いも。レイナは心の何処かでは判っていた筈なんだ。故にあの時、気持ちを判ってあげられなかったと言うのはお互い様なのである。
2人ともが、後一歩が踏み出せずにいた。
レイナがそう考え込んでいた時。
「今は、戦いに集中するんだろ……?」
傍にリュウキが近づいてきた。
「ッ……うん、彼の言うとおり……今日誰一人欠けずに帰ってくるから。……私も頑張るって決めたの」
レイナは力強くそう答えた。目には強い信念も確認できた。
「……良い答えだ」
リュウキはそう言うと、横並びに歩いていった。
そして、自然とキリトたちと合流した。
このレイドの中では少数パーティだからだ。だからこそ、示し合わせたわけでもなく、自然と4人のパーティとなっていた。初めは頑なに拒否するように離れた筈なのに。
レイナは、BOSSに勝つ為に。
そして最後には姉と仲直りをする為に、頷いた。それはアスナも同じだった。言葉こそ殆ど交わしていないが、同じ想い同じ気持ち……それが重なった時、だった。
キリト、そしてリュウキは2人を見て、BOSS攻略なんてきっかけに過ぎないと感じた。
暫く、迷宮区へと歩いていくときに、キリトが声をかけた。
「……確認するぞ。オレ達アブレ組みの役目はルインコボルト・センチネルって言うボスのとりまきだ」
そう言うと、皆が頷いた。事前に簡易的に打ち合わせはしている。人数が少ないから、戦力外として扱われたのではないか? と不満のあるアスナだった、レイナも苦笑いをしていた。
だが、リュウキとキリトはそうは思わなかった。人数の差は仕方が無いし、何より全体をじっくりと見渡すと言う意味では、この位置がベストなのだ。
最終的には全員了承済みというわけだった。
「オレが奴らのポールアックスを《ソードスキル》で跳ね上げさせるから、すかさずスイッチして飛び込んでくれ」
キリトがそう言うと、リュウキが微笑んだ。
「……キリトがどれだけ腕が上がったか、お手並み拝見だな。弾き、見せてもらうぞ」
リュウキは笑いながらそう言っていた。
「見てろよ……。やってやるさ。」
リュウキのその言葉を聞いてキリトの腕に自然と力が入ったていた。だが……このやり取りを見ていた2人は……判らないところがあった。
「ねぇ……?」
「あの……」
アスナとレイナは、殆ど同じようなタイミングで。
「「スイッチって?」」
キリトとリュウキの2人に聞いていた。
「………」
「もしかして……知らない?パーティ組んだ事あるみたいだけど……?」
キリトはそう聞くけど……2人とも首を縦に振る事はなかった。そして、リュウキはある事を思い出す。
それは、初めてパーティ申請をした時。
レイナはパーティの組み方さえ知らなかった。なら、如何に基礎、基本だとしても……、《スイッチ》を知らなかったところで不思議ではない。
「……家で説明してればよかったか」
リュウキは思わずそう呟く。それなら、多少は練習が多くできるし、このままでは殆どぶっつけ本番になってしまうからだ。そのリュウキの言葉を聞いて。
「えっ……? レイ……ひょっとして、泊めてもらってたの?」
アスナは驚き声を上げていた。異性の家に泊まったのか?と驚いたのだ。
「わ、わわっ! ち……違うのっお姉ちゃん! 私はその……お風呂が……。貸してくれるって、え、えと、わ、私何をっ あ、あぅぅっ……」
レイナは慌てながら説明をしようとするが、言葉が上手く纏まらずいえなかったようだ。だが、アスナにはそれだけの説明で十分だった。
「っ……!」
レイナの言葉にアスナも声を無くしていた。アスナも自身にも身に覚えがあるからだ。
「それは……仕方ないよね……」
だからこそ、意味深にそう答えるアスナ。
最初の大声と威勢は何処へ行ったのだろうか?そう思えるほどに……彼女の声の大きさが変わっていた。
「ぅぅ……ん? あれ……? ひょっとして、お姉ちゃんも……?」
今度はレイナがそう聞いていた。アスナの態度から想う所があったようだ。
「ち……ちがっ……。(……う事もない……)」
アスナは、最後までは言えずに口ごもってしまっていた。
「あのー……そろそろいいか?」
キリトとリュウキが2人の間へ入る。
「……説明したいんだが」
アスナとレイナにそう言うと。
「わ……わかった」
「うん……ヨロシク」
2人とも、僅かに頬を赤くさせながらも、大人しくなっていた。
その後は パーティプレイでの基本的な事、無事にチュートリアルを終了できた。
……2人は何だかんだと言って本当に打ち解けているようにも見える。だって、ちょっとした仕草を見ただけで、仲が良さそうに見えるからだ。今の今まで、仲違いしていたなんて思えないほどに、
キリトはそう感じていた。
「ふむ」
リュウキもどうやらキリトと同意見のようだった。そして、もう1つ考えていた事がある。さっきの2人の会話について、だ。
「……会話から察するに……キリト、お前も貸してあげてたのか? 風呂を」
リュウキはキリトにそう聞いていた。
「ッッ!!! あ……ああ//」
突然の事に、慌てて、キリトは返事をしていた。何処と無く表情が赤い。
「ん?? オレ、何か慌てるような事を言ったか?」
リュウキは何故焦るように言っているのか解って無いようだ。なぜ、キリトが赤くなるのか、その事実がどういう意味を持つのかを。
「……オレは、お前がうらやましいよ」
キリトは、そうポツリと呟いていた。
「??」
リュウキは当然教えてくれない為、最後までわかってなかった。だが、わかったのは1つだけあった。
そう、本当に2人は非常に似ている状況で、非常に似ているプレイヤーとパーティを組んだと言う事だ。
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