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管理局の問題児

作者:くま吉
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第8話 魔法少女でも恋がしたい!



 フェイトとの話を終わらせたリクは、なのはを探して機動6課隊舎内を移動していた。
 リク達剣の民は、魔力感知が非常に優れている。その為、なのはの居場所も即座に割り出した。
 もちろん義魂丸を使い、死神化した時のほうが遥に感度はよくなるのだが。
 しばらくして、リクはなのはを見つけた。
 なのはは、機動6課訓練場にいた。

「こんな所にいたのか」

 リクはなのはに声をかける。
 最初どんな言葉を投げ掛ければいいか迷ったが、結局いい言葉が見つからなかったので、無難なのをチョイスしたのだ。

「リッく―――リクくん…」

「別にリッくんで良いけど」

 なのはがこんな所でも真面目さを出す事に、少しだけ可笑しくなったリクは、苦笑しながらそう言った。
 それと同時に、「リッくん」と呼んでくれなかった事に少しだけ寂しさを感じた。

「で、でも…」

「ユーノさ…ユーノの事なら気にしてない」

「いやそこはユーノさんって呼ぼうよ!なんで言い直しが呼び捨てなの!?」

「素直に敬えないからな」

「なんで?」

「…―――」

 そこでリクは言葉に詰まる。
 思わず素直な気持ちを言葉に出してしまいそうになり、慌てて呑み込む。基本的にリクは自分の内心を隠す。素直な感情を表に出す事が自分の弱さを曝け出すようで嫌だからだ。
 けれど、今回は違った。

「……嫉妬してるから」

「え?」

 別にこの「え?」は、なのはがリクの言葉を聞き取れなかったからではない。単にリクが言った言葉が以外すぎた結果の驚きの「え?」である。
 けれどリクはこれを聞こえなかったと判断。すでに気持ちが乗っているリクはベラベラと自分の感情を曝け出していく。

「なのはと仲の良いユーノに嫉妬してるんだよ。小さい頃から一緒で、あんたが魔導師になるきっかけをくれた人で、出会って少ししか経ってない俺にだってわかる。あんたにとってユーノって奴がとても大切な人なんだって事が。だから、そんなユーノに嫉妬してるんだよ」

「―――――――――」

 なのはは驚きに顔を染めてリクの言葉に聞き入っていた。
 そんななのはを見て、リクは恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
 今の言葉はほぼ告白に近い。リク自身何故こんな言葉を言ったのか、という感情が胸中を駆け巡る。
 だが、リクは感じていた。

 ―――自分は確実になのはに惹かれている、と。



 当のなのはは、リクを言葉の意味を頭で考え、理解した瞬間、その顔を一気に真っ赤に染め、その場で俯く。

(リ、リッくん…可愛いよぉ~)

 そんな事を考えていた。
 それと同時に先程まで感じていたドキドキが再びなのはの胸を埋め尽くす。
 真っ直ぐ見つめるリクの瞳に、最初出会った時に浮かべていた表情とはかけ離れた真剣な表情に、感情を叩きつけた言葉に、なのはの心臓はとんでもない速度で鼓動する。

(な、なんなこんな…わたし、…心臓っ、止まらない―――)

 そしてなのはは気付く。
 先程までなのははユーノに対する申し訳なさと、フェイト喧嘩した事をずっと考えていた。
 けれど、今の自分はもうそれらを考えてなどいない。
 ただ、無剣リクが与えてくれたドキドキに身を浸しているだけだ。

(わたし…なんで…)

 なのははユーノと沢山の時間を過ごしていた。お互い時間は限られていたが、沢山の場所に遊びに行った。交わした言葉は数えきれない。
 積み重ねた思い出はなのはにとって、かけがいのない宝物だ。

(なのに…なんで…?)

 なのに。
 ユーノとの思いでよりも、ユーノの言葉よりも、ユーノの告白よりも、無剣リクの30秒にも満たない言葉の方が、なのはの心を揺さぶる。
 その事を自覚し、なのはは戸惑う。

 ―――違う。
 ―――違う。
 ―――私は彼の事を何も知らないではないか。
 ―――そうだ違う。
 ―――これは勘違いだ。

 そう必死に自分の心に言い聞かせても、彼…リクの顔を見ると心臓は感情とは裏腹に心地よい鼓動を奏でる。

 なのは自信、ユーノに告白された時、その時点ではユーノの告白を受け入れるつもりだった。
 時間をくれと言ったのは単に自分の覚悟を固める為のもので、告白を受け入れるか、受け入れないかで悩むつもりはなかったのである。
 ユーノはなのはにとって恩人であり、魔法の師でもある。そんな人からの勇気を振り絞った告白。断る理由などなかった。

 例え自分が彼に恋愛感情を抱いていなくても。

 燃え上がる恋もあれば、静かに流れる川のような恋もある。中学の頃になのはが読んだ少女マンガに書かれていた言葉だ。

 ―――そう、自分の恋愛は後者なのだ。
 ―――自分にはそれが合っているのだ。

 だから受け入れる。
 ただやはり覚悟はいる。
 恋人同士になるという事は、いずれ深く繋がる時がくる。そうなった時、自分は彼を受け入れられるのか。
 なのはその為の覚悟をする時間をユーノに要求した。

 ―――けれど、それは一人の少年によって狂わされる。

 今まで出会ったどの男性も与えてくれなかったこの感情、このドキドキ。

(ああ、そうなんだ…)

 なのはは諦める。
 もう既に、自分ではこの感情を抑える事も、コントロールする事も出来そうにない。彼の顔を見るだけで心臓が信じられないレベルで高鳴るのだ。こんなの、どうする事も出来ない。
 だから諦める。そして認めざるを得ない。

(わたし…)

 ―――リッくんに…恋してるんだ。



 そんななのはを先程からずっと見つめていたリクは思う。

(さっきから凄い速度で表情が変わっていくな)

 ひどくどうでもいい事である。
 まあ、リク自身自分の感情に対する戸惑いはあった。
 今まで沢山の女性と付き合ってきたが、ここまで自分の感情が揺さぶられた事はなかった。しかも出会ってから1日しか経っていないにもかかわらず。

(これはフェイトの事をとやかく言う資格はないな…)

 そう自嘲しても、抱いた気持ちが消える事はない。
 そしてリクが抱くもう一つの戸惑い。

 それはユーノの事だった。

 今までのリクならば、相手に彼氏、もしくはそれに近い存在がいた場合、身を引く事を常としてきた。それは単に面倒事が嫌いであり、関係をこじらせ誰かを不幸にするなら素直に身を引こうというある種の自己満足や、自己陶酔だ。

 けれど、今回は違う。

 ―――譲りたくない。
 ―――譲れない。
 ―――譲らない。

 なのはに対する独占欲がリクの心を埋め尽くす。
 理由は分かっている。最初から分かっていた。
 リクは、先程から黙り込んでいるなのはを見て、向こうが何かを言うのを待とうとしたが、止める。
 今のリクに、ユーノとなのはの思いでに勝てるものは何一つない。ならばどうするか。言葉を紡ぐ他ないではないか。

「なのは」

 その呼びかけに、なのははリクの方を向く。
 そして目が合うと同時に、なのははカアアァと顔を真っ赤に染める。
 それに対して一瞬「何でだ?」と思わなくもないが、今はそんな事を考えている暇はない。
 だから言う。
 自分の想いを。

「……座って話さないか?」

 その瞬間、リクは自分を殴りたくなった。







 訓練場の近くにあるベンチ。
 二人はそこに座っていた。

「―――ってことで、あいつら、明日の訓練から外してやってくれ」

 現在リクは、当初の目的であるレイとアキの訓練不参加の事を伝えていた。
 今、この状況で伝える必要は一切ないのだが、今伝えなければ恐らく余計伝えにくくなると思い、結果、言う事にしたのだ。

「…うん。わかった」

 当然なのはは目に見えて落ち込む。
 今まで教導官として沢山の生徒を持ってきたなのは。当然不真面目な生徒、出来の悪い生徒もいた。
けれどレイやアキのような生徒は初めてだった。
そもそも一対一の戦闘において、なのはがあの二人に勝つ事は難しい。もちろんなのはの全てが劣っている訳では無い。遠距離戦闘ならなのはの方が圧倒的に上だし、攻撃の威力だけを見てもなのはの方がずっと上だ。
 が、総合的な戦闘力では結局劣ってしまう。
 その事を悔しく思う。そして、教導官として、二人の生徒を諦めてしまう事がなによりも惨めだった。

「―――俺は凄いと思うぞ。お前のこと」

「…え」

「俺が力を隠してた理由は主に目立ちたくないからだったんだが、それ以外にもう一つ、前線に出続ければ仲間を守れるってのもあったんだよ。少なくとも、半年前までは本気でそれが正しいと信じてた」

 しかし、リクが救った仲間が別の部隊での任務中に死亡した知らせを聞いたリクは、思った。

「俺のやってる事はただの自己満足で、結局誰一人救えてやしないし、守れていない。その場は救えても、助けられても、結果的に死んでしまう」

 そう思ってしまったのが半年前だった。
 そしてリクは、結局死ぬなら助けても無意味だ。じゃあ与えられた仕事だけ淡々とこなしていけばいい。後は面白おかしく生きてれば万事問題ない。

「今思えばバカな事を考えてたんだって思う。そんな事を考えながら数ヶ月生活してたとき、―――俺はお前に出会った」

 その言葉はなのはの心を困惑させるのに十分すぎる威力を持っていた。
 今リクは言ったのだ。昔、自分となのはは出会った事があると。

「そ、それって―――」

「お前が俺を覚えてなくても当たり前だ。その時お前は短期の教導に来ていて、俺は力を隠してミッド式の魔導師の振りをしていたんだからな」

 それを聞いて納得する。
 なのはは短期の教導や、一日だけの臨時教導など、様々な仕事をしている。当然教える生徒の数も膨大なものになる。
 極力教えた生徒の名前は覚えるようにしているが、当然の如く限界はある。
 それに今のリクと、その当時教えていたリクではイメージが違い過ぎる。覚えていなくても無理はない。

「その時にお前を見て、俺は心底凄いって思ったよ。今まで俺は、自分の力で誰かを守る事だけを考えていた。守るって事は自分の手で守るってことで、それが絶対だとどこかで思ってた」

 そしてリクはなのはを見つめる。
 そのまっすぐな瞳に、なのはの心臓は否応なしに高鳴るが、今ばかりは必至に押さえつける。

「けど、お前の教導を見てて唐突に思った。ああ、こいつは、守りたい奴を強くする事で守ってるんだなって。よくある表現でいえば、ハンマーで頭を殴られた感じだった。そんな風に誰かを守れるなんて思いもしなかったからな」

(いま思えば、あの時から―――)

 そう思いそうになって、考えるのを止める。
 惹かれ始めた時など、考えるだけ無駄だと思ったからだ。

「あの時からなのはは俺のちょっとした憧れ、みたいなもんだった。だからさ―――」

「ふ、ふふふ、あははは」

「ってまてコラ。なに笑ってんだ」

「だ、だって…あ、あまりにも一生懸命だから、お、可笑しくって…」

「ぐ…、悪かったな。ヘタクソな慰めかたで」

 なのはは首を横に振る。

「ううん。嬉しかったよ。…い、今までそんな事言われた事なかったから…」

「そうか。それは光栄だな」

「ホントに思ってる?」

 ジト目で見るなのは。
 既に先程までの悲しげな顔はない。

「当たり前だ。なんであれなのはの初めてになれるのは嬉しいからな」

 と、またもや、後で思い出し悶絶必至のセリフを吐く。しかし現在リクは至って真面目にこのセリフを言っている。

「あうぅ…またそうやって不意打ちを…」

 なのはもなのはで顔を真っ赤にする。
 恋愛経験のない少女にとって、少女マンガに出てくるイケメンが言うような言葉を言われるのは素直に嬉しいのである。
 そして先程までの真面目空気は吹く跳び、ラブイチャ的な空気が二人を包み込む。

「わ、わたしねっ!」

 突然なのはが大きな声を出す。

「わたし、ちゃんとするから。ちゃんと色々きちんとして…。そしたらね、リッくんに言いたい事があるんだ。そ、それまで…」

 ―――待ってくれますか?

 言い切った後、なのははギュッと目を瞑る。
 今のなのはが言える精一杯の想いが詰まった言葉。それを聞いたリクは胸が詰まる。

(世の真面目な恋愛をしている奴等はこんなモノを感じているのか?なら俺としては心臓が五つは必要なんだが)

 リクは思う。
 今の自分の顔は、今までの人生の中でも最大級に無様な顔をしているだろう、と。
 けれど不思議と嫌な感じはしない。
 だからリク自身、言う言葉は決まっていた。


「待ってるよ。―――ずっとな」

 
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