管理局の問題児
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7話 管理局の教導官と執務官が修羅場すぎる
「で?あんたら二人は何しとったんや?怒らへんから正直に言うてみ?」
「え、えっとはやてちゃん?既にマジ切れしてるように見えるのはわたしの勘違いかな?」
「ううん。なんも間違っとらんで?」
現在リクとなのはは、正座をしてはやての前にいる。ちなみになのははキチンと服を着ている。
フェイトは、少し離れた所で鎮痛な面持ちで椅子に座っている。
そんなフェイトの姿に、リクとなのはの良心がガンガン削られていく。
「で?二人はクローゼットで乳繰り合っとんたんか?」
「ち、ちがうよ!ちょっとした手違いがあって…」
はやての言葉に、反論するが、結果として言い訳出来る筈もないので、言葉は徐々に尻すぼみになっていく。
「手違いやて?どないな手違いがあ―――」
「…ねえ」
その時、フェイトの無機質な声が部屋中に響き渡る。
小さめの声だったにもかかわらず、それは綺麗に、まっすぐにリク、なのは、はやての耳に届いた。
「あの時、私が言った事、聞いてたよね?二人とも」
あの時。それが何を指すのか、二人は瞬時に理解する。
それはフェイトがはやてに言った「リクの事が好き」発言の事だ。
「ち、ちがうのフェイトちゃん!わたしはリクくんとは何も―――」
「何も?裸でクローゼットの中に一緒に入ってたのに何もなかったっていうのなのは?」
「それは不可抗力で、…それに一緒にクローゼットに中にいたけどホントに何もしてないよ!」
「…じゃあ、なのはが言おうとした『もしかしたら』の続きは何?」
「そ、それは…」
まさか聞かれているとは思ってなかったなのはは、フェイトの質問に視線を逸らし、言葉も濁る。
そしてそれがフェイトに確信を抱かせる。
「言えないって事はなのはもリクの事が好きなんじゃないの?」
「っ…!!フェ、フェイトちゃんは…なんでリクくんの事が好きなの?」
フェイトの質問になのはが出した答えは、話をはぐらかす事だった。
しかし、今この部屋に漂う異様な雰囲気がその事に対する指摘を許さない。
なのはから言われたフェイトは、その瞳に僅かながらの動揺を浮かべ、その後には頬をほんのりと赤く染める。
「わ、私は、今日の訓練で話して、か、カッコいいなって…思って…」
そんなフェイトを見たリクは、内心でこれ以上ないくらい驚いていた。
(…今日の訓練で話しただけで惚れるか普通)
リクと同じ事を、なのはも思ったのか。
「ねえ、フェイトちゃん。それってリクくんの事がホントに好きなの?わたしにはとても好きだとは思えないよ」
「そ、そんな事ないよ!私はちゃんとリクの事が好き!その気持ちに嘘なんてない!」
フェイトの語気が強まる。
自分の気持ちを否定されたのだ。誰であっても怒るのは当たり前だ。しかし、そこには何処か必死さが浮かんでいる。
「じゃあなんで今言葉に詰まったの?」
「そ、それは!…なのはが私の気持ちを否定するから…」
「別に私はフェイトちゃんの気持ちを否定してるんじゃないよ。ただ…」
なのはは言うか言わないか迷っているみたいだ。
けれど結局言う事にしたのか、少しだけ鋭い眼でフェイトの事を見る。
「フェイトちゃんは恋に恋してるだけなんじゃないの?恋っていう感情を味わいたいが為に、無理矢理リクくんを好きだと思ってるようにしか見えないよ」
「そ、そんな事ないっ!!…それに、今の言い方だと自分は違うって言ってるみたいだよ、なのは。自分はちゃんとリクを好きだって、言ってるみたいだ」
「フェイトちゃん。わたしはちゃんとリ―――」
が、フェイトはその先を言わせない。
元来の負けず嫌いの性格が、なのはにこれ以上言わせる事が、自らの敗北に繋がるとフェイトは直感的に理解した。
だから投げ込んだ。
決して言わないでおこうと思っていた言葉を。
「なのはにはユーノがいる!!!」
その言葉はなのはを止まらせるには十分な威力を持っていた。
二の句が継げなくなっているなのはに、フェイトは更に言葉を放つ。
「なのはにはユーノがいるんじゃないの?ユーノの事が好きなんじゃないの?」
「っ…!ユ、ユーノ君は…関係ない、よ」
「関係ないなんて事ないよ。だってなのは、ユーノに告白されたでしょ?」
「な、なんで知って…」
「ユーノから相談されたの。なのはに告白したって」
フェイトとユーノは九歳の時からの友達だ。
そしてフェイトとなのはは親友同士。ならばユーノがフェイトに、なのはの事について相談を持ちかけてもなんら不思議はない。
それをはやてはともかく、リクのいる前で言うとは、リク自身思ってはいなかったが。
本来ならフェイトはそんな事をするような人間でない事は出会って一日も経っていないリクですら分かる。
つまりそれほどフェイトは追い詰められているという事だ。
「そ、それは―――」
「ユーノに答えを出す前にリクに告白するのは、ユーノに対する裏切りだよ」
ついになのはは黙り込む。
普通の関係なら…普通の出会い方をして、普通に仲良くなっていった関係だったなら、そんな事はなかっただろう。告白されて、その返事をするまでは誰にも告白したり、告白を受け入れたりしてはいけないなんてことはないのだから。
しかし、ユーノに関してだけは違うのだろうと、リクは冷静に思う。
なのはにとってユーノは、魔導師という生き方を与えてくれた人だ。守れる力を、誰かを救える力を与えてくれた人なのだ。
そんなユーノからの告白。
なのはとユーノの関係は単純な男女の絆を超えているだろう。それは仲間であり、家族に近い。
そこまでの仲になれば、告白をするのは容易ではない。
けれどユーノは勇気を出して告白した。
今の関係を壊す可能性があるにも係わらずだ。
そんなユーノの勇気を、想いを無視する事は確かにユーノに対する裏切りなのかもしれない。
「―――っ!!」
泣きそうな顔をしたと同時に、なのははその場から駆け出した。そして部屋を出て行く。
「なのはちゃんっ!?」
今まで静観…というより、見ているしか出来なかったはやては、なのはを追いかけようと、走り出す。
はやては部屋の入口まで走り、そこで立ち止まった。そしてリクの方へ振り向く。
そこには。
「いっぺん話あわんといかんなぁ」
ただ、そう言って部屋を出て行った。
残ったのはフェイトとリクだけだ。重苦しい沈黙が室内を支配する。
(な、なんでこんな事になっている…)
リクは現在の面倒すぎる事態に頭を抱えたくなった。
もとはと言えば下心を抱いたままこの部屋に来、さらに半ば本気でなのはを口説きにかかったリクが悪いのだが、フェイトが自分に惚れている事など予想すら出来なかったので、リクは自分は悪くないと言い聞かせる。
(そうだ、俺は悪く…って俺が悪いのか…)
結局リクが悪かった。
だからリクは動く。
現状をなんとか解決する為に。
「フェイト隊長」
「…………………………」
しかしフェイトは答えない。
少しだけ待ってみるものの、フェイトが反応する素振りはみせない。
「フェイト隊長?」
リクが二度読んだとき、フェイトは今にも泣きそうな…いや、ほとんど涙声で話し始めた。
「どうしよう…。なのはに…なのはに酷い事言っちゃった…」
「まあ、確かにキツイ事言ってましたね」
無駄なフォローなどする気もないリクは、思っている事を素直に告げる。
が、現在非常にメンタルが脆弱になっているフェイトには、リクの言葉はグサリと胸に突き刺さる。
「うわーん!どうしよー!!」
管理局を代表する執務官はどこへやら、フェイトは情けない声で泣きはじめる。まるで子供の号泣そのものに、先程までの緊張感はあっという間に霧散していく。
正直リクは、今のフェイトは面倒このうえない。
しかし、この状況の一旦はリクにもあるので、放置というわけにもいかないのである。
「フェイト隊長。そんなに気落ちしなくても高町隊長なら誤れば許してくれるかと」
「そ、そうかな?」
「そうですよ」
「そっか。なら明日謝ってこよう」
リクは思わず戦慄する程のポジティブ思考である。
(なんか色々とチョロいなこの人)
そんな事を内心で思う。
ふとそこでリクは重要な事を思い出した。それはフェイトが言っていた、「リクの事が好き」発言である。
リク自身あれがフェイトの本心だとは思っていない。だから確かめる必要があるのだ。
「フェイト隊長。俺の事が好きって、本当ですか?」
その言葉に、どうやってなのはに謝るか考えていたフェイトはピタリと動きを止める。そしてみるみるうちにその顔を赤で染めていく。
顔を十分に真っ赤にして、数秒止まった後、こくり、とフェイトは頷いた。
その事にリクは戸惑いを抱かずにはいられない。
なのはに関しては口説いた自覚はあるが、フェイトに関してはどうして惚れられているのか全く分からない。
「正直、なんでフェイト隊長が俺に好意を抱いているのか分からないのですが…」
「そ、それは…」
この先は、言うべきか悩んだリクだったが、結局言う事にした。
「高町隊長が言った通り、恋に恋しているだけなんじゃ…」
恋に恋している。
言葉にすると非常に恥ずかしいセリフではあるが、リクはフェイトの眼を見て、そう言った。
「……わからない」
ポツリと、フェイトはそう漏らす。
「リクの事をカッコイイって思ってるのは嘘じゃない。それに他の男の人と違う感情を抱いてるのも本当だよ。だけど…」
―――それが恋なのかは分からない。
言葉には出なかったが、リクはフェイトが何を言いたいのか分かった。
フェイトがリクに惹かれ始めているのは本当だろう。しかしそれはまだ恋という感情まで発展はしていない。
(…クラスのちょっと気になる男子的なアレか?)
フェイトの複雑な感情を簡単に片づけるリク。
リク自身、現在フェイトに、恋愛的な感情は持ち合わせていない。出会って一日しか経っていないので別段不思議な事ではない。
だからと言ってフェイトがおかしいわけでもない。
フェイトがおかしければ世の中の合コンなどは異常者の集会になってしまう。
それにリク自身、ある感情をこの段階で自覚していた。
「フェイト隊長。俺は、た―――」
リクはフェイトに自分の感情を言おうとした。
フェイトがまだ自分の事を好きになっていないからといって問題の先延ばしにするのは単なる逃げでしかない。
が。
「な、なら友達になろうよ」
リクが言い切る前にフェイトは言葉を放つ。
そこには何処か必死さが滲み出ている。
「友達…ですか?」
「うん。私ね、最初はリクの友達から始めようと思って…。ダ、ダメ…かな?」
瞳を潤ませ、今にも泣きそうな不安げな表情をするフェイト。
そのあまりにも保護欲を駆り立てる姿にリクは瞬時に「いいっスよ」と言いそうになるが、それを寸での所で抑え―――。
「やっぱり…だめ…?」
「いいっスよ」
美人の涙にあっけなく屈するリクだった。
そしてこの日、無剣リクとフェイト=T=ハラオウンは部下と上司だけでなく、友達、という関係になったのであった。
「あ、じゃあこれから二人の時はフェイトって呼んで?」
「………いいっスよ」
続く。
「そろそろ終わって欲しいんだが…」
ページ上へ戻る