ドン=カルロ
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第三幕その六
第三幕その六
「ましてや陛下に対してこのようなことを。すぐに裁きを下されるべきかと」
「下がれ」
王は彼等に対して言った。
「カルロよ、もう一度言おう」
彼は我が子に対して言った。
「ならん。その者達をすぐに下がらせるがいい」
「父上っ!」
「これは王としての命令だ。聞き入れよ」
彼はあえて低く、響き渡る声でそう言った。
「いえ、それは出来ません」
カルロはそれに対して首を横に振って言った。
「私は今こそ言いましょう。私にフランドルをお与え下さい、そしてその地に平穏をもたらしたいのです!」
「そなたは自分の言っていることがわかっておるのか!?」
彼はその言葉を聞き眉を少し歪めた。
「はい、私はその地で真の王となります」
「・・・・・・愚か者が」
王はそれを聞き腹の底から振り絞るように言った。
「そのようなことが出来ると思っているのか。そなたはハプスブルグを、このスペインのことを何も知らぬのか!」
彼は席を立った。そして激昂した声で息子を叱りつけるようにして言った。
「知っております!」
「知っていてそのようなことが言えるのか!」
「当然です!」
二人のその様子を見てロドリーゴとエリザベッタは顔を蒼くさせた。
(まずい)
二人は咄嗟にそう思った。カルロは次第に我を忘れだしていた。
「父上!」
彼は叫んだ。
「どうしてもフランドルの者達にお慈悲をお与えにならないのですか!」
「神に逆らう者には出来ぬと言っておろう!」
カルロはこの言葉の真意を理解できていなかった。そしてあまりにも興奮し過ぎていた。
「哀れなフランドルの者達よ!」
彼は後ろに、そして火刑台にいるフランドルの者達の方を振り向いた。
「私はこの身をかけて君達を救おう!」
そう言うと腰の剣を抜いた。帯剣はこの場では王以外は彼だけが許されていたのだ。
「な!」
それを見て皆驚愕した。彼は王と正対しているのである。
そして今言った言葉。王を殺そうとしていると思われても仕方がなかった。
「馬鹿者が!」
王は息子の思いもよらぬ行動に対しても我を忘れなかった。そして彼を一喝した。
「王の前で剣を抜くということが何を意味するのかわかっておるのか!」
「私は誓いました、この命にかえてもフランドルの者達を救うと!」
彼はまだ我を忘れていた。
「最早容赦出来ぬ、衛兵よ、この愚か者を取り押さえよ!」
王の命令が広場全体に響き渡る。だが兵士達は動けなかった。
「どうした、何をしておる!」
王の雷の様な言葉が再び響く。しかし誰も動けなかった。
相手は王太子、次の国王である。そのような人物に危害を及ぼすことは出来なかったのだ。
「そうか、誰も動かぬか」
王はそれを見て言った。
「ならばよい」
そう言うと腰から剣をゆっくりと引き抜いた。
「わしがこの愚か者を取り押さえよう」
惨劇が起こりかねなかった。王もカルロも引かない。互いに睨み合っている。皆その出来事に驚き動くことが出来なかった。そのまま父と子の惨劇が起ころうとしていた。その時だった。
「お待ち下さい!」
それはロドリーゴだった。彼は王とカルロの間に入ってきた。
「侯爵!」
一同は彼の行動にさらに驚いた。
「殿下」
彼はカルロに身体を向けた。そして言った。
「気をお鎮め下さい」
「ああ・・・・・・」
カルロはそこでようやく我に返った。彼の言葉でハッと気付いたのだ。
「そして剣をこちらへ」
「うん・・・・・・」
そして言われるまま剣を差し出した。ロドリーゴはそれを受け取ると王に差し出した。
「どうぞ」
一礼してそれを差し出す。王は無言で受け取った。
「何と鮮やかな・・・・・・」
「流石だ」
彼の評判は元々高かった。だがそれを見て皆さらに感服した。
「侯爵、よくやった」
剣を受け取った王は彼に対して言った。
「今の功績によりそなたを公爵に任じよう」
「有り難き幸せ」
ロドリーゴは頭を垂れた。カルロは衛兵達に取り囲まれた。
「連れて行け。頭を冷やさせるがいい」
「ハッ」
衛兵達は王の言葉に従いカルロを連れて行く。カルロは周囲を衛兵達に取り囲まれそのまま連行される。
「・・・・・・・・・」
彼は完全に魂が抜けていた。呆然と歩いている。
(殿下・・・・・・)
ロドリーゴは暫し彼を見ていたが視線を外した。そして火刑台を見た。
フランドルの指導者達はそこに縛られた。そして今薪に火が入れられようとしている。
(私の全てを賭ける時が来たな)
彼は何かを決意した。そして席に戻った。
火が点けられた。フランドルの者達の苦悶の声が聞こえてきた。それは炎と共に広場を覆い何時までも残っていた。
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