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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic4魔導円舞~Reverse:The ToweR~

 
前書き
Reverse:The Tower/塔の逆位置/動揺があるだろう。全く予期していなかったわけじゃないが、多少の混乱は回避できない。

 

 
†††Sideはやて†††

「んぁ?・・・なんや・・・久しぶりに良い夢見れ・・っっっ!!??」

「すぅ・・すぅ・・すぅ・・・」

心臓が止まるかと思った。目を開けると、視界いっぱいにルシル君の寝顔が入ったから。

(えっ? なんで? なんでルシル君が一緒に寝とるの!?)

心臓がバクバクで、顔がすっごく熱くなる。どうしてこうなってるのか必死に頭を動かす。混乱の中でも目が行くんはルシル君の寝顔で、めっちゃ可愛ええ。まつ毛も長くて、唇も・・・。いやいやそうやなくて。えっと、昨夜はルシル君が出かけて、テレビを見て帰りを待ってようとして・・・。そこで思い出す。自分でベッドに入った記憶がない。とゆうことは、ルシル君がわたしを運んでくれたゆうことや。頭を上げてルシル君の背後を見てみる。やっぱり車椅子が無いわぁ・・・。

(でもどうしてそのまま一緒に寝る事に・・・あ!)

今さらやけど気付いた。わたし、ルシル君の手を握ってた。ポスッと枕に頭を降ろして、ルシル君の手を握ってた自分の手を見る。

(夢見が良かったんは、もしかしてルシル君が一緒に寝てくれたからなんかな・・・?)

車椅子も無いし、ルシル君が起きるんを待つしかないな。それまではルシル君の寝顔を見させてもらおうっと♪

「って、ルシル君にもわたしの寝顔見られたってことやんか!!」

冷め始めた顔がまた一気に熱くなった。男の子に寝顔を見られた。今までに感じたことがない程に恥ずかしい! ルシル君から顔を逸らすために寝返りを打って背中を向ける。と、すぐに「しまった。寝てしまったか」ってルシル君が跳ね起きた。今の大声で起こしてしもうたみたいや。けど、なんて言うか今はまだまともに顔を見られへんから、寝息を立てるフリをする。

「・・・ニワトリとの戦いが疲れたからか・・・?」

(ニワトリと戦ったんか!? え、あれ? 魔法の道具か何かを探すためやんな? それでどうなってニワトリと戦うことになるん!? どんな状況やったんかめっちゃ気になる!)

ベッドから降りたルシル君が「はやてが起きる前に退散しないとな」足音を殺して、わたしの部屋を出てった。扉が完全に閉まったことを確認して、「なんでニワトリ?」やっぱりそれが気になるわ。顔を上げようとしたところにガチャっと扉がゆっくり開くのに気付いて、すぐにまた寝たフリする。車椅子のタイヤが回る音が聞こえてきた。タイヤの音はベッドの傍で止まって、車椅子を運んできてくれたルシル君はまた音もなく部屋を出てった。

「ふぅ。ごめんな、ルシル君。もうちょい休ませてな」

恥ずかしさが完全に治まるまで朝寝坊することにした。

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

妙にソワソワしていたはやてとの朝食を終え、食器類の片付けや洗濯干しに風呂・トイレ掃除も一段落。ちなみに洗濯物は別々に洗い、干す場所も別々。まだ8歳とは言えはやてが女の子であることに変わりない。
分けるべきものは分ける。洗濯物を一緒に洗うことに関してははやては別に気しないと言っていたが、はやて自身は気付いてなかったようだが、明らかに恥じらいを見せていた。干す場所に関しては、はやては自室から出られる庭に。私は2階の一室から出られるベランダに。風呂とトイレ掃除は基本的に私が担当。当番制にして車椅子生活のはやてにもやらせるのは気が引けた。

「あ、あのなルシル君。その・・・」

ソファに座って朝のワイドショーを見ながらのお茶休みをしているところに、自分の部屋から出て来たはやてがチラチラ時計を見ながら声を掛けてきた。時刻とはやての膝の上に在る物を確認して「もうそんな時間か」と休憩を切り上げる。午前10時。その時間から昼までの2時間。私とはやてはある事を行う。はやてに誘われるように私は彼女の部屋へ入り、デスクのところまでついて行く。

「休んどったのにごめんな、ルシル君。でも、わたし――」

「あはは。いいよ。勉強熱心(・・・・)なのは良いことだ」

そう。はやてに勉強を教える授業をやっている。学校に通っていないはやては、図書館で本を借りたり、書店で教材を購入したりして独学で勉強している。独学でありながら小学3年で習う全教科の理解力と習得率は平均以上だ。
よほど身に付く勉強法を知っているのだと思えば、人一倍頑張っているだけ。本当に強い子だと思い知らされる。だから出来る事はやってあげたいと思えるんだ。まず私ははやての理数系能力を上げるつもりでいる。この世界のはやてもきっと魔導師になるだろう。

(魔法とは、自然摂理や物理法則をプログラム化し、それを任意の書き換え、書き加えたり消去したりすることで作用に変える技法だな・・・)

魔法について改めて確認してみる。魔導師の魔力を使用し、変化・移動・幻惑、いずれかの作用を起こす。これらの作用を術者が望む効果が得られるように調節し、また組み合わせた内容こそが、現代の魔法の形であるプログラムというやつだ。
そのため魔法=プログラムの構築や制御には当然数学や物理の素養が必然となる。なのはは算数や理科などの理数は得意だし、フェイトに至っては数学をある程度マスターしていた。呑み込みが早いこの頃からはやてに理数系を率先して学んでもらう。文系は軽く、成績が中の上に入るところまでで今のところは良いだろう。

「むぅ・・・ルシル君。ここんところ、ちょう教えてもらってもええか?」

「ああ。どれだ?」

明らかに小学3年で学ぶレベルじゃないのに、はやては文句1つとして、それどころか嬉々として学んでくれる。算数の後は、生物学・地学的分野を除いた物理学分野特化の理科の授業といきたいが、詰め込みすぎるのはかえって逆効果。だから次は文系だ。はやてのリクエストで、英語も含めた国語を教えることになった。
今日は英語。黒板代わりの空間モニターを使ったりして、簡単な単語学習や英文和訳・作成をさせる。まぁ、英語を教え始めたのは一昨日からなため、正解率はお世辞にも良いとは言えない。だがそんな失敗をはやては糧とし、さらに意欲を高める。教えがいがあるというものだ。

「じゃあ昼食を作って来るから、その問題を解いていてくれ」

「はーい、せんせ~♪」

はやてにいくつかの和訳問題を出して、昼食を作るためにキッチンへと向かう。サクサクッと作れるオムライスでも作るか。材料を冷蔵庫からだし、12時までに終わるように調理開始。調理の最中、はやての部屋から「オムライスや~!」なんていう嬉しそうな声が聞こえてきた。
副食としてツナと刻みキャベツのサラダを作り終え、時間を確認するとちょうど正午。はやての部屋へと戻り「はい。今日はこれまで。お疲れ様だ、はやて」デスクに突っ伏したはやての頭を撫でながら労いの言葉を掛ける。

「はぅ~。ありがとう、ルシル君~」

ふにゃっと破顔するはやて。それから一緒に昼食を摂り、洗濯物が乾くまでのんびりソファに腰掛けて待つ。はやては図書館で借りた文庫を。私は目を閉じて意識を外に集中。ジュエルシードの覚醒状態を把握しておく。
今日、なのはが魔法を得る日・・のはず。すでに31個というイレギュラーが発生している以上はもはや確実じゃないが。とりあえずは様子を見に行ってみるか。なのはがちゃんと魔導師になるかどうかを。

(覚醒間近のジュエルシードは・・・2つか)

1つは、本来ならユーノが手に入れているはずの1つ目。先の次元世界では、ユーノが墜とされたのは2つ目のジュエルシード回収時。その前に1つは回収しているはずなんだ。だが、そんな気配はなかった。その回収されなかった1つ目が目覚めようとしている。もう1つは海鳴市商店街付近から。追加された10個の内の1つに違いない。徐々に私の知る歴史とはズレていっている。これが私にとって吉となるかどうかが重要だ。

「ルシル君。今晩も、その・・・行くん・・・?」

「・・・ああ。放っておくのは危険だから」

それに、ジュエルシードは“堕天使エグリゴリ”と戦うために必要な魔力源だからだ。はやては目に見えてしゅんと小さくなったが、こればかりはどうしようもない。私は「ごめんな」と謝りながらソファから立ち上がる。と、「どこ行くん?」とはやてに訊かれ、

「洗濯物の乾き具合を見てくる。今日はいい天気だからな、もうそろそろ乾いていてもおかしくない」

「あ、うん。そうか・・・」

「手伝おうか?」

微妙に重い空気を払拭したいがためにからかい交じりにそう言うと、「ううん、ううん!」はやては頬を赤く染めてブンブン首を横に振る。私に下着を見られないために別々に干しているのに、手伝うとなれば確実に見られる。それを想像しての赤面だろう。そんなはやての様子に笑いながらリビングを後にする。
2階のベランダに干してある洗濯物はすでに乾いていたから取り込んで、畳んだ後に1階の客室――私の部屋のクローゼットにしまう。リビングに戻って来ると、はやての部屋からゴソゴソと音が。はやても洗濯物を取り込んで片付けているようだ。

「はやて」

「んー?」

「今日の買い物は私ひとりで行くから、はやては留守番していてくれ」

「えっ!? な、なんでなん!?」

はやてがものすごい剣幕で自室から出て来た。いつも利用している店は、海鳴市商店街に在る。買い物ついでにジュエルシードの封印を行おうと決めた。はやてを護りきる自信はあるが、可能なら巻き込みたくはない。だからはやてには留守番してもらおうという事を告げたんだが、

「それやったら大丈夫やな。ルシル君が護てくれるんやから」

意地でも譲らないって顔をしてるはやてにそう返された。ああ、その顔はもう説得をしてもダメだと諦めるに足るものだ。どうしてこう、私の身近な女性は頑固者が多いのだろうか。

「・・・・判った。一緒に行こう・・・」

そういうわけで、はやてを連れてジュエルシード封印へと向かうことになった。気を付けるべきは、はやてにジュエルシードを見せないことか。はやての何気ない証言から私がジュエルシード強奪を行った容疑者として管理局に気付かれる可能性があるからな。

†††Sideルシリオン⇒はやて†††

ルシル君に無理言うて、魔法使いとしてのルシル君を観たいためについて来た。バスに乗って海鳴市商店街に到着。ルシル君に車椅子を押してもらいながら、ルシル君の様子をひそかに伺い続ける。

「・・・あそこからだな」

「え?・・・アノ花屋さんか?」

ルシル君の目を追っていくと、そこには小さいながらも花屋さんが在った。あそこにルシル君が求める、魔法の道具が在るんやな。でも、こんな人だかりの中でどうやって取るんやろ? 昨日はニワトリと戦ったみたいやし。朝の時もそうやったけど、ホンマに気になる。と、ルシル君が「人目に付かないところに向かう」って言うて、路地裏に連れて行かれる。

「はやて。これから回収に向かう。本当に良いんだな?」

今までに見せたこともないキッとした顔のルシル君はちょう恐かったけど、わたしは「一緒に行く」頷き返した。ジッとルシル君の目を見詰める。するとルシル君は小さく溜息を吐いた後、薄手のパーカのポケットから青い指環を取り出した。

「1つだけ約束してくれ。私の言うことは絶対に聴くこと」

「了解や!」

ルシル君が指輪をはめて、「封時結界」って呟いた。ルシル君から何や突風が起こって、つい目を閉じてしまう。次に目を開けると、「あれ・・・?」目に映る世界にはものすごい違和感が。ルシル君の後について路地裏から出たら、すぐにそれがなんなのか気付いた。

「人が・・1人も居らへん・・・」

「結界と呼ばれる魔法を使ったんだ。他の人や建物に迷惑が掛からないように」

魔法ってそんなすごいことも出来るんやなぁ。感心しとると「エヴェストルム。騎士甲冑を」ルシル君の体が銀色の光に包まれた。光が治まると、えっと・・・「どちらさま?」って訊きたくなるほどに変な格好をしたルシル君が居った。

「わざとだと思うけど、ルシリオンな。コレは、魔法を使って戦う時に着る、専用の服と言ったところか。怪しいからと言って通報しないようにな」

「そ、そうなんや。重要な物なんやね~」

仮面がちょう怖いかも。目を出す穴とか空気穴が無いし、真っ黒やし。見えてるんやろか? ルシル君の顔の前にまで手を伸ばしてみて、ヒラヒラ振ってみると、ルシル君に手を掴まれた。

「ちゃんと見えてるよ」

「みたいやね」

「とりあえずは、はやてにはコレを着てもらおうか。我が手に携えしは確かなる幻想」

ルシル君は、どこからともなく出したフード付きのコートをわたしに差し出した。言うことは絶対に聴く。そやから何も言わずに袖に腕を通して、フードを被った。ルシル君が花屋さんに向かうのを、わたしも車椅子を操作してついて行く。やっぱり押してもらえへんのやね。うん、これはしゃあないよな・・・ホンマに。

「ルシル君・・・?」

「まずいな。願いが叶った後か・・・」

「願いが叶った? えっと、何を見て・・・・よ、妖精さん?」

花屋さんの中を見ると、店内には手の平サイズの小さな女の子が1人?浮いとった。全体的にピンク色な肌と髪と服。バラを逆さにしたようなスカートが、動くたびにヒラヒラ揺れる。ルシル君と一緒に妖精さん?をジーっと眺めとると、「あ」妖精さん?と目が合ってしもうた。そんでわたし達に両手の翳してきた。なんや花の香りが漂ってきた。ええ香りやな。

(うん?・・・眠くなってきた・・・?)

「まずい、一時撤退!」

「おわっ!?」

ルシル君に車椅子を突然押されて、花屋さんからどんどん離れてく。どうして急に? 花屋さんの方に振り返ってすぐ、「おお!?」入口からものすごい勢いで花弁の波が溢れ出てきた。

(もしかしてルシル君はこうなることが判って逃げたんやろか・・・?)

ある程度花屋さんから離れてから停止。花屋さん前の道には花弁の絨毯が出来とった。

「あの妖精さん?が、ルシル君の探してた物か?」

「まぁ、あながち間違いじゃないが・・・。出て来たな」

花屋さんから妖精さん?がヒラヒラ飛んで出て来た。そんでもって両腕を振り始めた。よう見ると、手の平からキラキラと粉のようなものが出てる。その粉が触れた場所から、「花咲かじいさんみたいやな~」色んな種類の花が咲き乱れた。
妖精さん?は空を飛び回って、街中を花だらけにするんやないかってくらいに花を咲かせてく。雨のように花弁が舞い降ってくる中。「悪質な害じゃないようだが」ルシル君が妖精さん?に向かって歩いてく。

「どうするん?」

「もちろん・・・」

――咲き乱れし(コード)汝の散火(マルキダエル)――

ルシル君が前に向けて左腕を伸ばすと手の平から大きな火の玉が生まれて、妖精さん?に向かって飛んで行った。火の玉は途中で幾つもの小さな火の玉に分裂して、ドォン!って爆発して花を燃やし尽くしてく。あまりにことに呆けてしまったけど、「何してんのルシル君!?」ルシル君の暴挙を止めるために怒鳴る。

「決まってるじゃないか。あれを止めるんだ」

「でも、それやからってこんな酷い・・・」

「酷い、か。そうかもしれないな。けどな、はやて。こうしないと世界がダメになる。結界内だからこそ騒ぎが起こってないが、これが現実で起こったら・・・どう思う?」

想像する必要もあらへん。大騒ぎや。それが判るからこそわたしは「ごめんな」謝る。魔法のこととかなんも知らへんわたしが、ルシル君のやることに口を挟むんは間違いやもんな。ルシル君は火の玉で咲き乱れる花々を燃やしていくんやけど、それ以上に妖精さん?が花を咲かせてく方が早い。その所為で火もあっという間に鎮火。

「・・・って、こっち来たよルシル君!」

目に見えて怒ってる妖精さん?がわたしらのところに向かって飛んできた。わたしを護ってくれるかのようにルシル君が前に立って、「お前の願い、悪いが潰させてもらう」って謝った後、魔法陣・・っていうヤツやろか? 銀色に光り輝く魔法陣がルシル君の足元に出来た。妖精さん?はそれにビックリしたみたいで、突進を止めて急上昇。さらに空でスケート選手みたいにクルクル回って、キラキラ粉を振り撒き始める。

「火がダメなら・・・」

――吹雪け(コード)汝の凍波(バルビエル)――

ルシル君の足元にまた魔法陣が出来たらと思うたら、わたしらの周りから宝石みたいな氷の柱がいくつも突き出してきた。その氷の柱から冷たい空気が漂い始めて、キラキラ粉や周囲の花々を凍らせてく。さらに「ジャッジメント」ってルシル君が指を鳴らすと、氷の柱が全部一瞬で砕けて、わたしらを中心にして吹雪の竜巻になった。

「凍らせるだけだ」

吹雪が止んで真っ先に口から出た言葉は「やり過ぎちゃう?」やった。ルシル君は「結界内だから問題なし」って言うて、氷像になって落ちて来た妖精さん?を受け止めた。辺りを見回すと花どころか街一面が凍ってる。息を吐くと白くなるんやけど、不思議なことに寒くはない。たぶんこのコートのおかげやろね。すごくぬくぬくやし♪

「・・・よし。用事は終わったから、買い物と行こうか。はやて」

「え? もうええの? 妖精さんは・・・?」

わたしに背を向けてたルシル君が振り返ったんやけど、抱えてたはずの妖精さん?はもうどこにも居らんかった。

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

ジュエルシードの影響で花屋の花が起こした、今回の騒ぎ。はやてに見られないようにして妖精の姿を取っていた薔薇からジュエルシードを取り出し、“神々の宝庫ブレイザブリク”に取り込むことに成功。結界を解除しようとした矢先、「なに・・・!?」結界内に侵入してきた何か――いや、明らかに魔導師だな。

(まさかなのはか・・・?)

なのはが魔導師になるのは今夜のはずだが、この世界では早いのかもしれないな。と、そう思ったが、魔導師の反応が2つ。なのはとユーノのコンビかと僅かに考えたが、感じ取れる魔力からして別人が2人。魔力量はそれほど高くないようだが、気になることが1つある。

「(ジュエルシードを持っている・・!?)はやて。ここから動かないでくれ。いいな?」

「え? あ、うん・・・判った」

有無を言わせないように低い声を出し、頷いたはやての頭をフード越しに撫でてから空へと上がる。向かうは侵入者の元。はやてのところから1kmほど離れたところで、「魔導師発見!」2人の少女の声がダブって聞こえた。飛行を停止し周囲の気配を探った瞬間、

――バインドブレット――

真下から30基ほどの魔力弾が飛来してきた。魔力光はクリーム色。知り合いにこの色を持つ者は居ない。私や“エグリゴリ”ではない、この世界に元から居る私が知らないだけのイレギュラーかもしれないな。魔力弾を回避しつつ術者の姿を捉えようと目を凝らす。が、魔力弾は誘導操作の効果を有していて、回避しても追尾してくるため、なかなか捉えることが出来ない。仕方ない。純粋魔力ならイドゥンで吸収できるはずだ。消費した魔力を今ここで回復させよう。

――女神の救済(コード・イドゥン)――

吸収時に他の魔力弾を受けないよう気を付けながら、一番近かった魔力弾に触れた瞬間、「しまった!」右手首にリングバインドが掛けられてしまった。この隙を逃すような間抜けな魔導師じゃないようだ。着弾時にバインドと化す魔力弾を一斉に私へと殺到させてきた。

「抜け出せない・・・!」

結果、左右前腕・上腕、左右脛・太腿、腰、胸、首と、馬鹿みたいにリングバインドに掛かってしまった。バインド破壊をしようにも結構複雑な魔法式(プログラム)が組まれていて、かなり時間が掛かりそうだ。

「ジュエルシードちょうだい」

またあの声がしたと思えば、2人の少女が私の目線のところにまで上昇して来た。歳は今の私やはやてより少し上と言ったところか。ミルクティブラウンの髪は、片方は肩までのセミロング、もう片方は腰まであるロング。瞳は共に桃色。間違いなく双子だ。仲が良いのか指を絡める形で手を繋いでいる。中でも一番気になるのが、

(あのバリアジャケットは・・・ユーノと同じ・・・?)

色はなのはのバリアジャケットみたいだが、デザインはユーノの物と似通いすぎている。違いと言えば色、そしてハーフパンツではなく膝丈のスカートであることくらいだ。

ジュエルシード(ソレ)はユーノが探してる物なの」

「だから大人しく返して。そうすれば許してあげるから」

とりあえず「ユーノ? あなた達は誰?」と、声を少女の物にしてから訊ねる。まずはこの子たちの正体を知りたい。馬鹿正直に答えてくれるとは思えなかったが、

「冥土の土産に教えてあげる。私、セレネ・スクライア!」

「冥土なんて言ってるけど別に殺す気ない、エオス・スクライアだよ」

やはりスクライアか。ロングの方がセレネで、セミロングの方がエオスだな。しかしそれにしても、よく冥土の土産なんて言葉を知っているな。多少この国のことを勉強して来たのか? リンディ艦長もそうだったし。まぁ、かなり偏ったり間違った知識だったが。特にお茶が・・・。

「あなた達スクライア姉妹が、そのユーノっていうのに頼まれて来たの?」

「ううん。内緒で来たんだよ~。ユーノの知らぬ間に私たちが回収して・・・」

「行き詰ったユーノにジュエルシードを渡して、私たちのことをもっと尊敬させるんだっ♪」

なんだ、そのふざけた理由は。つまりなんだ・・・この子たちは「そのユーノって子が好きなんだね」と言ってやる。ユーノはジュエルシードを発掘した責任感から地球にまでやって来た。が、この子たちはそんなユーノにもっと尊敬――好きになってもらいたいってことでやって来た、と。

「「ぶふっ!? な、ななななな! ちがっ、そうじゃなくて! ただ私たちは!」」

顔を真っ赤にして動揺しまくるスクライア姉妹。どうやら図星だったようだ。わたわた忙しなく手を振る2人だが、それでも繋いでいる手を放そうとしない。何か理由があるのかと思えば、繋いでいる手を私へと向けた。

≪Gate open≫

そんな機械音声が握られている手の中から発声されると同時、前面に展開されるミッド魔法陣。なるほど。あの子たちが繋いでいる手の中にデバイスがあるから手が離せないのか。おそらく2人でデバイスを同時使用し魔法を発動させる、2人で1人の魔導師なんだ。

「「ベ、べべ別にユーノのことなんて、す、すすすす好きなわけじゃないんだからっ!!」」

≪Buster Rush.ver,EOS≫

などと言いながら、バスターラッシュ・バージョン・エオスという名前らしい火炎砲撃をぶっ放してきた。だが遅すぎたな。全てのバインドを破壊し、射線上より離脱する。

「「えっ!?」」

「ここまで長々と話をしていれば、バインド破壊くらい簡単だよ! ペラペラ喋ってくれてありがとう! セレネ、エオス!」

「「ああ! 謀ったな仮面女!!」」

――フローズンブレット――

「わぁーっはっはっはっはっ!」

放たれて来る魔力弾連射を回避しつつ挑発するように大声で笑い飛ばす。すると2人は「ムキィーーッ!」イラつき始め、狙いも雑になり始め、誘導操作も利かなくなってきた。これなら真正面からでも攻められる。飛行軌道を姉妹の真正面へと移したところで、

――輝き流れる閃星(サピタル)――

下級閃光系攻性術式、魔力弾サピタルを3基放つ。2つは真正面へ。下手に操作せずに直線軌道で飛ばしたために2人の魔力弾で迎撃された。もう1つは操作して、足元から2人の背後へと。しかし2人は気付かないし気付けない。何せ私が真正面から突っ込んで来ているのだから、そんな余裕はない。

「こんの・・・!」

――フレイムブレット――

魔力弾から火炎弾に変わった。2人とも変換資質の持ち主なんだろう。それらを紙一重で避けながら前進を続け、「来た来た来た来ちゃった!」と焦り出す2人が間近になったところで90度に直角上昇。

「「へ?・・・あっ!?」」

短い悲鳴を上げるセレネとエオス。サピタルが繋いでいた手に直撃したことで、無理やり手を解かれたことによるものだ。私を見上げたことでさらに隙が生まれ、後ろから迫って来ていたサピタルに最後まで気付けなかった。
落下していく小さな宝石。“レイジングハート”の待機モードのようなものだが、色は赤ではなく紫だ。あれがデバイスか。2人は「待って!」と急降下して、落ち続けるデバイスに手を伸ばす。だが、届かない。あのスピードはまずいな。あのスピードだと止まるのに苦労するぞ。

「1つ貸しだぞ」

――フローター――

彼女たちとデバイスに対象を浮遊させる魔法、フローターを掛ける。デバイスをキャッチして、さっきまでと同じように手を繋いだ2人が私を見上げて来た。困惑一色の顔色だ。そしてヒソヒソと耳打ちで話し始めた。お礼でも言ってもらえるのかと思えば、また私に繋いでいる手を向けて来た。

――バスターラッシュ・バージョン・セレネ――

放たれたのは冷気の砲撃。礼ではなくて攻撃とは恐れ入った。そうか。判った。徹底抗戦と言うのであれば、こちらももう容赦はしない。砲撃を回避して、半分本音な「恩知らずだね、あなた達は!」と言いながら急降下。

「別に助けてもらわなくてもなんとかなったもんっ!」

「でも本当にありがとう、仮面ちゃん! けど・・・こっちも必死なんだよ!」

――フレイムブレット――

火炎弾の弾幕。少ない魔力でよくもまあこれだけのことが出来るものだ。おそらくデバイスの性能が良いんだろうな。だからと言って「こちらも必死なんだ!」後れを取るつもりはない。火炎弾を防御魔力で固めた両拳で弾き飛ばしながら、接近を試みる。

「ジュエルシードを回収して、その後はどうなるの? どうせ調査の果てに封印でしょう!」

弾幕を張るのを止めて私から離れようとするセレネとエオスに語りかける。

「ロストロギアの大半は危ない物なんだよ!」

「封印、安全に保管されるのは当たり前じゃん!」

2人を追いかけ始めると、エオスが言い、そしてセレネも言い放った。

――フローズンブレット――

「だけど私には必要なんだ! ジュエルシードで・・・1人の人間を助けるために!」

「「え・・・?」」

私はもう“界律の守護神テスタメント”から解放されたいんだ。独善的だと蔑まれてもかまわない。

「だから渡してもらうよ、あなた達の持っているジュエルシードを!!」

私の言葉に一瞬だが呆けた2人へと言い放つ。左手を頭上に掲げ、人間の頭部大の魔力球を1基作り出す。

「力づくでも、だ」

――来たりて爆ぜよ天威轟雷(リクシスレール)――

掲げていた腕を振り降ろすと同時に魔力球、下級雷撃系攻性術式のリクシスレールを投げ捨てる。2人は回避を選んだが、行動に移るのが遅い。ゆっくり飛来してきたことで油断したな。パチンと指を鳴らす。それを合図としてリクシスレールが破裂すると幾つもの小型魔力弾となり、2人を包囲するかのように拡散する。

「「え・・・!?」」

さらに小型魔力弾数基が炸裂。全方位から魔力を含んだ雷撃効果の衝撃波がセレネとエオスを襲撃。銀色の閃光に包まれた2人の気配を探る。すると2人は閃光の真下から力なく落下し始めた。やり過ぎたか?と思えば、落下の最中でも繋いでいた手を私へ向け、

「「お返しだよッ!」」

≪Buster Rush.ver,SELENE≫

冷気の砲撃を放った。こうなれば力の差を徹底的に見せつけるしかないな。迫り来る砲撃を真正面に捉え、「恨まないでくれな」前面にミッド魔法陣を展開。

――燃え焼け(コード)汝の火拳(セラティエル)――

そして放つのは火炎砲撃セラティエル。魔力にしても威力にしても上回っているセラティエルはバスターラッシュを相殺どころか完全に呑み込み、

「「きゃあああああああああ・・・!」」

セレネとエオスに直撃した。2人の悲鳴が爆発音で掻き消される。爆炎と黒煙の花が空に咲く。2人の魔力量からして防御の上からでも必倒の一撃だったセラティエルだ。確実に撃墜できただろう。先程と同じように2人が爆炎の真下から黒煙を引いて落下し始め、ビルの屋上にドサッと墜落。私もその屋上へと降り立ち、「さあ、ジュエルシードを渡して」倒れ伏し、苦痛に呻いている2人の言う。

≪Transporter!!≫

デバイスから、ある魔法の術式名が発せられた。トランスポーター。転移魔法のことだ。倒れ伏しているセレネとエオスの下にミッド魔法陣が展開された。止めようと思えば止めることが出来るが、これ以上魔力を消費するのも辛いものがあるし、「結界解除」と結界を解く。これで何も問題なく転移が出来るだろう。転移を終えて姿を消した2人にはもうジュエルシード回収など止めるように祈ったところで・・・「っ!」はたと気付く。

「あ、しまった! はやて!!」

いきなり結界を解除したことで混乱しているかもしれないはやて。血の気が一瞬で引いた。騎士甲冑を解除し、急いではやてを待たせている場所(どうしよう、結構離れているな)へ全力ダッシュで向かった。で、全力で向かったが25分と掛かり、はやてと合流した私は・・・

「なんか言うことあるか? ルシル君」

「ごめんなさい。許してください」

誠心誠意はやてに頭を下げ続ける事になった。放置した罪はやはり重かったわけだ。許してもらう条件として、どこかに遊びに行くことを約束させられた。

「――でな。やっぱり遠出とかしてみたいなぁ、なんて思うてるんやけどな」

「ああ。弁当を作って遠出をしよう」

以前にもした約束を新たにして、ご機嫌なはやてと一緒にスーパーへ向かう。そんな中で考えることじゃないが、どうしても気になるのはセレネとエオスの存在だ。ジュエルシード争奪戦の勢力図がとんでもないことになるぞ、これは。
フェイトとアルフ組が可哀そうに思える。あの子たちにとってセレネとエオスは敵で、なのは達にとっては味方だ。唯一気になるところは、ユーノには内緒だということ。ま、どちらにしてもなのは組にジュエルシードが集まることには変わりないか。



 
 

 
後書き
ヒューヴェーフォメンタ。ヒューヴェーパィヴェ。ヒューヴェーイルテ。
どうも。ANSURシリーズ作者のLast testament EXです。
実に今さらですが、携帯電話ユーザーの読者様方(居ればですが)に謝罪をしなければなりません。
前作及び今作を携帯電話にて表示すると、文字化けが酷いことになってしまうことに気付きました。
特定の記号やドイツ語にギリシア語、シュメール語が文字化けしています。
申し訳ありませんが、今のところは直す予定はありません。本当に申し訳ありません。
 
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