魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epic5魔法少女リリカルなのは、始まりますっ~The FooL~
前書き
The Fool/愚者の正位置/すべてはこれから始まる/自分の気持ちに素直になろう/信じるなら、貫け。
今作もデバイスの台詞を日本語表記とします。術式名などの一部は英語やドイツ語になりますが。
†††Sideなのは†††
えっと、みなさん、おはようございます。私、高町なのはっていいます。小学3年生の女の子です。ちょっぴり運動が苦手な、平凡な小学生・・・でした。うん、昨日までは・・・。どこにでも居る平凡な小学生だった私はなんと・・・魔法少女をはじめました。
事の始まりは、昨日の学校帰り。塾に向かう途中に傷だらけのフェレット――ユーノ・スクライア君を見つけたことから。友達のアリサちゃんやすずかちゃんと相談してそのユーノ君を動物病院に預けて、そのままお別れしたんだけど。
けどその夜に、一昨日から頭の中に直接聞こえていた男の子がまたして、その声に導かれるままに動物病院へ辿り着くと、真っ黒でモコモコしたお化けにユーノ君が襲われる場面に立ち会っちゃった。それだけでも十分驚いたのに、ユーノ君はさらに人の言葉を話した。頭の中に聞こえていたあの声で。
ユーノ君が言うには、ある探し物の為に別の世界から来て、その上・・・
――探し物を見つけるために手伝ってほしいんです。僕の力を、魔法の力を使って――
作り話とかでしか聴いたことがない魔法。本当に在れば素敵だな~とは思ってたけど、実際にそう言われると疑っちゃう。けど、魔法は本当に在った
――我、指名を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て。風は空に、星は天に。そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を――
(レイジングハート・・・)
首から下げた赤い宝石、“レイジングハート”を手の平に乗せて、眺める。魔法の力で変身して、モコモコお化けをなんとか封印することが出来たんだ。
(私、本当に魔法使いになっちゃったんだなぁ~)
送迎バスの窓から空を眺めて、昨夜、そして今朝、ユーノ君に教えてもらったことを思い返す。ジュエルシード。願いを叶えることが出来る魔法の石。聴いていてすごいなぁって思ったけど、実は結構危ない物みたい。すごい力だからこそ不安定で、昨夜みたいに暴走しちゃうっていう。
ユーノ君はそうならないように1人で集めようとしてたみたい。それも全部ユーノ君の強い責任感から。ジュエルシードを発掘したのはユーノ君とお友達。けどジュエルシードを運んでいた船に何か不運があったみたいで、その所為でジュエルシードがたまたまこの世界に落ちた、という話だった。
『なのは。今いい?』
『ユーノ君? うん、いいよ』
頭の中に聞こえてきたユーノ君の声。コレも魔法の1つ。心でお話が出来るっていう便利な魔法で、念話っていう名前。私がユーノ君に導かれた時もこの魔法によるものだった。
『さっきは言いそびれたけど、あと1週間、ううん、5日でいい、なのはの家に置いてほしいんだ。魔力が回復するまでで。あ、でも迷惑なら――本当に今さらだけど、迷惑ならすぐにでも出て行――』
『待ってユーノ君! そんな追い出すようなことはしないから!・・・ねえ、ユーノ君。治ったら出て行くって言うけど、それからどうするの?』
『・・・うん。ジュエルシードを探し続けるよ。たとえ1人でもやらなくちゃ。そうだ。お礼のことなんだけど、この世界での通貨は持ってないから、えっと、どうしようかな・・・』
やっぱり。私はそんなユーノ君に『お礼、私からリクエストして良い?』って訪ねてみる。もちろん拒否権はないからね。するとユーノ君は『僕に出来ることなら何でも』って言ってくれて。言質は取ったよ。そんなユーノ君に私からのお礼のリクエストを告げようとしたところで、
『じゃあ・・・へ? え?・・・にゃぁぁぁあああああああああああああッ!!?』
『うわぁっ!?・・・あ、頭がキーンって・・・! なのはっ、ど、どうしたの!?』
バスの窓から、見たら呪われちゃうかも的なものを見ちゃった気がして、バッと屈んで窓から頭を隠しながら念話の方で叫んじゃった。声に出してたらきっと注目を浴びちゃうところだったけど、あまりの光景に声は出なかった。ユーノ君からの『なのはっ! 一体何があったの!?』って心配してくれる声に応じようとしたら、
「「「きゃあああああああ!!」」」「「「うわぁぁあああああ!!!」」」
ドガン!と何かがバスにぶつかった衝撃が、私や他の生徒、運転手を襲った。耳をつんざく激しいブレーキの音。そんな中で私は椅子の手摺にしがみ付いて転げ落ちないようにしてる。バスが停まったことで全身の力を抜けた。まさか自分が乗ってるバスが事故を起こすなんて・・・。
――封牢結界――
「っ!? この感じ・・・!」
初めてユーノ君と会った時に感じた違和感。バスの中を見ると、私以外には誰も居なかった。すぐに『ユーノ君! 何か魔法使った!?』って念話を使ってみるけど、返事はなくて。
「『ユーノ君!? ユーノ君!』どうしよう・・・」
あまりの状況に混乱する。とにかくバスの外に出よう。入口の扉は潰れてるから、割れた窓から「んしょ」っと脱出。そしてバスがどうなっているのか見ることが出来た。何かに衝突されたように大きくへこんでる側面。
そして「やっぱり見間違いじゃなかったんだ・・・!」バスの前方からものすごい勢いで走って来た屋根の無い車・・・スポーツカーっていうのかな?がすれ違って行った。屋根だけじゃなくて、運転しているはずの人も居なかった。私が叫んだ理由がそれ。幽霊とかお化けがちょっと苦手な私にとって、ああいう心霊現象的なものは怖くて気が引けちゃう。
「きっとあれもジュエルシードの影響・・・だよね・・・?」
昨夜遭ったモコモコお化けに似た感じが、あの車からも感じることが出来る。ユーノ君が居ないけど、「何とかしないと」このまま黙って見ていることも出来ないし。“レイジングハート”を手に取って、「あの車を停めるために力を貸して、レイジングハート」そうお願いする。
≪もちろんです。マイマスター≫
えっと、変身するときの呪文は・・・って、さっきまで憶えていたのにど忘れしちゃった! 頭を抱える。「えっとえっと・・・、あっ、風は空に? 星は天に?」途中の部分しか思い出せないよ~(泣)。落ち込んでいると、
≪問題ありません。バリアジャケット展開します≫
変身の呪文も唱えてないのに“レイジングハート”が変身させてくれた。
「ありがとう。ごめんね、呪文忘れちゃって・・・」
≪いいえ、お気になさらず≫
なんとか変身も出来て、えっと、次は・・・。
≪警告。強力な魔力反応が接近中≫
“レイジングハート”がそう教えてくれた。さっきの無人の車かと思えば、魔法使い歴24時間にも満たない私でも判るくらいに別の「何か来る・・・!」強い力を感じてゾクッてなった。無意識に空を見上げる。車が走って行った方に向かって飛んで行く銀色の光。
「あれは・・・」
≪魔導師です。おそらくこの結界を展開した魔法使いでしょう≫
「ユーノ君の他に魔法使いが居るってこと・・・!?」
ユーノ君にこのことを訊いてみたいけど、変わらずに念話が繋がってくれない。
≪念話及び通信が妨害されています。この結界の有する効果の1つだと思います≫
「そんな・・・」
やっぱりジュエルシードを探しているんだよね。だったら私とユーノ君にとって・・・敵、なのかな・・? 判らないけど、今やれることをしないと。車と魔法使いさんが向かった場所へ走り出す。すごい速さで走り回る車と、空を飛ぶ魔法使いさん。そして懸命に足を使って走る私。なんだろ、何か切ない。
≪飛行魔法を使いますか?≫
「えっ!? 私も飛べるの!?」
≪相応に難度の魔法ですが、マスターならばきっと≫
こんな時なんだけど、テンションが上がる。空を飛ぶ。それはやっぱり憧れだから。早速“レイジングハート”に空を飛べる魔法をお願いしてみる。
≪Flier Fin≫
靴の外側に桜色に輝く魔力の小さな羽が生えると、何かこう体が軽くなったような感じがした。トントンとステップを踏んで、いざ飛び立とうと膝を曲げてグッと地面を蹴った瞬間、フワッと浮遊感が私を襲った。地面から体が浮いて「わぁ、本当に飛べた♪」私は本当に空を飛べることが出来たんだと感動しちゃう。
嬉しくて歓声を上げてると「わわっ」ちょっとバランスを崩しちゃった。でもすぐに整える。けどまた崩れる。空を飛ぶのって結構難しいかも。少しずつ空を飛ぶ感覚を掴んでいって、ようやく体勢が崩れるのを抑えることが出来た。
≪お見事です≫
「ありがとうレイジングハート!」
空を飛び始めて1分もしないところで、「居た!」車と魔法使いさんが追いかけっこしてた。先を走る無人の車。それを追いかける魔法使いさん。全身が真っ黒な服で、フード付きのマント。特に不気味に思えるのが、黒光りする仮面。視界を確保する穴や、息をするための鼻や口の穴も無い。だけど「子供・・・!?」その魔法使いさんは、たぶん私くらいの子供だった。
――輝き流れる閃星――
魔法使いさんが銀色に光り輝く何かを車に幾つか放った。“レイジングハート”が言うには、アレは魔力を弾丸状にして撃つ射撃魔法っていうもので、基本的な攻撃の魔法みたい。けど車は右に左に避けて、魔力弾をかわし続ける。そんな中で魔法使いさんは車に近づいて、運転席に乗り込もうとした。でも車はすごいブレーキ音を出しながらスピードを落として、それを避けた。
「危ない!!」
車の前に居る魔法使いさん。あの状態だと車に轢かれる! 最悪の予想が目の前で起きた。ドン!ってすごい音が、魔法使いさんにぶつかったことで生まれた。車はそのまま走り去っていって、魔法使いさんは宙で錐揉みして、なのに「うそ・・・」態勢を整えて車を追いかけ始めた。呆けていた私も急いで追いかけ始めて、「あの子、大丈夫なのかな・・・?」魔法使いさんの体を心配する。
≪衝突時、体を回転させて車体に乗り転がるようにすることで衝撃を完全に殺しています≫
「えっと、つまり・・・すごい音の割には何ともないってこと・・・?」
≪そうなります。咄嗟の判断で実際に行動に移すあの反応力。恐ろしい限りです≫
そんなにすごいことなんだ。“レイジングハート”から魔法使いさんと車に視線を戻す。さっきと同じように魔力弾を撃ちながら車に乗り込もうとする。もしかして乗り込まないと止められない、のかな・・・?
「レイジングハート。あの車を停めたいんだ。私に出来ることある?」
今は魔法使いさんのお手伝いをしてでもジュエルシードの車を停めたい。でも私の魔法使いとしての力だと出来ることは少ない。その少ないやれることを知りたいから訊いてみた。
≪マスターは、おそらく放出系の魔法資質であると思われます。あの魔導師のような射撃魔法、そして砲撃魔法を得意とするかもしれません≫
「砲撃・・・?」
――煌き示せ、汝の閃輝――
“レイジングハート”に≪魔導師が撃ったアレがそうです≫って言われて、魔法使いさんから放たれた銀色の光の柱を見る。ビリビリ肌に感じる魔法の力。でも走る車は砲撃っていう魔法も、ドリフトって言うのかな?で避けた。
けど、砲撃が地面に当たった衝撃に煽られてスピードが落ちたその一瞬、魔法使いさんはついに車の運転席に乗り込んだ。ブレーキの音が響き渡る。車は最初ブレーキに逆らうように走っていたけど、でも少しずつスピードが落ちていって、最後はちゃんと停まった。
「終わった・・のかな・・・?」
停まった車と魔法使いさんのところにまで飛ぶ。魔法使いさんが車のボンネットからジュエルシードを取り出したのが見えて、「あのっ!」魔法使いさんに声を掛ける。黒光りする仮面が私の方に向いてちょっとビクッと体を引いたけど、
「なに?」
(女の子の声だ・・・)
魔法使いさんの綺麗なその声で、さっきまで抱いていた不気味感が薄らいだ。だから「ソレ、ジュエルシード・・・どうするの?」お話を続けることが出来た。
「もちろん使うんだけど。それが?」
「でも、ジュエルシードの持ち主に返さないとダメなんじゃ・・・」
「持ち主? どうして? 私が頑張って手に入れたんだから、コレはもう私の物でしょ」
魔法使いさんはそう言って、私に背を向けて去ろうとした。だけど「待って!」このまま行かせるわけにはいかないから呼び止める。無視されちゃうんじゃないかって思ったけど、「まだ何かある?」って振り返ってくれた。
「ジュエルシードは、ユーノ君って子が発掘したの。だから今の持ち主はユーノ君で、ユーノ君は頑張ってジュエルシードを集めてて、私はそのお手伝いをしようと――っ?」
そこまで言ったところで、魔法使いさんが私に向かって歩いて来た。だから途中だけど口を噤んじゃって、“レイジングハート”を持つ手に力が入る。
「そう。でもね、私にはどうしても必要なんだ、ジュエルシードが。人ひとりの人生を救うためにはどうしても。だから悪いけど、ジュエルシードは貰ってく」
「にゃっ?」
すれ違う時にいきなり頭を撫でられてビックリしたけど、撫でるのがすごく上手で気持ち良い。ほわほわ気分になって眠く・・・「じゃなくて!」魔法使いさんの手を振り払うように振り向いたら「っ!」私の顔を手の平で覆い隠されてビックリ。
「ユーノという子に伝えて。ジュエルシードは人助けの為に貰っていく。あなたのようにただ封印・保管するだけの、有効活用しない子には譲れない、って」
「・・・・あ、あの!」
「結界解除するから、あなたも早く元の姿に戻った方が良い。その姿で公衆の前に現れたくないでしょう?」
そう言われて、「レイジングハート!」すぐに学校の制服姿に戻る。その変身を解除した一瞬の隙で、「あ、あれ?・・・あっ!」魔法使いさんは空高くまで飛び上がっていて、すぐに見えなくなっちゃった。
「結界が・・・」
結界が解除されてすぐに『なのは! 大丈夫!? なのは!』ユーノ君からの念話。そしてあちこちから聞こえてくる悲鳴やパトカーに救急車のサイレン。
「やっぱり放っておけないよ・・・」
ジュエルシードが巻き起こした騒動をこの身で改めて体験して、その思いが強くなった。ユーノ君にとりあえず無事であることを告げて、私はお礼のリクエストの話に戻した。
『ユーノ君。さっきの続き。お礼のことなんだけど・・・。ジュエルシードの回収、私にも手伝わせて』
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
はやてとの朝食途中で突発的なジュエルシード覚醒を感じ、はやてに謝りながら急いで全部食べ、ジュエルシード騒ぎに出張ることになった今朝。そこで見たのは、廃車同然にスクラップなユーノスロードスター。ジュエルシードを取り込み、無人で暴走していた。
願いは何なのか判らなかったが、事故車っぽいことから走り足りないとかもっと速く走りたいとか、その辺りのものに違いない。被害が拡がる前にジュエルシード回収に移り、そこで魔導師となっていたなのはと邂逅した。まだド素人だったためほとんどスルーしていたが、最後の最後で絡んできた。
――ジュエルシードは人助けの為に貰っていく――
情に訴えるようなことを言ってみたが、なのはがそれで止まらないことくらい百も承知だ。しかしお人好しはこの世界でも変わらないな。とは言え、冷めたなのはというのは見たくないが。
「ただいま~」
「おかえり~、ルシル君」
自室の方から出て来たはやての膝の上には空になったはやて用の洗濯物籠。洗濯物を干し終えたばかりということか。私も自分の物を干さないとな。とその前に。テレビをつける。チャンネルを変えていると、早速ジュエルシード騒ぎのことが速報として放送されていた。
やはりユーノスロードスターは廃車だったもので、処分工程直前に工場から消えたというもの。運悪くジュエルシードが工場に落ち、車の願いを叶えてしまったんだろう。ニュースでは、誰かに盗まれそのまま暴走させたとか、ドライバーが乗っていなくて心霊現象だとか、と騒いでいた。
「ルシル君。もしかしてこの事故・・・魔法関係・・・?」
「ああ。ついさっきまで現場に居た」
「怖いなぁ・・・。ルシル君。あんま無茶したらアカンよ?」
「判ってるよ。それじゃ私も自分の洗濯物を干してくるよ」
テレビを消す前にチラッと見えた、車に衝突されて停車していた聖祥大付属小学校の送迎バス。なのはの家族がどんな反応をしているか、想像するだけで怖いな。あとアリサとすずかも。
(とりあえずジュエルシードは回収できた。今日はそれで良しとするか)
†††Sideルシリオン⇒なのは†††
『――そう。その魔導師がそんなことを・・・』
『うん。あ、でもだからと言ってジュエルシードを盗っちゃうのはどうかと思う』
学校帰り。お稽古のあるアリサちゃんとすずかちゃんと別れた私は今、真っ黒な魔導師さんのことを、ユーノ君に改めて話してる。ジュエルシードで人を助けたい。もしそれが本当でも、まずはユーノ君とお話しすることからだと思う。
『なのは。やっぱり危ないよ。なのはの話からしてかなり腕のある子みたいだし。ジュエルシードの回収を手伝いたいって言ってくれて、正直嬉しかったし頼もしかった。けどこれ以上は巻き込めないよ。魔導師戦は、ジュエルシードをどうにかするより危ない。今朝だってなのはのご家族の皆さん、なのはのことすごく心配して大変だったんだし』
『・・・それはそうだけど・・・』
今朝はジュエルシードの起こした騒動で大変だった。午前中は念のためっていうことで病院で検査。付き添いは、担任の道俣先生と大学を休んでくれたお兄ちゃん。お父さんも来たがってたってお兄ちゃんは言ってたけど、翠屋のこともあるから諦めさせたって。異常なしと診断された検査後は、自主判断で登校するか休むかどっちか選べるって先生が言ってくれて、私は学校に行くことに決めた。
――なのは。今日くらいは休んだ方が良いんじゃないか? 体は何ともなくても心に何か・・・――
けどお兄ちゃんが反対。お兄ちゃんを説得するのがもう大変だった。心配してくれるのは本当に嬉しかった。でも元気だからこそアリサちゃんやすずかちゃん、クラスのみんなに元気な私を見せて安心させたかった。そういう風な感じでお兄ちゃんの説得に成功して、私は先生の車で登校することが出来た。
『でもユーノ君1人じゃもっと危ないんじゃ・・・?』
『う゛っ。た、確かにそうだけど・・・』
『じゃあ私にも手伝わせて。それにね、もう決めたんだ。今朝のことで強く。ジュエルシードをこれ以上放っておくと、もっと酷いことが起きるかもしれない。それを止めることが出来る力を私が持ってるなら、なおさら手伝いたいって思えるんだ』
『・・・本当にいいの?』
『うん。あ、でも私、魔法使いとしてちゃんとやれるかどうか判らないけど・・・』
あの黒い魔法使いさんを見て、魔法使いとして私がどこまで手伝えるか判らない。あそこまですごくなれってなると、正直無理でしょ、って思えちゃうんだけど。
『ううん。なのははすごいよ。確信がある。なのははきっと誰よりもすごい魔法使い――魔導師になれる』
『だといいな。それじゃあ改めましてだよ、ユーノ君。ジュエルシードの回収、私も手伝いたいです』
『・・・・ありがとう、なのは。本当にありがとう!』
こうして私はジュエルシードの回収を本格的に手伝えることになった。
――困っている人が居て、助けてあげられる力が自分に有るなら、その時は迷っちゃいけない――
お父さんの教えだ。困っているユーノ君が居て、助けることが出来る魔法の力を持つ私。だったらやらないと。
『あ、手伝いたいって言っておきながらなんだけど、学校と塾があるから、その・・・』
『うん、大丈夫、判って――あっ!』
『っ! この感じ・・・ユーノ君!』
ジュエルシードが発動したのをピリッと感じた。『行こう、ユーノ君!』ユーノ君とは途中で合流することにして、ジュエルシードが在る場所に向かって駆け出す。発動場所は、とある神社。合流したユーノ君と石段を一緒に駆け上がって、あと二段昇るだけでいいってところで足を止めた。
「おぉ・・・ビックリ」
「あれは・・・! まずい、原住生物を取り込んでる!」
神社の境内に、それはそれは大きくて黒くて目が4つあって牙がすごい、えっと・・・犬?さんが居て、グルルって唸ってた。呆然と眺めてると、なんか目を付けられちゃったみたい。4つの目が私とユーノ君に向けられた。もしこのままここに居て飛び掛かられちゃったりしたら、最悪階段から転げ落ちちゃう。
「とにかく広い場所に・・・!」
「うわっ? なのは・・・!?」
ユーノ君を抱え上げて階段を昇りきったところで、犬さんが吠えながら大口を開けて飛び掛かって来た。だけどその前に境内を走って飛び掛かりをやり過ごして、ちょっとでも距離を開けるためにもっと走る。
「実体が有る分手強いから、まずは変身を! 呪文、憶えてるよね!?」
「大丈夫! レイジングハート、お願い!」
≪はい、マイマスター!≫
呪文は思い出すことが出来たし、忘れてもないよ。でも、もう大丈夫。呪文をショートカットして変身するとユーノ君が「うそっ!? えっ!?」ってちょっと混乱気味。それだけじゃないよ。授業の合間に、私は2つの魔法のイメージを固めた。けど実際に使えるかどうかはまだ自信ないけど。
(きっとやれる・・・!)
反転して戻って来た犬さんがまた飛び掛かって来た。
≪Flier Fin≫
空に上がる。こう言ったらなんだけど、あの魔法使いの女の子に会うことが出来てよかったって思う。今日一日で、魔法使いとしてほんのちょっとだけでも成長できたんじゃないかなって思えるから。
「呪文無しで変身したことにも驚いたけど、本当に飛行の魔法を使えるようになったんだね・・・」
「レイジングハートのおかげ♪ 本当にありがとう」
≪マスターの想いに応えたままですよ。私としても楽しい時間でした≫
そんな嬉しいことを言われた私はニヤけそうだったけどそれを抑えて、鳥居に昇って私に向かって飛び上がって来た犬さんを避ける。
「ユーノ君!」
「うんっ。えっと、なのはって飛行の他に何かイメージした魔法とかって・・・ある?」
ものすごい速さと高さの飛び掛かり攻撃をしてくる犬さんを避け続けながら、「えっと・・・」コソコソと耳打ちしてみる。すると「本当に!? たった数時間でそんなことまで!?」すごく驚くユーノ君。でもユーノ君。その・・・耳元で叫ばれちゃったから耳がキーンて・・・。
「でもそれなら・・・。あの子のジュエルシードを停止させるには、魔力ダメージで強制停止させるのが良いと思う」
「え、魔力ダメージって何?」
「あとで詳しい説明するよ。でも今はなのはのアノ魔法を!」
とにかくユーノ君の言う通りの魔法を使おう。飛び掛かり攻撃を上昇して避けて、さらに高度を上げる。すると犬さんはさっきみたく鳥居に飛び乗って、飛び上がるために力を後ろ足に籠め始めた。
「レイジングハート! お願い!」
≪All right. Shooting Mode Set up. Divine Buster. Standby, ready≫
足元、それに砲撃を撃つためのモード(レイジングハート談)に変形した“レイジングハート”に取り巻くように4つの魔法陣が現れた。“レイジングハート”の先端に桜色の光が生まれてく。自分の魔法なのに綺麗なんて思えちゃう。
「ごめんね。痛いかもだけど、ちょこっとだけ我慢してね? リリカルマジカル、空を翔け流れよ、無垢なる煌めき。聖なる光の下、浄化せよ!」
雄叫びを上げながら飛び上がって来た犬さんへ“レイジングハート”の先端を向ける。
「ディバイィィィン・・・!」
≪Divine…≫
「バスタァァァーーーーーッッ!!」
≪Busuter≫
私の砲撃魔法、ディバインバスター。魔法使いの女の子が見せてくれた砲撃のままにイメージしてみた。でも“レイジングハート”が言うには砲撃魔法のほとんどが直射型っていうものみたいで、あの子の砲撃も私の砲撃も結局は似たモノ、同じ直射型砲撃になるみたい。
「すご・・・! やっぱりすごいよ、なのは・・・!」
犬さんのお顔に当たったディバインバスターは犬さんを呑み込んで、犬さんごと境内に着弾した。真っ先に思うことは「やり過ぎちゃったよねコレ!?」で、もくもく煙が上がってて犬さんが見えない。急いで、でもちょっと警戒しながら境内に降り立ってみる。
「犬さ~ん。大丈夫かな~?」
やっと晴れてくれた砂煙の中、横たわってる犬さんと宙に浮いてるジュエルシードが見えた。駆け寄って犬さんの体を見る。ユーノ君が「ちょっと気を失ってるみたいだけど、うん、怪我はないよ」って教えてくれて、ホッと安心。
「ジュエルシードの方は・・・うん、休眠状態にされてる」
「えっとぉ、じゃ、じゃあ。レイジングハート。お願いできる?」
≪All right. Sealing Mode≫
“レイジングハート”の形がジュエルシードを取り込むためのモードに変わった。えっと、ジュエルシードのナンバーを確認して「ジュエルシード、シリアル16。封印!」“レイジングハート”の中に取り込んだ。
「ふぅ。なんとか終わったぁ~」
「お疲れ様、なのは。でも・・・出て来なかったな、魔法使いの女の子。一度会って話をして、ちゃんと事情を聴いておきたかったんだけど・・・」
「そう言えばそうだね・・・。私ももう一回お話したいし、お名前も聴いてみたい」
キョロキョロ辺りを見回してみるけど、やっぱりどこにも居ないし来る様子も無い。待ってみようかと思ったんだけど、「そろそろ帰らないとダメかも」携帯電話から流れる着信を知らせるメロディ。ディスプレイに表示されていた名前はお母さん。「もしもし。お母さん・・・?」電話に出る。帰りが遅くてちょっと心配したから電話した、ってお母さんは教えてくれた。
「うん・・うん。大丈夫だよ、お母さん。・・・うん、今から帰るね。うん・・・それじゃ」
通話を切って、ポケットに携帯電話をしまう。私とユーノ君は、気絶したままの犬さんを近くに倒れていた飼い主さん(気絶してた)の近くに寝かせてから、帰路に着いた。
†††Sideなのは⇒????†††
習い事であるバイオリン教室から帰る車の中、あたしは学校での出来事を思い返してる。今朝、先に教室に到着したあたしとすずか。なのはが来るまで、昨夜の動物病院のことについて話していた。どこの馬鹿がやったのか判らないけど塀や病院を壊した奴の所為で、フェレットが逃げたことについて。なのはの家で預かることが出来ることになったってメールを読んで喜んでいたのに。
――酷いことをする奴が居るわね、ホント!――
――あのフェレット、逃げちゃったみたいだけど。無事ならいいね――
ふつふつとわき上がる怒りを抑えているところに、なのはからメールが来た。なのはが乗ってたバスが事故に遭ったって内容だった。あたしはすごく怖くなった。本人から無事を知らせるメールが来たんだけど、それでも最悪な事態が起きていたかもしれないと思うと本当に・・・怖かった。
「よかったね、アリサちゃん。なのはちゃん、傷一つ負ってなくて。それに他の子や運転手さんも無傷だって」
「え、ええ。そうね。でもあれでしょ。無人って話なんでしょ、暴走車」
「うん。しかもまともに走れないくらいにエンジンとかダメだったみたい」
改めてそれを思うと、心霊現象みたいよね。でもきっとそれは違う。たぶんあの子たちが言っていたモノが原因かもしれない。最初は信じられなかったけど、実際に見ると信じるしかない、アノ・・・。
「あと、ユーノ君。すごい偶然だったよね。なのはちゃんが歩いているところでバッタリ会っちゃうなんて」
「う、うん。そうね。ホントに偶然よ」
一瞬別のことを考えていたからつっかえちゃった。すずかも「どうしたの、アリサちゃん?」って怪訝そうにしてるし。
「ベ、別に。でも本当に良かったわ。なのははもちろんユーノも無事で」
話を逸らすためにそう返す。送迎バスに乗っていた生徒は全員念のためってことで午前中は病院で検査。その日は学校を休んでも良いってことになってたみたいだけど、なのはは登校してきた。そしてユーノの事を聞いた。けどあたし達にとってはなのはが無事かどうかが重要なわけで。でもユーノのことも知りたかったことだから素直に喜んだけどね。
「・・・うん。そうだね」
すずかには悪いけど、言えないものは言えない。親友に隠し事はしたくないけど、変に話して巻き込んだりしたくないから。それに、同じような理由でその子たちにも誰かに話さないように口止めもされてる。と言うかそれ以前に、
(なのは、すずか。あたし、双子の魔法使いを拾ったんだけど。なんて言っても信じてもらえるわけがないわよ)
魔法なんてファンタジー。そういうのが好きそうななのはやすずかに話して、その結果、
――やだなぁ、アリサちゃん。さすがに魔法は無いよ~――
――アリサちゃん。疲れてない? ゆっくり休んだ方が良いよ――
頭の心配でもされた日にはあたしはもう立ち直れないわ。想像しただけで心が折れそうだし。結局なのはのこともあってあたしはバイオリン教室では失敗ばかりして、家に帰っては、
「「おお、おかえり、アリサ!」」
「・・・はぁ。ただいま。セレネ、エオス。あと出来ればあんまし大きな声出さないで」
家族や使用人にバレないようにリスとハムスターの姿を取らせてる、自称魔法使いのセレネとエオスの挨拶に、溜息を吐きつつ応じる。あぁ、そうそう。これだけは言っておかないと。大事な話をするつもりだから、2人が音量を小さくして観ているテレビを消す。
「「あああああああっ! 何すんのアリサ!?」」
「あんた達ねぇ、アニメなんか観てないで早くジュエル何とかってのを回収しなさいよ。たぶんジュエル何とかってやつの所為で、あたしの親友が酷い目に遭ったんだからね!!」
さぁ、お説教の時間よ!と意気込んで怒ってみれば、まずセレネが「言ったじゃん。変な仮面女の所為でまだ動けないって」とか言い訳しながらテレビをつけ直した。んで、セレネに比べれば結構まともな妹エオスが「ごめんね。けどホントに魔法使えないんだよ」って謝る。にしてもリスとハムスターがアニメ観て、あたしと喋ってるっていうのが何ともシュールな光景だわ。
「でもさぁ」
「ああもう。だったらこうしようじゃんか。アリサ。私たちと契約して、魔法少女になってよ」
突然セレネが馬鹿なことをのたまったから「・・・はあ!?」本気で呆れた。姉がそんなもんだから「ちょっ、セレネ!?」エオスだってすごく驚いてる。
(魔法少女って、そんな恥ずかしいマネが出来るわけ・・・!)
――魔法少女アリサ♪ ただいま参上! 悪さをする迷惑な子には、バッチリお仕置きよ♪――
「・・・・ぎゃああああああああ!! 死ねる! 恥ずかしさで余裕で死ねる!! 魔法使いなんてものになったら、恥ずかしさであたし確実に死ぬわ!」
魔法使いになったあたしを想像しただけで、「ダメダメダメ!」恥ずかしすぎて死ぬ! 可愛い服は嫌いじゃないけど、それを着て魔法なんちゃらってなると完全にアウト。
「聞き捨てなりませんなぁアリサ! 魔法使いが、魔導師が恥ずかしい!? それは全次元世界の魔導師に対しての暴言! 許すまじ! こんの魔法の使えない、辺境世界の猿がぁぁぁぁああああああ!!」
ハムスターの姿してるセレネが、前足の指1本を立てて首を斬る仕草の挑発行為をしてきて、その上暴言を吐いた。
「カッチーン! 魔法が使えないだけで猿ですって!? 表出ろッ、おらぁぁぁああああッ!」
「お、落ち着いてセレネっ、アリサっ!」
リスの姿のエオスに冷静になるよう言われて、あたしの日常はもう壊れちゃったんだと嫌でも思い知らされる。落ち込みたいけど今はそんな事よりセレネに謝罪させる方が重要だ。
「いいわよ。あたしが今からとっておきの魔法を見せてあげるわッ! その魔法の効果は、セレネ! あんたが絶対にあたしに謝るってものよ!」
「へぇー、面白いじゃん! 見せてみなよ!」
「・・・・セレネ! あんた、これから一週間ご飯抜き!!」
ビシッとセレネに指差して言い放ってやったわ。
「ごめんなさい!!」
ほら、謝ったでしょ。兵糧攻めこそ最強の戦術よ!
後書き
ラーバス・リータス。ラバ・ディアナ。ラーバス・ヴァーカラス。
今回でついにルシルはなのはと邂逅。とは言っても互いに名乗ってもないですが。
次に登場するべきヒロインのフェイトですが。もう少しお待ちください。
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