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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  踏み出す一歩

ががん、と凄まじい衝撃音が自分の鼓膜に届いたと同時に、サチはキリトが20メートル近くも弾き飛ばされるのを視界の端で捉えた。

何が起きたのか、一瞬分からなかった。

サチは自分が予想外のボスの攻撃に足が竦み動けない時に、隣に黒いコートが舞い、そして自分が思いっきり突き飛ばされたことしか理解していない。

だが、目の前の光景を見れば、全てのことに理解が追いつく。

キリトだ。
またキリトが、恐怖で動けない自分を、身を挺して守ってくれたのだ。

キリトの小さな体が、壁に衝突してようやく止まった。
ズルズル、と壁にもたれかかる。
キリトの体がポリゴン片となってしまうのでは、と思ったが、幸い一撃は耐え切ったようだ。
すぐさまパーティーメンバーのHPバーを確認。
キリトのHPバーは辛うじてイエローゾーンに踏みとどまっていた。
高威力のソードスキルスキルを正面からぶつけたことで、威力が減衰された結果だ。

しかし、強力な攻撃を受けたことにより〈スタン〉状態になったようで、キリトは回復結晶を取り出すどころか、剣を構えてすらいない。

攻撃を受けたボスのタゲはそんな無防備なキリトへと向けられている。
すぐさま第2撃目がキリトへと襲いかかろうとしている。

8割をきちんと越えた状態で反撃をしても、半分以上HPを持っていかれたのだ。
無抵抗な状態でもう一撃くらえばどうなるか。

そんなこと――――誰が考えたって分かる。

助けなきゃ!
そう、頭の中で叫ぶが、体は言うことを聞かない。
いつものように、当たり前のように、鎖で縛られているように、動かない。

槍をだらり、と下げた状態のサチの隣を純白の騎士服が舞った。
それに追随するように、4人の人影。
アスカ。そして、ダッカーとケイタ、ササマルにテツオだ。

これもいつも通りだ。
怯えているサチの代わりに仲間が、〈月夜の黒猫団〉の4人が動いてくれる。
だが、間に合わない。
一番槍で飛び出したアスカ以外の4人は、距離的にも敏捷値ステータス的にも時間が足りない。

二度目の回転攻撃がキリトへと迫る。
その軌道線上に、タンクプレイヤー一団が躍り出た。
キリトと旧知の仲である斧戦士エギルが率いる一団だ。
キリトへの攻撃を防ぐべく、ソードスキルを発動。
タンクプレイヤーとして相当筋力値を上げているのだろう。
轟音が響き、一瞬ボスの動きが止まったが、攻略組の5人一斉攻撃すら意に介さず全員を弾き飛ばしてさらに進む。

もう、キリトとボスの間にはアスカしかいない。
アスカが止められなければ、キリトが――――死んでしまう。



ああ。
なんでだろう。

なんで、いつも、こうなってしまうのだろう。

キリトに危険が迫っているのに、助けたいのに。
自分を庇ったせいなのに、守りたいと思っているのに。
今度こそ、キリトとずっといようって決意していたのに。

相変わらず、体は動いてくれない。
言うことを、全然聞いてくれない。

やはり、諦めるべきだったのだろうか。

あの時、記録結晶に残されていたキリトの言葉を聞いて、彼女も自分と同じ女の子だって。強く振る舞っているだけで、弱さを隠していただけだって分かって。
今度こそ自分もキリトの力になりたい。
そう思ったのが、間違いだったのだろうか。

自分がきちんと動けてさえいれば、こんなことにならなかったのだ。

やっぱり、自分はフィールドに出るべきではなかったのだ。
部屋の片隅で怯え、この世界が生まれてきた意味を理解できないまま・・・・・・・


わたしは〈月夜の黒猫団〉のみんなと出会えて、短い時間だけど一緒に戦えてよかった。
ありがとう。
さよなら。
またみんなが攻略組を目指すのなら、またその時に会おう。



そんな時、思い出されたのは、キリトの別れの言葉。

――――そうだ。

ぎゅっと槍を握る力を込める。

そうだ。
自分は迷ってはいたが、後悔なんて一度もしていない。
キリトと出会い、一時期とは言え一緒に戦えたこと。
たとえ、その結末としてギルド壊滅の危機、キリトとの別れがあったとしても、彼女と出会えたことを後悔したことだけはない。
もう一度、同じ選択を迫られても、絶対に彼女と出会う道を選ぶ。

だから、進んだのだ。
みんなの・・・・・・いや、自分の意志で、希望で、キリトの隣に行きたいと。
〈月夜の黒猫団〉みんなで攻略組を目指すと誓った。
今度こそキリトに守ってもらうだけにならないようにって。

いや。
それも、違う。全然、違う。そんなことが自分が本当にしたいことじゃない。
守る、とか助けるとか庇うとか。
そんなんじゃなくて。

わたしは――――もう、逃げたくない。
キリトや〈月夜の黒猫団〉のみんなやアスカの背中ばかり追いかけていたくない。

隣で、背中を合わせて、一緒に、戦いたい。
そう、願ったのだ。それだけが、自分が臨んだ唯一のこと。

なら、戦え。
いつか、ではなく、今こそ――――――――戦うべき時!!


その時サチは、自分の体を縛っていた鎖がちぎれ飛ぶ音が聞こえた気がした。
目を見開くと、狭まっていた視界が広がる。

アスカが神速の8連撃を発動しているが、それでも足りない。
ボスの攻撃はあと一歩のところまで減衰されているが、足りない。
ケイタ達もあと一挙動、足りない。
今からサチがここから全力で走ったとしても、足りない。
けど、

「まだ・・・・間に合う・・・・!!」

サチが高々と掲げた槍に綺麗な、濃密な青色の光が輝く。

片手剣や細剣使い――――キリトやアスカには使えない。
サチだからこそできる技。今この状況で唯一届かせることの出来る技。
槍専用の遠距離攻撃。

「とど・・・・・・けえぇーーーーっっ!!!」

〈投槍スキル〉、〈スパイラル・シュート〉。

渾身の力で投擲された槍は、狙い違わずボスの甲羅へと直撃した。





硬質の物体が凄まじい勢いで衝突したことにより、かああん! と甲高い音がボス部屋に響いた。
槍は貫通にこそ至らなかったものの、遂にボスの回転を止めた。
アスカを弾き飛ばす寸前で止まるボス。

そこに、

「みんな、お願い!!」
「「「「くらえ・・・・・っっ!!」」」」

追いついたケイタ、ダッカー、ササマル、テツオの攻撃が吸い込まれる。

無防備な頭部に次々とソードスキルが叩き込まれている。

〈投槍スキル〉は〈投剣スキル〉と〈槍スキル〉の両方を上げているプレイヤーが使える派生スキルで、飛ばす事による圧倒的なリーチ、威力の割に技後硬直はかなり短い。
それはこの技に、所持している武器が無くなる、という超デメリットが存在するからだ。
槍はボスの回転に大きく弾かれている。
ボスを相手取りながら取りに戻っている余裕はない。

しかし、手はある。
サチはまだ、戦える。

動けるようになってすぐさま、右手を振ってウインドウを開いた。
そして、ショートカットをタッチ。

あらゆる武器共通のスキルMod。〈クイックチェンジ〉。


『ああ、そうだ。サチ、これあげる』
『え・・・・ええ!? これ・・・・くれるの?』
『うん。明日のボス戦で使えなくてもさ、練習用に1本くらい持っておいた方が便利だろ?』
『い、いいよ。これ、かなりのレア武器みたいだし、タダでもらえないよ』
『遠慮しなくていいから。最近これより良い武器ドロップしたし』
『でも・・・・』
『でも、じゃない。もしかしたら、明日のボス戦で使うことになるかも知れないし』
『・・・・それは、ないと思うけど・・・・まあ、一応貰っておくよ。ありがと』
『お礼は豪華な夕飯で』
『言われなくても、今日は豪勢だよ。明日に備えてってダッカーが一杯食材買ってきちゃったから』
『おお! それはいいこと聞いた! じゃあ、さっさと夕飯にしよう!』
『あっ! 待ってよ、キリト!』


思い出したのは、昨晩のやり取り。
キリトにはああ言ったが、念のためショートカットに登録しておいてよかった。
これのおかげで、まだ戦える。

ずしり、と重い感触が右手に伝わる。
槍使いとして自分はかなり筋力値を上げているのに、やっぱりキリトは重い剣が好きだよね、とこんな時ながら暢気な感想が出てくる。

それは鈍色に輝く直剣。
片手剣カテゴリのロングソード。
キリトから譲り受けた、戦うための刃。

サチはボス目掛けて駆けだした。

同時に、テツオが両手で持ち上げたメイスを大上段に構える。
あれは。
技後硬直時間の長さもさることながら、予備動作が信じられないくらい大きく、避けられる確率が高すぎて使い物にならないとテツオが嘆いていた、メイス単発重攻撃―――・・・・

「うおおぉっ!!」

乾坤一擲。

血色のライトエフェクトを纏ったメイスが振り下ろされた。
ドガンッ! と盛大に音を撒き散らしながら頭部にクリティカルヒット。
目に見えるほどはっきりとボスのHPバーが減少した。

付け加えて、ボスの頭の周りに回転するおぼろな黄色い光。
強力な攻撃を受けた場合、一定確率で発生する一時的行動不能バッドステータス、〈スタン〉。

ケイタとダッカー、ササマルのソードスキル第2撃がボスを襲う。
両手棍が、短剣が、長槍が。
各々の得物がライトエフェクトを輝かせながら叩き込まれていく。
動けるようになったアスカも追撃をかける。

他の3パーティーはボスの回転攻撃で動けない。
ここで終わらせなければならない。
もう一度、ボスに反撃される前に。
全員で生き残るために。


追いついたサチ。
手に持つは、長槍に比べれば間合いの短い武器である片手剣。
つまり、攻撃しようと思うなら、いつも以上の更なる踏み込みが必要。
それは、今まで何度も失敗してきたことだ。
恐れ、怯え、逃げてきた。
しかし。

もう、逃げない!!

その一歩をサチは躊躇いなく踏み込んだ。
大型モンスターに有効な3連重攻撃〈サベージ・クルフラム〉が、ボスの頭部を深々と抉る。
ついに、ボスのHPが残り数ドットとなった。

今この場にいる6人は動けない。
ボスは〈スタン〉状態から回復しようとしている。

けれど、サチは慌てていなかった。
ボスが〈スタン〉状態から回復しようとしている。
なら、ボスより先に〈スタン〉状態に陥っていたプレイヤーは――――

「はあああぁぁぁっっっ!!!」

黒衣の剣士――――キリトが背後からサチを抜き去った。

突進剣技、〈ソニック・リープ〉。
その剣先が、まさに動き出さんとしていたボスのクリティカルポイントを貫いた。

「ぎぃ・・・・が、ガアアアアアアァァァアアアアァァアッッッッッッッッ!!!」

一際大きな絶叫。いや、断末魔がボスの口からとどろいた。
HPバーが完全に消滅したと同時に、バシャン! と、今までサチが対峙してきたモンスターの中で圧倒的巨軀を有していたフロアボス、〈ファランクス・タートル〉の体は部屋中を埋め尽くさんばかりに無数のポリゴン片となり、消えた。

開始から約30時間。
ここに、第40層ボス戦、終結。


 
 

 
後書き
どうでしたか?

よ、ようやくボス戦が終わったー・・・・・・。

なんか最近各話の区切りが微妙になっており、1話の文量が少なくなっています。
すいません。

次の話は早めに投稿できると思うので、お待ちください。

ではっ!

 
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