ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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ファントム・バレット編
ファストバレット
銃の世界
菊岡から依頼を受けた一週間後の土曜日。
GGOの件の準備が出来たと菊岡から連絡が入り、深ーいため息を吐きながらやって来たのは千代田区の都立病院だ。一般病棟とリハビリテーション・センターを備えたこの病院は和人がリハビリをした場所でもある。
今から考えればあの拷問のような強制リハビリではなく、こういう所で入院しても良かったかも知れないと思うが、まあ、過ぎた事だ。
東京都心をいつもの改造車で堂々と走りながらヘルメットのARに表示されているナビと辺りを見比べる。
「ここか」
キッ、とバイクを駐車場に止めると、送られてきたメールを頼りに入院棟の三階の病室のドアに手を掛け、引き開けると―――、
「……水城?」
「……安岐センパイ?」
顔見知り――というか、かなり親しかった人物が堅焼き煎餅をかじりながら病室のテレビでバラエティー番組を見ていた。
「ああ、菊岡君の言ってた『護衛』って……」
「そうですね。……早かったですか?」
「ううん。時間より大分前に到着できるのは君の美点だったからね。大丈夫だよ」
「あは、あははは……」
今でこそ時間にルーズな俺だが、実を言うと昔はそうでもなかった。……直さねばな。
「……智代は、元気にやってる?」
「はい。自分には過ぎた副官ですね」
ここには居ない、共通の知り合いをネタに数年間空白だった親交を取り戻していると、やがて和人もやって来た。
「おっす!桐ヶ谷君、お久しぶり!」
「あれ?センパ……じゃなくて、安岐さん。知り合いですか?」
「リハビリの時、担当したの」
「な~る……」
安岐ナースにからかわれ、顔を真っ赤にしている和人を携帯端末で盗撮し、後で明日奈にチクってやろうと人の悪い事を考えている内に、じゃれあいは終了したらしく、2人は準備に入っている。
「じゃあ脱いで、2人とも」
「「はい!?」」
「電極貼るのに邪魔でしょ」
実に正論だが、目がキラーン、と光ったのを俺は見逃さなかった。苦笑して上着を脱ぐと、和人は安岐ナースに、俺は自分で電極を貼っていく。
和人に貼り終えた後、俺をちらりと見てつまらなそうに目を逸らすと、モニタ機器のチェックを始めた。
「和人。最初の出現位置付近で待っててくれ。ちょっと時間はかかるが、迎えに行くから」
「ああ」
最初から迷子になられるの困りものなので、そう言って釘を刺しておく。
「じゃ、行くか。安岐さん、よろしくお願いします」
「はーい。2人の体はしっかりみてるから、安心して行ってらっしゃい」
と、いいつつ堅焼き煎餅の隠してある戸棚をチラチラやっているのは非常に不安になる。
「「リンク・スタート」」
コマンドを唱え、俺達は銃弾飛び交う世界に飛び立った。
______________________________
このゲームを始めて3ヶ月ほど。きっかけは、単純に銃での戦闘に興味があったからだ。決して『昔の血が騒いだ』とかそんな恐ろしい理由では……なくもないが。
ただ、プレイ時間はあまり多くない。あくまでもVRゲームはALO主体で、時たまGGOという具合だ。
よって、親しい友人と言えば馴染みのプレイヤーが経営する武器屋ぐらいなものだ。
で、そのプレイヤーというのが―――、
「おめえはこの世界に酒を飲みに来ているのか、ハンニャ……」
「旦那ぁ、コッチじゃ俺ぁ、『アルマ』だって……。まぁ、いいけどよ」
ALOで最初に会ったプレイヤーのハンニャだったりする。奇しくもコッチで最初に仲良くなったのもコイツだった。運命とは因果なものだ。
「キリ坊も来てんのか。そんなに気になるかね《死銃》は?」
「お役人さんは大層ご執心だ。まあ、5割り方うん臭いが……。で、どうよ?」
ハンニャのこの世界での職種は《武器屋》ではあるが、同時に一流の《偵察兵》であり、《情報屋》だ。
ハンニャはぐぃ、と酒を飲み干すと、やや真剣な顔つきになって話始めた。
「つっても、旦那が知っている事とほぼ被ると思うがな。……とりまゼクとたらこはGGOにここ1ヶ月ほどインしてねぇ。やつらのスコードロンから聞いた話からコレはマジだ。リアルで調べた結果も予想通り……お2人さんはお陀仏している」
リアルでその調査能力があるのは彼の謎を深めるばかりだったが、今はそれを掘り下げている場合ではないので、突っ込まない。
「んで《死銃》、もしくは《デス・ガン》ていうのもどうやらキャラネームじゃない。噂や旦那の話を手掛かりに調べていったら、外見が一致するプレイヤーは居なかった。ということから普段は違う姿か、ソロプレイヤーというのも推測できる」
「だろうな。しかし、キャラネームも分からんとなると厄介だな……」
「悪いな。こんなとこでいいか?」
「十分だ」
ハンニャの調査能力は彼の《鼠》に匹敵、あるいは凌駕する。正確性も同様だ。
「じゃ、そろそろ行くわ」
「おう。またご贔屓に」
ハンニャの店を出るとアルゲートにも負けない入り組んだ路地を少し小走り気味に駆け抜ける。初期キャラクターの出現位置までは大した距離ではないので、1分程でたどり着ける。GGOにログインしてからまだ5分程なので、キリトもまだ待ち飽きてはいない、はずだ。
だが、このハンニャの店がある裏路地にはある仕掛けがあった。
「やれやれ……」
ザッ、という音をたてて20人程のガラの悪いプレイヤー達が俺を取り囲んだ。
《スラム》というフィールド属性をもつこのエリアでは《アンチクリミナルコード》が無効化される。常在戦場の気風のタイトルを盛り上げるためか、GGOには時おり街中にこういったエリアが存在する。
「おにーさん方。俺、今急いでんだけど?」
「奇遇だな。俺達もおいしい獲物を狩るのに忙しい」
悲しいかな。俺の外見は割りと目立つのでこうゆうことはままあるのだ。
ちなみに説明すると、服装は例のごとく紅いマント。細身の体躯に光を反射しないほど黒い髪。目も黒だが、中々鋭利な顔立ちをしているせいか、男性プレイヤー(これがほとんどを占めるわけだが)にかなり目の敵にされる。
「やれ」
リーダーとおぼしき人物が短く命令すると、最も高い位置にいたライフルを持ったプレイヤー4人が一斉に発砲する。
「メンドくさ……」
あまりいいとは言えない照準精度の弾を《弾道予測線》の合間を縫ってかわすと、腰からマットシルバーの自動拳銃を抜くと正面から撃ってきたプレイヤーの額を撃ち抜く。
距離は30m。拳銃の交戦距離としては少し遠い方でヘッドショットを決めるには難しい距離だが、レイは素早くしかも片手でそれをやってのけた。
だが拳銃の場合、この世界で額を撃ち抜かれた程度では大ダメージは負うものの、一撃で死ぬことはまずない。
俺の愛銃である《コルト・ダブルイーグル》は大口径の.45ACP弾を発射する大型拳銃だが、それも例外ではない。――普通ならば……
―ドォン!!
拳銃大砲の異名を持つ《デザートイーグル》もかくやの轟音をたてて打ち出された弾丸はプレイヤーの頭部をポリゴンに変えると、後ろの建物(スラムのため、破壊可能)の上部にヒビを入れた。
無論、本来ならば世界最強の自動拳銃こと《デザートイーグル》でもこんな芸当は不可能だ。
これが、謎の武器商人《ハンニャ》の仕事だ。
「な……に……?」
リーダープレイヤーは唖然として俺をまじまじと見る。
「まさか……、そのマント……アホみたいな威力の拳銃に回避技術……。《弾道の支配者》!?」
そのリーダーの言葉にその場の全員がざわつく。それを再び沈黙に変えたのは一発の銃声と、リーダーの消滅だった。
「ご名答。さて……」
白煙をあげる銃口で次なる獲物をターゲットしながら芝居気たっぷりに告げる。
「獲物は俺か? それとも……お前らか?」
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「……………」
ふむ……。これでも急いだのだかな……。キリトらしき人影はどこにも無かった。あの場は2分程で片付け、その後は全速力で向かったのだが……。
「迷子放送機能はねぇしな………」
無論、そんなことをやった暁にはどつかれまくる事は明白なのだが。
(よし、推理だ)
コンバートの操作をしてキリトはここに現れる。周りにBoBの旗が見えたことからこれに出場しようと思い立つ。そうと決まれば、これだけはと武器屋に向かう。
「とすると、ガンショップか」
確か、近くに何でも揃っているマーケットがあるはずだ。俺は体の向きを変えると、人混みを縫うように走り出した。
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Sideシノン
まったく、不思議な初心者だ。クリア不可能なはずの弾除けゲームを『弾道予測線を予測する』という訳の解らないやり方でクリアして30万をすんなり稼いでしまった。
と思えばその半額を趣味武器のフォトンソードに変えてしまった。
「弾や防具にかかる代金も考えると、ハンドガンかな」
「あの、もう、お任せします」
うーん、と考えながらハンドガンが陳列されているショーケースを眺めていると、入り口の方がざわめき、次いであの殺気が店内に振り撒かれた。
「………っ!!」
とっさに隣の女の子を庇いながら入り口の方を向く。目に映ったのは予想通り、紅いマントの男だった。フードは払われ、今回はその鋭利な顔がよく見えた――――
「キ~リ~ト~クン?」
「ひっ!?」
ビクッ、と後ろにいる女の子が震え、それでもシノンの横まで前に出てくると表情をひきつらせながら声を発した。
「よ、よう、レイ。は、早かったな」
「ああ。お前を待たせてはいかんと、かーなーり急いだからな。……おや、でも不思議だな?確か、出現位置で待ってろと言ったと記憶しているが?」
「そ、それはだな。ほら、こんなナリだから、皆勘違いをだな……。ていうか、よく俺だって分かったな?」
「ふん……何年の付き合いだ。お前の身のこなしを見破るなんざ昨日の昼飯前だ」
紅マントは殺気を収めると、店内に入り、シノンに目を留めた。
「君、悪かったな。このドアホのことだから自分のナリを利用して《女の子》を演じていたのだろうが……コイツは《男》だ」
「え!?」
衝撃の事実に思わずすっとんきょうな声をあげてしまうが、直後にその《男》だったプレイヤーが頭を下げて謝った。
「ご、ごめん。実は本当の事で、その、言うつもりではいたんだけど……」
その可憐な姿で謝られると、少し湧き出た怒りも鎮火されてしまい、何だか力が抜けてしまった。
「いいわよ、もう……」
「あ、ありがとう」
「やれやれ……」
紅マントは首を振ると、シノンが先程まで覗き込んでいたショーケースと男――キリトの腰に吊るされているフォトンソードを見て状況を察したらしくキリトに訊ねた。
「アホちん。残高は?」
「やめろよその言い方!?……15万だ」
「ふむ……」
やがて紅マントは1つのハンドガンを指して言った。
「《FN・ファイブセブン》。これでいいかな?」
その言葉が自分に向けられたものだと気づくのに三秒ほど要したが、慌てて同意の意趣を返すと、キリトにそれを買わせ、他にも諸々の用品を買い揃えると、30万は一気に無くなった。
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Sideレイ
「さて、時間も無いことだし。急ぐぞ」
「あっ……!!エントリー締切……。いけない、今から走っても間に合わないかも……」
「えっ、あんたもこれからエントリーだったのか?」
「うん」
キリトに騙され、装備のコーディネートをさせられていた少女が青ざめる。
「やれやれ、おいキリト。間に合ったら彼女に誠心誠意謝れよ?そして俺を崇めろ」
キリトをひょいっと掴み上げると肩に担ぎ、女の子に手を伸ばす。当然、警戒する少女にあくまで真顔で言う。
「俺はAGIそこそこ高いから向こうにあるレンタルバギーの店まで数秒で着く。そこからは、キリト、わかってるな?」
「……なるほど」
「……変なことしたら、脳天に風穴空けるから―――きゃ!?」
言い終えるやいなや、腕を掴むと、2ブロック向こうのレンタルバギー屋に五秒でたどり着き、キリトと女の子を放り投げる。
「レイ?」
「俺はもう朝の内に登録してあんの。早く行け」
キリトは頷くと、女の子に掴まるよう言ってバギーを急発進させた。
それを見送りながら俺は少女の瞳の奥に見えた微かな闇について思いを馳せていた。
後書き
頭の中でシナリオを組み立てたり、今まで書いた話を読み返していると、設定の無理や矛盾、おかしい所がポツポツと……。
ちょいちょい直しているのは最新話だから暴露できること(笑)
とまあ、GGOに入っていく訳ですが、初期から撒いてきたアリシゼーションのフラグ回収とかをちょくちょくやっていきます。
後、数ヶ月でこの二次小説も一年。メインヒロインの登場回数1回という「もうサブだろww」という感じですが、そろそろ出てきますよ!
それでは、遅ばせながらGGO編をお楽しみ下さい!
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