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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第62話 そして、勇者の凱旋へ・・・

「待って」
「待ちなさい、アーベル」
俺はセレンやテルルの制止の声を振り切り、アリアハンに入る。

王城へと続く街路は、紙吹雪が地面に落ちていた。
「凱旋のパレードか」
俺は、バラモスが倒されたことを確信すると、王宮へと急いだ。

と、俺以上の早さで背後から迫ってきた。
「ピオリム」
セレンが俺に加速呪文を唱えてくれた。
「ありがとうセレン」
俺は、礼をいうと再び全力で走り出す。

まにあわなかったのか。
俺は、それでも、王宮を目指した。
それでも、自分にはなにかできることがある。
そう信じて。


王宮に入ったとたんに頭上から雷鳴がとどろく。
「間に合わなかったか」
俺は、足を止めずにそのまま王の間に突入する。

衛兵の制止を振り切った俺は、勇者の姿を見た。


久しぶりの再会だった。
俺とキセノン商会が用意した装備をキチンと身につけており、魔王を倒した風格さえ漂うように感じた。

だが、それ以上に威圧感を与えるのは、勇者の後ろにいた、三人の女性である。
先頭の女性は、髪を短くしていた。
服装はみかわしの服を改良しており、動きやすくまとめている。
左手には独特の形状のナイフを握りしめている。
ひょっとしたら、アサシンダガーかも知れない。
急所に当たれば一撃と言われている。
装備から推測すると盗賊だと思われる。

その後ろには、同じ姿の女性が左右に並んでいる。
彼女たちは、長い髪をツインテールでまとめている。
武闘着を身に纏い、右手には黄金の爪を装着していた。
姿から推測すると、武闘家なのだろう。
となれば、以前に勇者を誘拐した3姉妹ということになる。
確かに3人とも姿形はよく似ている。


彼女たちの装備品は簡素であるが、油断は出来ない。
タンタルの話では3人ともレベル99であり、またすべての呪文を使用できると言われている。
今の俺なら、1人だけなら相手が出来るとおもう。
だが、3対1ならば俺の敗北は確実だ

今、この時点で無ければ、誘拐犯として指摘することができただろう。
だがこの場では不可能だ。
なぜならば、魔王バラモスを倒した勇者一行として、3姉妹は存在しているからだ。
彼女たちも、英雄である。
不当に誹謗するものとして、逆に指摘したものが処罰されるだろう。
それに、魔王バラモスを倒した勇者が、実は誘拐されたままなどという話は、笑い話にもならない。
その事実が判明した段階で、勇者とアリアハンの権威は地に落ちる。


そのことを知っているからこそ、3姉妹は堂々と王宮に登場しているのだ。
俺の姿を見ると、余裕の笑みを向けてくる。
俺の考えを知った上での表情だろう。

俺の姿を確認したアリアハン王は、視線をそらす。
何があった。

いや、ここでなにがあったかは、わかっている。
だが、確認しなければならない。
俺は王の隣に控えている大臣に尋ねた。
「今し方、落雷の音がしましたが、何がありましたか」

勇者は、俺の方に視線を向けたが、3姉妹が勇者に視線を向けると、勇者は王に一礼し王宮を去っていった。

「待ってくれ」
俺は、勇者をよびとめる。
勇者は俺を無視するかのように、そのまま階段をおりようとしていた。
俺は、素早く階段に回り込むと、袋からふたつの品を勇者に押しつける。
「・・・」
勇者は黙っていた。
いや、勇者はしゃべれないのだ。
昔、母親から聞いた話では、父親が死んだと聞かされた日からしゃべれないということだった。
俺は、勇者の顔を眺めるが勇者の表情から何も読み取ることが出来なかった。
3姉妹は勇者の後ろで様子を見ているが、今のところ手を出す様子はないようだ。

「光の玉と、聖なるまもりだ。
これからの旅に必要になるだろう」
「・・・」
勇者は頷くと、手渡されたアイテムを受け取り、階段を下りていった。
「・・・」
3姉妹は俺の行動を好奇心いっぱいの瞳で観察していたが、お互いの顔を見合わしてから、勇者に続いて階段を下りていく。


「繰り返し、聞きます。
ここで何がありましたか?」
俺は大臣のところまで戻ると、先ほどの質問を繰り返す。

「その、・・・」
大臣は言い淀んでいる。
「大魔王ゾーマですか?」
俺は、大臣に問いただす。
「なぜ、それを知っている!」
大臣は驚愕の表情で、俺に問いただす。

「下の世界で情報をあつめていました。危険性を報告するために」
「・・・」
「全ては遅かったようです」

俺が周囲を見渡すと、床のあちこちに黒こげの跡がある。
天井を見上げると、6箇所ほど穴があいている。
城を突き抜けた雷撃が近衛兵達を襲ったのだろう。
しかし、床には焦げ跡しか残っていない。

「死体すら、消し去ったのですね?」
大臣は頷く。
「俺の父である、ロイズも巻き込まれましたね」
「・・・」
王と大臣の表情で確認した。


俺は、王の間から立ち去った。
途中、セレンとテルルにあったが、俺は構わず自宅に戻った。



俺は自室の壁を叩いていた。
「俺は、これまで何をしてきた!」
壁には、血が付いていた。
「全ては、無駄だった!」
右手の痛覚が感じられなくなっていた。
「タンタルまで犠牲にしたのに、助けることが出来なかった!出来なかった!
俺は、大馬鹿野郎だ!」

「アーベル!やめなさい!」
母ソフィアが、俺を見て叫んだ。
俺は構わず、壁を叩き続ける。

母親は背中から俺を抱きしめる。
「離してくれ・・・」
俺は、急に眠りに襲われる。
「ラリホーか・・・」
まぶたが閉じる前に、俺の右手を治療するソフィアの姿を確認した。
 
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