ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第63話 そして、葬儀へ・・・
人が死んだら、どうなるか。
俺は、前の世界で子どもの頃、そんなことばかり考えていた。
誰にも相談せず、1人で悩み抜いていた。
恐怖で頭がいっぱいになり、枕を涙で濡らしたこともある。
大人になると、いつのまにか恐怖がなくなっていた。
当然、死んだらどうなるのか理解したわけではない。
その答えを得るためには、自分で経験するか、人に聞くしかない。
前の世界では、死んだ人に確認するすべがないので、自分で経験するしかなかった。
まあ、人はいつか死ぬのだ。
そのときに答えを知ることになるだろう。
それまで、あれこれ考えてもしかたがない。
自分の考えが当たっても、死後の待遇が変わるわけでもないのだから。
たぶん。
この世界(確定ではないが、前の世界の俺にとっては死後の世界か)では、死んでも復活する。
また、死んだ人間の魂がこの世界に残ることもある。
バラモス城の近くにあったテドンの村の住人などがその例に該当する。
だが、俺の父親であるロイドは両方の例に該当しなかった。
まずは、死体が残らなければ、復活できない。
子どもの頃、神父さんに確認したところ、魂を入れる体が無ければ蘇生できないということだった。
次に、魂が無ければ復活が出来ない。
父ロイズの魂は、今までのところ確認していない。
夜中に、俺や母親の枕元にでもと考えたが、現れることはなかった。
ひょっとして、アリアハン王宮内に出現するかもと考え、知り合いの近衛兵に問いただしても、ロイズはおろか、他の犠牲者もみつからなかった。
ちなみにセレンには、この話しは秘密だ。
教会の教えに従って、昇天呪文「ニフラム」を唱えるからだ。
俺の母ソフィアも俺の考えと一致している。
俺達遺族は、国が管理している共同墓地にいた。
大魔王ゾーマに倒された被害者の共同慰霊祭だ。
とはいえ、大魔王の存在を明らかにするわけにはいかない。
下手に明らかにすると、住民が恐怖に襲われて、大魔王の思惑どおりになるからだ。
現在のところは、「魔王バラモスが再度復活し、アリアハン城を襲撃した。王宮の兵士達の奮闘により、城は守られたが、近衛兵6人が帰らぬ人となった。勇者は復活を阻止するため、再度冒険の旅に出た」というのが公式発表だ。
ロマリアやポルトガにも同様の情報を流している。
というわけで、父ロイズ達犠牲となった近衛兵は、英雄として国葬されたが、遺族達の悲しみが癒されるわけでもなかった。
俺と母ソフィアが家に戻ると、俺は話を切り出した。
「母さん。話さなければならないことがある」
俺は、覚悟を決め、転生したこと、父ロイズが死ぬことを知っていたこと、力及ばずロイズを救うことが出来なかったことを話した。
母ソフィアは、驚くことなく最後まで黙って話を聞いていた。
「・・・。ごめん、母さん」
最後は泣きながら謝っていた。
俺は、母との別れを覚悟していた。
愛する夫だけでなく、息子も失っていたという事実。
正直、この場で殺されてもかまわないと思ってもいた。
ソフィアは泣き出していた。
「ごめんなさい、アーベル」
ソフィアは、俺の手を握りながら謝っていた。
「か、母さん」
俺は困惑していた。
何故、俺に謝る必要がある。
「全て、私のせいなの」
ソフィアは俺に驚くべき事実を打ち明けた。
ソフィアは、若い頃、師匠のところで、魔法を学んでいた。
ソフィアは、師匠の教えにより賢者としてありとあらゆる魔法を習得していた。
だから、僧侶が覚える睡眠呪文「ラリホー」を使用できたのだ。
師匠は、ソフィアのたぐいまれな才能に惚れ込み、自分が身につけた全ての呪文だけでなく、自分がここにいる理由となった呪文をも教えたのだ。
「それが、召喚呪文だと」
「ええ」
ソフィアはうなずく。
師匠の話では、難破した船から漂流してきた少年を救おうとした魔法使いがいたが、蘇生呪文「ザオリク」や回復呪文「ベホマ」を唱えても少年の意識が回復しなかった。
魔法使いは最後の手段として、研究していた古代の呪文を唱えたところ、少年の意識が回復したという。
魔法使いが、意識を取り戻した少年に状況を確認したところ、少年とは別の存在が召喚されたことがあきらかになった。
幸い、魔法使いの家は、辺境にあったことから、事実は伏せられたまま、現在にいたったという。
ソフィアは、師匠の話を半信半疑で聞いていたが、念のためその呪文も習得した。
ソフィアはやがて、ロイズと結婚し、アーベルを産んで育てた。
「そして、事件が起こったわ」
アーベル少年が、父ロイズを迎えに行く途中で、城の堀に落ちた。
当然、ソフィアは「ベホマ」や「ザオリク」を唱えたが、アーベルの意識が回復することは無かった。
ソフィアは、最後の手段として、師匠から教わった召喚呪文を使用したところ、アーベルが息を吹き返したという。
ソフィアは、アーベルが回復したことをよろこんだが、やがて重い現実を知ることになる。
アーベルの仕草がおかしいのだ。
アーベルの記憶を「覚えてない」発言の真偽はわからないが、日常の仕草は、体が覚えているため、忘れることはない。
ソフィアは、その事実を理解すると絶望した。
それでも、俺をこの世界に召喚した責任から、俺を見捨てることなく今まで育ててきたという。
「結局、お互いに事実を知っていたと」
「そういうことね」
バカな話だ。
本当に、バカな話だ。
「俺達は、似ているな」
まるで親子だ。
「アーベル」
「母さん」
俺達は抱き合っていた。
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