魔法少女コミカルあやめ
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第三話 魔法少女は大変なの?
何故かダメージを負ってしまった月村家でのイベントを乗り越え、予想外の精神的ダメージによって予定よりも早く帰宅する事になってしまった私。
そんな私の名前は高町あやめ。最近の悩みは血の繋がりはないけれど大切な姉の一人が厨二病を患ってしまった事。
リリカルマジカル頑張っているそうですが、正直痛々しいです。
なんて事を考えながら高町家を目指していると、鬱になりそうでした。
そして更に憂鬱な出来事が重なってしまう私はなんて不幸なんでしょう。
なんだか心の奥から悲しみが込み上げてくるのが止まらないまま月村宅から自宅へ帰宅すると、何故か玄関の中で私の姉の高町なのはさんが立っていました。
まあ、それは結構よくある事です。
ですが、
「おかえり、あやめちゃん。怪我とかしてない? 大丈夫? 魔法いる? 魔法少女なお姉ちゃんが必要?」
今日はいつもより欝陶しいです。
過保護だけならまだ堪えられますが、魔法アピールが加わった事で無性に苛々としてしまいました。
……地獄のナノハ?
「それともちゅーする? おかえりなさいのちゅーするの? いやん、あやめちゃんったら大胆なの。仕方ないからほっぺにならしていいよ?」
あ、やっぱり魔法関係なしでも欝陶しいのは変わりませんでした。
何故かいつもよりテンションが高いようで、かなりうざったいです。
ちょっと殺意が芽生えました。
何があったか知りませんし、知りたくもないのですが、超ウザイです。
「んー? どうしたの?」
そんな私に気付く様子がカケラもない高町なのはさん。
大好きな家族の一人で、普段いろいろと世話を焼いてくれる事には日々感謝の気持ちでいっぱいなのですが、正直、今の状態のなのはの相手なんてしたくはありませんでした。
そんな訳なので。
「なのは。ちゅーしてあげるから目を閉じて下さい。恥ずかしいからいいって言うまで開けたら駄目ですよ?」
「えっ、えっ? ほ、本当にするの? あ、でもあやめちゃんがしたいなら仕方ないよね。妹のお願いを聞いてあげるのもお姉ちゃんの役目だもんね、うん」
なのはは言われた通りに目を閉じ、頬にと言っていた割に何故か唇を突き出してました。所謂キス顔ですね。
私は靴を脱ぎ、そんななのはを素通りして、手を洗いに洗面所へ向かいます。
さようなら、馬鹿なお姉ちゃん。
復活したらせめていつも通りに戻ってくれていると嬉しいです。
【魔法少女は大変なの?】
そんな事があって十分後。
手洗いうがい、家族への挨拶を済ませ、自室に戻った私は勉強机に座り、夕食まで時間があるようなので、鞄から一つの本を取り出して読書をしていました。
今回読む本は一度和訳された物で内容を知っているのですが、本来の文章が気になって原本を借りてきた物です。
タイトルは『The Murder of Roger Ackroyd』。誰もが知るミステリー界の女王が書き連ねた書物で、詳しい事は言いませんが『なるほど、やられちゃいましたぜ』な気分を味わう事間違いなしな内容の推理小説です。
と言っても、一度和訳された物を読んで内容を知っているので、今回私が注目する部分は謎解きなどの推理要素ではなく、女王の文体はいかなる物なのか、という事純粋な文学的な問題なのですが。
「無理矢理別の言葉に置き換えた物ではなく、その言語や文章からしか読み取れない発見があればいいのですが」
なんて、世界的に有名な女王相手に偉そうに、上から目線の独り言を呟く私は何様なのかという問題は考えない事にして、物語に集中する事にします。
「あやめちゃん!」
だがしかし、駄菓子菓子、突然部屋の中に響いた自分の名前を呼ぶ大きな声によって、私はそれを中断せざるを得なくなりました。
「このゆかりんボイスはなのはですね」
はあ、と小さく溜息を吐きます。
それから床を蹴って椅子をくるりと回して振り向くと、やはりというか、そこにいたのはなのはでした。
「危うく騙されちゃうところだったよ。嘘吐きは泥棒の始まりなんだからね!」
真っ赤な顔のなのはが吠えました。
どうやらご立腹なご様子。
「ちゅーしてあげるって言ったけど今からするとは言ってないんだからねっ!」
「そんなの屁理屈なんだからねっ!」
「屁理屈も立派な理屈なんだからねっ!」
「もう! ああ言えばこう言う!」
「ふぉーえばーあーゆー」
「うにゃああああ!」
取り敢えず、なのはが怒っている姿を見るとおちょくりたくなる本能に従い、茶化しながら適当に返事をしました。
すると、予想通り――いえ、予想以上の反応を見せるなのは。彼女は猫の様に唸りながらじたばたと跳ねました。
「…………はあ」
そして数秒掛けて漸く落ち着くと、小さく息を吐いて項垂れます。
「どうかしましたか?」
「もういいよ……。あやめちゃんに素直な反応とか求めた私が馬鹿だったの」
そう言って、なのはは力無く身体を投げ出すようにベッドに倒れ込みました。
なんだか哀愁が漂っていて疲れている風に見えなくもないです。
「な、なのは、大丈夫?」
そして喋るフェレットに慰められている姿も中々シュールで哀れです。
因みにこのフェレット、念波で助けを求めてきた相手であり、なのはを魔法少女にした人物……じゃなくて動物であり、自分が発掘した危険な魔法文化の古代遺産が地球にばらまかれてしまったので捜しにきた遺跡発掘を生業とする一族の一匹で、異世界から来たというユーノ・スクライアくんとかいうそうです。
助けを求める声を聞いたあの日の夜、なのはが帰ってきてから無理矢理一緒に聞かされた話なのですが、ユーノ・スクライアくんはSFファンやファンタジーファンにとっては面白い事極まりない話を沢山教えてくれました。
世界は幾つもあるそうです。それは次元世界と呼ばれ、見えないだけで隣り合っている、そんな世界です。テイルズ的に言うとシンフォニアのシルヴァラントとテセアラみたいなものですね。
そんな次元世界の一つで彼はジュエルシードとやらを発掘したそうなのですが、それが事故によってこの地球に散らばってしまったとかなんとか。
それで単身で地球にやって来て回収しようとするも、封印に失敗して大怪我を負い、魔法の資質を持つ者にしか聞こえないという念波で助けを求め、のこのことやって来たのがなのはさん。
魔法少女誕生だそうです。
因みにそのジュエルシード。全部で二十一個も存在するらしいこれは結構危険な代物なんだそうです。
宝石の形をした魔力の結晶体で、周囲の生物の願望を自覚のあるなしに叶える特性を持っているそうなのですが、正確に願望が叶う訳ではなく、しかも暴走しやすいらしいので、割と大変だとか。
しかし、ユーノ・スクライアくんは怪我で動けず。ならばとそこで立ち上がったのが我等がなのはさん。魔法の才能がかなりあるらしいので、ユーノ・スクライアくんの手助けをするそうです。
因みに現在二つ封印完了だとか。
《Keep your chin up my master. I'm always on your side.》
「うん、ありがとうレイジングハート」
赤い宝石に慰められてなんとかなのはは立ち直ったようです。
この赤い宝石はレイジングハート。通称レイハさん。AI(人工知能)を持った魔法の杖。デバイスっていう機械らしいのですが、私はなんか喋る携帯電話とかそういう認識を持ってます。カメラ機能とかありますし。
あ、てゆーかなのはは理数系以外の成績は普通なのですが、英語(正しくはミッド語らしい)で話し掛けられた今の言葉を理解しているのでしょうか。
私はちょっと気になったので確かめてみる事にしました。
「なのはさんなのはさんや」
「ん? なあに? もしかしてあやめちゃんもお姉ちゃんを慰めてくれるの?」
「なのはってレイジングハートの言葉をちゃんと理解出来ているのですか?」
「………………」
エターナルフォースブリザード(訳:その瞬間、空気が凍りました)。
《………………》
レイハさんめちゃくちゃチカチカ点滅してます。大丈夫ですよね、なのは、と訴えかけているように見えます。
因みに高町なのは。この間の英語の小テストで平均点より下でした。
「…………き、気合いと根性でなんとかしてるから大丈夫だよっ!」
そんななのはさんの回答は魔法少女というより熱血少年のようなものでした。
「…………」
私には何と言ってあげればいいのか分かりませんでした。
《…………》
レイジングハートは先程とは打って変わって弱々しく点滅を繰り返しています。その姿はただのビー玉の様な見た目なのに、何故か悲しみを感じました。
「……ユーノ・スクライア、レイジングハートの言語機能を日本語にする事は出来ますか? 若しくは翻訳魔法のような便利なものはあったりします?」
「あー、うん、大丈夫だよ。出来るよね? レイジングハート」
《No problem.》
信頼関係の問題もあるので、主人が相棒の言葉を理解していない状況を改善しようとフェレットくんに尋ねてみると、どうやらそのような手段があるようで、なんとかなりそうでした。
そして、
「ちょ、みんなして酷いの! 大丈夫だからそのままでいいよっ!」
そんななのはの戯言はスルーして、この日からレイハさんは日本語で話すようになったのでした。
《………………》
機械に同情したのは初めてです。
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