魔法少女コミカルあやめ
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第四話 混乱なの? 淫乱なの? どっちが好きなの?
記憶を辿って頭の中で読書。某推理漫画でのピアノ線の登場回数を数える事で退屈な授業を乗り切り、お昼休みになったので、いつものメンバーで屋上へ。
今日もほぼ指定席となっているベンチに四人で腰掛け、お弁当を食べながら雑談する事になりました。
「あいまいみーまいん! ゆーゆあーゆーゆあーず!」
「基本的な事だからこれくらいはしっかり覚えなさいよ?」
「あい! ……じゃなかった。はい!」
しかし。
いつもと違う部分が一つだけ。
なのはは昨日の事で己の無力さを感じたらしく、レイジングハートに申し訳ないと思ったのか、今日は朝からアリサにマンツーマンで英語を教わっていて、昼休みまでご飯を食べながら勉強しています。
なので必然的に、隣に居るのに二人組に別れる形になり、アリサとなのは、すずかと私で話す事となっていました。
頑張って、なのはお姉ちゃん。
【混乱なの? 淫乱なの? どっちが好きなの?】
そんな訳ですずかと会話。
「今日は1コマ目の講義から現代文で疲れましたね」
と無難に、学校について不満を漏らすことから始めてみました。
学生が学校で話すことの定番。講義について、試験について、講師について、体育などの運動系や音楽や美術などの芸術系についての不平不満は『退屈だから屋上から飛び降りて』の次くらいには、会話の出だしとしてよくあるでしょう。
「そういう台詞は一度でも真面目に授業を受けた事がある人が言うものだよ? あとコマじゃなくて時間、講義じゃなくて授業、現代文じゃなくて国語ね」
無難に言ったつもりだったのに痛いところを突き、更に突っ込みも入れる月村さん家のすずかさん。流石です。
あ、そういえば。
「現代文って読み方を変えると現代文とか小説に出てきそうな人名になりますね」
「いきなり意味不明だよ。会話のキャッチボールくらいしっかりやって……」
「死ね変態!!」
「……なんで急に罵倒したの?」
「会話のデッドボールと聞いて」
「そんな事一言も言ってないよ! ……はあ、あやめちゃんのキラーパスにはついていけないよ」
とか言いつつなんとなく楽しそうなすずか。多分マゾヒストです。
「違うってば!」
読心術……ですと……?
「声に出てるよ?」
「抑えきれない想いが感情を無視して突っ走ちゃったみたいですねすみません」
「全然謝る気ないよね?」
「誤る気があったからこそそうなっちゃったのですよ」
「口答では通用しないよ、それ」
でも通じてしまうのが月村すずかクオリティー。以心伝心ですね。
やばいですね。超楽しいです。
「流石は私の相棒すーさん」
「確かそんな釣り好きの社長みたいなあだ名で呼ばれたことはなかったよね?」
「ええ、思い付きですから」
「…………」
何故か黙るすずか。
きっと将来生理が始まった時の事でも考えているのでしょう。もしくは将来結婚して、最初の方は円満な夫婦生活だったけど、エロエロな自分に夫がついてこれなくなって、セックスレスになったらどうしようとか悩んでるのでしょう。
いやぁ、大人ですね。
「あ、そういえばあやめちゃん。今度の休日にまたお茶会しない?」
と、ここで突然のお誘い。
まだ私を百合の道に誘うことを諦めていないようです。確かにすずかの家はお金持ちですし、養ってくれるなら身体を捧げるくらい吝かではありませんが。
尽くす女っぽいタイプで、利用されたあげく捨てられる姿がお似合いで、付け込みやすそうで、恋人に騙され貢ぐ系の女性に成長しそうですが、同性愛だと高町家の皆様に迷惑掛けそうですし。
ここは断っておきましょう。
まだ性的な行為も怖いですし。
「すみませんが、私の処女は将来結婚する相手に捧げるつもりですし、古風と言われようが、婚前交渉もちょっと……」
「誰もそんな事言ってないよ! いきなり話が発展し過ぎにもほとがあるよ!」
「海鳴のハッテン場――月村家」
「お姉ちゃんまで巻き込まないでっ!」
「私も巻き込まないでください」
「もうっ! もうっ! もうっ!」
そうじゃなくて! とすずか。
ぶんぶんと長い髪を揺らしながら首を振り、必死に否定して、
「私は同性愛者じゃないもんっ!」
と衝撃的な発言。
吃驚して、思わず食べかけの卵焼きを落としてしまいました。
「なん……」「ですって……!?」
どうやら隣で話を聞いていたらしいなのはとアリサも吃驚。なのはは口を大きく開いたまま戻せず、アリサにいたってはコップを落として地面にお茶をぶちまけています。それだけ驚いたようです。
「す、すすす、すずかちゃんって女の子が好きなんじゃないのっ!?」
「今日は四月一日じゃないわよ!?」
「えっ? えっ? えっ?」
予想外の展開になのはやアリサよりも慌てるすずか。
しかしあれですか。
半ば冗談のつもりで言っていたのですが、なのはやアリサの様子からすると、本当に同性愛者だったのかもです?
二人とも驚いているのですし。
「ご、ごめん一旦落ち着いて。私も落ち着くから一旦落ち着いて。二人とも私が女の子が好きだったと思ってたの!?」
あやめちゃんは冗談だろうけど。
続く言葉に私は頷きました。
冗談です。
からかっていただけ。
弄っていただけ。
むしろ男好きだと思ってます。
この場が更に混沌となり、みんな混乱しそうなので、言いませんけど。
「お、思ってたの……」
「だって男子と全然話さないし」
「あやめちゃんがキスされそうになったって言ってたの」
「男子が近くにいると嫌な顔するし」
「あやめちゃんが身体をいやらしい手つきで触られたって言ってたの」
「スキンシップやボディタッチが少ないのは変に意識してるからよね?」
「あやめちゃんが何度か押し倒されたって言ってたの」
「告白された時、普段は優しいのに一瞬でばっさりと振ってたし」
「あやめちゃんがオオカミさんのような目で見られてるって言ってたの」
「お泊り会とか提案しても渋るし」
「あやめちゃんが脱ぎながら誘惑されたって言ってたの」
あっ……うん。
なのはの理由は全部、私の冗談が原因ですね。よく考えたら私の姉は素直で、若干天然で、しかもアホの子でした。
「………………」
すずかの方を見ると、物凄い形相で私を睨んでいます。乙女がしてはいけない顔です。顔怖っ! すずか怖っ!
「あのね、アリサちゃんのは誤解だよ。なんでそう思ったのか知らないけど、私は普通……ノーマルだからね?」
「でもあやめがこ」
「あやめちゃんが何?」
「何でもないわ! ……です!」
「なのはちゃんも。それは嘘だから」
「でもあやめちゃんが言っ」
「あやめちゃんが何?」
「何でもないの! ……です!」
恐怖。
恐怖でした。
目の前にいるのは恐怖でした。
あれ? やべぇです。超やべぇです。
本気で怖いです。笑ってるのに怖い顔という表現は聞きますが、初めてみました。目が笑ってないけど顔は笑ってる笑顔というのを初めて見ましたが、めちゃくちゃ怖いです。怖過ぎます。
笑顔で身体が震えます。
逆らえないナニカが、逆らってはいけないナニカが、目の前にいます。
逃げなければいけないのに身体が動きません。ただ笑っているだけなのに、蛇に睨まれた蛙のように、動けません。
これが絶望。
これこそが絶望。
「あやめちゃん」
すずかは笑って、
「少し、お話しようか」
笑って――――――。
その日の事は思い出したくはありません。思い出すだけで身体が震えてきて、『お話』の内容なんて思い出せないのにいつまでも怖くて、ただただ恐怖一色。
私はあの時、月村すず
「あやめちゃん?」
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