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魔法少女コミカルあやめ

作者:人間狂愛
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第二話 月村すずかはエロエロなの?

 私、高町あやめの朝は一杯の紅茶から始まると言っても過言ではない。
 紛う事無き真言だ。
 疑う事無き真実だ。
 翠屋という喫茶店を経営するマスターの父親・高町士郎が入れたロイヤルミルクティーと、同じく碧屋という喫茶店を経営するパティシエの母親・高町桃子が作った朝食で、高貴(ロイヤル)な私の高貴(ロイヤル)な朝は始まる。

「恭ちゃん、そこの醤油取ってー」
「……ん」
「ありがとありがと」
「なのは、時間は大丈夫かい?」
「うん、お父さん。まだまだ結構余裕があるの!」
「ほら、あやめ。あーん」
「ああ、お母さん! あやめちゃんのお世話はわたしがするのっ!」
「はいはい、本当になのははあやめが大好きなのね」
「もぐ……高貴(ロイヤル)な高町あやめの……もぐ……高貴(ロイヤル)な朝は…………むぐぐ……高貴(ロイヤル)な紅茶から……」
「うん! わたしの妹だもんっ!」
「き、きゅー……」
「あ、ユーノくん!? ごめん、忘れてたのっ!」
「きゅきゅ……」

 高貴(ハイクラス)……?

 【月村すずかはエロエロなの?】

 高町歴三年。妹歴三年。年齢は九歳。
 そんな私は六歳の時に雪降り積もる冬の公園で行き倒れているのを高町なのはに発見され、彼女の両親に病院に連れていかれ、しかし発見が遅かった事で高熱が出て、最終的には脳に障害が生じ、記憶喪失に陥ってしまったらしい。
 ちなみに六歳というのは見た目からの判断だそうで、親族どころか戸籍すら存在しなかったので実年齢は完全に不明だとか。
 そんな私を施設に入れずに引き取って育ててくれたのが高町家。特にその次女であるなのはは記憶の件に責任を感じているらしく、必要以上に過保護に私を守っている――と、そんな感じに壮大で絶大な過去が私にはあるらしいです。

「これは私に主人公フラグ!」
「わわっ、い、いきなりどうしたの?」

 月村さん家のすずかさんを怯えさせてしまいました。

 放課後の月村邸のお庭。
 高町なのはは『ちょくら魔法少女やってくるの!』とか言って何処かへ消え、アリサ・バニングスは『久しぶりに親が帰ってくるから、しししし仕方ないから会ってあげるんだからね!』とかツンデレを発揮して早々に帰宅。
 そんな訳で暇になった資産家の月村家の次女で友達が少ない月村すずか。
 そのすずかにお茶会に誘われて、承諾し、現在たくさんの猫さんに囲まれながら海鳴で最もエロいと評判の月村すずかさんと二人っきりのお茶会です。
 人生初の貞操の危機とやらです。

「変態みたいな扱いしないでよ……」
「ど、読心術……ですと……?」
「全部声に出てたよ……」

 私の上の口はゆるゆるらしい。
 今度頑丈なチャックを針と糸を使って口に縫い付けておきましょう。
 ……想像しただけで恐怖が加速!
 うん、やっぱりやめておきましょう。

「でもあの過保護ななのはちゃんがあやめちゃんを一人にするなんて珍しいよね。いつもなら私があやめちゃんをお家に誘ったら『あやめちゃんが猫さんに襲われちゃうかもしれないから私も行くの! 危険なの!』とか行ってついて来るのに」
「『でもそのおかげであやめちゃんを家に連れ込めたよ、げへへへへ』」
「そんな事一切考えてないよ! てゆーかなんで私の声で話せるの!?」
「声帯模写は乙女の必須スキルです」
「普通に生きてたら生涯一度も必要になる事はないよ……」
「ちっ」
「し、舌打ちしないでよっ」

 ちょっと涙ぐむメンタル面が弱い月村すずかさんなのでした。修業が足らぬ。
 何の修業が足りないのかとか聞かれたら返答に困りますけれど。

「でもあれだよね、あやめちゃんが動物に襲われる姿って想像出来ないよね」

 暫くして調子を取り戻したすずかがそんな事を言い出した。

「まあ、九歳で同級生が獣姦される姿を想像出来たらすごいですよね」
「もう、お願いだからえっちなのから離れて……」
「わかりました」

 取り敢えず私は椅子から立ち上がり、すずかから二メートル程離れた。

「な、なんで私から離れるの!?」
「だってすずかが……」
「そういう吉本的な意味じゃないよ! てゆーか私えっちじゃないよ!」
「だってなのはとかアリサが無理な日は絶対私を自宅に連れ込もうとするし」
「そ、そういう目論みは一切ないよ! ただ、あやめちゃんが一番話しやすいから私の秘密を……じゃなくて!」
「『実は私同性愛者なの!』」
「違うったらっ!」
「『あやめちゃん……好き』」
「も、もお! 怒るよっ!?」

 ご立腹な様子のすずか嬢。
 ぷんすかぷんぷん怒ってます。
 もう既に怒ってる感じがしますが、そろそろ本気で怒られそうなので自重。
 これでもかと謝罪します。

「つ、次にそういう話題にしたら、私も本気で怒るからね!? フリじゃないよ!? 押すなよ押すなよ的な感じじゃないからね!?」
「いえすまむ」

 意外に怒ると怖い女、月村すずか。

「こほんっ……でもあやめちゃんが動物に襲われる姿って想像出来ないよね」

 大人しく着席してお茶会再開。
 すずかは一度軽く咳ばらいをして話題を切り替えます。私も怒られるのは嫌なので気持ちを入れ替えました。

「まあ、野生動物限定で動物避けスキル持ってますからね。出血した状態でアマゾン川に入ったらどうなるのでしょう」
「そ、それは死ぬよ。ピラニアに襲われなくても水の中で出血し続けたら固まらないから普通に死ぬよ……」
「これってトリビアになりませんか?」
「放送事故起きちゃうよ……」
「へぇ〜へぇ〜へぇ〜。3へぇです」
「わわ、そのボタン懐かしい……! でも何でそんなの持ってるの?」
「なのはが一晩でやってくれました」
「なのはちゃん器用過ぎる……!」
「ちなみに声は私の声帯模写です」
「や、役に立ったんだね?」
「無駄な事にだけは有用な特技です」

 私は自慢げに何度も『へぇ』と鳴らしながらボタンを見せ付けました。

「……あれ? でもさっきは必須スキルとか言ってなかった?」

 しかし、ここで矛盾に気付いたすずかからの容赦ないツッコミが炸裂爆裂。

「あー、えーっと……」

 返事に困る私。

「む、無駄でも必要なんですよ。世の中には無意味でも無価値でも必要なものってたくさんあるんですよ、ええ」
「何かよさ気なことを言って有那無那にしようとしても誤魔化されないよ?」
「ですよねー」

 こんなので誤魔化されてくれるのは、うちの愚姉様くらいでしょう。

「あ、でも結構役に立つんですよ? 乙女の必須スキルっていうのは完全無欠に大胆不敵な嘘ですけど」
「なんだか無駄にかっこいい嘘だね」
「それはほら、私自身が無駄に格好良いから、口から吐き出す言葉すら……しかも嘘ですら、格好良くなるのですよ!」

 えへん、と私は無い胸(あと何年かしたらきっとたゆんたゆんのばいんばいん)を張り、すすがのツッコミを待ちました。
 しかし、すすがは微笑ましいけど痛々しいものでも見ているかのような表情をしているだけで、何も言いませんでした。何と言うか、『バリアーしてるからききませーん』『オレのパンチはバリアをつらぬくしー』『貴様、まさかあの時の……!』『ふっ、気付いたようだな』的なやり取りを偶然見掛けてしまった通行人のような、そんな表情です。
 ちょっと傷付きました。

「すずか。言っておきますけど、さっきのはボケたんですからね?」
「うん、わかってるよ。大丈夫」
「だいじょばないですよ。わかってたなら突っ込んでください。そんな目で見られたら恥ずかしくなるじゃないですか」
「だいじょば……? あー、うん。ごめんね。これからは注意するね?」

 なんて、言ってる間もすずかの表情は変わらず。もしかしたらナルシストだと勘違いされてしまったかもしれません。

「大丈夫。あやめちゃんはすごくかっこいいよ! クールだよ!」

 あ。勘違いされてますね、はい。

 結局、その後何度も正そうとしても誤解は解けずに帰らなければいけない時間が来てしまい、今回のお茶会は私にとって後味の悪い、苦い終わり方をしたのでした。お茶だけに。 
 

 
後書き
 続きの投稿が遅れてしまってごめんなさい。

 最後の方をにじふぁんの時とちょっと変えて投稿しました。久しぶりに書いたのでおかしな文章になってるかもしれませんが、見逃してください。 
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