少女1人>リリカルマジカル
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第五話 幼児期⑤
そろそろ冬も終わりそうな麗らかな朝のこと。
俺は朝ごはんの食器の片付けを終え、どこに放浪しようか考えている。いつものように気分でふらふらしてもいいが、目的を持ってふらふらするのもまたいい。なんか目標になるものないかなー? うーむ。
あと、妹は先ほどから絵本を読んでいる。絵本の内容は語らなくても想像がつくだろう。すると、不意に妹が真剣な表情で俺の方に振り向き、バチッと視線が合った。その目には、どこか思いつめたような、だが確かな決心を持っているように俺には感じられた。
少しの間そのまま見つめあったが、妹は読んでいた絵本を持つ手に力を込めながら、どこか興奮が収まらない様子で俺に語りかけてきた。
「……お兄ちゃん」
「……どうした」
「しろくまさんがもふもふしてかわいすぎるよぉ!」
「オーケー。それじゃあ、今日はしろくまさん見に行くかぁ!」
「そんな軽いノリで決めることじゃないわよ!?」
母さんに慌ててツッコまれました。
******
「わあぁ、まっしろ!」
「ほんと、まっしろけっけだな」
「けっけ! まっしろけっけ!」
ちなみにこの感想は、しろくまさんのことではありません。俺たちの目の前に広がるのは、辺り一面真っ白な雪景色。母さんにツッコまれた後、しろくまさんはまた今度動物園に連れて行ってあげるから、と説得されました。さすがに危ないか。ついノリでOK出しちゃったよ。反省。反省。
「ちょうど雪も止んでるし、視界も良好だな」
「りょーこーう!」
テンションマックス。俺と妹は雪の積もっている場所に転移でとんできた。せっかくなので、しろくまの白繋がりで雪遊びでもしようかと考えたからだ。やっぱり寒いが、防寒具もしっかり装備しているから問題ないだろう。帽子に手袋にマフラー、足には長靴と完璧。あぁ、ぬくぬく。
「お兄ちゃん、ゆきだよ! いっぱいのゆき!」
「おう、雪がいっぱいだねぇー」
「わっ! すっごくつめたい!」
「あぁ。やっぱり雪は冷たいよなー」
雪に好奇心が刺激された妹は、嬉しそうに手袋をはずして、直接雪に触れている。掌に雪を乗っけては楽しそうに眺めている妹。
前世でスキーをしに遊びに行った時、若気の至りで友人の背中に雪を詰め込んだ記憶を思い出す俺。
いやぁ、なかなかのリアクションが見れたが、その後めちゃくちゃ追いかけまわされたな。これも今さらだけど反省しておこう。すまん、友人。さすがに風邪をひいたらまずいので、妹にはもともとやりませんが。
それから妹は雪に満足したのか、手がかじかんできたからか、雪を払い落し手袋をはめる。その後も忙しなくきょろきょろとするアリシアの姿に、俺はつい笑ってしまう。楽しんでくれてなによりだが、やっぱり子どもだなーっとも思う。まぁ4歳なんだし、これが当たり前なんだけどね。
「ねぇお兄ちゃん、向こうに行ってみようよ!」
「こらこらアリシア。お兄ちゃんからそんな離れないの」
雪景色の中を走りだそうとした妹を慌てて止める。いくら見晴らしがよく、危険も少ないだろうとはいえ、それで絶対大丈夫なわけではないからだ。
俺のレアスキルである「転移」は、俺自身または俺が触れているものを任意でとぶことも、またはとばすこともできる。逆にいえば、俺から離れたものを転移させたり、任意なので俺が認識していないものを転移させることはできない。このレアスキルはすごく便利だが、万能というわけではないのだ。
昔、俺はこのレアスキルで色々実験したことがある。某かきくけこさんの能力だったり、あこがれのマホカンタとかできるんじゃね? とか思ったからだ。
でも結果はほぼ惨敗。もう1つある欠点も理由の1つだが、一番厄介だったのが「任意で発動する」ことだった。俺には常人以上の反射神経もなければ、向かって来る魔法に真正面から触れて転移させる勇気もなかった。というか怖いし、タイミングをしくじったら大怪我する博打をするぐらいなら避ける。転移で逃げる。転移使って堂々と全力で逃げる。
まぁ俺の転移はそんな感じなわけで、とにかく触れていなければ効果を発揮できない。そのためアリシアと距離が離れていると、咄嗟のとき助けられないのだ。なので、放浪している間は妹とできるだけ手をつないでおくように、俺は心がけている。
「むー」
「そんなハムスターみたいに頬を膨らませても、危ないものは危ないの」
でも妹はちょっと不満そうだ。確かに一面雪景色を思いっきり走り回ってみたいのはわかるな。
「……妹よ、名案が浮かんだ」
「めいあん?」
「名案は…、こう頭のここらへんに豆電球がついたような気がすること」
妹の頭の上に『? マーク』が見えた気がした。いきなり応用技を会得してくるとは、なかなかやるじゃないか。とりあえずそんな感じだと、上手にできたことを褒めておいた。妹の頭の上にさらに『?』が乱立していた。そんで俺褒めた。わぁ、これがループ。
「1人で走るのが危ないなら、お兄ちゃんと一緒に走れば問題ない」
「お兄ちゃんと走るの?」
「あぁ、そうだ。……アリシアよ」
俺はにやりと不敵に笑ってみせる。一度言ってみたかったあのセリフ。俺はアリシアより一歩前に足を踏み出し、そのまま語りかけた。
「――――ついて来れるか」
「お兄ちゃん、ながぐつが脱げてる」
「…………」
一歩進んだ時、かたっぽ雪に埋まって脱げてしまった長靴を、いそいそと無言で装備し直す俺。
……かっこよく決まったはずなのに。なぜか長靴が雪から抜けなかった。なんでか抜けなかったんだんだよ! こんちくしょう!!
「もう……走る! とにかく走る! めっちゃ走るぞ、アリシア!!」
「えっ、えぇ? お兄ちゃん、なんでそんなに泣きそうなの!?」
「そこはバシッと決めろよ俺っ! 黒歴史作っちまったじゃねぇかぁーー!!」
俺は妹と手を繋いで、とにかく我武者羅に雪景色を駆け抜けました。
途中でまたしても長靴がすっぽ抜けて、ずっこけた俺たちは真っ白けっけになりました。
******
《新暦37年 夏 NO.19》
『アリシアについて』
俺たち兄妹は様々な場所に転移しては、いつも遊んだりしている。
将来事故が起きるとはいえ、全てをそれに集中できるわけではない。もちろん俺としても、ヒュードラについてちゃんと調べたいし、対策だってじっくり練りたい。
だけど、アリシアを1人ぼっちにさせてしまうのは嫌だった。俺たちの未来がかかっているとはいえ、だからといって『今』を蔑ろにしたくはなかった。
俺がリリカル物語を読んでいて結構思ったのは、本当になのはさんたち9歳児? と思うほど精神的に成熟している場面が何回かあったことだ。だっての○太君こそが本当の子どもの姿だと聞いたこともあるし。
でもそれはアニメだからという理由もあるだろう。環境としての要因もあるだろう。けれど正直小学3年生の思考でも、14歳で執務官の仕事をしているクロスケ君も、普通の子どもとはどこか違うと感じた。
社会人になったことのある俺でさえも、責任という言葉は重いし、今だって本当に怖いと思う。それを10代前半ぐらいの子どもが背負っている。怖くないのだろうか。そうならざるをえない環境。子どもらしくない子ども。俺個人としては、疑問に思うことはある。
だけど疑問に思うだけで、俺は別に成熟していることが悪いとは思わない。実際ミッドでは多いらしいし、次元世界ではそれが普通なのかもしれない。そのおかげで俺もこの世界に溶け込めている。
世界が違えば、価値観だって変わる。俺がなのはさんたちに感じる違和感が、ここでは場違いなものなのかもしれないし、変わらず正当なものなのかもしれない。
それでも、俺はアリシアには年相応の子どもとして、無邪気に笑っていてほしいと思った。
原作ではアリシアはいつも1人ぼっちだった。母さんが仕事に出掛けている間は、彼女がいたとはいえ、ただ広い家にずっと1人で母さんを待っていた。
アリシアは自分の気持ちを素直に伝えられる子だけど、母さんのためならそれを押しこめてしまえるだろう。想像だけど、妹は母さんにわがままを言うことはあっても、きっと「寂しい」とは彼女は絶対に言わなかっただろう。ただ母さんを心配させないように笑っていたかもしれない。母さんの力になれない自分を悔いていたかもしれない。
そこまで考えて俺は、主人公である高町なのはとアリシアはなんだか似ているな、とふと思った。色々細かい差異や経緯は違っているけど。でも、そんなにも間違ってはいないと思う。2人は家族に愛されていた。けど無力感や孤独感はお互いに感じていただろうから。
なのはさんは強い。でも自分のことを二の次に考えて、誰かのために行動してしまう危うさも持っていた。俺はもしこのままアリシアを1人ぼっちにしてしまったら、なのはさんのように無茶をしてしまうのではないかと思った。
もちろん低い可能性かもしれないし、誰かのために頑張れることはすごいことだ。だけど、もしアリシアがなのはさんみたいに大怪我をしたらと思うと、俺は気が気でなかった。
だから俺は兄として、家族として、妹の傍にずっと一緒にいるし、妹のわがままを聞いてあげられるような存在になろうと思った。アリシアが寂しいなんて思わないぐらいに楽しませて、母さんのためにできることを一緒に考えて、みんなで嬉しさを分かち合えるようになろうと思った。
この積み重ねていく日々を、バカやって、笑いが絶えない毎日を作っていく。きっと今の俺にしかできない、大切なことだと思っているから。俺は妹と一緒にいたいと考えたんだ。
だから…決して俺が、妹が「OHANASHIする?」とか「頭を冷やそうか…」とか言い出して、『金の魔王様』なんて呼ばれる子になったらまじでやべぇ! とかそういう考えはありませんでしたよ。えぇ、ありませんでしたとも。 ほんの少しだけ……いや、ちょびっとだけ……よぎりはしたかもしれないけど…、うん。
******
「つべたい…」
「ごめんなさい」
さすがに素直に謝りました。お互い真っ白になってしまったので、2人で帽子や服に付いた雪を払い落としていく。なかなか雪が取れなくて、悪戦苦闘する俺は突如ひらめいた。逆転の発想。某大佐なみのパッチンをしていた青年のように言えば、チェス盤をひっくり返したとでもいうべきだろうか。
そうだ、どうせもう真っ白なら、もっと真っ白になってもいいんじゃないかと…!
「アリシア、雪合戦するか」
「する!」
即了承する妹。相変わらず元気だなー、でも子どもは風の子、元気な子って言うし。よく2人で布団を取りあっては、家でごろごろすることはあるけど。まぁ元気であることには変わりはないよな。
「いくぞー、アリシア!」
「うん!」
妹に声かけをし、早速雪合戦の開始である。
俺はあまり雪を固め過ぎないように丸めていく。怪我したら大変だしね。妹はなかなか雪を丸められなくて、苦戦しているようだ。
だが、これは勝負。一度対決すると決めたからには、お兄ちゃんは手を貸しませんよ。一応ちらちらと俺の作り方を見る妹に、見えやすいようにゆっくり作ってはいるけど。あっ、完成した。
「食らえ、先制攻撃!」
「きゃー!」
投げた雪玉が見事命中。雪ん子アリシア完成。
「むー、おかえし!」
出来上がった雪玉が俺に迫ってくる。なので俺はひょいと避けた。その後も、アリシア当たる。俺避ける。という白熱した攻防が繰り広げられたのであった!
「ふふふふ。残念無念、そう簡単には当たりはしないん、ぶはぁっ!」
突然不意打ちされました。え、あれ? ちょっとアリシアさん。なんか目据わってない? 雪玉じゃなくて、雪そのものを下から巻きあげてきたよ、この子。
「お兄ちゃん」
「え、はい」
えっとその、あれだ。ごめん、ちょっと調子にのりました。めちゃくちゃノリノリでハッスルしていました。だから、『少し頭を冷やそうか…』という副音声が聞こえてきたのはきっと幻聴だよね!?
「ちょっ、ま、待ってアリシアさん。話せばわか、げふぅッ! げほぉっ、ごほっ。い、妹よ、雪を下から巻きあげないで! さっきから俺の鼻にダイレクトに攻撃されて、ぶふぉあァーー!!」
「むー! むーー!!」
妹に逆襲されました。
******
あれから妹様の機嫌も直り、一緒に雪だるまを作ったりして遊びました。たくさん遊んだし、疲れたのか、家に帰った途端に妹はばたんきゅーしてしまった。今はすやすやと寝息をたてている。
母さんが帰ってくるまでまだ時間がある。そう判断した俺は、リビングのソファに座り、懐から1冊のメモ帳を取りだす。
メモ帳は、母さんがヒュードラの開発に携わるようになってから付け始めた。俺が覚えている限りの情報を、俺が思ったことや感じたことを書き綴ったメモ帳。
とにかく思ったことをひたすら書いたな。説明っぽい書き方にしたのは、俺自身の思いをこれから先も忘れないようにするため。書き始めた理由は、俺の頭でずっと情報を覚えておくのは無理そうとか、頭の中で考えすぎると悟り開いてしまうかもしれなかったためだ。もともとメモを書くのが好きだったのもあるけど。
俺はパラパラとメモ帳を眺める。結構溜まってきたな。そろそろ情報の整理とかしないと駄目かねぇ。ちなみに《NO.19》のメモを読んで、ちょっと遠い目をしてしまったのは忘れる。いや、きっと大丈夫なはずだ。あの副音声は空耳だったんだ。魔王ルートはなんとしても阻止しよう。そうしよう。
このメモを書き始めて約1年。俺自身の現状を知るのにとても役に立っている。あとは日記のようなものもいくつか書いている。というかメモの半分以上、あんまり役に立たなさそうなものもあるけど。やっぱ今度整理しよう。
とりあえず今日のメモを書いていこう。俺は筆記用具を取りだし、《新暦37年 冬 NO.31》と記入する。題名はそうだなー。やっぱりいろいろ考えたいし、これでいいか。
『妹の悪魔とか魔王フラグ圧し折り計画。でも小悪魔な妹も意外に可愛い気が…』
アルヴィンは結構引きずっていたのであった。
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