ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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フェアリー・ダンス編
世界樹攻略編
総力結集――神に挑む戦士達
Side セラ
「ねぇ……セラちゃん。僕状況が飲み込めないんだけど……」
「安心なさい。私もだから」
アルンにはレコンも来た。こんなに一途なのに相手にされないのはかなり不憫だ。
2人の目線の先には剣を交えるキリトとリーファ。
……それで吹っ切れるならいいんだけどさ。
「行くわよ。レコン」
「え?何処に?」
「世界樹」
襟首をガシッ、と掴むとじたばたするレコンを空輸していった。
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しばらくして連れだって歩いてきた2人を見て、レコンが何が何やらといった様子で困惑し、世界樹を4人で攻略すると言うと、思考回路が溶融気味になったようで、口をパクパクさせている。
「ユイ、あの戦闘で解ったことはあるか?」
キリトが訊ねると、ユイは真剣な表情で頷いた。
「あのガーディアン達は1体ずつなら大した強さではありません。ただ、湧出量がゲートへの距離に応じて比例してどんどん増えていっています。あれでは……攻略不可能な難易度に設定されているとしか……」
キリトはしばし黙考した後、顔をあげた。
「……すまない。もう一度だけ、俺の我儘に付き合ってくれ。なんだか嫌な感じがするんだ。もう、あまり猶予がないような……」
リーファと私がすぐさま首肯し、レコンも渋々頷いた。
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Side リーファ
世界樹の根本の扉が開き、キリトの合図と共に飛び出す。
キリトとセラが前衛として特攻し、残りの2人がヒールを詠唱する。
守護ガーディアンが湧出し、キリト、セラと激突する。
一回の激突でその場にいるガーディアンは全滅した。
「……すげぇ」
キリトが強いのは先程、知った。だが、彼女は長い間パートナーとして戦っていたセラの強さも初めて知った。
このゲームを始めるにあたり、沙良は直葉と慎一にこう告げたのだ。
『私が本気になるのはこのゲームがゲームで無くなったとき』
まさに今がその時だ。
彼女の剣の間合いにはどんなに大勢のガーディアンがたかろうと、一匹も入れない。
だが、ゲートまでの距離が半分に達したとき、キリトにヒールを掛けると、ガーディアンの一群が奇声をあげてリーファ達に向かってきた。
「奴等はあたしが引き付けるから、あんたはこのままヒールを続けて!」
レコンだけでもヒールを続けなければキリトのHPが底を尽く。
だがレコンは、待って、と腕を掴んだ。驚いて振り向くと、緊張に震えた、しかし、何時になく真剣な表情で言った。
「リーファちゃん……、僕、よく解んないんだけど、これ、大事なことなんだよね?」
「―――そうだよ。多分、ゲームじゃないのよ、今だけは」
レコンは頷くと、リーファの前へ出て言った。
「……あのスプリガンにはとても敵わないけど……ガーディアンは僕がなんとかしてみるよ」
言うないなや、レコンは飛び出していき、ガーディアンのタゲをとる。
迫り来る巨剣を危なっかしく回避し、ヒールが届く度に増えるガーディアン達の標的をを一手に引き受ける。
「……レコン……」
だが、それはいつまでも続くわけではない。剣尖のひとつがレコンを捉え、レコンは大きく体勢を崩す。
「レコン、もういいよ!外へ逃げて!」
だが、レコンはちらりとこちらを見て笑った。
――次の瞬間、轟音が鳴り響き、ガーディアンと爆心地のレコンが消滅した。
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Side セラ
レコンの自爆魔法により下のガーディアン達は大分片付いた。
キリトと背中合わせに戦いながらちらりと視界端の時計を確認する。
あと、もう少し―――
「うおおおおおおお!!」
キリトが絶叫し、さらにスピードをあげて突き進む。
ガーディアンの一部が動きを止め、魔法の矢を放ってくる。
「くっ………」
私もここまでは1人で行けたが、この矢にやられた。
懸命にそれらを弾くが、何本かが刺さり、減速する。
その時、世界樹が鳴動した。
根本から響くプレイヤー達の叫び声、古代級武器や防具に身を包み、突き進むシルフとケットシーの連合部隊。
「すまない。遅くなった!」
シルフ領主のサクヤが声をあげる。セラは突撃する両種族の戦士達と入れ替わりにその場に駆けつける。
「ごめんネー、レプラコーンの鍛冶匠合を総動員して準備を整えるのにさっきまでかかっちゃんだヨ~。スプリガンの彼から預かった分も合わせて、うちもシルフの金庫もすっからかんだヨ!」
「……つまり、ここで全滅した両種族は破産、と?」
「だな(ヨ!)」
呆れを通り越してもやは爽快だ。ここまでさせた彼はいやはや……どれほどの器なのか。
「さて、我々も行こう!」
サクヤの号令でリーファと頷き合い、先頭のキリトの方を見る。アリシャが高く右手を上ゲ、よく通る声で叫んだ。
「ドラグーン隊!ブレス攻撃用ーー意!」
次いで、サクヤが扇子を掲げた。
「シルフ隊、エクストラアタック用意!」
奇声をあげて斬りかかってくるガーディアン達をギリギリまで引き付け―――
「ファイアブレス、撃てーーーーーッ!!」
何百何千というガーディアンが紅蓮の焔に焼かれ、消滅する。
だが、無限に湧出するガーディアンの群れはもはや、その塊自体が1個体とでも言うようにうねりながら向かってくる。
「フェンリルストーム、放てッ!!」
緑色の雷がガーディアンの群れに突き刺さり、またもやガーディアンの数が減る。が、
「ここまでとはな……」
今だにゲートすら見えない。
湧出量がもはや秒間数百体もかくやという勢いで湧いてくる。
今のところ、撤退する程ではないが、それも時間の問題だ。
その時、
「ゴアアアアアァァァァァァァッ!!」
ケットシーのドラグーンよりも野太い声と共に巨大な竜がガーディアンをなぎ倒しながら突き進んでいった。
「よっ、と」
3人が唖然として見つめるなか、その背に乗っていたうちの1人が降りてくる。インプの男性プレイヤーだ。
「悪い、セラ。遅くなった」
「いいえ。問題ありません。お兄様」
「「「お兄様!?」」」
唖然としていた3人が今度はすっとんきょうな声をあげる。
「どうも。セラの兄であの真っ黒野郎の友人のレイです。以後お見知りおきを」
恭しく(演技)頭を下げるレイに領主達もリーファも完全に飲まれている。そこに、
「ちょっと、レイ。何楽しそうに談笑してんのよ!!手伝いなさい!!」
上から小さな影が降って来てレイに蹴りを叩き込む。
「いだぁ!?何しやがるヴィレッタ」
「うるさい!あんたが集めた攻略部隊でしょ。あんたが指揮取んなさいよ!」
「へいへい。……んじゃ、行くぞ!!」
言うと背と腰からそれぞれ刀を抜き放ち、急上昇していく。
ヴィレッタはこっちをじーっと、と睨むとフン、と鼻を鳴らして上昇していた。
「ヴィレッタ……だよね?あの子」
「まぁ、お兄様にかかればあのじゃじゃ馬も乗りこなすでしょうね」
手練れのPKプレイヤーとして名を馳せる彼女も仲間にしていたのは知らなかった。
レイ達が参戦したことにより、再び好転した戦況も既に佳境に至りつつあった。
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Sideレイ
「キリト!!」
先頭で鬼神のごとき強さで暴れるキリトに追い付き、2本の刀でガーディアンを次々と斬り倒す。
「レイ、遅えよ!!」
「悪い悪い。……っと!」
下と上から挟み撃ちにしてきたガーディアンを返り討ちにし、2人でさらに上昇していく。
「おおおおおおおっ!!」
「はああああああっ!!」
無限に湧き出るガーディアンを今までの倍のスピードで斬り伏せ、上へ上へ昇っていく。
「キリト君!!」
セラと一緒に居たシルフの女剣士が自分の刀をキリトに投げる。
それを見た俺はムラサメをセラに向かって落とした。
「使え、セラ!!今のお前なら出来る」
沙良は二刀流に忌避感を持っていて、当主継承権を持つ者の中で唯一、『二天一流』を修得していない。上手く2本の刀を扱うことが出来ないのだ。だが、
「…………っ!!」
ガーディアンの剣を左の刀で弾き、返す刃と右のムラサメで敵を切り裂く。後ろから忍び寄ったガーディアンを回転しながら斬りつけてその後方へ抜ける。
二刀流に苦手意識を持っていた彼女の影は何処にも見受けられない。
(……おめでとう。沙良)
妹の成長を嬉しく思いながら、自分も2本目の刀を抜き放つ。
「行けるか?キリト」
「当然だ!!」
今なら出来ると確信した。
右に紅蓮、左に白蓮。
2つの刀が互いを求めるようにそれぞれの光を、強く、明るく、眩く。
これを使うときは誰かと共に戦うことを許されない。
ただ1人で嵐のように剣を振るう。だが、今ばかりはそれに逆らおう。
キリトのために、アスナのために、俺達をここまで助けてくれたたくさんの人達のために。
「行くぞ……『八葉蓮華』!!」
それはこの世界に存在しないはずの武器。
本来ならば何も起こりはしないだろう。
だが、それは姿を表した。
1人で戦うための究極の戦闘スキル『両刀』。
その唯一の使い手である『紅き死神』。
ユニークスキル……正式名称、ユニーク・インカーネーション・ソードスキルシステム(UISS)。それはシステムがプレイヤーの心を読み取り、具現化させる茅場晶彦が心血を注いで作り上げた超常システムだ。
速さと強さを求めた者に《二刀流》が、信念を貫き通す強固な意志を持つ者に《神聖剣》が、大切なものを守りたいと思う者に《無限の音階》が、そして並ぶもの無き絶対の力を望み、かつ、それに際限なく貪欲な者に《両刀》が宿る。
事前に設定されたユニークスキルに《無限の音階》や《両刀》は存在しなかった。ユニークスキルのジェネレート。カーディナルが搭載したUISSの真の力だ。
幸運なことに、ALOはSAOのコピーサーバー、つまりフルスペックカーディナルそのままを使用している。
UISSがALOに《両刀》を作ったとしても何ら不思議でもない。
「「おおおおおおおおっ!!」」
ガーディアンの防衛線を破り、円形のゲートに到達する。
だが、ゲートは開かない。
「……開かない……!?」
キリトがゲートに体当たりするが傷1つ付かない。
「ユイ――どういうことだ!?」
胸ポケットから出てきた小妖精は俺に一瞬笑顔を向けると、扉をひと撫でした。
「パパ、にぃ。この扉は、クエストフラグによってロックされているのではありません!単なる、システム管理者権限によるものです」
「「な……」」
つまり、プレイヤーには絶対に開けられない。
「あんのクソ野郎……」
即座にナーヴギアに仕込んだあるものを起動さようと考えるが、それは杞憂に終わった。
「ユイ――これを使え!」
キリトが取り出したのはコンソールにアクセスするためのカード。
(……なるほど、上手くやったな、笠原)
「コードを転写します!パパ、にぃ、掴まって!!」
ユイの小さな手を握った途端、体がデータの奔流になってゲートの中に入った。
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「ふう……」
意識の空白は一瞬。だが、現れたその場所には強烈な違和感を感じた。
「大丈夫ですか、パパ、にぃ?」
「ああ」
ユイはピクシーではなく、元の10歳程の姿に戻っていた。
「久しぶりだな、ユイ」
「……はい。会いたかったです、にぃ」
一緒に居たのはほんの数10時間だけ、だが『会いたかった』と言われると、ずっと自分もそう思っていたように感じた。
「ユイ、ここは世界樹の中なのか?」
「……判りません、ナビゲート用のマップ情報がこの場所には無いようです」
ユイも困惑しているようだ。
「アスナの居る場所は判るか?」
キリトが聞くと、ユイは一瞬目を閉じ、すぐに大きく頷いた。
「はい、かなり近いです。上の方……こっちです」
ユイに付いていくと、そこにはよく見慣れたものがあった。
「おいおい……」
どうやらアルフは科学が発展していて、エレベーターまであるらしい……ってんなわけあるか!!
おちょくってんのか!とキレそうになるが、キリトが躊躇なくボタンを押すので苦笑する。
乗り込んで、ドアが閉まったあとに上昇感覚までもあったことに呆れ果てながら、止まったフロアに降り立つ。
そこには―――
「無いじゃないか……空中都市なんて……」
ただ、巨大な幹があるだけだった。
「キリト、アレだ」
だが、俺はその幹の先にある鳥籠を発見していた。
「…………っ!!」
だっ、と走り出すキリトとユイ。
慌てて後を追い始めた俺は、その刹那に嫌な気配を感じ取る。
どうやらこっそり、とはいかないようだ。
後書き
次回、ついに決着がつきます。
そして、レイ/螢の最後の裏設定が明らかに!?ヒントは『失った力』
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