ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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フェアリー・ダンス編
世界樹攻略編
天上へ至る道
前書き
……長くなっちまった。
とてもあと1,2話では終わんないorz
Sideアスナ
妖精の世界に夜が来る。現実世界は真夜中の筈だ。
横にしていた体を起こし、鳥籠の鍵に近寄る。
「3……2……9」
鏡を利用して覗き見た番号を押していく。最後のボタンを押し込むと、僅かに扉が開いた。
思わず右腕を曲げてぐっ!と拳を握り、それがキリトがよく見せていた仕草だと気づいて笑いを浮かべる。
「キリト君……私、頑張るからね」
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囚われていた《世界樹》なるもののあまりの巨大さに舌を巻きつつ進んでいくと、アスナは遂に枝と幹の接合部分に到達した。
そこにはうろのような穴が空いていて、中を覗き込むと明らかに人工的な造りが見えた。
奥にあったドアに近寄り、てを触れて開けてみる。
内部はオフホワイトの直線的な通路だった。薄暗く、オレンジのライトが壁を照らしている。
しばらく行くと、施設の案内表示があった。それを見る限り、どうやらこの場所には《コントロールルーム》という物しかない。
下の回には《データ閲覧室》、《主モニター室》だのがある。
取りあえずは下に行ってみようと、案内板から目を逸らそうとした時、《コントロールルーム》の下に小さな字で《緊急ログアウト可能》と書いてあった。
「………!!」
《コントロールルーム》というからには誰かいるかもしれないが、ログアウトという言葉を見て行かないわけにはいかない。
足音を潜めながらその部屋まで来ると、中に男が1人いた。
髪はボサボサで何処か不健康そうな印象がある。
「……隠れてないで出てきな」
「………っ!?」
男が操作しているコンソールから目を離さないまま言ってくる。
「はぁ……もう一度言いまーす。出てきな」
「…………」
観念して姿を晒すと、手招きして中へ入るように促す。
おとなしく従うと、背後の出口が消える。あわてて駆け寄るが、開く様子がない。
「……私をどうするつもり?」
「いや、どうもしない。俺は君を待ってたんだよ」
「え?」
そこで初めて男はこちらを向いた。第一印象と変わらず、不健康そうで無気力な顔だ。
「信じろとは言わないが、取りあえず言っとく。俺は敵じゃない。だからと言って君の味方ではないけどね」
「……どういうことですか?」
男は面倒くさそうに頭をガリガリ掻くと、脇にある棚を漁りながら説明を始めた。
「俺は国家特務機関ホークス第三師団所属、開発主任―――って、コレ言って良かったんだけ?……まぁ、いいや。君、忘れたまえ。笠原達也だ」
「は、はぁ……」
「単刀直入に言って隊ちょ……じゃなくて、水城螢っていう人をこき使うことに関しては超一流のやつに依頼されてあのボンクラ科学者の所でスパイやってる」
……どうやら本当に敵ではないらしいが、そうだとしても心配だ。ごそごそと漁っていた棚から1枚のカードを取り出すと、アスナに渡してくる。
「とまあ、そう言うわけで敵ではないのが理解できたかな?それはGM権限にアクセス出来るカードだ。無くすなよ」
「……はい。それで、味方ではないというのは……?」
「……そうだな。済まないが、俺は君を助けてあげることは出来ない。俺が君を待っていたのは、ボンクラ科学者の研究成果を破壊するついでなんだ。今、敵だと明かすのはごめんだ。何より、君のアカウントには何重ものロックが掛かってて俺の権限じゃ解除出来ないし、そのせいでコンソールを使ったログアウトも不可能だ」
「…………」
「心配することはない。うちの隊ちょ、じゃなくて、水……もういいや。隊長と君の騎士様がもう、すぐそこまで来ている」
最後に、笠原はアスナに渡したカードを指しながら言った。
「それが有ればこの世界樹の中に入れる。これから鳥籠に戻ってもらうけど、彼らが来たらそれを落とすんだ」
アスナはカードをギュッと握りしめた。
「……済まんな」
笠原はもう一度アスナに謝ると、扉を開き、鳥籠まで送っていった。
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Side蓮
「……分かりました。蓮兄様も納得されるなら……」
「やれやれ、だけどな……」
浮かない表情の沙良を連れて蓮は商店街に来ていた。
暗い話をするならせめて賑やかな場所でという計らいだったが、あまり効果はなかったようだ。
(……それにしても)
この義妹を連れて人混みを歩くと目を引く。自他共に認めるシスコンである自分の色眼鏡抜きで見てもこいつは十分に美少女だ。対して自分は多少背が高いだけで平凡な顔立ちだ。その証拠に彼女など居たことはないし、バレンタインは毎年、この義妹からしか貰ったことがない。
だがそれは螢も然りで、あいつの場合は同性同年代の友人も居なかった。その代わり、権力者の大人達の人脈が物凄いが。
「沙良、何か欲しいものあるか?」
「……はい?」
「暗くなってても仕方ないぞ~。今日は大事な日なんだろ?何か欲しいもの、買ってやるよ」
混乱する沙良の手を引き、アーケード街の奥に進んでいく。
(……何か、久しぶりだな)
権利があるのに家督を継がず、独立していった年上の義兄達。
幼いころは彼らに手を引かれ、色々な所に行った。最も多い時期で10数人規模の大兄弟だった水城家も今ではたったの3人だ。
ことさらに、螢が家を出ていって沙良が中学に進学してからは自分は家でひたすら鍛練を重ねていただけだ。
(……それももう終わりだな)
螢が家に戻ってきて、自衛隊に正式入隊する沙良も、もう卒業する。非番の日は家に居るだろう。
また、あの日々のような暖かな時間が戻ってくるのを感じて蓮の心は弾んだ。
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Sideセラ
いきなり欲しいものと言われても思い付かなかったので、何の気なしに入ったVRゲーム専門店でALO内のアクセサリーを模した実寸大ペアアクセサリーを購入した。
取り扱い説明書に付随していたシリアルコードを入力すると、ゲーム内で同じものが手に入るというので、やってみた。
チリーン、と宙が光り、ブレスレットが2つ出現する。アイテム名は《風の数珠》。素早さに少しのブーストが掛かるようだ。
1つだけ付けてもう1つをしまっているとき、リーファが現れた。
「リー……ファ?」
彼女は少し、悲しそうだった。
「どうしたの?」
「…………っ」
リーファ/直葉はちょっとやそっとのことで泣くような柔なメンタルの持ち主ではない。
だから、こっちに寄って、泣きついて来たのはびっくりした。
「……直葉」
彼女の本当の名前で呼び掛ける。何があったのかは分からない。しかし、それを聞くような真似はしなかった。話したかったら自分で話が出来る子だと知っていた。
「沙良……あのね。あたし、失恋しちゃった」
「………そう」
まず、誰かを好きだったことに驚いたが、まず真っ先に感じたのはレコン/長田慎一への同情だ。
「ごめんね。リアルのこと、ここに持ち込むのルール違反なのに……」
「別に、いいわよ。直葉もリーファも同じ人なんだから」
相手が誰なのかは分からない。だが、きっとその人も直葉のことが嫌いなわけではないだろう。他に、大切な人が居るのかもしれない。
しばらくセラの胸に顔を埋めていたリーファは勢いよく顔をあげると言った。
「よし。もう大丈夫!それにしてもキリト君遅………」
振り返った視線の先には目を泳がせている黒衣の少年と微妙に頬を赤くして口許を押さえている小妖精。
「や、やあ。2人とも。おはよう?」
アルヴヘイムの時間的には、おはようが適切だが、疑問形なのはやはり動揺があってのことか。
セラは必死に言い訳を始めるリーファに苦笑しながら立ち上がった。
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大通りを数分歩くと、アルン中央市街に続く階段があった。
それを上り、門をくぐろうとした――、その時
「ママ……ママがいます」
キリトの胸ポケットからユイが顔を突きだし、上空を指して言った。
「本当か!?」
「間違いありません!このプレイヤーIDは、ママのものです!」
突如、キリトは羽を広げると、上へ飛んでいった。
「ちょ……ちょっと、キリト君!!」
リーファが慌てて追いかける。
こうなることは大体予想できていたため、無理に追随する真似はしない。そもそも彼の手伝いは『アルンまで』と兄に言われていた。
もちろん、彼やリーファに頼まれれば攻略に付き合うつもりではいたが、今は特にどうするつもりもない。
しばらくすると、キリトだけが降りてきた。
「セラもありがとう。君とリーファのお陰でここまで来れたよ」
「どういたしまして。もう少しすればお兄様も来るとは思いますが……もう行かれますか?」
「ああ。あと少しでも待ってたら発狂しそうだ」
私は黙って彼に道を譲る。
最後にユイの頭をひと撫でし、後方に下がる。
『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ至らんと欲するか』
世界樹に挑戦する者への確認メッセージだ。
『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』
4ヶ月前、本気を出して挑み、知った、このクエストの実態。
「御武運を」
「ありがとう。行くぞ、ユイ」
「パパ……頑張って」
無限に出てくる守護兵達。あれを1人で攻略するのは不可能だ。
いや、いかなる軍勢を以てしても可能性はゼロに近い。
「………セラ」
降りてきたリーファが声を掛けてくる。
「どうするの?」
私はそれに質問で答えた。
「ここは1人では無理よ。彼がどんなに強くてもね」
「あたしは………」
リーファは泣きそうな声で言うと、俯いてしまう。しばらくして顔をあげ、無言で開いたままの扉へ走って私の脇を通り過ぎていった。
「……複雑な人ね」
その言葉は誰にも聞かれず、扉に吸い込まれていった。
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数分後、リーファは黒いリメインライトを抱えて出てきた。
リーファはウインドウから《世界樹の雫》という蘇生アイテムを取り出すと、その残り火にかける。その間に私は回復魔法でリーファのHPを回復させる。
彼女は今、目の前の少年を想うあまり、周りが見えていないようだった。
悲痛な声でキリトを引き留めている。そして、その言葉は妙に響いた。
「あそこに行かないと、何も終わらないし、何も始まらないんだ、もう一度……」
「もう一度……アスナに」
私はふぅ、とため息をついた。『アスナ』という言葉を聞いた瞬間にリーファの表情が明らかに変わった。
酷い話だ。直葉は義兄である和人を好きになり、リーファはキリトを好きになった。
和人に失恋し、キリトに恋をしようとした。だが、それもかなわない……。
2人の短いやり取りの後、リーファはウインドウをを開くと、この世界を去っていった。
取り残されたキリトは困惑気味な目で問い掛けてくる。
「君は、知っていたのか?」
「はい」
「何で……教えてくれなかったんだ!!」
「聞かれませんでしたし、そもそもリーファのリアルをわざわざ教える必要もなかったので」
「…………くそっ!」
正論で返され、何も言えず、彼もまた現実に帰っていく。
やれやれと首を振り、その場に座り込んで空を見上げた。
後は彼ら次第だ。
もし仮に、自分が螢や蓮に恋をしたとして、彼らは何と言うだろうか。驚くか、笑って一蹴するか、はたまた受け入れてくれるのか……。
「……無いわね」
特に螢がなびくことは無いだろう、彼には一途に想い続けている人がいる。蓮は……よく分からない。
手に付けた数珠を眺めながらそんなことを考えた。
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時は少し進む、
その集団が進む先は人垣が割れていく。それは最後尾に控える巨大な竜のせいだけではない。
その集団を構成する10人の1人1人がただならぬ存在感を出しているからだ。
先頭を歩くのは腰に漆黒の刀を差し、背に巨大な太刀を背負った闇妖精だ。
――後に、アルヴヘイムのプレイヤー達はそのギルド名をを畏敬を持って呼ぶことになる。
――同時刻、アルン中央市街
辺りにいたプレイヤー達は興奮の色を隠さず、その集団に目を向ける。
シルフとケットシーの有名プレイヤー達や、ケットシーの竜騎士隊はドラゴン達までも揃って古代級武器に身を包み、先頭に立つ領主達の号令を待っている。
総勢68名。間違いなく、この世界における最強戦力だった。
領主達が顔を見合せ、戦士達に号令を送る。
ときの声をあげ、その大集団は世界樹に突撃していった。
後書き
50話で切りよく終わらせようと頑張りましたが、無理でした(笑)
もう少し、お付き合い下さい。
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