儚き運命の罪と罰
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第二章「クルセイド編」
第二十話「ツァーライト一味の闘争」
前書き
今回はテンションが上がりますよおおお!!!
久しぶりにフェイトとアルフとバルディッシュ以外の原作キャラクターが関わってくるぜええ!!!
それは果てしなく幻想的で神秘的で、それでいて背徳的でさえあったような気がした。
「リオン……?」
燃える火の中からエレギオは黒い光に包まれたフェイトとリオンを見た。
リオンは笑っていた。心の底から穏やかに。
それでいて心の底から獰猛に笑っていた。
そして彼は右手を振り上げた。
「な、何しようとしてんだアイツ!」
リオンの右手は四角形の図形を描いていた。それはリオンが決して使わない力のはずだった。
魔法
四角形のミッドチルダ式の魔方陣。それを右手で描く。
傍目に見ても滅茶苦茶な方式だった。魔法のプロフェッショナルであるエレギオの眼から見て到底成立している術式には見えなかった。無理もない。リオンは魔法に関しては素人だ。戦闘技術は常人のそれを遥かに超えていたが魔法に関してはその存在を知ってからまだ日が浅い。素人と言うよりも触れたことすらない技術。だがそれではなんの力も発揮しないはずだった。
だがリオンはその右手の魔方陣を勢い良くフェイトに振り下ろした。
「アポカリプスノクターン!!!!」
閃光がほとばしった。
「っくう!?」
歴戦の魔道士のエレギオですら目を覆った。炎の対処が少し送れバリアジャケットが焦げる感触がした。
だがそんなことは気にも留めなかった。嗚呼、リオンの手先から流れる光は一体何なのだろう。回復魔法も数多く見てきたエレギオだったがあれ程の物は見た事が無い。よもや魔法を通り越して奇跡とさえ言えるかもしれない。とてつもない力だった。そしてその黒曜石のように黒く光る魔力のようにも思えて違うようにも思える力の波動が拡散する。
その光は冷たい。比喩でもなく本当に温度を感じる。だがその冷たさが逆に心地よい風を思い起こさせた。
そして唐突にその力の奔流は収まった。
「うう……なんだったんだ今の……」
そう言って眼をこする。周りの炎は障壁で抑えてリオンを見た。
エレギオは絶句した。
絶対に不可能だと確信したフェイトの治療がほぼ完成していた。直後エレギオはリオンが何をしたのかを理解する。
リオンは魔力を使って晶術に強化をかけたのだ。恐らくスプーキーとモールの話がヒントになっているのだろう。魔力と晶力の波調は似ているという話だ。力が足りないなら出力を増やせばいい。呆れるほど単純な考えだったがそれは晶術と言う異能を自由自在に操るリオンとシャルティエだからこそできたのだろう。他の誰にも――希少技能を持ち晶術と言う力の観測に成功したエレギオにだって真似はできない。
「……すげえな」
素直にエレギオはリオンを賞賛した。
「大した奴だお前は」
もう炎を抑える必要も無い。エレギオはリオンの方を叩いてそれ以上の最大級の賛辞を送ってやろうとした。
だがリオンはまだ魔法を手探りでしか使えない。故にあの強化も理論を無視した無茶苦茶な公式で成立させて訳である。使用者の安全さえ守れないような無茶苦茶な公式を使ったのだ。それが何を引き起こすのかは明白。リオンはゆっくりと膝を突いて倒れた。
「リオン!? おい、しっかりしろ!」
「え、あう、う!?」
俄かには信じられなかった。リオンはフェイトの上に。丸で彼女をを守るかのように覆いかぶさって、簡単な言葉も忘れてしまったように赤ん坊のような言葉しか発せなくなっていた。リオン本人もその事に驚いたのか自分の口元に頑張って手を伸ばそうとしたが丸で届かない。腕のほうがリオンの意志を拒絶している……そんな風にさえ見えた。
だがエレギオはこの症状を知っている。これは魔法の自分の限界以上の使用による演算で脳にダメージがを受けたときの症状だ。今のリオンは歩く事も喋る事も、立ち上がることすらできまい。
「あ、あ、あ」
「……ッチ、神様よぉ。主人公が悲劇の少女助けたらそこで幕は下ろせよなぁ」
エレギオはドラゴンソウルを利用して通信を開いた。
「おいエド。聞こえてるか?」
『エレギオか、どうした? 何があった』
「急患だよ。人数は二人でっ!?」
その時風に煽られた燃える木が倒れエレギオたちの進路を塞いでしまった。すかさず天上眼で抜け道のルートを割り出そうとするが……
「……どうあっても逃がさねえってか? クソッタレめ」
『どうした』
「わりエド。怪我人一人増えるわ」
『ッ! テメそれどういう』
ブツッという音を立てて無理やり回線を切った。その顔は苦い笑いで満ちていた。この世の不幸を嘆く悪人のような、それでいて甘んじてその試練を受けようとする聖人の様な顔をしていた。とどのつまり『仕方がない』と全てを納得した顔だった。
「わりいなエド。でもよ……」
手早くフェイトの体を縛り上げて自分の背中におんぶの姿勢で固定しリオンを左腕で担ぐ。二人とも小柄な体系なのが幸いしてエレギオはそれでもある程度自由に動く事ができた。
「コイツがあんな覚悟を見せたんでなぁ。
俺も一人の『男』として……応えなきゃなんねえって訳よ。ドラゴンソウル」
「(マイロード、この火の中突っ切るつもりですか?
片手が封じられ背中にも荷重をかけている今貴方は満足に魔法を使えないのですよ?)」
「そんな論理で引き下がるの様な男か? お前が『ロード』って呼ぶ奴は」
「(……残念ながらそうは思えませんね)」
「ならわかるだろ。お前のやるべき事……頼むぜ相棒」
「(ハァ仕方ありませんね……。yes my lord
龍の魂が力、お貸ししましょう)」
「サンキューな相棒」
その言葉と同時にエレギオの脳内で激しい演算が展開され始めた。炎の密度。酸素の量。エレギオ自身の肺活量。リオンとフェイトの生命力。到底一人の人間では扱いきれぬとてつもなく膨大な演算。百を超える並列思考を持つエレギオも一人では脳がパンクしてしまうだろう。
だがエレギオは一人ではない。
インテリジェントデバイスドラゴンソウルと深く共鳴したエレギオの魂が演算の補助を脳内にまで引き寄せる。極限まで補助された演算が次々と課題を見つけ解決していく。完璧な演算と言っても差し支えあるまい。或いは究極でも間違いないだろう。
時間にして僅か三秒。その間に行なわれた演算は紙に書くにはあのフェルマーと同じく到底余白が足りないだろう。
「……見えたぜぇ。脱出への方程式!
行くぞドラゴンソウル!」
魔力での強化によって薄い膜を作られる。同時にエレギオは走った。燃え盛る炎の中に突っ込む。
エレギオも勿論人間だ。幾ら魔法で強化したとしても燃える炎の中に身を投じるのは怖い。一歩間違えれば焼死してしまう。だがエレギオはそんな恐怖はかなぐり捨てて走った。全ては一人の少年とその少年がつないだ一人の少女の命を助けるためだけに。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉオオオオオオオオオ!!!!!」
--------
「アイツッ! アンの馬鹿が!」
「エド。どうすんだ」
「決まってる……。オペの用意だ!
道具ありったけ持って来い! 消毒液もだ!」
ツァーライト一味アジトもまた戦場さながらの様子を見せていた。エドワードが腹の底からの大声で怒鳴り散らし他の面々があたふたと用意する。エドワードの不機嫌さは最高潮に達しており額に浮かんだ青く太く、今にも千切れそうな筋がその怒りの深さを窺わせる。
「ジャック! てめえは腕力あるんだから迎えにいって来い!」
「いや、その必要はねえ」
「なに……?」
ジャックは片手でくるくると器用に端末を回してニヤリと笑った。
「頼もしい援軍を呼んでおいた」
--------
エレギオとドラゴンソウルの演算にズレはなかった。
計算どおりリオンとフェイトは火に肌を1ミクロンも焼かれていないしエレギオへの被害も魔力の強化を巧い事流して最低限に留めている。
そう最低限に。
(おおお……予想以上にきついなコレ……!)
燃え盛る業火の、しかもエレギオはその中に魔力で穴を開けて通るなどと言う無茶苦茶なことをやってのけているのだ。上を見ても左右を見ても燃えていて、唯一前だけに炎の無い空間が広がっていた。その中を如何に魔力で強化しているとは言え全力で気温80度にも届こうかと言う空間を走り抜けているのだ。その過酷さは想像を絶するものだろう。また少しでも口を開けばその燃え盛る空気が灰を焼き尽くしてしまうだろう。よって呼吸も満足にできない。いややろうと思えば魔法を使って異次元につながるシュノーケルのようなものも作れるのだが生憎それはリオンとフェイトに使ってしまっていた。二つならまだしも三つも作るのはそもそもこの強化とトンネルの維持に関わってくる。
だがこれ程の地獄でもまだ最低限だ。大の男が歯を食いしばって耐えなければならないほどの苦行。コレでも最低限に抑えられていた。その事が返ってその生々しさをかもし出す。
(クソッ……! まだ火事は抜けられねえのか!? 天上眼を使いてえ所だがこれ以上思考を裂くのは厳しいぞ!?)
空間を越えて酸素を供給できる泡状シュノーケル。トンネルを開くためのスフィアの細かい操作。炎から二人を守るためのピンポイントな結界。どれもこれも魔法としては派手でこそ無いが針に穴を通すような作業で並大抵の魔道士ならその内どれか二つを同時に行なうだけでだけで泡を吹いて倒れてしまうほどだ。走る事など到底不可能だろう。
(しっかしまあそれでもこんな芸当ができる俺はやっぱ達人って言われてもいいレベルだよなあ?)
等と内心では嘯いてみるものの全身から滝のように流れる汗は隠せない。エレギオ自身既に激しい頭痛に、即ち酸欠と脱水症状を自覚し始めていた。それがさらに演算能力を酷使して疲弊する脳を抉る。だからと言って口を開くような愚かな真似はしないが。
(クソッタレ……息継ぎ位、させてくれよな……)
視界がぼやける、なんてことはまだ無いがそれでも立ちくらみのような物が走っているエレギオを襲う。
動いていても立ちくらみなのか、等とどうでも良いことを思う。その状態の深刻さについては余り考えない様にした。考えても仕方の無い事だと思ったから。そう考える事がもっとも危険なのだといつもはちゃんと理解しているのにも拘らずにだ。
或いはそれ程に過酷だった。それでもエレギオは折れない。何故なら。
(あんな覚悟をした奴に……覚悟以外の何で応えるって言うんだよ!?)
エレギオ・ツァーライトと言う男はこれ異常ないほどの意地っ張りだった。頑固と言っても間違いではないだろう。自分で決めた事は絶対に曲げない。燃え盛る炎にも負けず突き進んでゆく。髪が焦げるのは気にも留めない。バリアジャケットから僅かに露出している皮膚の部分が火の粉で焼けるのも涼しげなポーカーフェイスを保つ。
それは紛れも無い努力だ。二人を助けようと走る努力だ。そして
「やれやれ……スプーキーとモールならともかくエレギオさんがそんなチリッチリになるのを見るのは初めてだよ」
天はそんなエレギオに救いの手を差し伸べた。
「クロスファントム、セットアップ。あの炎を吹き飛ばすよ」
「(了解しました)」
自らの愛器の声に満足気に頷くと、火事の外にいたその男はクロスファントムと呼ばれた双銃のデバイスを構えた。
「クロスファイアー……シュート!!!」
一瞬で何十発もの魔力弾を生成し射出する。見えないはずのエレギオを完全に避け炎だけを正確に、しかも何十発もあったとはいえただの魔力弾で吹き飛ばした。その男の技量の高さが窺える。
その男は炎を吹き飛ばしたその結果に満足気な顔になり朗らかな声を発した。
「大丈夫かい? エレギオさん」
炎によって焼かれたエレギオはゴホッ、ゴホッと咳き込んで片膝を突いた。そして恨めしげな顔になって今の魔弾を放った男を見上げる。
「たくっ……来るならもっと早く来いよぉ。お陰で死に掛けた」
「ハハハッ。まあ良いじゃないか。ちゃんと生きてるんだし。
エレギオさん以外だったら100%死んでたけど」
「ククッ……言いやがるなぁ。減らず口。
男前が上がったなぁ。ティーダ・ランスター」
ティーダ・ランスターと呼ばれたオレンジの髪をした男は爽やかに笑った。
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一方その頃。エレギオ・『ツァーライト』率いる『ツァーライト』一味が運営する、その概要を説明するだけで『ツァーライト』を三つも使わなくてはならない『ツァーライト孤児院』では。
「……そう、そんな事があってこの頃あの人達はこっちに顔出して来ないのね」
「うん、それに今ちょっと大変なことになってるから……エドさんも殺気立ってるし」
空色にも通ずる透き通った色の綺麗な髪をした少年マークは、色こそ違うが此方もまた透き通った紅い髪をした少女……と言っても六歳の少年マークよりは十くらい上だろうが……と話していた。何時もはやんちゃ坊主の声が騒がしい孤児院だったがもう既に夜は遅く、良い子は寝なくてはいけない時間だった。だからと言ってマークが悪い子、と言う訳ではないが。
紅い髪の少女は細い溜息をついた。
「はぁ……そんな事があるんだったら言ってくれればいいのに。あの人はまた一人で抱え込んで……」
「ハハ……でも大目に見てやってよ。今回はちょっと複雑な事情もあるし……」
「その『複雑な事情』が無い方が少ないでしょ?」
「そ、そりゃあそうだけどさ……」
「マッタクもう……そんな事ばっかりじゃあ幾ら丈夫なあの人だって体壊しちゃうじゃない。
無茶ばっかりするんだから」
憂いに見た表情で窓から月を見上げながらもう一度溜息をつく。それを見ながらマークは苦笑して頭をかいていた。到底六歳には思えない。精神年齢は十三上のエレギオや、それ程でないとは言えスプーキーやモールよりは上なのではないかとまで言われるのだ。とは言え子供は子供なので孤児院の方にマークはいる事が多い。そう、いつもはだ。
つまりマークもまた少女の言う『この頃顔を出してなかったあの人達』に入ってしまう訳である。なので
「マーク、笑ってるけどあなたの事も言ってるのよ。特にあなたなんてまだ六歳なんだから」
「う゛」
グッサリと釘を刺されてもヒキガエルが潰されたような声しか返せないのである。マークのその様子を見て、今度は深く溜息をつくともう一度窓を見た。流れ星が見えると良いなと内心期待しながら。
後書き
少しだけ次回予告を。
次回は実は主人公候補だったあの人が大活躍します! そして最後に出てきた赤毛美女の正体も! 乞うご期待!
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