東方守勢録
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第七話
「失礼ですが……このストラップはどこで……」
「……あなたには関係ないことです」
「……そうですか」
俊司はなぜか悲しそうに呟くと、何かを決意したかのように大きく息を吐いてしゃべり続けた。
「……小学校4年生のころ……ある遊園地では写真を渡したらスキな部分をストラップにしてくれるお土産が流行ってたんだ。ちがいますか?」
「……だからなんですか」
「これは……とある少年と少女が仲直りの証として……それぞれの顔写真をストラップにして渡したものですよね……?」
「!? なぜ……それを……」
「それは……」
俊司はなぜかしゃべるのをためらい、顔をうつむかせて黙り込む。そのまま震えた息で軽く深呼吸をするとポケットから青色の何かを取り出した。
「俊司さん、それは……?」
「俺の携帯だよ」
そう言って俊司は女性に近づき、その場でしゃがみこむと携帯に付いていた何かを見せつけた。
「……これに見覚えは?」
「えっ……!? ……これ……嘘……じゃあ……」
「……5年半ぶりの再会だな」
「……しゅん……じ……くん?」
「久しぶり……由莉香」
俊司は悲しみに満ちた笑みを浮かべながらそう言った。
久々の再開と敵だった驚きが入り混じり感情が不安定になってしまったのか、由莉香は絶望的な表情をしたまま涙を流し始める。そんな彼女を慰めるかの様に、俊司はズボンのポケットからいつも入れているハンカチを取り出すと、少しずつ垂れ始めていた涙をスッと拭き取った。
「そんな……こんなの……冗談……だよね?」
「……ごめん」
「……せっかく……せっかく会えたのに……今度出会ったら……挨拶しないでいなくなったこと……謝ろうって……ずっと……ずっと決めてたのに……」
そう言ってうつむき黙り込んでしまう由莉香。俊司はスッと立ちあがって紫の方を見ながらしゃべり始めた。
「紫……悪いけど……縄……はずしてもらってもいいか?」
「……いろいろと訳ありのようね……いいわ。妖夢、縄を切ってちょうだい」
「はっ……はい……」
妖夢は楼観剣を使って縄を切り落とす。拘束状態から解放された由莉香だったが、立ち上がることなくその場にうなだれたまま静かに泣き続けていた。
「……とりあえず今日はもう戻った方がいいよ」
「……」
「……由莉香?」
「……くっ!」
由莉香は涙目のまま俊司を睨みつけると、地面を思いっきり蹴り飛ばし体を思いっきり俊司にぶつける。
俊司はバランスを崩すも後ずさりしながら耐え、なんとかバランスを保ち続けた。
「いっ……由莉香何やって……」
「動かないで!!」
そう言った由莉香の手には、一丁のハンドガンが握られていた。
銃を構える由莉香の手は、相手を殺す殺意と幼馴染としての抵抗が入り混じり誰が見てもわかるど震えていた。
突然の行動に紫達は臨戦態勢を取るろうとするが、
「待ってくれ!」
という少年の声によりピタリと止まってしまった。
周囲に緊張感が走り始める。
「由莉香……銃をおろしてくれ」
「動かないでって言ってるでしょ! ……いくら……俊司君だって……敵なんだから……!」
「たとえ俺を殺した時点で逃げられるわけじゃねぇぞ……?」
「かまわない! ここで死んでも……私は……私は!」
「……」
俊司は何を思ったのか真剣な表情になると、由莉香をじっと見つめながら一歩一歩距離を詰め始める。由莉香はそんな彼に圧倒され少しずつ後ずさりをしはじめていた。
「……こないで……こないで! これ以上近づいたら撃つ!」
「撃てばいい……」
「……くっ」
警告しても近づいてくる少年。由莉香は現実から目をそむけるように目をつむり顔をそむけると、震えながらも思いっきり引き金を引いた。
パァン!
「ぐっ!」
揺れ続ける銃口から飛び出た弾丸は一直線に飛び、そのまま俊司の右肩を貫いた。
「俊司君! くっ!」
「待ってって言っただろ!! 聞こえなかったのか!?」
「でっ……でも!」
「いいから!」
痛む右肩を抑えながら一歩を踏み出す俊司。ついにはあと2・3歩のところまで来ていた。
「あ……ああ……」
「……由莉香」
傷口を抑えていた手をはずすと、俊司は血だらけの手で構えられていた銃をそっと下におろした。
「どう……して……」
「自分の正義を貫いただけだよ……」
「!? ……う……うあ……」
まっすぐ由莉香を見つめる俊司。そこには堅実な心構えと思いやりが隠されていた。
完全に戦意を喪失してしまった由莉香は、再び涙を流すとその場に座り込んでしまった。
「紫、スキマを使って竹林の外に出してやってくれ」
「……いいの?」
「しかたないさ……」
「……」
紫は何も言わずに脱力した少女の地面にスキマを作る。そのまま少女は、スキマに吸い寄せられるかのように中へと引きづり込まれていった。
「ごめん……由莉香……」
少年は悲しみに満ちた顔をしたまま、静かに少女が消えたスキマを見つめていた……
永遠亭防衛戦からおよそ一週間が経とうとしていた。
幸い致命傷をうけたものはおらず、右肩を負傷していた俊司も、永琳の特性特効薬の効果で動かせるまでに回復していた。
しかし、身体以上に心に深いダメージを負った俊司は、この一週間誰とも話そうとはしなかった。
永遠亭 俊司の部屋
「……」
中央に置かれた机の前で、俊司は一人携帯にぶら下がったストラップとにらめっこをしていた。
「……由莉香……なんで……」
「俊司君。入ってもいいかしら?」
「……はい」
静かにふすまを開き中に入ってきたのは紫と霊夢だった。二人は俊司の向かい側に座ると話を始めた。
「……まだ立ち直れないの?」
「立ち直るというかなんというか……ショックがでかすぎた……」
「その子……とっても大事な子なのね」
「幼稚園からの幼馴染なんだ……小学生の時もずっと一緒だった」
俊司は持っていた携帯をポケットにしまうと、自らの過去を話し始めた。
「……昔の俺はめんどくさがりやで、なにもしようとはしない人間だったんだ。それに比べて由莉香は何事にもまじめで……でもちょっと度が過ぎるんだけどさ……みんなの人気者だった……でも、中学校にあがった瞬間に……なにも言わないで姿を消した……」
「で……いまは革命軍にいると……」
「あいつ……そんなことひと言も言ってなかったのに……相談くらいしてくれれば……」
「彼女のことが大事なのね」
「いろいろと助けられたからな。たぶん……中学校卒業するまでは……由莉香のことが好きだったよ……もちろん友達としてじゃなくて……一人の女性として」
「今はどうなの?」
「今は……友達として……かな? 会わないだけでこんなにも変わるんだなって……思ったよ」
「なら……こんどはきちんと話し合うべきね」
「……ああ」
「少しは楽になった?」
「すっきりしたよ。また頑張らないとな」
そう言った俊司の顔色は、紫達が入ってきた時と比べて明らかに良くなっていた。
「じゃあ、本題にはいろうかしら?」
「本題?」
「そうよ。霊夢」
「ええ。この前また別のスペルカードを使ったのよね?」
「ああ。変換『犠牲と発達』 味覚とか嗅覚とかの五感のうち一つを犠牲にすることで、それ以外の4つと身体能力を上げるスペルカードなんだ。戦闘時に必要になるものほど、犠牲にしたときの能力アップにさができるんだ」
「そう。紫から5枚のスペルカードを渡されたって聞いたけど、足りなかったりする?」
「いや……いまは十分だよ」
「そう。ならいいわ……私が聞きたかったのはそれだけよ」
「……そうか。じゃあ……おれは体でも動かしてきますか」
そう言って俊司は足早に部屋から出て行った。
「……なにが本題よ紫」
「? 別にいいじゃないの」
「まったく……まあでも、これで俊司も大丈夫ね」
「ええ。次は……霧の湖ね……」
そう言って紫は溜息をついていた。
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