東方守勢録
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第六話
「始まった……うん。成功してるみたいだな」
外から聞こえてくる爆音と悲鳴が、革命軍の奇襲を阻止したことを伝えてくる。
「じゃあ……俺も行くとするか」
「ほんとに1人でいいの?」
「ああ。2人はみんなの援護よろしく」
俊司はそう言い残して、玄関方面へと向かった。
永遠亭周辺 玄関前
「全部隊応戦開始!奇襲は失敗です!」
「くそっ!しかたない。我々だけでも突入するぞ!」
「了解!」
「それは勘弁してもらいたんですが……」
「!?」
突入しようとした隊長たちの目の前には、学生服を着た少年が立っていた。
「貴様……例の少年か」
「例……って言われても何かわからないんですが……」
「とぼけるな!」
男は持っていたライフルを俊司に向けてかまえる。それが合図となり、後ろで警戒していた兵士たちも次々とライフルを構え始めた。
「貴様も能力なしならただの外来人……身体能力はいいと聞いているが、限界があるだろう。この状況を打破する力などないはずだ!」
「ああ。確かにないよ……でも、俺にはこれがあるんで……」
そう言ってポケットから青白く光る何かを取り出す。
「スペルカードか!? 弾幕を撃てないお前に何が出来る!」
「ああ。弾幕の撃ち方はまだ教わってないからわかんねぇよ。でも……スペルカードはそれ以外にも使い方があるんでな!」
俊司はそのまま笑みを浮かべ、取り出したスペルカードを発動させた。
変換『犠牲と発達』
「ちっ! 総員警戒!」
発動と同時に警戒心をMAXにして攻撃に備える革命軍。しかし、スペルカードの光が消えても俊司は動こうとはしない。
「なにが……」
そういって一人の兵士が銃を下ろす。その瞬間……
「……味覚を犠牲に」
少年はぼそっと呟くと、その場から居なくなった。
「消えた!?」
さっきまで動こうとしなかった少年は、残像を残し一瞬で消え失せてしまった。予想外の事態に革命軍は銃を下ろしあたりを見渡す。しかし、少年の姿はどこにも見当たらなかった。
革命軍の周辺に緊張感が張り詰める。
「いったいどこへ……」
そう言いながら一人の兵士が後ろを振り向く。その時……
「!?」
ドスッ!
「ぐあっ!」
鈍い音が聞こえたと思うと、兵士の体は地面に伏せた。
「なにが……!?」
隊長があたりを見回すと、なぜかさっきまで立っていたはずの兵士が悲鳴を上げ次々と倒れ始めていた。
誰が攻撃しているかもわからずまるでドミノ倒しのように兵士が倒れていく…。ついに兵士は全滅し、隊長だけがその場に残された。
「ぐっ……」
「これが変換『犠牲と発達』の効果だよ」
「!?」
声が聞こえてきたと思うと隊長の背後に悪寒と冷たい風が走る。
振りかえると、そこにはさっきまでいなかったはずの少年が立っていた。
「貴様……」
「命に別条はないです。意識もあるから今なら引き返せますよ?」
「ぐっ……」
「俊司君!」
緊張感があふれる中、永遠亭内部から紫が出てきた。
「他の場所は制圧できたみたいよ。あとはここだけになるわ」
「わかった。さてと……どうされますか?」
「ぐっ……くそっ……」
隊長は肩につけてあった無線機を取ると、
「総員……撤退」
と言って周りの兵士を無理やり起こすと、来た道を引き返し始めた。
「……ふぅ。終わったか」
「そうね。あなたのおかげね俊司君」
「そんなことないよ。さてと……戻りますか」
「その前に……中庭に来て頂戴」
俊司は言われるがまま中庭へと入っていく。そこには霊夢たち全員と、中央で縄に縛られた女性が一人座り込んでいた。
「……この人は?」
「紫さんに頼まれて、私が捕まえたんですよ。で? どうするんですか紫さん? 取材でもするんですか?」
「文……あんた取材のことしか頭にないの?」
「そりゃあ新聞記者ですから」
「フフッ……まあ、取材じゃないけど情報収集しようかなって思ったのよ。そういうことだから、それまで辛抱して頂戴ね外来人さん?」
「……」
やさしく声をかける紫だったが、ロングヘアーの女性は何も言わずに紫を睨みつけていた
「じゃあ……何から教えてもらおうかしら……」
「敵に情報を与えるようなまねはしません! ……殺すなら殺して下さい」
「……そう。殺しはしないけど……このままじゃちょっとお仕置きしちゃうかもしれないわよ?」
ニコニコしながらとんでもないことを口走る紫。しかし、そんなことを言われても表情一つ変えない外来人の女性は、じっと紫を睨んでいた。
「紫! 拷問はやめとけよ」
「わかってるわ。じゃあ……ここは同じ外来人の俊司君に頼もうかしら?」
(……しゅん……じ?)
「……わかった」
紫の提案を承諾すると女性の前に立つ俊司。女性は少し顔をゆがませていたが、すぐに表情を元に戻すと俊司を睨んだ。
「とりあえず……なにが目的ですか?」
「……」
「ここまでどうやって来たんですか?」
「……」
「……東風谷早苗さんがそちらにいるんですか?」
「!」
早苗の名前を出すと、女性は軽く体をビクッとさせて反応させた。
「……やっぱりそうだったんですか」
「くっ……不覚」
「……」
「……あなたは……あなたはなぜ……外来人なのにそちら側の味方をするんですか!」
「なぜって……ここを守りたいから……」
俊司がそう答えると、女性はさらに鋭く俊司を睨みつけ、興奮したようにしゃべり始めた。
「なぜです! なぜこんなやつらを……外来人を平気で虐殺するようなやつらと!」
「ぎゃっ……虐殺!?」
周りにいた全員が予期していなかった状況に唖然とした。俊司はすぐに紫にアイコンタクトを取るが、紫も心当たりがないらしく、首をかしげていた。
「そうです! 外の世界に原因不明の妖怪があらわれ……数十名の人が殺されました……それだけではありません! 他にも何百人といった人たちがこの世界に無理やり連れてこられたと聞きます……現に私の母も……そいつらに殺されたと聞きました」
「……残念ながらそれはガセネタよ」
そう言って前に出たのは霊夢だった。
「何を言って!」
「この世界は博麗大結界というもので外の世界と分離してるわ。確かに外に出ることができるやつもいるけど、それはほんの一握り。ましてや理由もなく人を殺すなんてしないわ」
「……私は……あなたたちの言葉は信じません。絶対に……仇を……」
女性は歯を食いしばりながら憎しみを訴えてくる。霊夢ははぁと溜息をつくと、また元の場所に戻って行った。
そんな霊夢と入れ替わるようにして、文がなにかを持って前に出た。
「すいません私からの質問です。戦争とは関係ないんですけど……あなたを捕まえたときこれを落としたんですけど、これなんですか?」
「……私の携帯です」
「携帯ですか……俊司さんも持ってるんですか?」
「ああ……ちょっと貸してもらえるか?」
俊司は文からピンクのケータイをもらうと、発信器や盗聴器がついていないか少し調べ始めた。
(……特に何もないか……ん? ……!?)
俊司はケータイにぶら下がっていたストラップを見ると、なぜか目を見開いた。
ストラップの先には透明のプラスチックが円状になっていて、中には一枚の小さい写真が入っており、そこには小学校4年生くらいの少年が移されていた。
何かの一部を切っとったような写真を見て、俊司は言葉を失い生唾を飲み込む。
(これ……あの時の……じゃあ……この……人って……)
新たな歯車が、また音を立てて回り始めた。
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