東方守勢録
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第五話
「すごい……このノートびっしりと文字が書かれてる……」
妖夢は置いてあったノートをさりげなくとると、パラパラとめくり始める。中には俊司が考えたスペルカードの名称、効果、メリットやデメリットまで細かく記入されていた。
しかし、納得がいかなかったものばかりだったらしく、ところどころに訂正線を引いていた。
(こんなに考えてたんだ……?)
パラパラとめくり続けていたら、あるページにあった5つのスペルカードの説明が線をひかれずに残ってあった。
妖怪の山で使用した変換『コンバートミラー』を含む5つの説明文は、他の説明文と見比べても段違いに細かく分析されており、ところどころに赤線がひかれてあった。
(すごい……こんな分析をするんだ……)
「……んっ」
(!)
熱心にノートを呼んでいると、ノートの作成者である俊司が声をあげて動き始める。妖夢はなぜかはしらないが、サッとノートを元の場所に戻した。
「あれ……妖夢?」
「おはようございます俊司さん」
「俺……寝てたのか。やっぱ徹夜は厳しいか……」
「スペルカード……作ってたんですか?」
「ああ。やっと完成したんだ」
俊司はそう言いながら机の上を片づけ始めた。
「ところで……ここに何しに来たんだ?」
「そうでした! 革命軍が襲撃に来たそうです。それで、紫様が呼んでくるようにと……」
「! ついにきたか……わかった。すぐ行くから先に戻ってて」
「はい……あの……俊司さん」
「なに?」
「数日前は……その……いきなり突き飛ばして、すいませんでした」
と言って深々と頭を下げる妖夢。俊司は少しのあいだキョトンとしていたが、急にやさしい笑みを浮かべると妖夢の元へと近寄った。
「気にしてないよ。俺もあんな変なマネしてごめんな」
と言いながらポンポンと妖夢の頭をやさしくたたく俊司。それに反応して、妖夢はまた頬を赤らめていた。
数分後
妖夢と俊司は、さっき紫と幽々子がお茶を飲んでいた部屋を訪れる。そこにはすでに全員が集まっていた。
「すいません遅れました」
「いいわ。とりあえず、始めましょうか」
紫がそう言うと、永琳が一枚の紙を取り出し机の上に広げる。そこには永遠亭から半径数十メートルいないの地図が記されてあった。
「この状況でどう戦うか、それが私たちの勝利へのカギとなるわ」
「私が聞いた感じだと、革命軍は確実に永遠亭周辺を囲って逃げ場をなくすはずよ。それに、あいての人数や能力持ちの数までは把握しきれてないからそれも考えないといけないわね」
「私や鈴仙とかだったら、竹林の中もわかるし迎撃に向かってもいいんじゃないか?」
「確かにそれもありだけど、迎撃しきれなかったら危険性が高まるな」
俊司たちは次々に意見を交わしていき、少ない時間の中でも打開策を見つけようと必死になっていた。
永遠亭から数十メートルほど離れた場所にて。
「……どうだ?」
「人の気配がありません。屋内に潜んでいる可能性はありますが……」
「予定通り外周を囲むぞ……作戦開始」
「了解」
革命軍の兵士たちは指示を受けると同時に静かに行動を始める。
足元にあるゆらゆら揺れる半透明のなにかをふんずけながら……
永遠亭
「……来たわよ」
霊夢は目を閉じたままそう言った。
「わかった。紫、準備は?」
「とっくに終わってるわ……しかし、俊司はほんとに頭がいいのね?」
「冷静に考えるのは簡単なことだからだよ。さてと、向こうが配置に付いたら始めますか」
俊司はなぜか笑みを浮かべながらそう言った。
数分前
一同はかなり多くの意見交換を行っていたが、いまだに打開策をみいだせずにいた。
「このままじゃまたノープランね……」
「紫なんかいい案はないの」
「周りを囲まれて……それを正面からたたくとか?」
「兵力に差がありすぎんじゃねぇか?」
「……あのさぁ」
全員が意見を交わす中、ずっと黙り込んでいた俊司がついに口を開いた。
「ちょっと深呼吸して」
「……どうして?」
「いいから」
全員は訳もわからないまま大きく深呼吸をする。それを見て俊司も深呼吸をすると、続けざまにしゃべり始めた。
「この世界の戦い方は真っ向勝負しかないのか?」
「それは……そんなことないけど……」
「落ち着けば簡単なこと。相手の情報もわかってて、なによりこっちには特殊な能力がある。永琳さん、この地図書き込んでも大丈夫ですか?」
「ええ……」
俊司は胸のポケットからシャープペンシルを取り出すと、地図に何かを書き始めた。
「永遠亭を囲めば、おそらくスモークかフラッシュを使ってくると思う」
「……すもーく?……ふらっしゅ?」
「簡潔に言ったら視界を奪ってくるんだ。その好きに外壁や玄関を通じて入り込んでくる」
「それで?どうするの?」
「それをさせなかったらいいんだ。能力や各自のスキルさえ生かせば、外来人では不可能な作戦も……可能にできる」
俊司は地図に自分の考えをすべて書き込むと、シャーペンの芯をひっこめ説明し始めた。
「まず、外来人なりの考えから。外周を囲むことがわかってるから、その部隊をさらに囲めるぐらいの場所に兵士を配置するんだ。でも、竹林とはいえここにいるみんなだったら服装のカモフラージュが出来ない……だから、すぐにばれてしまう可能性がある」
「そうか……だからあの撃たれた時も、あいつらに気付かなかったのか……」
「迷彩服と言って、軍の人たちがその場所の風景に溶け込めるように作られた服なんだ。なれてないと見抜きづらい。それに俺たちはそんな服装がないから、溶け込むなんてことはできない。でも……隠れることならできるだろ?」
「隠れるって……この服装で?」
「じゃあ、こっからが幻想郷の考えを取り入れた考え。外来人はその場にいないと移動や攻撃は不可能。でも、こっちの人たちは……その場にいなくても移動はできるだろ?」
「……なるほど。そういうことね」
「さすが紫。やっと頭がさえたか」
「ええ。まったくどうして気付かなかったのかしら」
紫はちょっと不満そうにしながら扇子でパタパタと仰ぎ始める。
「ようするに、私のスキマを使うんでしょう?」
「そういうこと。スキマなら、一瞬でその場に移動が出来るんだ。相手が外周を囲って突撃する瞬間に……その背後から奇襲をかける」
「そのタイミングはどうするんですか?だれも壁の向こうを透視したりなんて出来ませんし……」
「それは霊夢にやってもらう」
「ええ!? わっ……私!?」
霊夢はいきなり重大な任務を伝えられたからか、目を見開いて驚いていた。
「さすがに博麗の巫女だからって……透視は……」
「透視はしなくていいよ」
「……じゃあ何をしたらいいの?」
「結界か何かで相手を感知する……っていう感じのことはできるか?」
「……微弱な結界を張れば……相手に気付かれずにこっちだけが気づけるわ」
「じゃあそれを周囲に設置して、相手の情報を得るんだ」
「……やってみるわ」
「とまあ……こんな感じなんだけど……」
俊司は周りの反応をうかがうが、誰も反応しない。
「……あれ?」
「なんか……私たち幻想郷の住人がこれを考えず……」
「外来人の俊司君がこれを考えるなんて……なんか……」
どうやら、周りの人々は軽く落ち込んでいるようだった。
「……とにかく! はじめましょうか」
そう言ってみんなを動かそうとする紫だったが、彼女の表情もかるくひきつっていた。
現在
「……止まったわ。結構多いかもね」
「よし。紫」
紫は軽く息を吐くと、手を動かし始めた。
永遠亭周辺
「各員持ち場につきました」
「よし。5秒後にとつにゅ……」
「!? 西側から連絡! 背後より敵襲です!」
「なに!?クリアリングはきちんと行っていたのか!」
「突然変な裂け目から現れたとの報告……!? 西側だけでなく他の場所も襲撃されています!?」
「なんだと!?」
先手を取れると確信していた革命軍は、裏をかかれたことにより士気は下がり大勢は崩れ始めた。
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