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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第49話

業務をこなしながら街を見回っていたヴァン達がハマムを訪れると意外な人物たちが勢ぞろいしていた。



~伝統地区・ハマム”マルジャーン”~



「おやヴァン君たち、ちょうどいいところに。これから声をかけようと思っていたんだ。」

「シェリド公太子にナージェさん…………?」

「女優たちもいんのか…………」

「それに、”妖精”と”剣迅”まで…………」

ハマムに集まっているメンバー――――――シェリド公太子にナージェ、ジュディスとニナ、そしてフィーとアネラスを確認したアニエスやアーロン、フェリはそれぞれ目を丸くした。

「こんな所で会うには意外な面子だな。それで、俺達に何か御用ですか?」

「その、殿下のほうから誘われまして。」

「パレードと授賞式前の景気づけんいハマムで汗を流そうってことになったのよ。」

「わたしたちも一度入ってみたかったし、ちょうどいい機会だった。」

「フフッ、それに私達も見回りで汗を掻いていたから殿下の誘いはちょうどよかったんです。」

「ただ女性ばかり誘うのは気が引けるからね、ぜひヴァン君たちも一緒にと思っていた所さ。エースキラーの面々も誘ってこれを機会に色々と話したい事もあったが…………生憎あちらの連絡先はわからず、断念したのさ。」

ヴァンの質問にニナとジュディス、フィーとアネラス、シェリド公太子はそれぞれ答えた。



「まだパレードまで時間がありますがいかがいたしましょう?」

「貸し切りなんて貴重な機会、逃す手はねえな。ご一緒させてもらいますよ。」

「っててめぇが入りてえだけじゃねえのか?」

「あはは………………まあせっかくですし。」

リゼットに確認されたヴァンがシェリド公太子達の誘いに乗る答えを口にするとアーロンが若干呆れた様子でヴァンに指摘し、その様子をアニエスは苦笑しながら見守っていた。



その後ヴァン達はそれぞれハマムを堪能し始めた。



~男性側~



「ふぅ…………これだよこれ。貸し切りはまた別格というか、一日の疲れが吹っ飛ぶぜ。」

「やだやだ、年寄りはこれだからよ。だいたい一日は始まったばっかだろーが。」

「フフ、しかしヴァン君の気持ちはよくわかる。私はこう見えて結構忙しくてね、一日のこういう時間は何気に貴重なんだ。自分を内と外から同時に見つめ直すような感覚、そして全てが洗い流され、新しい自分になる。」

ヴァンの感想にアーロンが呆れている中、シェリド公太子はヴァンの感想に同意していた。

「おお、さすが殿下、わかってますね!俺も常々感じていたんですよ。こういう場所は社交の場としても機能しますが、やはり本質は自分との対話にある、とね。」

「そうともそうとも!ハハ、やはりヴァン君には大いに見込みがあるな。」

「チッ、オヤジ同士盛り上がってんじゃねーつの。んなことより、勝負しようぜ勝負!シンプルに耐久勝負だ!」

息が合っている様子のヴァンとシェリド公太子に呆れたアーロンはある提案をした。



「お前な………話聞いていたのかよ?ここは神聖な――――――」

「いや―――――むしろいい。他者との勝負を通じてこそ交わる魂同士との対話もある…………違うかい?」

アーロンの提案にヴァンが呆れている一方、シェリド公太子は賛成の様子を見せた。

「ハッ、まったく共感はできねーがなんだオッサン、怖気づいたのかよ?ま、オッサンの体力じゃあ負けんのは目に見えてるだろうしなぁ?」

「あからさまに煽ってんじゃねえ!…………いいだろう、乗ってやる!」

「フフ、陽炎砂丘でつかなかった決着、今こそつけるとしようか!」

そしてヴァン達はハマムでの耐久勝負を始めた。



~女性側~



「殿方たちの方は随分と賑やかですね。」

「ったく、子供ねぇ…………」

「フフ、男はいくつになっても子供な部分があるから仕方ないわよ♪」

「ふう…………やはり妹君に報告するしかありませんね。」

男性側の喧騒が聞こえていたリゼットの感想に続くようにジュディスは呆れた様子で溜息を吐き、ユエファはからかいの表情で呟き、ナージェは溜息を吐いた。

「ああ、随分とできた妹さんっていう…………殿下には効きそうですね。」

「活動的な兄公太子にできた妹君…………何だかエレボニアの王族兄妹に少しだけ似ているわね。」

「あ、それってオリヴァルト王子殿下とアルフィン王女殿下の事ですよね?そういえばフィーさんはエレボニアの遊撃士との事ですが…………もしかして、お二人の事もご存じなのですか?」

ナージェの言葉を聞いたジュディスはあることを思い出し、静かな口調で呟いたマルティーナの感想を聞いて目を丸くしたアニエスはあることに気づき、フィーに訊ねた。

「うん、一時期長期間共に活動をしていたことがあるから二人の事はよく知っているよ。公太子殿下の妹君とは会ったことがないからアルフィン殿下とは比べようがないけど…………言われてみれば確かにオリヴァルト殿下とシェリド殿下は色々と通じるところはあるね。」

「ふふっ、そうだね。お互いにそれぞれの楽器の演奏が上手い事もそうだけど、活動的なことに関しても似ているよね。」

アニエスの疑問にフィーは頷いて答え、フィーに続くようにアネラスは微笑みながら答えた。

「ふふ、それにしても先輩。いつの間にかヴァンさんたちと随分親しくなっていたんですね?」

「ど、どこがっ!?別に親しくなんかないわよ!」

「ふふ。」

「何よその生温かい笑顔は!?」

一方ニナにヴァン達との関係の良好化を指摘されたジュディスは必死に否定していた。その後アニエス達はそれぞれ湯に浸かり始めた。



「そう、アイーダがそんな風に…………教えてくれてありがとう。ギルドの報告書は読んだし、アルヴィスからも話は聞いたけど、いまいちピンと来なくて…………アイーダ、最後までカッコよかったんだね…………」

湯に浸かりながらフェリからアイーダの最後について教えてもらったフィーはアイーダの事を思い浮かべながら呟いた。

「はい、とても…………立派でした。」

「いつか生きている元”西風”と一緒にまた集まろうと思ったけど…………団長とゼノとレオに続けて、アイーダも…………」

「フィーさん…………」

「ごめん、しんみりちゃって。でも、失うばかりじゃない。」

「え?」

フィーが口にした言葉の意味がわからなかったフェリは不思議そうな表情で首を傾げたが

「彼女が遺してくれた繋がりでこうしてフェリと縁ができたんだから。同じくアイーダの妹分として…………この出会いはきっと素敵なものになるって、そんな予感がする。」

「それは…………わたしも同じです!アイーダさんから話を聞いて、ずっとフィーさんに会いたいと思っていました。思い描いていたのと違う形になりましたが…………こうしてお話ができて、とても嬉しいです…………!」

フィーの説明を聞くと明るい表情で頷いて答えた。



「それなら良かった。アイーダの代わりに…………というわけじゃないけど。わたしも一応元猟兵だし、見た感じフェリとは戦い方が通じるところもある。参考になることならなんでも聞いていいよ。力になるから。」

「フィーさん…………ありがとうございます!では早速、一つお聞きしたいことが…………!」

「なに?」

「ハマムに入ってからずっと気になっていました…………わたし以外の皆さんは全員すたいるがいいということを!いつかわたしも、皆さんのようになれますか?」

「いきなり意外な方向からの質問だね…………」

フェリの意外な質問に脱力したフィーは苦笑を浮かべた。

「やはり難しいでしょうか…………」

「確かに女優二人や天使三人は言うまでもなく、他もなかなか…………でも大丈夫、フェリの年齢ならむしろ成長はこれからじゃないかな。」

「本当ですか?」

「わたしも成人前後で一気に成長したタイプだから。」

「あ、フェリちゃんにフィーさん。私とメイヴィスレインも失礼しますね。」

フィーとフェリが話し合っていると二人に声をかけたアニエスがメイヴィスレインと共に湯に漬かり始めた。



「はぁぁ…………」

「ふぅ…………」

「わたしもいつか…………アニエスさんやメイヴィスレインさんのように…………!」

それぞれ湯を堪能している様子のアニエスとメイヴィスレインをフェリは決意の表情で見つめ

「む…………アニエスって確かアラミスの学生だっけ?」

フェリが自分以外の人物達を目標にされたことに若干嫉妬したフィーは真剣な表情でアニエスに質問した。

「はい、アラミス高等学校の一年生です。」

「一年生でこれとは…………うちの委員長を思い出す…………」

「委員長?」

ある人物を思い浮かべながら呟いたフィーの言葉が気になったアニエスは首を傾げた。

「なんでもない。それとメイヴィスレインだっけ。”天使”ってなんでみんなそんなにスタイルがいいの?わたしが知っている天使は全員スタイルがいいんだけど。」

「私にまで何を聞いてくると思ったらくだらない事を…………そもそも私達”天使”は身体的特徴が”成長”する貴女達人間と違って”主によって生み出された存在”ですから、”生み出された時点で死ぬまでそれぞれの姿のまま”なのですから、”天使が身体的に成長することは基本的にありえない事です。”貴女の知り合いだという天使(どうほう)がどのような者達かは知りませんが、貴女の知り合いの天使が皆身体的特徴が上位であるのはただの偶然ですよ。」

ジト目になったフィーの質問にメイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐いた後答えた。

「それはそれでちょっとずるい気がするけど…………それよりフェリ、さっきの続きだけど…………時には諦めを覚えるのも重要。」

「さっきと話が違います!?」

真剣な表情で助言したフィーの助言にフェリは驚きの表情で声を上げた。

「えっと…………なんの話ですか?」

二人の様子が気になったアニエスはフェリに訊ねたが

「アニエスさんとは関係のない話です…………」

「持つものには理解できない。」

「なんでしょう、この微妙な疎外感…………」

「ハア…………」

それぞれ答えたフェリとフィーの答えに冷や汗をかいて苦笑し、メイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐いた。



そしてそれぞれハマムを堪能したヴァン達は受付に集合した。



「クッ、このガキに負けるとは…………!」

「やっぱ歳だなオッサン?」

悔しがっている様子のヴァンにアーロンはからかいの表情で指摘した。

「今だけは反論できねぇ…………!」

「一番最初にリタイアしたとはいえ、なかなか楽しませてくれたよ。感謝する、二人共。機会があったらまた裸で語り合おうじゃないか。」

「どうせなら次は”夜の店”にでも行こうぜ?」

シェリド公太子の感想を聞いたアーロンはある提案をし

「それも一興だねぇ!」

「殿下…………?ご自分の立場をお考えください。」

アーロンの提案にシェリド公太子が真剣な表情で頷くとナージェがジト目で注意した。

「コホン、もちろん冗談だとも。」

「ククッ、あの怖い姉さんに見つからないようこっそり行かねえとな。」

「っておい、本当にやりかねねえから煽るな!」

ナージェの釘指しにシェリド公太子が我に返っている中ある提案をしたアーロンにヴァンは真剣な表情で注意した。



「ふふ、皆さんは本当に不思議で楽しそうな方達ですね。」

「素直に喜んでいいのかどうか悩ましいところです…………」

ニナの感想にアニエスは困った表情で答えた。

「とにかくあたしたちはもう少しここで寛いでいくわ。パレードの時も含めて、今日も頼んだわよ。」

「了解だ。一応警備にも参加するつもりだしな。」

その後シェリド公太子達と別れたヴァン達は街を見回りながらの業務を再開した。



そしてパレードの時間が近づくと客達に交じっての警備を開始した。



12:00――――――



~サルバッド・アルジュメイラホテル前~



「サルバッドにお集まりの皆様方、長らくお待たせしました!只今をもって”フォクシーパレード”の開始準備が整ったことをお知らせする!」

街中の様々な場所に駐車している車に設置されているモニターに映ったゴッチ監督が宣言をするとサルバッドの人々は拍手をしながら歓声を上げた。

「だが――――――その前に一つ、伝えなければならないことがある。既に一部で噂になっていることじゃが…………昨夜、ベガスフィルム代表取締役のギャスパー・ディロン氏が逮捕された。」

ゴッチ監督の宣言に観客達はそれぞれ驚きの声を上げた。

「あー、諸々の事情についてはいずれ当局の発表があることと思う。『そんな時に映画祭など不謹慎だ』などの意見ももちろんあることじゃろう。だが――――――氏もまた映画祭の成功を願う”映画人”の人じゃった。その意志を汲むことを我々が選んだ意味、ご理解頂けると信じている。」

ゴッチ監督の驚愕の報告に驚いていた観客達だったがゴッチ監督の話の続きを聞くとそれぞれ拍手をした。

「どうも――――――どうも、ありがとう。…………昨今のカルバード両州の好景気は映画産業をも大きく成長させてくれた。だがそれが終わった時、かつてあった”分断”がまた起こるのではという声もある。――――――じゃが諸君も知っている通り映画の前に人種や民族、国境の垣根はない!誰もが等しく観客として最高の物語と体験を――――――氏の想いを受け止め、我々業界人も更なる飛躍のきっかけとする覚悟じゃ!」

「ゴッチ監督~!」

「次回作も楽しみにしてるぞ~!」

ゴッチ監督の力強い演説に観客達は拍手をしながら歓声を上げた。

「――――さあ、いよいよ時間じゃ!せめて今だけは浮世の憂さを忘れ、女神すら霞む百花繚乱に酔いしれようっ!このサルバッドという黄金郷に舞い降りたとびっきりの雌狐(フォクシー)たちと共に…………!」

ゴッチ監督が宣言と共にある方向へと視線を向けるとそこには船のような形をしたパレード専用の車にジュディスやニナ、シャヒーナを始めとしたパレードの踊り子達が待機していた。



「さあ、皆さんご一緒に!」

「一生忘れられない”刻”を始めるわよ!」

「いっくよー!」

「レッツ、フォクシーパレード!!」

そしてゴッチ監督や女優達、観客達が宣言をすると車体が動き始めると同時に女優達は踊りを始めたり、観客達へのアピールを始めた。

「おおおおおっ…………!」

「………すげええええええぇぇぇっ…………!」

「なにあの子…………!出演リストにはいなかったわよね!?」

「さすがサルバトーレ・ゴッチだ。魅せ方ってモンをわかってやがる。妹もキレッキレじゃねえか?」

観客達がパレードに興奮している中ヴァンは感心した様子で呟いた後隣にいるサァラに指摘した。

「ええ、本当に…………!(頑張ったわね、シャヒーナ…………)」

ヴァンの言葉に頷いたサァラは妹の成長を心から喜んでいた。一方パレードの警備をしているフィーと視線を交わし、フィーが頷くのを確認したヴァンはザイファを取り出して通信相手に確認した。

「―――――そっちはどうだ?」

「今のところは異常ありません。で、ですが…………」

「すごい…………シャヒーナさんも皆さんもっ…………!

ヴァンの通信相手の一人――――――別の場所で警備をしているアニエスはヴァンの報告に答えた後苦笑を浮かべて、警備を忘れて興奮した様子でパレードに夢中になっているフェリを見つめた。

「こちらも今の所問題ないわ。」

「う~ん、復帰するなら煌都の華劇場と決めているけど、こんなにも興奮するパレードに女優側として参加できなかったのはちょっと残念ね~。メイヴィスレインもそう思わない?」

「私に同意を求めないで下さい。ですが…………人を”魅せる”ものとして上位クラスであることは認めます。」

同じく通信相手の一人であるそれぞれ人間の姿になっているマルティーナも異常なしであることを報告し、若干残念そうな様子でパレードを見ていたユエファはメイヴィスレインに確認し、確認されたメイヴィスレインは溜息を吐いた後静かな口調で呟いてパレードを見つめた。

「ポイントE、Fも異常ありません。――――――それにしても素晴らしいですね…………」

「エロさと健全さのせめぎ合い…………クク、こりゃ退屈せずに済みそうだ。――――――で、ヴァンの野郎との”仕込み”は十分なのかよ?」

アニエスとマルティーナのように別の場所で警備をしているリゼットは報告した後パレードを見つめ、感想を口にしたアーロンは不敵な笑みを浮かべた後リゼットにある確認をし

「はい、ちょっとした保険程度ですが。」

アーロンの確認に対し、リゼットは静かな表情で頷いて答えた。



「…………父上たちにもいい報告ができそうだな。ナージェ、そろそろ会場前に行こうか。」

「かしこまりました。」

一方モニター越しでパレードの様子を見守っていたシェリド公太子は満足げな笑みを浮かべた後ナージェと共にどこかに向かおうとしたが

「……………………」

一瞬感じた異様な気配――――――メルキオルに気づいて振り向いたが、既にメルキオルの姿は無く特に異変は無かったのでナージェと共に去って行った。

「クク…………お前さんにとってはかつての仲間が手を貸した枝がどんな花を結んだかの”仕上がり”を確認するちょうどいい機会ってか?」

「うふふ、さすがはあのヴァイスの旦はんの”好敵手”だけあって鋭いヒトやねぇ。外法同士の落とし子――――――ウチもまぁ、”親戚”として見守らせてもらおかな。」

同じように別の場所でパレードを見守っているランドロスに指摘されたルクレツィアは苦笑を浮かべた後怪しげな笑みを浮かべた。

「最ッ高!このクソ暑い砂漠に来た甲斐はあったわね~♪」

「……………………」

更に別の場所でパレードを見ていたイセリアははしゃぎ、ラヴィはパレードに魅せられたのか黙ってパレードを集中して見ていた。

「ハハ、こんなに魅せられたのはリーシャ達アルカンシェルの”金の太陽、銀の月”以来だよ…………!」

「フフ、それは光栄ですね。今回はあくまで警備兼客側としてでしたけど…………次はアルカンシェルの宣伝も兼ねてイリアさんたちと一緒に参加するのもいいかもしれませんね。」

イセリア達と共にパレードの警備をしていたロイドはパレードを見つめながら素直な感想を口にし、ロイドの感想に頷いたリーシャは口元に笑みを浮かべて答え

「フン…………悪くねぇな。」

「ガルシア、あまり細かい事を言いたくはないけど、この後”起こりうるであろう事態”に支障が出ない程度で飲酒しなさいよ。」

席に座って酒を飲みながらパレードを見つめて口元に笑みを浮かべているガルシアに人間の姿になっているルファディエルは静かな表情で指摘し

「ハッ、この程度で酔う程酒に弱くないぜ。――――――むしろ、テメェが想定している”事態”に備えてアゲていく為の酒だぜ?」

指摘されたガルシアは鼻を鳴らして答えた。

「…………まあ、戦闘に支障が出ないのならばこれ以上煩く言うつもりはないわ。今回の件…………できれば幹部の一人くらいは捕縛したい所だけど、”想定している戦場”を考えると、幾らエースキラー(わたしたち)でも街中の人々の安全を最優先にすべき事を念頭に置くべきでしょうからね。…………まあ、貴方に関しては不要な指摘かしら―――――アリオス。」

「――――――ああ。」

ガルシアの答えに静かな表情で呟いたルファディエルはローブを被って全身を隠している男――――――アリオスに声をかけ、声をかけられたアリオスは静かな口調で答えた。





12:30――――――



30分後、パレードが一旦街を徘徊し終えると賞の発表が始まった。



「―――――それでは受賞式の前にこの場で作品賞と俳優部門を発表します。サルバッド映画祭・初代優秀賞(グランプリ)は――――――ベガスフィルム、サルバトーレ・ゴッチ監督作品、『ゴールデン・ブラッド』!そして栄えある初代、最優秀賞(レオンドール)に輝いたのは――――――九龍映像、レスリー・ラム監督作品――――――『狼たちの鎮魂歌』!!

「うぬぬう~…………次は負けんからなあっ!」

「ハハ…………どうかお手柔らかに。」

シェリド公太子の発表を聞いて自身が最優秀賞を取れなかったことに肩を落としたゴッチ監督は悔しそうに唸りながら隣にいるラム監督に宣言し、対するラム監督は苦笑しながら答えた後ゴッチ監督と握手を交わし、その様子をマリエルやディンゴを始めとしたマスコミ達は写真を撮ったりメモを取ったりしていた。

「続きましては俳優部門の発表です。優秀男優賞は――――――『狼たちの鎮魂歌』主演、ラファル・アズナヴール!最優秀男優賞は――――――『パーフェクトドライバー2』主演、アルベルト・グレンジャー!優秀女優賞は――――――『ゴールデン・ブラッド』主演、ジュディス・ランスター!そして最優秀女優賞は――――――『狼たちの鎮魂歌』主演、ニナ・フェンリィ!!」

「―――――やったわね、ニナ。とうとう上回られちゃったか。」

シェリド公太子の発表を聞いたニナが目を丸くして驚いているとジュディスが苦笑しながらニナに声をかけた。

「ジュディス先輩…………ふふ、作品にも助けられました。」

ジュディスの言葉に微笑んだニナはジュディスと握手をした。

「つ、ついにニナ・フェンリィがジュディス・ランスター越えですか…………!まさに歴史的瞬間ですね…………!!」

「…………明日の誌面はどこも賑わいそうだな。」

時折写真を撮りながら呟いたマリエルの感想にディンゴは苦笑しながら答えた。



「―――――それでは呼ばれた方々はどうぞホテル最上階の、受賞式会場へ!それ以外の皆さんもこのまま更に熱く盛り上げて欲しい!」

「ああ、ここからがむしろ本番じゃっ!フォクシーパレード第二幕――――――新たなフォクシーにフォックス(男優)も出番じゃ!!」

「ええっ!!・おおっ!!」

シェリド公太子の言葉に続くように声を上げたゴッチ監督の言葉にモデルや俳優たちは力強い答えを口にした。そしてフォクシーパレードの第二幕が始まった。



「キャ――――――!!」

「アレックス、やっぱり貴方が一番よ―――――!!」

「おいおい、あれってスーパーモデルの…………!?」

「うおおおおっ、そう来るかよ!?」

「ハッ…………あの監督、なかなかわかってるじゃねーか。」

「”本命”が居なくなった代わりに更なるテコ入りでの盛り上げ、ですか。」

「ああ、賞は逃しちまったが人気俳優に一流モデルだからな。」

フォクシーパレードの第二幕に観客達が興奮している様子を見守っていたアーロンはゴッチ監督の手腕に感心し、ヴァンはゴッチ監督の狙いを推測したリゼットの推測に頷いた。

「シャヒーナさぁん!!」

「いいわよ――――――その調子でね!」

フェリとサァラはそれぞれパレードの中心で踊り続けているシャヒーナに応援の言葉をかけ、応援の言葉をかけられたシャヒーナは一瞬ヴァン達に視線を向けてウインクをした。



「頼もしくなって…………これも皆さんのおかげですね。」

「えへへ、サァラさんがいたからこその強さかと。」

「ええ、前半の疲れもまったく感じさせませんし。この調子なら最後までしっかりやり遂げられそうですね。」

シャヒーナの成長に感謝しているサァラにフェリとアニエスはそれぞれ答えた。

「しかし『ゴールデンブラッド』が2番手っつーのは驚いたな。まだ見てねえが『狼たちの鎮魂歌』っつーのはそこまで面白ぇのか?」

「ああ、今年の中じゃあ甲乙付けがたいくらいの傑作だろう。時事的にもタイムリーだったからそこら辺りが決め手だったのかもな。」

「逆を言うと、ベガスフィルム主催でもフェアな投票が行われたという事ですね。」

アーロンの疑問に答えたヴァンは自身の推測を口にした、リゼットは別視点の部分について答えた。



「ふふ、ニナさんの演技も気になりますし私も見てみたいです。」

「わたしは『ゴールデンブラッド』の完全版っていうのを見てみたいですっ。」

「あん――――――?チビにはまだ早いっつーの。」

「あー…………もうちょい大きくなったらな。」

アニエスと共に観たい映画を口にしたフェリにアーロンとヴァンはそれぞれ苦笑しながら指摘した。

「むう…………納得いきませんっ。」

「(たしかR17でしたか…………)…………え――――――」

二人の指摘に頬を膨らませているフェリの様子を見て苦笑していたアニエスだったが常に携帯している小さなバックの中にあるゲネシスが反応し始めていることに気づくと驚きの表情を浮かべ

「ッ…………!?」

「ッ…………こいつは…………!」

アニエスに続くようにゲネシスの反応に気づいたフェリとヴァンがそれぞれ驚いたその時

「…………おい、何があったんだ…………?」

何らかの異変に気付いた観光客の一人が声を上げた。



「ど、どうしたの、シャヒーナさん?」

「ひょっとして疲れちゃったかい?だったらボクが代わりに――――――」

一方その頃、突如踊りを止めたシャヒーナに困惑した女優や俳優がシャヒーナに声をかけた。



――――――姉の”代わり”、お前は、それで満足できるのか?本当はもっと輝ける筈だろう…………今までの分を恩返しする意味でもな。ならば輝くがいい――――――全てを巻き込む”黄金の太陽”として。



「…………輝く…………お姉よりも…………お姉、ためにも…………もっともっと、輝かなきゃ…………!」

突如虚ろな目になったシャヒーナの頭の中に男の言葉が響くと、シャヒーナは謎の仮面を取り出してつけて踊り始めた。するとシャヒーナを中心に黄金の力が発生し始め

「きゃああっ!?」

「なん、だ…………ぁぁ……………………」

「輝きましょう…………みんなで…………」

黄金の力をその身に受けた一部の女優や俳優たちはそれぞれ黄金の瞳になり、虚ろになり始めた。

「なっ…………」

「あ、貴方たち…………!?」

黄金の力を受けても正気を保てている女優や俳優たちは仲間たちの異変に困惑していた。

「…………アハ、アハハハハハ…………!」

「スクリーンの中に飛び込んだみたいだぜ…………!」

「お、おい、大丈夫かよ――――――」

すると女優達に続くように観客達の一部も黄金の瞳になって興奮し始め、正気を保てている周囲の観光客達は黄金の瞳になった観光客の異変に困惑し、声をかけた。

「うるせえ、邪魔すんな!」

「きゃああああっ!?」

すると黄金の瞳になった観光客が自分に声をかけた観光客を殴り飛ばした。



「なんだ、この騒ぎは…………!?クソ、仕方ない!一刻も早く鎮圧を――――――!?お前ら…………」

その時異変に気付いてその場にかけつけたダスワニ警部は共に駆け付けた警官達やネイト捜査官に指示をしようとしたが、ネイト捜査官を含めた一部の警官達も観光客達のように黄金の瞳になり、更に黄金の力を発していることに驚いた。

「ひゃはは、せっかくのパーティを邪魔するとか冗談キツいですよ…………!」

「警部さんも一緒に楽しみましょ~…………?」

「クソッ、まさか本当に”ルファディエル警視の推測通りの展開になる”とは…………!というかネイト!お前、警視達から念のために飲んでおくように言われていた”導力シーシャの解毒剤”を飲まなかったな、この馬鹿がっ!!」

ネイト捜査官やネイト捜査官の彼女の異変を見て声を上げたダスワニ警部はネイト捜査官を睨んだ。



「こいつは…………!」

「シャ、シャヒーナ…………!?」

(あの”仮面”は…………)

その時その場にかけつけたヴァンは驚き、シャヒーナの異変にサァラは心配そうな表情で声を上げ、シャヒーナが身に着けている仮面に見覚えがあるリゼットは真剣な表情を浮かべた。

「!?おい、見ろ!」

その時更なる異変に気付いたアーロンが声を上げ、アーロンが視線を向けている場所――――――アルジュメイラホテルにヴァン達が視線を向けるとアルジュメイラホテルは黄金の結界に包まれていた――――――!

 
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