英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第48話
23:50――――――
その後ラヴィ達は先にホテルに戻り、連絡を受けた警察がギャスパー社長の連行や"B5F"の調査をしていた。
~ベガスフィルム~
「…………また、お前たちか。」
「って、導力シーシャの件で顔を合わせてたじゃねぇか。」
呆れた様子で腕を組んで呟いたダスワニ警部にヴァンは苦笑しながら指摘した。
「その、ネイトさんもお疲れ様です。」
「聞いてくれよ~アニエスちゃん、折角のオフだったのに警部ときたら――――――」
「ええい、お前は黙っていろ!」
アニエスに労いの言葉をかけられたネイト捜査官は愚痴を呟きかけたがダスワニ警部が一喝すると黙った。
「違法薬物の深刻さは承知しているがこれはこれ、それはそれだ。不法侵入に令状なしの違法捜査…………ギルドどころか”エースキラー”まで同行して、どういうつもりだ?」
「規約に則って民間人の救出を優先させてもらっただけ。一応、総本部の許可はもらってるし国際条約にも違反してない――――――ギリだけど。」
「え、えっと…………この場合ヴァンさん達も”ギルドの協力者”として今回は主張すれば文句はないですよね?」
「ぐっ………なら、”エースキラー”はどう説明する!?幾ら”中央”と”本国”による”合同捜査隊”とはいえ、現役の刑事が違法行為による不法侵入に加えて令状なしの違法捜査をすれば、最悪ギャスパー社長の逮捕もそうだが”B5F”の証拠物件は法的な証拠能力を認められないことになると理解しているだろう!?しかもこのサルバッドは”クロスベル帝国領ではなく、メンフィル帝国領だ”。そのことから下手をすれば国際問題にまで発展するとわかっていて、何故このような暴挙を行った!?」
フィーとアネラスの説明に唸り声を上げたダスワニ警部はロイドとルファディエルを睨んで指摘した。
「その点については問題ないわ。――――――ロイド。」
「ううっ、正直”アレ”を使うのは心苦しいけど…………」
ダスワニ警部の指摘に対して答えたルファディエルはロイドに視線を向けて声をかけ、声をかけられたロイドは疲れた表情で呟いた後ヴァイスから受け取った書状を取り出してダスワニ警部に見えるように書状を広げた。
「?なんだそれは…………『メンフィル帝国皇帝シルヴァン・マーシルン、クロスベル帝国双皇帝ヴァイスハイト・ツェリンダー並びにギュランドロス・ヴァスガンの名に置いてメンフィル・クロスベル両帝国領土内でのエースキラーによる違法捜査によって得た証拠物件も法的にも認めるかつ捜査令状の発行手続きを省略する事も可能とする』――――――”皇帝勅命捜査令状”だとっ!?」
「ええっ!?」
「ちょっ、警察がそんな反則技を使うってアリなのか!?」
「うわぁ………ヴァイスさん達、”皇帝として奮える特権”を存分に活用していますねぇ…………」
「ん…………でもこんな無茶できるのは、”皇族としての力”が強いメンフィルとクロスベルだからできることで、エレボニアやリベールの王族はそんな無茶なことはできないと思う。」
ロイドが広げた”皇帝勅命捜査令状”を読み上げたダスワニ警部は信じられない表情で声を上げ、それを聞いたヴァン達がそれぞれ血相を変えて驚いている中アニエスとネイト捜査官はそれぞれ驚きの声を上げ、表情を引き攣らせたアネラスの言葉に頷いたフィーは静かな表情で推測した。
「なるほどな。他の連中はともかく現役の刑事でもあるバニングスや”叡智”まで”違法行為”を行ってまで俺達よりも先に”B5F"に侵入した事に”違和感”を抱いていたが…………そいつがあったから、先回りできたって事か。」
「えっと、その”皇帝勅命捜査令状”がある事で何故、エースキラーの方々による違法行為が認められるのでしょうか…………?」
「本来”法”は一般市民や警察もそうですが、貴族や政治家等”どのような立場”の方々でも守らなければならない事ですが…………メンフィル・クロスベル両帝国は貴族や政治家の方々が政治や新たな”法”の成立に関わっているとはいえ”政治”もそうですが”法”を決めるのも最終的には”皇帝”――――――つまり、”絶対王政”ですから、その両帝国の皇帝達による”勅命”の行為は例え”違法行為でも認められることになるのです。”」
「ハン、幾ら様々な勢力から危険視されているとはいえ、まさか一マフィアの撲滅の為だけにメンフィルとクロスベルの皇帝共が揃いも揃って”皇帝の特権”を利用してそんな代物を発行してエースキラーに持たせていたとはな。」
ヴァンが納得している中フェリの疑問にリゼットが答え、アーロンは鼻を鳴らして真剣な表情で”皇帝勅命捜査令状”を見つめた。
「そちらの女性の説明にもあったように、クロスベル帝国もそうだけどメンフィル帝国は”王政国家”にして”絶対王政”。両帝国の”法”の最終決定権がある皇帝直々の勅命による捜査令状だから、”本来ならば認められない違法捜査”も認められるわ。――――――そしてそれは当然メンフィル帝国領であるサルバッドを含めた南カルバード州もそうだけど、クロスベル帝国領である北カルバード州にも当てはまるわ。だから警察もそうだけど、軍や政治家、それぞれの州の最高責任者である”総督”ですらもこの捜査令状を反故することは許されないわ。ちなみにヴァイスハイト陛下によるとこの”皇帝勅命捜査令状”の事はカルバード両州の”総督”には伝えているとの事よ。それを考えるともしかしたらGIDあたりにはこの捜査令状の存在を知らされているかもしれないわね。」
「……………………」
「ったく、あの鬼畜眼鏡め。絶対知っていて黙っていやがったな。」
ルファディエルの説明を聞いたアニエスは複雑そうな表情で黙り込み、ヴァンはキンケイドを思い浮かべて悪態をついた。
「”違法”を取り締まる治安維持組織である”警察”に所属している一人として”法”を捻じ曲げるこの”捜査令状”は使いたくないというのが自分の本音です。ですが、両帝国の陛下達は”正攻法”――――――通常の捜査のやり方では”A”に辿り着く道のりは険しいと判断して、この令状の発行をし、自分達に渡したのです。」
「確かに”正攻法”じゃ”A”に辿り着くのは厳しいというのは事実だね。実際、今回の件にしても”民間人の保護”を建前に遊撃士も結構無茶をしているし。」
「あ、あはは…………」
ロイドの説明の後に呟いたフィーの話を聞いたアネラスは冷や汗をかいて苦笑し
「この令状を発行したことには他にも理由があってね。両帝国の皇帝達は”アルマータ”の肥大化は最悪かの”教団”のような”災厄”を引き起こすのではないかと想定しているわ。」
「きょ、”教団”ってまさか…………!」
「ハン、14年前と4年前に世間を騒がしたっていう”最低最悪の下衆の連中”か。」
「……………………」
「クロスベル帝国もそうですがメンフィル帝国の皇帝すらもそこまで危険視している程とは…………後で”本社”に報告してかの犯罪組織の脅威度の上方修正を
申し出た方がよさそうですね。」
ルファディエルの話を聞いて心当たりがあるネイト捜査官は驚き、アーロンは鼻を鳴らして真剣な表情を浮かべ、ヴァンは真剣な表情で黙り込み、リゼットは真剣な表情で考え込みながら呟いた。
「皆さんと同じ”警察”に所属している者の一人として”法”を捻じ曲げ、今も必死に”A”を捜査しているGIDやカルバード両州の地元の警察”の皆さんにとっては”色々と思う所がある”であろうこの”皇帝勅命捜査令状”はできれば使いたくなかったのですが、今回の件は緊急性が高かった為止むを得ず”違法行為”による強制捜査並びにギャスパー社長の現行犯逮捕を行った次第です。」
「…………………まさか中央と本国が”A"をそこまで危険視してそんな厄介な代物を発行してエースキラーに持たせていたとはな。とにかく、ギルドの二人とエースキラーの現役の刑事二人には後で現場検証に付き合ってもらうぞ。アークライドも…………後日改めて事情聴取に呼ぶからそのつもりでいろ!」
「へいへい、ご苦労さん。」
「また後で来させてもらうわ。」
「それじゃ。」
疲れた表情で呟いたロイドを黙って見つめたダスワニ警部は溜息を吐いた後ヴァン達にそれぞれ念押しをした後ネイト捜査官と共にエレベーターに乗って”B5F"へと向かった。
「―――――お姉えええっ!!!」
するとその時シャヒーナが声を上げながらサァラに駆け寄ってサァラに抱き着いた。
「シャヒーナ…………ごめんなさい、心配かけて…………」
「グスッ、お姉のせいじゃないよぉ…………!もう、そんな風に一人で背負わせたりしないんんだからね…………!」
「…………聞いたわ、私の代わりに頑張ってくれているって…………大きくなったわね、シャヒーナ…………」
目覚めた後”B5F"からの撤収際に聞いたヴァン達の話を思い返したサァラは優し気な微笑みを浮かべてシャヒーナの頭を撫で
「…………サァラ姉ぇぇ…………!」
シャヒーナはサァラを強く抱きしめながら泣いていた。
「フフ…………」
「…………良かったですね。」
そこに現れたジュディスやニナは微笑ましそうに姉妹の様子を見つめ
「えぐえぐっ、本当に…………!!」
「フフ、ヴァンちゃんたちもお疲れ様。」
「…………まだ”終わった”とは言えなさそうだがな。」
「ああ…………」
マリエルは感動のあまり涙を流して泣き、ベルモッティはヴァン達を労い、ディンゴは真剣な表情で懸念を口にし、ディンゴの言葉にヴァンは重々しい様子を纏って頷いた。
「…………まさかギャスパーがマフィアと繋がってたとはのう…………バカモンが。」
ゴッチ監督は連行されたギャスパー社長を思い返し複雑そうな表情で呟いた。
「これからギャスパー・ディロンは警察で事情聴取をされるけど…………」
「………肝心のアルマータのサルバッドでの”計画”については知らされていないでしょうね。」
「…………そっちもそっちで捨て置けねぇが、もう一つの問題も残っているな。依頼人は無事に取り戻したし、脅迫状の件も一応カタがついた形だが。実際、明日の映画祭はどうなるんだ?」
ロイドとリーシャの言葉に続くように呟いたヴァンはジュディス達に映画祭が開催されるかどうかについて確認した。
「…………それは…………」
「違法薬物に加えて拉致事件…………その上黒幕のマフィアも捕まっていない。悔しいけど…………正直、厳しいでしょうね。」
ヴァンの確認に対してニナが複雑そうな表情で答えを濁している中ジュディスは真剣な表情で開催は厳しい事を口にした。
「むうううっ…………!」
「そんな…………!せっかくサァラさんも戻ってきたのに。」
「そこまで消耗してたらどっちみちパレードは無理だろ。」
「……………………」
ジュディスの言葉を聞いたゴッチ監督とフェリはそれぞれ悔しそうな様子を見せ、アーロンの指摘に反論がないサァラは複雑そうな表情で黙り込んだ。
「結局、メッセルダムと同じ結末になってしまうんでしょうか…………」
「ああ、それについてだが…………」
「―――――同じにはさせないさ。」
悲しそうな表情で呟いたアニエスの推測にディンゴが答えようとしたその時、シェリド公太子がナージェと共に現れて声をかけた。
「おおっ、シェリド殿下!?」
「そいつはどういう…………?」
シェリド公太子の登場にゴッチ監督が驚いている中、ヴァンはシェリド公太子の言葉の意味を訪ねた。
「そのままの意味だ――――――明日は予定通り決行する。映画祭の式典も、勿論フォクシーパレードもね。」
「マジかよ…………!?」
「で、ですが…………大丈夫なんですか?」
シェリド公太子の口から映画祭が開催されることを知ったアーロンは驚き、アニエスは不安そうな表情で訊ねた。
「主催者の一人として他のスポンサー方面とも協議済みだ。今日までの宣伝費や諸々の事情も考えると中止や延期を避けたいのはどこも同じ…………ギャスパー社長の逮捕と関連事件については、発表を遅らせる段取りもすでにつけている。当然、通信会議ではあるが南カルバード州の総督――――――マーシルン総督とも協議し、開催の許可も貰っている。」
「…………殿下の協力もあって、各報道機関への根回しも済んでいてな。」
「い、いつの間に…………」
「やれやれ…………要は大人の事情ってヤツですか。」
シェリド公太子とディンゴの話を聞いたマリエルは驚き、ヴァンは苦笑しながら呟いた。
「まあ、ありていに言ってしまえばね。しがらみに囚われっぱなしのこの身を恨めしく思う今日この頃さ。」
「ま、殿下が尊敬してるヒトもここ2年は忙しいみたいだけどね。」
「あはは…………シェラ先輩と結婚してからは少しは落ち着くと思っていたけど、むしろ先輩と結婚してからの方がより一層忙しくなって祖国の復興や信頼回復の為に先輩と一緒にあちこちを巡り回っているらしいからね。」
(シェリド公太子殿下が尊敬している人ってまさか…………)
(その”まさか”でしょうね。)
肩をすくめて呟いたシェリド公太子の言葉に続くようにフィーとアネラスはそれぞれある人物達の状況を思い返し、苦笑した、3人の話を聞いてある推測をしたロイドは驚きの表情を浮かべ、ルファディエルは苦笑を浮かべた。
「だからこそ――――――やる以上はとことんやり切りたいのさ、彼のように。それは、ここにいる皆も同じだろう?」
「…………はい、だからこそ皆さんに依頼したわけですし。」
「何ヶ月も前から準備していよいよ明日って所だものね。」
「ようやくパレードも目途が立ったのに今更お蔵入りなどありえんじゃろう!」
「うーん…………警察もギルドもさすがにイイ顔はしなさそうだけどねぇ。」
シェリド公太子の問いかけにニナやジュディス、ゴッチ監督がそれぞれ決意の表情で答えた後ベルモッティは困った表情を浮かべてフィーやアネラス、ロイドやルファディエルを見回して問いかけた。
「正直な所言うと遊撃士としては開催は止めて欲しいんですよね…………社長に薬物汚染を強要した黒幕は捕まっていませんし、”人形使い”の行方もわかりませんし。」
「同じく警察の一人として開催は止めて欲しいけど…………メンフィル帝国政府からも開催の許可を貰っている以上、開催は避けられない流れだからな…………」
「”裏”に目を光らせる役割を任せられる”誰か”がいれば別だけど。」
アネラスとロイドの話の後にフィーは口元に笑みを浮かべてヴァンに視線を向け
「…………なるほどね。殿下が来たのはそういうことですか。」
視線を向けられたヴァンは納得した様子でシェリド公太子に確認した。
「ああ――――――君達に追加の依頼をしたい。できれば映画祭が終わるまではこの地に残って警戒を続けて欲しいんだ。」
「…………あ…………」
シェリド公太子の依頼にアニエスは呆けた声を出した。
「当然、我々も備えますが…………ベガスフィルムの疑惑を暴いた貴方がたならばまさに適任でしょう。」
「ハッ、そりゃまた買われたモンだな。手の平返しは気に食わねえが。」
「ふふ、皆様の二日間の働きに対する正当な”評価”でしょう。」
ナージェの自分達への評価にアーロンは鼻を鳴らし、リゼットは静かな笑みを浮かべて呟いた。
「ちなみに昼間のお詫びもかねて報酬は弾むつもりさ。映画祭とパレードを楽しみながらでも構わない――――――どうかな?」
「あたしからも、どうかお願い…………!お姉は明日までにきっと回復する――――――ううん、もしできなかったとしてもあたしが代わりを務める!お姉を想って、お姉に届くために仕上げたあたしの踊りを見てもらうためにも…………!」
「シャヒーナ…………姉妹揃って助けていただいた身、この上は図々しいかもしれませんが…………私からもお願いします。ヴァンさん、アニエスさんたちも…………」
「ったく…………明日は適当に観光でもして帰りたかったが。追加報酬もたんまり出るってんなら、これも乗りかかった船ってヤツかもな。」
シェリド公太子と姉妹の頼みにヴァンは溜息を吐いた後苦笑しながらシェリド公太子の依頼を請ける事を決めた。
「ふふ…………元々映画祭が無事開催できるよう頑張ってましたし。」
「はい、やることは同じですしっ。」
「ハッ…………しゃあねぇ、精々付き合ってやるか。」
ヴァンに続くようにアニエス、フェリ、アーロンもそれぞれ依頼に対する想いを口にした。
「よぉし――――――そうと決まれば明日はギャスパーの弔い代わりに派手にいくとしよう!」
「いや、社長は死んでませんから!」
拳を打ち付けて明日のパレードについて並々ならぬ想いを口にしたゴッチ監督にジュディスは疲れた表情で指摘した。
「そんな細かいことはどうでもいいじゃろう!それよりもいっそ出場者全員、サァラちゃんたちと同じ踊り子衣装で統一するのもありかもしれんなっ!」
「ああ…………!それもいいかもしれませんね。」
「ちょっとニナ!?アンタたまにとんでもないことを――――――」
ゴッチ監督の提案にニナが同意するとジュディスは表情を引き攣らせて指摘し始め
「おおっ、それとせっかく”アルカンシェル”のリーシャちゃんもいるのだから、リーシャちゃんも是非ともフォクシーパレードに参加してくれんかのうっ!?」
「申し訳ありませんが今の私はプライベート中ですし、そもそも私の所属――――――”アルカンシェル”の許可がなければ出演はできません。」
「それと幾ら何でもここで更に新たなメンツを加えるのは無理がありすぎますよ!」
「後アルカンシェルの”舞姫”の一人であるリーシャさんでもパレードの振り付けを覚えてもらうにはさすがに時間が足りませんよ…………シャヒーナさんでも正直ギリギリでしたのに…………それにリーシャさんも仰ったようにリーシャさんの所属先である”アルカンシェル”から出演の許可を取らなければ、後で問題になりますよ。」
リーシャに視線を向けてパレードに出演するように頼んだゴッチ監督だったがリーシャは苦笑しながら依頼を断り、ジュディスとニナもそれぞれリーシャの出演は無理がありすぎる事を指摘した。
(で…………アレは間に合いそうか?)
(ふふ、何とかしてみます。万が一に備える意味でも―――――)
ゴッチ監督達が明日のパレードについて騒いでいる中ヴァンとリゼットは意味深な会話をしていた。
その後――――――ヴァン達はベガスフィルム周辺が落ち着くのを見計らってから、宿に戻った。なお、巻き込まれたサァラは念のために遊撃士達の保護下に置かれることになり…………姉妹揃って、今夜はギルドの支部の2階に寝泊まりすることになるのだった。
10月7日、1:02――――――
~伝統地区~
ヴァン達と別れた姉妹はフィーとアネラスと共にギルドに向かっていた、
「ふふっ、ギルドに泊まるなんてちょっとワクワクしますっ。」
「もう…………遊びに行くんじゃないのよ…………?」
はしゃいでいる様子のシャヒーナにサァラは呆れた表情で指摘した。
「とにかく今日はゆっくり休んで。ベッドは一応ふかふかだから。」
「勿念の為に二人が休んでいる間も今夜は私達が警戒していますから、安心して休んでください!」
「えへへ、良かったねお姉――――――そうだ…………着替え、取ってこないと!」
フィーとアネラスの言葉に嬉しそうな表情を浮かべたシャヒーナは家に着替えを取ってくる必要があることを思い出した。
「付き合おうか?」
「大丈夫、すぐそこですから!お姉と先に入っててください!」
「あ…………ちょっとシャヒーナ――――――」
「あはは………………」
そしてシャヒーナはサァラが呼び止める前に家まで走り去った。
「…………えへへ、ホントに良かった。お姉が戻ってきてくれて…………お兄さんたちと会えたのも翼の女神(アル―ジャ)様のお導きだったのかな?うーん、あの温井伊さんだったらホントにお姉の彼氏になっても――――――」
家に着いたシャヒーナは嬉しそうに呟いた後扉を開いた。
「―――――やあ、良い夜だお嬢さん。」
その時いつの間にかシャヒーナの背後にいたコートの男がシャヒーナに声をかけ
「え――――――」
声をかけられたシャヒーナは呆けた声を出した後振り向いた。
そして翌朝、映画祭が開催されようとしていた。
10:00――――――
映画祭の開催時間になるとアルジュメイラホテルの前でシェリド公太子が演説をしていた。
~アルジュメイラホテル~
「―――――皆さん、私は映画が大好きです。20年前にカルバードで花開いた今後も各地へ広まるであろう総合芸術――――魅惑的な銀幕の世界が、胸躍るドラマが皆の心を掴んで離さず、進化を遂げてきました。この砂漠の只中にある街にこれだけの人を集めてしまうほどに。」
ヴァン達やジュディス達がそれぞれ見守っている中シェリド公太子の演説に観客達は拍手をした。
「…………その意味で二ヶ月前のメッセルダム映画祭の開催中止は残念でした。ですが”色合い”は違うにしても、映画を愛するすべての人々の想いは同じ…………――――――それを確かに示すことが此度の映画祭の役目でもありましょう。シェリド・アスヴァールの名に置いて――――第一回『サルバッド映画祭』の開催を宣言します!正午には”レオンドール賞”の授賞式とフォクシーパレードもあるので、ご期待あれ!堅苦しい挨拶はこれで終わりだ――――――誰も彼も心躍らせ、楽しもうじゃないか!」
そしてシェリド公太子の開催宣言に観客達は歓声を上げながら拍手をした。
~伝統地区~
「ヒュウ、すげえ盛り上がりだな♪」
「今まで見たどんなお祭りより凄いかもしれません…………!」
ついに始まった映画祭による街の喧騒を目にしたアーロンは口笛を吹き、フェリは無邪気にはしゃいでいた。
「ベガスフィルムの件の情報規制も上手くいっているみたいだな。ルネの奴が手を回してたみたいだし心配はしてなかったが。」
「導力シーシャの件といい、流石という他ありませんね。」
「ちょっと複雑ですけど…………皆さんの頑張りが報われてよかったです。まだ油断はできないかもしれませんが。」
ギャスパー社長の逮捕が市民や観光客達が知らない様子を見て情報規制が上手くいっている事をヴァンは確認し、リゼットはキンケイドの手腕に感心し、アニエスは安堵の表情で呟いた後表情を引き締めた。
「ああ、正午には例のフォクシーパレード、作品や俳優たちの授賞式も控えている。”叡智”やバニングスも推測していたが、その辺の盛り上がるタイミングで仕掛けてくる可能性が高いだろう。楽しみながらでいいが、怪しい動きを”嗅ぎ採れる”ようにはしておけよ?」
「ハッ、わかってるっつーの。諸々巡りながら4spgも一応チェックすりゃーいいんだろ?
「ふふ、アークライド事務所流の危機管理というわけですね。」
「…………大丈夫です。煌都での経験も活かせそうですし。それとシャヒーナさんたちの陣中見舞いにも行きたいですね。」
「はいっ、サァラさんの調子が戻っているかどうかも気になりますし。」
「ったく…………そんじゃあ出張最終日、解決業務を始めるぞ。」
こうしてアークライド解決事務所のサルバッドでの出張最終日の”解決業務”が始まった――――――
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