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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第31話

~黒龍城塞・最奥~



「また新手――――――!?」

()めろ、フェリ!その”聖女”は”この場にいる全員―――――いや、世界中の達人(マスター)クラスの使い手のほぼ全員ですら絶対に勝てない相手”だ!それこそお前がよく知るクルガ最強の戦士―――――”灼飆(カムシン)ですらも絶対に勝てない”化物揃いのメンフィルの使い手の中でも”戦妃”や”空の覇者”とも並ぶトップクラスの使い手だ!」

「ええっ!?って、よく見たら貴女は(アブ)と一緒にエレボニアを訪れた時に見た…………!」

リアンヌの登場に武器を構えかけたフェリだったがヴァンの制止の言葉と説明を聞くと驚きの表情を浮かべてリアンヌを見つめた後あることに気づくと信じられない表情を浮かべた。

「”鉄機隊”という名前に”聖女”という呼ばれ方、そして貴女のその髪…………まさか貴女はかの”獅子戦役”の……?」

リアンヌの正体に心当たりがあるアニエスは確認するように自分が知っている知識を真剣な表情で呟いて驚きの表情でリアンヌを見つめて問いかけ

「その通りですわ!(わたくし)達”鉄機隊”の主にして偉大なる導き手―――麗しくも凛々しく、誇り高くも慈悲深き御方……”武”の頂点を極めし超絶、素晴らしい”至高の存在”たる御方――――――”槍の聖女”にして今は前メンフィル皇帝夫妻の親衛隊長も任されているリアンヌ・ルーハンス・サンドロット様ですわっ!!」

アニエスの問いかけに力強く答えたデュバリィは嬉々とした様子でリアンヌの事を語り、デュバリィの語りの様子にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて脱力した。

「フフ、幾らアラミスが建てた学び舎の学生とはいえ遥か昔の外国で起こった戦の事を()っているとは、中々博識な者を”助手”にしたようですね、裏解決屋(スプリガン)殿。」

「そりゃどうも。一応確認しておくが、あんたの登場に”エースキラー”の連中が驚いていない様子からして、正直信じ難いがどうやらあんたも”エースキラー”の一員のようだな?」

アニエスに視線を向けた後自分に視線を向けたリアンヌの指摘に疲れた表情で答えたヴァンは真剣な表情でリアンヌに確認した。

「ええ。――――――そして、”黒月への戒め”の為にもこの場に参上した次第です。」

ヴァンの確認に頷いたリアンヌは目を細めてギエンを睨んだ。



「儂の始末の為によもやヌシ程の使い手を寄越すとは、3年前と違い、メンフィルは本気で黒月を”隷属”させるつもりか、聖女よ。」

「メンフィル帝国が黒月に求めているのは、あくまでメンフィル帝国が謳っている”共存”です。――――――ですが、その”共存の障害”になりうる存在やメンフィル帝国への反逆の刃を研ぎ続けている貴方のような”老害”には、改めてメンフィル帝国の”力”を思い知らせる必要があるとメンフィル帝国は判断しました。」

ギエンの問いかけに対してリアンヌは静かな表情で答えた。

「クク、儂よりも遥かに年を重ねているヌシに”老害”呼ばわりされるとはの……………だが、確かにメンフィルの”力”を見誤っていたようじゃの………」

リアンヌの指摘に口元に笑みを浮かべて答えたギエンは重々しい口調で呟いた。するとその時倒れていた凶手達が突如飛び起きると同時に一斉にリアンヌに襲い掛かり

「チッ、もう目覚めやがったのかよ!?」

「ですが、”襲う相手が悪すぎましたね。”」

凶手達の行動を見たクロウは舌打ちをして厳しい表情を浮かべ、リタが静かな表情で呟いたその時

「―――――滅!!」

リアンヌが自身の得物である騎兵槍(ランス)を一閃して凶手達を全て吹き飛ばして壁に叩きつけ、リアンヌが放った一閃――――――アルティウムセイバーを受けた凶手達は全員再び気絶した。

「い、一瞬で”凶手”の人達全員を………」

「何も見えませんでした………」

リアンヌの超越した一撃を目にしたアニエスは驚きの表情で呟き、リアンヌの攻撃動作が全く見えなかったフェリは信じられない表情で呟いた。



「”主”の危機を救う為に例え自分達では決して敵わない相手だと理解していても挑む忠誠心は見事です。ですがその忠誠心は”次代の主”に見せるべきです。」

「”大君すらも絶対に勝てない相手”に真正面から向かい、無様な姿を見せるという醜態をさらしおって、馬鹿者共が………」

技を放ち終えたリアンヌは静かな口調で呟き、苦々しい表情を浮かべて凶手達を見回して呟いたギエンだったがやがて覚悟を決めた表情を浮かべて口を開いた。

「チョウよ……黒月とルウ家の為に儂を謀った事は”見事”だ。ヌシならいずれ亡きツァオの”悲願”を果たす事もできるであろう。」

「恐縮です、ギエン様。」

ギエンの言葉に一瞬目を丸くしたチョウはすぐに口元に笑みを浮かべて恭しく頭を下げた。

「ファンよ……今回の一件で理解させられたがメンフィルの”力”はあまりにも強大。ヌシならば儂に言われなくても理解しているだろうが、共和国だった頃のように今のこの国の”力”――――――メンフィルの”力”を甘く見ると”黒月すらもメンフィルに喰われる”事になりかねんぞ。」

「父上………ええ、貴方の忠告、決して忘れませんし、将来私の跡を継ぐシンにもメンフィルを決して侮らぬように強く言い聞かせておきます。」

「アシェン、ツァオの件も含めてヌシにもメンフィルには思う所はあるかもしれんが、ルウ家の娘ならばそれを決して表に出さず、ルウ家の――――――黒月の為の振る舞いをせよ。………ユエファにマルティーナよ、アーロンを黒月の為に利用しようとした挙句マルティーナをアーロンへの人質にしようとした儂に頼める資格はないが、アシェンとはできれば昔のような接し方で接してやってくれ………そしてアーロン。レイ達の犠牲を含めた”大君”の件……本当にすまなかったの。レイ達の葬式代にセイ達の治療費、そして今回の件でのヌシやマルティーナへの迷惑料は儂の資産から好きなだけ持っていくといい。ファンに言えば、手配してくれるであろう。」

「ギエンさん………ええ、頼まれなくてもアシェンがそれを望むのならば私は最初からそのつもりよ。」

「勿論私にとってもアシェンは今でも可愛い”妹”だから、ユエファ共々そのつもりですよ。」

「さ、さっきから何を言っているの、爷爷(イェイェ)……!?これじゃあ、まるで”遺言”じゃない……!」

「そうだぜ……!爺さんらしくないぜ……!」

それぞれに遺言を残すようにファンや自分、マルティーナやユエファにそれぞれに対する言葉を口にしたギエンの様子にアシェンとアーロンはそれぞれ不安そうな表情で声を上げた。



「伝えるべき言葉は伝えたようですね?」

「うむ。………こうしてエレボニアの伝説に謳われしヌシを前にしてふと思う事がある。先代大君にもヌシのような度量が備わっていれば、黒月の――――――いや、この煌都を含めたカルバードの歴史も変わっておったかもしれぬと。」

アシェンとアーロンの言葉に対して何も答えずギエンはリアンヌへと振り向き、リアンヌの確認に対して答えた後静かな口調で呟いた。

「世界は誰もが望むように都合よく回っていません。――――――例えば、今回の貴方達黒月の長老達による企てのように。」

「クク、その企てを阻止する所かひっくり返したヌシにだけは言われたくないがな。――――――このギエン・ルウ、例え相手がかの”聖女”であろうとただでやられると思ってもらっては困る。」

リアンヌの指摘に対して口元に笑みを浮かべて呟いたギエンは全身から闘気を解放して体術の構えでリアンヌを睨み

「長年煌都の民達の為にも黒月の長老を務め続けた功績に免じ、先手は譲りましょう。」

「フッ、ならばヌシのその度量に甘えてせめて一矢は報いさせてもらうっ!」

そして先手を譲る事を口にしたリアンヌの宣言を聞くとリアンヌとの距離を一気に詰めて先制攻撃を仕掛けたが

「―――――遅い。」

リアンヌは一瞬でギエンの先制攻撃を回避した後超高速の連続突きを放った!

「ガハッ!?」

リアンヌの超高速の連続突きをその身に受けたギエンは呻き声を上げて吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

爷爷(イェイェ)――――――ッ!!」

吹き飛ばされて壁に叩きつけられたギエンを目にしたアシェンは悲鳴を上げた。壁に叩きつけられた後立ち上がろうとしたが、すぐに地面に膝をついたギエンは身体の到る所から血を流し、更に臓器にもダメージが与えられたのか口からも血を流していた。



「い、一体今の一瞬で何が……」

「恐らく超高速の突きを一呼吸で数十放ったのだろう。わかってはいたが、相変わらずとんでもない化物だぜ………」

「ひ、一呼吸で数十の突き――――――それも超高速で放つなんて、例えどれほどの強者(つわもの)の戦士であろうとも”人間業”ではありませんよ……!?」

一方何が起こったのか理解できず、不安そうな表情で呟いたアニエスの疑問に答えたヴァンの推測を聞いたフェリは信じられない表情で声を上げた。

「爺さん……ッ!」

アーロンはギエンに助太刀する為に武装を構えてリアンヌに攻撃を仕掛けようとしたが一瞬で自身の周囲に放たれた無数の矢に気づくと攻撃を中断した。

「フフ、貴方の多くの仲間達の命が奪われた今回の一件の原因であり、貴方の身内を人質にしようとしたあの老人を救おうとする貴方の寛大さは評価すべきだけど………」

「マスターの邪魔をする者は誰であろうとも、我等”鉄機隊”が許さない。」

「てめぇら……ッ!」

アーロンの周囲に一瞬の早業で無数の矢を放った人物――――――エンネアは妖し気な笑みを浮かべ、斧槍を構えたアイネスは宣言し、二人の言葉を聞いたアーロンは二人を睨み

「聖女達の話を聞いて何も動かない様子からして、エースキラーもだが、”北”の二人も手を貸すつもりなんてねぇようだな?」

「―――――はい。ましてやサンドロット卿達に降された要請(オーダー)は前メンフィル皇帝と現メンフィル皇帝――――――リウイ陛下とシルヴァン陛下連名によるものですから、メンフィル帝国に”保護”されているエレボニア王国に所属している我々の立場ではそもそも介入する事自体が不可能です。」

「まあこれが3年前の私達だったら介入したかもしれないが……」

「あの爺さんの企てを知ったら、例え3年前のⅦ(おれたち)でも介入はしなかったと思うぜ。」

ヴァンの確認に対してクレアは静かな表情で肯定し、アンゼリカとクロウはそれぞれ複雑そうな表情で答え

当然故郷(ノーザンブリア)の為にメンフィルに手を貸している今の北の猟兵(おれたち)が、故郷の独立が遠のくような事なんてできる訳ねぇだろ。」

「………………」

マーティンは疲れた表情で答え、マーティンの言葉に反論がないのかタリオンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



爸爸(パパ)!何とかならないの……ッ!?」

「残念ではあるが……父上の件は他の長老達全員が決めた以上、私の立場では何もできない………」

悲痛そうな表情を浮かべたアシェンの問いかけにファンは重々しい様子を纏って答えた。

「……アシェンさん。”黒月の令嬢”としてでなく、”アシェンさん個人として”ギルドに依頼するつもりはありませんか?」

「え………」

「おや………」

するとその時鞘に手を当てたエレインがアシェンに問いかけ、エレインの問いかけにアシェンが呆けている中チョウは目を丸くした。

「無謀な事をしようとするんじゃねぇ、エレイン!幾らお前でも”槍の聖女は絶対に勝てない相手”である事は理解しているだろうが!?」

「だからと言って幾ら黒月の長老とはいえ、遊撃士として”虐殺”も同然のこの状況を見過ごせる訳がないでしょう!?」

エレインの行動と言動にエレインがやろうとしている事を察したヴァンが血相を変えてエレインに警告し、ヴァンの警告に対してエレインは反論した。

「フン、遊撃士でありながら黒月の長老を救う為に至高の存在たるマスターに挑もうとするその心意気だけは誉めてあげますが、もしそのような事をすれば返り討ちに遭うのは貴女だけでなく、遊撃士協会(ギルド)自身ですから、素直にアークライドの警告に従った方がいいですわよ、剣の乙女(ソードメイデン)。」

「マスターが今行っている事は前メンフィル皇帝と現メンフィル皇帝――――――つまり、”一種の国家権力による政治”だ。遊撃士である其方がマスターを阻むという事はギルドの規約である”国家権力への不介入”を破る事にもなるぞ。」

「ただでさえ4年前の”クロスベル異変”に3年前の”ヨルムンガンド戦役”の件での”高位遊撃士の不祥事”があるのに、よりにもよってA級であり、カルバード両州のギルドの広告塔でもある貴女が3年前の”零駆動”のようにギルドの規約を破ってギルドが一国家との問題を作ったなんていう”不祥事”を起こせば、カルバード両州のギルドの立場は不味い事になるのじゃないかしら?ましてや、カルバード両州をそれぞれ治めている国はメンフィル帝国とクロスベル帝国――――――”4年前と3年前のそれぞれの遊撃士達の不祥事が原因の一つで、その結果世界各国をも巻き込む大事件の中心になってしまった国”だもの。」

「!!!~~~~~~っ!!」

デュバリィ達”鉄機隊”の指摘を聞いて目を見開いたエレインは唇を噛み締めて必死に耐えながら鞘から手を放した。

「エレインさん………ヴァンさん、何とかならないのですか……ッ!?遊撃士協会も動けない今のこの状況を何とかできるのは、”裏解決屋”だけなんじゃないですか……!?」

「つってもなぁ………止めさせるには”代わりになる戒め”――――――つまり、ギエン老を生かす代わりにギエン老がメンフィルの怒りを収める程の何らかの”謝罪”か”誠意”の証をメンフィルに示す事だが……………ん?」

エレインの様子を心配そうな表情で見つめたアニエスは懇願するかの表情を浮かべてヴァンに問いかけ、アニエスの問いかけに疲れた表情で答えたヴァンが考え込んだその時3年前のある出来事をふと思い出し、更に一時期”灰獅子隊”にいた頃メイド服姿のアルフィンが自らリィンの様々な世話をしようとし、それに対してリィン達が色々と騒いでいた様子の光景を思い出した。







私達黒月(ヘイユエ)も是非共”灰色の騎士”殿と縁談で繋がり、異世界でのメンフィル帝国と”光陣営”による大規模な宗教戦争が勃発した時のメンフィル帝国への支援もそうですが”灰色の騎士”殿達によるゼムリア側の守護のお手伝いをさせて頂きたいですね。



――――――本気でリィンとの縁談を考えているのでしたら、アシェン嬢あたりをリィンに嫁がせるおつもりですか?



さすがは魔道軍将殿。アシェン様の現在の年齢を考えると”縁談”はさすがに少々早い話ですし、”アシェン様自身も今はそのような事を考えている状況ではない”でしょうから、折を見ていずれ当主様達に提案させて頂こうと思っております。





「―――――”代案”がある、槍の聖女。その”代案”ならばわざわざギエン老の命を奪う必要なく、”黒月への戒め”にもなる。高潔な性格のアンタなら、命を奪わずに解決できる方法があるなら、その方法を選択したいんじゃねぇのか……?」

ギエンに止めを刺す為にギエンに近づいてランスを構えかけたリアンヌにヴァンが制止の言葉をかけ、それを聞いたリアンヌは動きを止めた―――――

 
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