英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第30話
~黒龍城塞・最奥~
「チョウ……儂の言いつけに反して一日早く戻ってきたか。」
「いえいえ、偶然ですよ。生憎肝心の銀殿は”エースキラー”の一員として既にこのカルバート両州で活動しているとの事で、運悪く入れ違いになったようでしてね。その”補填の為の交渉”もそうですが本日発生した突発的な想定外の交渉も何とかまとまったので参上した次第です。」
「まさか”銀”まで”エースキラー”の一員だったとはな………という事はその”補填の交渉の結果”がもしかして、そこのラギール商会の”銀髪の売り子”か?」
ギエンの言葉に対して肩をすくめて答えたチョウの話を聞いて真剣な表情で呟いたヴァンは銀髪の少女に視線を向けた後チョウに問いかけ
「ハハ、さすがはヴァンさん。チキ殿も黒月との関係を重視して下さっていてくれていることもそうですが彼女もアルマータの事を危険視しておりまして。お陰様で期間限定ではありますが、数人のルウ家の構成員達をラギール商会で学びつつも働いてもらう代わりに彼女の右腕であるエリザベッタさんに黒月で学びつつも、働いて頂く”交換派遣”の交渉を纏める事ができたのです。」
「……………………」
ヴァンの指摘に対して感心した様子で肯定したチョウは口元に笑みを浮かべてエリザベッタに視線を向け、視線を向けられたエリザベッタは軽く会釈をした。
「え……でしたら、何故先程そちらのエリザベッタさんまでマルティーナさん達と共に凶手達を無力化したのですか?」
「フフ、それに関してはすぐにおわかりになります。」
チョウの説明を聞いて新たン疑問を抱いたフェリにチョウは口元に笑みを浮かべて答えを誤魔化した。するとその時エレインとクレアと共にアシェンがその場に走って現れた。
「もうやめて、爷爷!これ以上アーロンを苦しめないで!―――――え?マ、マティ姉さん……!?”その姿”は一体……そ、それに隣にいるのは………ユエファ小母さん……ッ!?」
辛そうな表情でギエンを見つめて声を上げたアシェンだったがマルティーナやユエファに気づくと困惑の表情で声を上げ
「……アシェン……」
「エレインさんにクレア少佐も……」
「ふう、何とか無事みたいね。こっちはあの幹部には逃げられたけどマクシムさんたちは何とか逃がしたわ。……だけど、これは一体どういう状況?ラギール商会の”銀髪の売り子”もそうだけど、どうして”鉄機隊”やマルティーナさんまでこの場に………しかもマルティーナさんの”その姿”は……」
「……恐らく自身が”天使”である事が判明して周りの人々に騒がれない事もそうですが、黒月にも目を付けられない為にも今まで人間の姿で生活して正体を偽り続けたようですね。」
アシェン達の登場にアーロンやアニエスが呆けている中ヴァン達を見回して安堵の表情を浮かべたエレインはヴァン達に自分達の方の状況を説明した後真剣な表情でデュバリィ達を見回し、エレインの言葉に続くように推測を口にしたクレアは静かな表情でマルティーナを見つめた。するとその時ファンが前に出てギエンに声をかけた。
「……”大君”の件は聞いていましたが敵と交渉して今回の段取りをするとは。いかに長老会とはいえ、あまりに独断が過ぎましょう。」
「だから話さなかったのだ。ヌシは確かに次代の長老だが、足りぬ所もまだまだ多い。」
ファンの非難の言葉に対して答えたギエンはファンに指摘した。
「ええ、貴方と比べればいまだ未熟……――――――ですが”力”を借りる術はそれなりに身につけているつもりです。」
「………そのようだな。」
しかしファンの答えを聞いたギエンは周囲の人物達――――――ヴァン達やエレイン、エースキラー、そしてエリザベッタに視線を向けて静かな口調で呟いた。
「それから父上。”貴方方長老会はメンフィル帝国をあまりにも甘く見過ぎています。”異世界にあるメンフィル帝国の”本国”――――――政府もそうですが皇家も”今回の一件が貴方方長老会の企てである事も全て把握しておりました。”」
「―――――馬鹿なっ!?メンフィルがどうやって、我等長老会による内密の計画を把握した……!?」
しかし覚悟を決めたかのように決意の表情を浮かべて答えたファンの口から語られた驚愕の事実にその場にいる多くの者達が血相を変えている中ギエンは信じられない表情で声を上げた。
「ふふっ、かつて所属していた結社がメンフィル帝国によって滅ぼされた私達が言うのもどうかと思うけど、3年前の”ヨルムンガンド戦役”時のゼムリア以上に今も混沌とした世界となっている異世界(ディル=リフィーナ)で大国として今も存続し続けているメンフィル帝国の諜報能力を甘く見過ぎていたようね。」
「加えて今のメンフィル帝国にはゼムリア大陸にも相当な諜報能力がある組織と協力関係を結んでいる。そちらへの警戒も疎かになっていたようだな?」
「”ゼムリア大陸で相当な諜報能力がある組織でメンフィル帝国と協力関係を結んでいる”………――――――”斑鳩”の”忍び”達か。」
静かな笑みを浮かべて答えたエンネアの後に答えたアイネスの話から出て来たある組織について心当たりがあるヴァンは真剣な表情で呟いた。
「僭越ではありますが、ここからは私の方から説明させて頂きます。」
するとその時チョウが軽く会釈をした後話を続けた。
「メンフィル帝国がいかなる手段で我々にも内密で今回の一件を企てたギエン様達長老会の企てを把握したのかは不明ですが………今回の一件、メンフィル帝国は当初は”様子見の予定だった”との事です。仮に”大君”が降臨した所で”戦妃”や”魔弓将”のような精鋭揃いのメンフィル帝国でもまさに”化物”クラスに位置する使い手達に討伐させ、その後は”大君の降臨が長老会の企て”である事を東方人街の人々に触れ回って起こりうるであろう黒月の弱体化を盾に黒月に対して有利な交渉ができ、更に大君を討伐したメンフィル帝国は東方人街の人々の信頼を得られるという”長老会の内密の企てはメンフィル帝国にとっては一石二鳥な策”でしたので。――――――それこそ、”大君”の討伐の為に”現代のゼムリアの大英雄”と名高いかの”英雄”殿も出張ってきて、彼の更なる武勇伝の一つにされていたかもしれませんね。」
「ったく、3年前の”大戦”には”特別な事情”があったからリィンに功名心はあったが、今のあいつには功名心なんてねぇぞ。」
「だけど多くの人々が傷つき、命が奪われるかもしれない事態になると知れば、話は変わるだろうね。」
「……はい。そしてその際はⅦ組―――――いえ、トールズの皆さんもそうですが、私達エレボニア王国もリィンさん達の御力になるでしょうね。」
チョウのある指摘を聞いたクロウは呆れた表情で溜息を吐き、真剣な表情である推測を口にしアンゼリカに続くようにクレアも静かな表情で推測を口にした。
「ですが、その考えは”昨夜の事件”を知った後に急遽変えざるを得なかったとの事です。―――――何せ”長老会の企てが原因で罪無きメンフィルの民達の命が失われてしまったのですから。”」
「そ、その”命が失われてしまった罪無きメンフィルの民達”ってもしかして……」
「アーロンの仲間達か………」
チョウの話を聞いて察しがついたアニエスは複雑そうな表情を浮かべ、ヴァンは重々しい様子を纏って呟いた。
「昨夜の事件でメンフィルの民達の命が失われた事を知ったメンフィル帝国は3年前の大戦で恭順を誓った”我々黒月に調子に乗らせ過ぎた事”を反省すると同時に、”黒月への戒め”が必要だと考えられたとの事です。」
「……………………」
「”黒月への戒め”、ですか……?」
「黒月―――――いや、”長老達に対する報復”か……!となると、鉄機隊の連中が英雄王と現メンフィル皇帝の連名によって下された緊急の指名要請の内容は―――――」
「まさか………”長老達の抹殺”……!?」
チョウの説明を聞いたギエンが黙り込んでいる中ある事が気になったフェリは首を傾げ、察しがついたヴァンは真剣な表情で声を上げた後デュバリィ達に視線を向け、エレインは厳しい表情でヴァンが言おうとした続きを口にしてデュバリィ達を睨み
「フフ、”概ね正解だ”、剣の乙女。我等に降された”当初の指示は黒月の長老達全員を徹底的に痛み付けて、メンフィル帝国が敵と認識した組織と手を組んだ事でメンフィル帝国の民達の命を奪った代償をその身に刻み付ける事だ。”」
「しかも”仮に私達による徹底的な痛めつけで命を失っても構わない”との事だったから、メンフィル帝国は今回の一件、黒月の長老達に対して相当な怒りを抱いていたのでしょうね?」
「最もラギール商会経由で私達の要請を知ったそこの”二代名白蘭龍”が”長老達が受ける被害を最小限にした上で、自身が仕えているルウ家が得られる利益の交渉”という小賢しい事をしてくれたお陰で、指示内容も変更されたのですけどね。」
「ふふっ、私は黒月に所属している一員として、そしてルウ家にお仕えしている者として当然の事をしたまでです。」
アイネスとエンネアの説明の後にジト目のデュバリィに視線を向けられたチョウは口元に笑みを浮かべて答えた。
「ちょ、”長老達が受ける被害を最小限にした上で、ルウ家が得られる利益の交渉”って一体どんな交渉をしたの、チョウ……?」
「……………………」
「……なるほどな………”儂はチョウに謀られ、他の長老達によってメンフィルに売られた”という事か。」
話を聞いていてある事が気になったアシェンが不安そうな表情でチョウに訊ねている中事情を知っているファンは重々しい様子を纏って黙り込み、全ての事情を察したギエンはチョウを睨んで厳しい表情で推測を口にした。
「”メンフィルに売られた”という事はまさか………」
「”ルウ家の現当主であるギエン老が今回の一件の全ての責任を押し付けられた”という事か。」
「?ですが、そちらの老人に”全ての責任を押し付ける事のどこがルウ家の利益”になるんでしょうか?そちらの老人が”ルウ家の当主”なのですから、”ルウ家”は”利益”どころかむしろ逆に”損害”を受ける事になると思うのですが……」
「”ルウ家が得られる利益”とは恐らくは他の長老達の責任をギエン老が全て負う事によって、ルウ家が他の長老達に対して大きな貸しを作る”事かと。」
「デュバリィ君達もそうだが、もしかしたらデュバリィ君達の”主”も出て来て自分達が徹底的に痛めつけるなんて話、黒月の長老達にとっては”大君の降臨以上に恐怖の出来事”だろうから、その出来事を自分達の代わりに全て肩代わりする事になったルウ家の現当主――――――つまり、ルウ家に対して長老達は大きな”借り”ができる事で、ルウ家の黒月内での立場はより強固になるという事だろうね。」
ギエンが呟いた言葉を聞いて察しがついたタリオンは真剣な表情を浮かべ、マーティンがタリオンが口にしようとしたことの続きを口にし、リタの疑問にクレアとアンゼリカが答えた。
「そ、そんな……!?それじゃあ爷爷は……ッ!」
「……ッ!何でだ、チョウ!何でギエン爺さんに全て押し付ける交渉――――――いや、ギエン爺さんを裏切ったんだ、チョウ……!テメェも死んだツァオ共々爺さんから受けた恩もあるだろうが……!」
「アーロン……」
一方話を聞いていたアシェンは悲痛そうな表情で声を上げ、唇を噛み締めた後厳しい表情でチョウを睨んで問いかけるアーロンをユエファは静かな表情で見守っていた。
「”裏切った”等とんでもない。先程も言ったように、私は黒月の一員として、そして私の主家であるルウ家の為の交渉をしたまでですよ、アーロン。その結果、ルウ家の現当主たるギエン様が今回の”不祥事”を起こしていながらも”ルウ家自体はメンフィル帝国に責任を問われることなく、次期当主たるファン大人の長老就任を他の長老の方々も認めた上で、ルウ家はギエン様以外の長老達に大きな貸しを作った”のですから。」
「抜かしおるわい……”初代白蘭龍”にして唯一の血縁者でもあったツァオをメンフィルとクロスベルの謀によって殺されたヌシが、まさかメンフィルと組んで儂を謀るとはな、チョウ……!ツァオを殺した仇であるメンフィルと手を組む等、ヌシには”誇り”もないのか……!?」
「……ッ!」
「アシェン……」
アーロンの指摘に対して肩をすくめて答えた後片手で眼鏡を軽く持ち上げたチョウを睨んで声を上げたギエンの話から出て来たある人物の名を聞いて辛そうな表情を浮かべて顔を俯かせているアシェンに気づいたマルティーナは心配そうな表情でアシェンを見つめた。
「”敵対組織”と手を組んだギエン様にだけはそれを言われる筋合いはないかと思いますが………仮に私とツァオの立場が逆で、この場にいるのがツァオでも同じことをしましたよ。」
「……父上――――――いえ、”ギエン・ルウ殿”。アルマータや”大君”の件もそうですが、長老の権限を濫用してガウランに”一般人であるマルティーナ”を襲撃させ、その結果黒月でも有数の使い手であるガウランや監視の構成員達が重傷を負わされた不祥事………黒月としてとても見過ごせる事ではありません。ギエン・ルウの”長老”並びにルウ家当主の権限剥奪、併せて私のルウ家当主並びに”長老”就任が他の長老達全員一致の元、決定しました。………心苦しいですが、どうかお覚悟を。」
「爸爸……!?」
ギエンの指摘に対してチョウが苦笑しながら答えた後ファンが真剣な表情でギエンを見つめて宣言した後複雑そうな表情を浮かべ、ファンの宣言を聞いたアシェンは信じられない表情で声を上げた。
「そして”かつて所属していた組織を滅ぼした元凶”にも関わらず、主への忠義のためだけに主が降ったメンフィルの”犬”となった”鉄機隊”によってこの身が裁かれろ……か。クク、ヌシまで儂を謀るとは……これも”先代大君”を謀り、そして”当代”を利用しようとした”報い”かの………だが、この儂がただでやられると思っているのではないだろうな、過去の遺物を名乗る小娘共よ。」
厳しい表情で呟いたギエンは皮肉気な笑みを浮かべた後デュバリィ達を見つめ
「あらあら、私達を”犬”と呼んだことやマスターへの忠義を馬鹿にした事もそうだけど私達の”誇り”である”鉄機隊”の名を”過去の遺物”と蔑んだ事も含めてメンフィル帝国の要請通り、私達の手で徹底的に痛めつけて裁いてあげたい所だけど……」
「残念ではあるが、”其方を裁くのは我等鉄機隊ではなく、あの御方だ”。」
「ええ。ちなみにですが監視の者達を排除したのは私達ですが、”あの御方”を前にしても退くことなく、貴方の指示を実行しようとしたガウランとかいう愚か者を裁いたのも私達やそちらの”銀髪の売り子”ではなく、”あの御方”ですわよ?」
ギエンの言葉に対してそれぞれ答えたエンネアとアイネスに続くようにデュバリィは意味ありげな笑みを浮かべてある事を答えた。
「”あの御方”……?」
「!まさか―――――」
「おいおい……冗談だろ?幾ら”黒月への戒め”の為とはいえ、”聖女”を投入するとか、さすがにやりすぎなんじゃねぇのか……!?」
デュバリィの口から出たある人物が気になったアニエスが不思議そうな表情を浮かべている中それぞれ察しがついたエレインは血相を変え、ヴァンが信じられない表情で声を上げたその時
「”そこまでする程、メンフィル帝国は今回の一件を重く見ている”という事です。」
その場に女性の声が聞こえた後リアンヌが”転位”によってその場に現れた――――――!
後書き
というわけで予想できていた人もいるかと思いますが、原作軌跡シリーズでも最強キャラの一角であるアリアンロードことリアンヌが降臨ですww劫焔に猟兵王等最強キャラがポンポン登場しまくっていた閃後半と違って黎の軌跡シリーズで最強キャラに該当するのは今の所せいぜいカシムとシズナくらいで、その二人もこの物語のリアンヌには絶対に勝てませんから、黎の陽だまりでは今の所リアンヌがナンバー1かと(まあ、さすがにアイドスは対象外ですがww)…………まあ、黎Ⅱ編ではそのリアンヌをも超えるエウシュリーキャラが登場予定ですが(ぇ)
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