英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第32話
~黒龍城塞・最奥~
「”代案”、ですか……?」
「―――――いいでしょう。その”代案”を聞いてから、処遇を決めます。」
ヴァンの言葉にフェリが首を傾げている中ランスを一旦収めたリアンヌは静かな表情で答えてヴァンに視線を向けた。
「アシェンお嬢さん。お嬢さんは自分の結婚相手は自分で決めると言っていたが、爺さんを助ける為にその考えを捨てさせることになるが、それでもいいか?」
「ハ……?何でここでアシェンの結婚相手の話が出てきやがるんだ……?」
「………要するに”政略結婚”ね。――――――いいわ。それで爷爷を……私の大切なおじいちゃんを助けられるなら構わないわ……!」
「アシェン………」
ヴァンのアシェンへの問いかけにアーロンが困惑している中察しがついたアシェンは真剣な表情で答え、アシェンの答えを聞いたファンは驚きの表情を浮かべた。
「チョウ!煌都を回っていた際にアーロンの件も含めて色々と話してくれたお嬢さんの口ぶりから察するに、3年前のハーケン平原で”槍の聖女”もそうだが、俺やエレイン、”エースキラー”の二人――――――クロウとアンゼリカの前で話した”お前が考えているお嬢さんのお相手”に関してまだお嬢さんどころか、ルウ家に提案もしていないんだろう?今その提案をお嬢さん達にも話す絶好の機会だろうが!?」
「え…………」
「チョウ、アークライド君の話は一体どういう事だ?」
チョウを見つめて声を上げたヴァンのチョウへの指摘にアシェンが呆けている中、ファンは困惑の表情でチョウを見つめた。
「”3年前のハーケン平原”というと……―――――”ハーケン会戦”の事ですか?」
「”ハーケン会戦時でサンドロット卿やヴァンさん、それにエレインさんや私達がいた時に話した彼の提案”というと………――――――!」
「おいおい、まさかとは思うが……」
ヴァンの指摘にリタが首を傾げて確認している中考えた後察しがついたアンゼリカは目を見開き、アンゼリカ同様察しがついたクロウは呆れた表情を浮かべた。
「いやはや、さすがはヴァンさん。まさかこのタイミングで”あの話”を持ち出すとは、これは一本取られました。」
「いいから、とっとと内容をこの場にいる全員に聞かせてやれ!」
一方チョウは目を丸くした後笑顔を浮かべながら答えて軽く拍手をし、ヴァンは早く内容を話すように促した。
「フフ、ではお言葉に甘えて………私が3年前から考え、今までギエン様達にも提案する事なく温め続けさせていたアシェンお嬢様の縁談の件ですが………ルウ家――――――ひいては黒月とメンフィル帝国の関係を強固にする為にも、4年前のエレボニアの内戦を終結させ、更には3年前のヨルムンガンド戦役を終結させたことで”現代のゼムリアの大英雄”と名高いエレボニアの英雄でもあるメンフィル帝国のかの若き英雄にしてエレボニア総督――――――”灰の剣聖”リィン・シュバルツァー将軍閣下とアシェンお嬢様の結婚です。」
「ええっ!?ア、アシェンさんのお相手があのシュバルツァー総督ですか……!?」
「ハアアア~~~ッ!?」
「んなあぁっ!?」
「ハーケン会戦時我らとマスターはそれぞれの役割を全うする為に別の戦場であった為、我等はその話は初耳ではあるが………」
「紅き翼を阻む側でそんな話があったという事はマスターも当然ご存じなのでしょうね。」
チョウが口にした驚愕の話を聞いたアニエスは驚きの表情を浮かべて声を上げ、アーロンは困惑の表情で声を上げ、デュバリィは信じられない表情で声を上げ、目を丸くして呟いたアイネスに続くようにエンネアは苦笑しながらリアンヌを見つめた。
「フフ、この場にいないながらも緊迫した雰囲気を一気に台無しにするなんてリィン君の女性運はもはや神がかってきているねぇ。」
「ふふっ、そうですね。女性との縁の多さに関してはひょっとしたらヴァイスさんもそうですが、主も超えちゃっているかもしれませんね。」
「ったく、3年前の時点でも普通に考えたらありえないくらい侍らせている癖に”この3年で更に4人も増やして”、更にまた新たに増える候補が現れるとか、マジで後何人増やせば気が済むんだよ、あのリア充シスコンハーレム剣士は……!」
「今回の件に関してはリィンさんの”いつものあの性格”によるものでなく、外部からの政略結婚の提案ですから、アシェン嬢の件に限ってはリィンさんには何の非もないと思われるのですが……」
口元に笑みを浮かべて呟いたアンゼリカの言葉にリタは苦笑しながら同意し、疲れた表情で呟いた後悔しそうな表情で声を上げたクロウにクレアが困った表情で指摘し
「しかしルウ家の令嬢である彼女がシュバルツァー総督のお相手になる事のどこが”戒めの代案”になるのでしょう?」
「そりゃ、ルウ家の令嬢が”灰の剣聖”と結婚した所でルウ家自体はともかく、ルウ家の令嬢自身にとってはメリットがあるかどうかわからないかだろう。」
戸惑いの表情で呟いたタリオンの疑問にマーティンが疲れた表情で指摘した。
「待ってくれ、チョウ。アークライド君の言う通り父上を助ける代わりの”代案”としてアシェンをメンフィル帝国の有力者に嫁がせるその考えは理解できる。だが、何故よりにもよってその人物が”灰の剣聖”なんだ……?”灰の剣聖”には”既に17人もの婚約者が存在している”のはチョウも知っているはずだ……!」
「じゅ、”17人の婚約者”って………!その話は本当なんですか……!?」
「ええ………ヨルムンガンド戦役終結後の当時、世界中はヨルムンガンド戦役を終結に導いたシュバルツァー総督の話題で溢れていましたから、当然シュバルツァー総督の女性関係も新聞や雑誌等に載りましたから。………ただ、”その時点でのシュバルツァー総督の婚約者の数は13人だったはずなのですが”………」
「……確かに彼は”英雄”と称されて当然の行いをしたし、人柄もよくて通常では考えられない早さで大出世して”総督”にして”将来の公爵家当主”という立場になったにも関わらず、立場に奢る事なく研鑽し続けている人物で、まさに”英雄”を現す人物ではあるのよ。だけど、女性との巡り合わせに関してはヴァン以上に豊富で、それも無意識で女性達を惹きつける罪深い性格という”欠点”があるみたいなのよ……」
「おい、エレイン!そこで何で俺を引き合いに出すんだよ!?引き合いに出すとしたら、”初代特務支援課リーダー”か”黄金の戦王”だろうが!」
複雑そうな表情で声を上げたファンの話を聞いて驚きの表情で声を上げたフェリの疑問にアニエスとエレインはそれぞれ困った表情で答え、エレインの話を聞いたヴァンは疲れた表情で指摘した。
「皆さんもご存じのように”灰の剣聖”殿には既に数多くの婚約者が存在しています。仮にアシェンお嬢様がそこに加わったとしても、アシェンお嬢様の妻の序列は最下位、もしくは下から数えた方が早いという”ルウ家の令嬢としては屈辱的な立場になるでしょう。”」
「――――――ギエン老の孫娘であり、ルウ家の現当主であるファン大人が大切にしている令嬢がメンフィル帝国の有力者の立場の低い妻として嫁ぐ………これなら、メンフィル帝国がルウ家――――――黒月との軋轢を作ることなく今回の件での”黒月への戒めの代案”になると思うんだが?」
「――――確かに一理ありますね。ですが彼の将来の伴侶達は捨て子だった彼を家族として受け入れてくれた姉妹、4年前の内戦や3年前の大戦を共に生き抜いてきた戦友、そしてかつての学び舎の同期やその繋がりの者達といずれも彼との”絆”が深い者達ばかりです。そんな彼が更なる伴侶を増やすにしても、今まで何の縁もなかった女性を伴侶として受け入れる事もそうですが、彼の将来の伴侶達も認めるかどうか等と言った疑問が残るのですが?」
チョウの説明を捕捉した後に問いかけたヴァンの問いかけを肯定したリアンヌはヴァンにある指摘をした。
「ま、それに関してはお嬢さんの努力次第になっちまうが………3年前の大戦の件でエレボニアもそうだがアルフィン王女やアルバレア家にもメンフィル帝国が許す機会をやったように、今回の一件でメンフィル帝国の怒りに触れたルウ家――――――黒月にもメンフィル帝国が許す機会をやらねぇと、”筋”が通らないと思うんだが?」
「ヴァンさんの言う通りだね。それにそもそも王女殿下を含めた数多くいるリィン君の婚約者の内の半数くらいは3年前の大戦の最中に出会って”絆”を深めてそんな関係になった訳だから、ルウ家のお嬢さんにだけ”絆を深める機会”をあげないのはさすがにフェアじゃないだろうね。」
「言っている事は正しいが、あのリア充シスコンハーレム剣士が侍らす女をまた増やす事に繋がる事は微妙に納得がいかないがな……」
「それに関してはリィンさんですから仕方ないかと………」
リアンヌの指摘に対してヴァンは答えて更なる指摘をし、ヴァンの指摘に同意したアンゼリカも続くように指摘し、ジト目になって呟いたクロウの言葉を聞いたクレアは困った表情を浮かべながら呟いた。
「―――――いいでしょう。裏解決屋殿の代案を採用し、ルウ家にはしばしの間”機会”を差し上げましょう。陛下達には私の方から説明しておきます。―――――貴女も裏解決屋殿の代案で構わないのですね?」
「あ…………え、ええ……!」
静かな表情で答えたリアンヌはアシェンに確認し、確認されたアシェンは呆けた後我に返るとすぐに頷いた。するとリアンヌは懐から取り出した霊薬が入った瓶をヴァンに投げ、投げられた瓶をヴァンは反射的に掴んだ。
「”イーリュンの癒手”です。それを飲むなり患部にかけるなりすれば瀕死の状態もすぐに完治するでしょう。」
「ラギール商会でも仕入れの数は不安定で、生産元のイーリュン教の支部ですら置いている数が非常に少ない噂の霊薬か………感謝するぜ、”槍の聖女”。」
リアンヌの説明を聞いたヴァンは興味ありげな様子で自分が掴んだ霊薬を見つめた後リアンヌに視線を向けて感謝の言葉を口にした。
「”代案”を示した以上、私は当然の事をしたまでです。―――――行きますよ、デュバリィ、エンネア、アイネス。今ならば”大君”による煌都襲撃の失敗を悟って撤退を始めた”A”の幹部達に追いつけるかもしれません。」
「マスターの仰せのままに。」
「”A”と関わり続けるならばいずれ、我等と再び邂逅する機会も訪れるだろう。その時は奴らの処遇を巡って我等と敵対するか、共闘するかはわからないが……どちらにしても其方の活躍を楽しみにしているぞ、裏解決屋。」
「全くただでさえあれ程多くの女性達を侍らせているのに、未だに増やし続けるとか、本当にとうなっているのですか、シュバルツァーの女性との縁は。この私の直弟子であるエリスを溺愛している癖に……ブツブツ………――――――とにかく、ギエン・ルウはマスターの慈悲深さに感謝してこれ以上調子に乗らない事ですね!それと今回の件、当然私の”直弟子”にも伝えますから、アークライドは今から覚悟しておくことですわね!」
デュバリィ達に指示をしたリアンヌはその場から転位で去り、エンネアは恭しく礼をし、アイネスはヴァン達に声をかけた後それぞれリアンヌに続くように転位で去り、ジト目になってリィンを思い浮かべてブツブツ呟いていたデュバリィはギエンとヴァンをそれぞれ順番に睨んで指摘した後転位で去って行った。
「去ったみたいですね……」
「ああ……ったく、”鉄機隊”どころか”槍の聖女”まで出張ってくるとか、誰が予想できるかっつーの。お陰で、俺まで後でリア充シスコンハーレム剣士を慕う女連中の嫉妬関連の八つ当たりに巻き込まれるかもしれない事態になっちまったじゃねぇか。」
「自業自得ね。幾ら穏便に解決するためとはいえ、今回の件に一切関わりがない”彼”まで巻き込んで……”神速”の言う通り、アシェンさんの件でエリスさん達に”色々と責められるかもしれないこと”に今から”覚悟”しておくことね。」
リアンヌ達が去った後呟いたフェリの言葉に頷いた後疲れた表情で呟いたヴァンにエレインがジト目で指摘した。
「コイツはお嬢さんが”聖女”に”覚悟”を示した”証”のようなものだ。ギエン老に呑ませてやれ。」
「ええ……!―――――ほら、爷爷、この薬を呑んで……!」
エレインの指摘に反論がないのか肩を落としたヴァンはアシェンに近づいてリアンヌから貰った霊薬を渡し、霊薬を渡されたアシェンはギエンに駆け寄って霊薬を呑むように促した。
「それは今後のルウ家の為にとっておけ………この程度の傷で使う等猫に小判のようなものだ。」
「意地張っている場合じゃねぇだろう、爺さん……!アシェンの”覚悟”を無駄にするつもりか!?」
「いえ……確かに負っている傷は酷いですが、どれも急所は外れているようですから、”致命傷は負っていません”。ですから、ギエン老の仰っている事も強ち間違っていないかと。」
「という事は”槍の聖女”はあの人外じみた攻撃で”あえて急所を外していた”のですか……」
「噂以上に”化物”すぎだろ……」
霊薬を呑む事を拒んでいるギエンを見たアーロンが真剣な表情で指摘している中、ギエンが負っている傷を見てある事に気づいたクレアの説明を聞いたタリオンは驚き、マーティンは疲れた表情で呟いた。
「フウ、仕方ないわね。―――――マティも手伝ってくれるかしら?」
「ええ、勿論。」
するとその時溜息を吐いたユエファがマルティーナに声をかけてギエンに近づいてそれぞれ治癒魔術をギエンにかけた。するとギエンが負った傷は塞がり始め
「治癒の魔術……!」
「ま、二人とも”天使”なんだから使えて当然だな。」
二人の治癒魔術を見たアニエスが驚いている中ヴァンは苦笑しながら見守っていた。
「はい、これでもう大丈夫よ。」
「ありがとう、小母さん……!―――――じゃなくて!?どうしてあたし達が幼い頃に亡くなったユエファ小母さんが生き返っているのよ……!それも”その姿”……まるで”天使”じゃない!?それとマティ姉さんにも今まで正体をあたしにも隠していた事も含めて、後で色々と説明してもらうからね……!」
「フフ、わかっているわ。」
マルティーナと共にギエンへの治癒魔術をかけ終えたユエファの言葉に安堵の表情を浮かべたアシェンだったがすぐに目の前の人物が”本来はこの世に生きていない人物”である事にすぐに思い出してそれをユエファに指摘した後マルティーナにも視線を向けて指摘し、アシェンの指摘に対してマルティーナは苦笑しながら答えた。
「アシェン……父上を救う”代案”の件……本当によかったのか?」
するとその時ファンがアシェン達に近づいて複雑そうな表情でアシェンに訊ねた。
「………ええ。さっき爷爷もあたしに言ったでしょう?『例えメンフィル帝国に思う所はあっても、ルウ家の娘ならばそれを決して表に出さず、ルウ家の為の振る舞いをせよ』って。”灰の剣聖”とあたしが縁談で繋がる事はルウ家の――――――黒月の為にもなるのは事実でしょう?」
「それは………」
「ま、これが凄い年の離れたおじさんやおじいちゃんとかだったら、あたしもヴァンさんやチョウを恨んだかもしれないけど……幸いにも”灰の剣聖”はあたしよりちょっと年上なくらいだし、”灰の剣聖”自身かなりのイケメンでしょう?それこそ爸爸が考えていたあたしの相手―――――アーロンよりもイケメンの上強いし、人望もあるからいいじゃない♪」
「あ”?そこで俺を比較対象にするとか、喧嘩売ってんのか!?そもそも俺はお前みてぇな女、好みじゃねぇから最初っからお断りだっつーの!」
ファンを安心させるかのようにいつもの調子で話すアシェンのある言葉を聞いて顔に青筋を立てたアーロンはアシェンに反論した。
「それに関してはあたしも同感ね~。あたしもマザコン野郎はお断りだもの。……ああ、アーロンの場合、マザコン兼シスコンかしら?」
「誰がマザコンでシスコンだ!?しかもオフクロと姉貴の目の前で言いやがって……!そういうお前だってオフクロや姉貴の事を滅茶苦茶慕っているだろうが!?」
「はいはい、子供みたいな喧嘩をしないの。二人とも、もう大人でしょう?」
そしてからかいの表情を浮かべたアシェンの指摘に反論したアーロンがアシェンとの口喧嘩を始めようとするとユエファが仲裁を始めた。
「アシェン……」
「諦めよ、ファン。……”元凶”の儂が言うのもなんだが、こうなってしまった以上アシェンと”灰の剣聖”の縁談を実現化するように動く必要があるだろう………当然、3年も前から儂らにも内密でその件を練っていたヌシにも動いてもらうぞ、チョウよ。」
「勿論でございます、ギエン様。それとファン大人は”灰の剣聖”には既に多くの婚約者達が存在している事から、仮にアシェンお嬢様の縁談が成功しても、アシェンお嬢様が蔑ろにされるかもしれない事を危惧されているようですが………かの英雄殿の婚約者の方々への接し方を考えれば、心配する必要はない事はかの英雄殿の事を良く知るそちらの”エースキラー”の方々が保証して下さるかと。」
アシェン達の様子を複雑そうな表情で見守っているファンにギエンが指摘した後チョウに視線を向けて声をかけ、声をかけられたチョウは恭しく礼をした後クロウ達に視線を向け
「って、そこで俺達に話を振るのかよ!?」
「確かにリィン君に数多くの婚約者がいる事は事実だけど、誰一人蔑ろにせず、大切に接し続けている事は私達も保証できるのは事実だね。」
「フフ、そうですね。」
チョウに視線を向けられたクロウは驚きの表情で声を上げ、口元に笑みを浮かべて呟いたアンゼリカの言葉にクレアは静かな笑みを浮かべて同意した。
その後、”後始末”を見届けたヴァン達は煌都へと戻った。
~海~
一方その頃、ヴィオーラとアレクサンドルはメルキオルが運転するボートの上で”大君”が煌都に向かう事を待っていたが、幾ら待っても何も起こらなかった。
「……………………………」
「…………チッ…………」
「あはは、残念だったね~。折角あそこまで仕込んだのに♪”本命の目的”は果たせたけどボスもガッカリするんじゃない?」
二人がそれぞれ失敗を悟っている中メルキオルは呑気に笑いながら二人に指摘した。
「―――――元よりこの身は死兵。咎を受けるならば従うだけだ。」
「人のことを言えんのかい、メルキオル!アンタもクレイユでやり損ねたんだろう!?」
メルキオルの指摘に対してアレクサンドルが冷静な様子で答えた一方ヴィオーラはメルキオルを睨んで反論した。
「うふふ、まぁね。代わりに良い”候補地”を見つけたけど。」
「どのみち、いまだ前哨戦―――――程なくして次の戦端も開かれよう。」
「そうだね……気に喰わないが”あの二人”とも連携しておくか。」
「うんうん、精々仲良くしてあげてよ。どちらもちょっとイっちゃってるけどさ♪」
アレクサンドルとヴィオーラの意見に同意したメルキオルは笑顔で指摘した。
「ハッ、アンタ以上にイってるヤツがいるわけないだろ。」
「……どちらも一軍に比する戦力。使い所を見極める必要はありそうだ。」
メルキオルの指摘に対してヴィオーラは鼻を鳴らして答え、アレクサンドルは重々しい口調で呟き
「フフ、装置の件もあるけどそれにしても続けてか……”裏解決屋”―――――どうやら”縁”があるみたいだね?」
メルキオルはヴァンを思い浮かべて意味ありげな笑みを浮かべた。
~某所~
「―――――やはり”こちら”でしたか。」
撤退場所にボートを接岸させたメルキオル達がどこかに向かおうとしたその時女性の声が聞こえ
「へ。」
「な―――――」
「馬鹿な……貴様らは………!」
声が聞こえた方向に視線を向けたメルキオル達が目にした光景は自分達を待ち構えていたリアンヌとデュバリィ達”鉄機隊”であり、リアンヌ達を目にしたメルキオルは呆けた声を出し、ヴィオーラは絶句し、アレクサンドルは信じられない表情でリアンヌ達を見つめた。
「フフ、お初にお目にかかるな、アルマータの幹部達よ。」
「そしてメンフィル帝国からの要請の関係で私達が急遽この煌都に訪れた事で、私達とマスターと邂逅してしまった事には運が悪かったわね。」
「指名要請はアークライドのせいで、滑稽なことになりましたが……………”A(エース)”である貴方達と邂逅した以上、貴方達を抹殺する一員としての務めを果たさせてもらいますわ。」
アイネスとエンネアは不敵な笑みを浮かべ、デュバリィは真剣な表情で呟いた後それぞれの武装を構え
「クッ……まさか”鉄機隊”どころか”槍の聖女”まで”エースキラー”の一員だったとはね……!」
「たかが一マフィアの撲滅の為に”槍の聖女という化物の中の化物”まで投入するとは……容赦の無さに関してはボスとも並ぶようだな、メンフィル・クロスベル連合は。」
「え、え~っと……アルマータ(ぼくたち)は煌都から完全に撤退するし、2度と煌都に手出ししない事を約束するから、その代わりにこの場は見逃して欲しいんだけどな~?」
それぞれ武装を構えたヴィオーラとアレクサンドルは厳しい表情を浮かべてリアンヌ達を見つめ、メルキオルは冷や汗をかいて表情を引き攣らせながらリアンヌ達に対して交渉を持ちかけた。
「既に煌都―――――メンフィルの民達を惨いやり方でその手にかけた挙句、アルマータ(貴方達)を滅する為に結成されたエースキラー(我々)がそのような”戯言”に耳を貸すとでも?」
対するリアンヌは静かな口調で呟いた後自身の武装であるランスを構え
「だ、だよね~………幾ら僕達でも、君達とまともにやり合えるなんて無謀な事は考えていないから………ここは逃げさせてもらうよっ!!」
「クソッタレ!”鉄機隊”どころか”槍の聖女”なんて化物まで出張ってくるとか幾ら何でも想定外過ぎだろう……!」
「幾ら死兵とはいえ、”決戦への道のり”もまだ完成していないこの状況で”犬死”する訳にはいかん……!」
リアンヌの構えと答えに冷や汗をかき続けて呟いたメルキオルは閃光弾をその場に叩きつけて自分達の姿を閃光で隠した後ヴィオーラとアレクサンドルと共に撤退を始め
「”やはりこちらの想定通り退きましたか。”―――――予め伝えたように、幹部達を嬲りつつもアルマータの戦力が集められている拠点まで退くように誘導します。相手は既に民達を惨いやり方でその手にかけた外道共…………容赦する必要は一切ありません。」
「「「イエス・マスター!!」」」
対するリアンヌ達はメルキオル達の行動を想定していたのか一切動じておらず、リアンヌの指示に力強く答えたデュバリィ達はメルキオル達を追い始めた。
こうして……ヴァン達の”出張業務”は様々な出来事があったとはいえ、無事に終える事ができた。なおデュバリィ達に追撃されたメルキオル達はデュバリィ達と交戦で手傷を負いつつも、煌都にあった偽の拠点と違い、戦力も集まっている拠点の一つに撤退する事ができたがそれこそがリアンヌ達の目的であり、撤退から数時間後メンフィル帝国軍がメルキオル達が撤退した拠点に奇襲し、その結果メルキオル達は拠点からの撤退に成功したが拠点にいた構成員達は全員殺されるか捕縛され、人形兵達も全て破壊された事で拠点の一つを失った挙句少なくない戦力も失うというアルマータにとって予想外の被害を受けることとなり、その事を知って自分たちはリアンヌ達によって嵌められた事を悟ったメルキオルは自分達とリアンヌ達の実力差を考えれば仕方ないと受け入れている反面、アレクサンドルは改めて”エースキラー”は自分達にとって危険な存在であることを認識し、ヴィオーラは怒りと屈辱を感じていたという―――――
後書き
というわけで灰の騎士の成り上がりの時点で予想できたと思いますが、アシェンがまさかのリィンハーレム候補の一人に(冷や汗)余談ですが現時点でさらに増えたリィンハーレムはアリサ、シャロン、エーデル、ステラです。
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