IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
一触即発?
この学校は珍しく入学初日から授業があります。全寮制ですしね。時間は気にしないでもいいということなのでしょう。
一時間目はほとんど入学時に貰った参考書に書いてあったことだったしあまり聞いてなくても……
とと、織斑先生がいるんですよね。ばれたらさっきのトール・ハンマー(命名私)が私の頭にも振り下ろされかねません。集中しなくては!
「先生」
「はい、織斑君」
「ほとんど全然分かりません」
ほぇ?
自分の正面から聞こえた声に思わず顔を上げてしまいます。
それは山田先生も同じだったみたいで何を言っているか理解できないみたいでした。確かに男性はISに関係ないので私たち女性と違ってそもそもの基礎知識から違うのは分かるのですが、今やっている範囲は入学前に配られた必読の参考書の最初の方に載っている基礎中の基礎の内容のはずです。
一夏さんも貰っているはずなので読んでいれば分からないはずはないのですが?
織斑先生に問いただされて口篭もる一夏さんを見て一つだけ思い浮かぶ選択肢が頭を過ります。もしかして……いやいや、さすがにそれは……
「電話帳と間違えて捨てました」
ああ、やっぱりそうですか。想像通り間違って捨てていましたか。あれ日本の六法全書の倍くらいの大きさでしたからね。1か月あれば読めましたけど……
うわ! 出席簿で横頬を殴られた!バシーンっていったバシーンって!
「表紙に必読と書かれてあっただろうが馬鹿者! 後で再発行してもらうから、一週間以内に覚えろ、いいな?」
織斑先生の鋭い眼光でにらまれて一夏さんが言葉も出せずに首を縦に振りました。
というよりそれ以外の返事は許さないという目です。あれで一回でも反抗したらおそらくあのトール・ハンマーが振り下ろされるのでしょう。
あれは弟だからなのでしょうか、それとも他の人にもあんな風にやるんでしょうか。
もしあの人の前でヘマをしたらああなっちゃうんでしょうか……
あわわわわわわわわ……
「カストさん?」
「…………………」
「カストさん!」
織斑先生に頭を吹き飛ばされる想像をしていたら、山田先生に呼びかけられていました。
「ひ、ひゃい!」
「大丈夫? 何か顔が青いみたいだけど」
「だ、大丈夫です! 問題ありません!」
「そう? ならいいけど、具合が悪かったらすぐに申し出てくださいね」
いけないいけない。集中したら周りが見えなくなる悪い癖が出てたみたい。気をつけないと。
――――休み時間――――
教室の外には一夏さん目当てに他のクラスからすごい数の人が押しかけています。まるで客寄せパンダ状態です。
お手洗いに行くため廊下に出るのも一苦労してしまいます。
かく言う私もさっきまで自分の席から離れてわざわざ遠巻きに見てたんですからその中の一人に変わりは無いんですけど……
一夏さんがパンダの気ぐるみを着て机に座っているのを想像してしまいました。ふふ、なんだか可愛いかも。
授業開始ギリギリに教室に戻ると一夏さんと金髪のクラスメイト……イギリスの代表候補生(自己紹介のときそこだけすごい強調してた)セシリア・オルコットさん、だったよね。そういえば声を掛けようと思っていたのに織斑先生の衝撃のせいで忘れていました。
その二人が何か言い合いをしていました。この数分でずいぶん仲が良くなっ……たようには見えませんね。
言い合いというかオルコットさんが何か一方的に怒っているように見えます。
その時休み時間を終えるチャイムが鳴り響きました。
「くぅ! 話の続きはまた改めて! お逃げにならないように!」
「逃げるってなんでそんな必要があるんだよ」
逃げる……ってなんの話をしていたか気になりますけど、でも一夏さんに直接聞くのも恥ずかしいし……
「はーい、皆さん。授業を始めますから席についてください」
そんなことを考えていると山田先生が入ってきました。そういえば一夏さんってさっきの休み時間にも向こうの席の……ポニーテールの凛とした胸の大きい日本の人……えっと、篠ノ之さん? にも話しかけられてましたね。
っと、織斑先生が入ってきました。集中しないと!
今回の授業は織斑先生が担当みたいでそのまま教壇の上に上がります。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する。だがその前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めたいと思う」
クラス対抗戦と代表者?
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会などへの出席など、普通の学校の学級委員と考えてもらって構わん。一度決まるとその人物に何か大事が無い限り一年間変更はないからそのつもりで」
なるほど、委員長員ですか。こういう目立つ役目は私のキャラではないので目立たないで済みそうですね。というよりも……
「はい! 織斑くんを推薦します!」
「お、俺か!?」
クラスメイトたちが一夏さんを指名する声が上がります。必然的にこうなるのが分かってるのでそこまで焦る必要はないというかなんというか……
「他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
「ちょっと待った! 俺はそんなのやらな……」
「自薦他薦問わないといった。嫌なら他のものを推薦しろ」
有無を言わせずとは正にこのとこでしょう。
まあでも流石にこれで一夏さんも諦め……
「だ、だったら俺なんかより相応しい奴がいるだろ………えっと……カストさんとか」
「え………?」
一瞬思考が停止してしまいました。
え? 一夏さんは今なんて言いました? すいません思考が全く追いつかないので誰か説明をお願いします。
「ふむ、では織斑とカストで投票ということでいいな?」
はい! 織斑先生簡潔かつ明快な答えをありがとうございます!
「あの~………拒否権って……」
「当然なしだ」
ですよねー。織斑先生にまったく表情を崩さずに言い切られました。
こ、これが切り捨て御免というやつなのですか。日本人はもっと遠まわしに物事を言う人たちだと聞いていたのですが。織斑先生に常識は通用しないみたいです。
「あ………なんかごめん………そこまで嫌だったなんて」
「ぐすっ………いいんです、諦めました……」
涙が出そうになってしまいますが相手が推薦されている以上推薦し返すというささやかな仕返しさえできません。それに多分選ばれるのは一夏さんでしょうしまだ大丈夫です。
「よし、ではこの二人で……」
「納得いきませんわ!」
バン! という音と共に聞いた声が教室に響きます。振り返るとオルコットさんが怒りに肩を震わせて立ち上がっていました。
「そのような選出は認められません! この私を差し置いて男がクラスの代表!? 冗談ではありませんわ!」
って……そこまで言うほどのものでもないと思うのは私だけでしょうか?
推薦されている以上他の人は一夏さんでいいと思っているはずですのでオルコットさんだけだと思いますけど。
ちなみに私も一夏さんでいいと思っています。それに自信があるなら自薦すればいいのではないでしょうか?
「そもそも! 基礎中の基礎を全く覚えていない知性の欠片も感じることのできない人物がクラス代表だなんて恥さらしもいいところですわ……っ!!」
ああー、まあそれは確かに……
私と同じことを思ったのか何人かの人が頷いています。一夏さんの方を見るとバツが悪そうに机に俯いています。家族の前で卑下されるのは正直きついですよね。分かりますよ。
「ではオルコット、貴様は自薦するということで構わないのか?」
「もちろんですわ! 後進国のお猿さんに格の違いを見せて差し上げます」
あの、オルコットさん。日本はイギリスと比べても経済国として有名ですし、何と言ってもISを作った国ですから後進国って言うのは間違っていると思いますよ。
「それと! カストさん!」
「ひゃい!」
な、何なに!? いきなり話を振らないでください!
「貴方も代表候補生ということですけど、クラスの代表者は一番強い人がなるべきだと思いません?」
「は、はあ……そうですね」
まあ、それは確かにそうですね。
「それに加えて! 元々わが国の支配下にあった国の人より私のほうが下と思われること事態がこれ以上ない屈辱ですわ!」
ブツン……
自分の中で何かが切れる音がしました。ダメなんですよ。私自分のことは割と耐えられるんですけど国のこととか言われると沸点低いんです……
「で? 結局何が言いたいんですか?」
「決闘ですわ! この中で誰が一番強いのか、その身に分からせて差し上げます!」
「流石イギリス。気に入らないことがあれば争いごとで決めるのは昔から変わらないんですね」
「な、なんですって!」
「それに所構わず怒鳴り散らすのがイギリス淑女の嗜みなんですか? お国柄を疑う淑女のあり方ですね。あなたの言う元々支配国の私の国のほうがまだマシですよ?」
オルコットさんの顔が真っ赤になっています。いい気味ですね。
故郷を侮辱するような人に容赦する理由はどこにもありませんから私も容赦なくいきます。
「いい加減にせんか馬鹿どもが!」
ダァン!
「ひい!」
教室中に響き渡るほどの勢いで織斑先生が教団を叩いたことで、全員の注目が教団に向きます。
「二人とも口は十分回るようだが、どちらも代表候補ならばISで決着をつけてみろ」
「わ、分かりました」
「り、了解ですわ」
その有無を言わせない気迫にオルコットさん共々頷くしかありません。
「それでは一週間後の月曜日、第3アリーナで模擬線行う。カスト、オルコットが先に戦い、勝ったほうと織斑と戦い、そこで勝ったものがクラス代表だ。三人はそれぞれ準備をしておくように。織斑も、それでいいな?」
「え? それってどっちかは連戦するってこと……ですか?」
織斑先生の言葉に一夏さんが慌てて口調を改める。どうやらまた叩かれるといったことは防げたみたいです。
「仮にも二人とも代表候補生だ。連戦ハンデ無しで丁度いいくらいだろう?」
「分かりましたわ」
「私もそれで構いません」
「よし、ではこの話は終わりだ。授業を始めるぞ」
そう言って織斑先生が締めくくりました。とりあえず勝負は来週の月曜日。週末に調整が出来ればいいんですけど。
私は無意識の内に首から下げられていた金の指輪を服の上から弄っていました。
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。
ページ上へ戻る