ソードアートオンライン アスカとキリカの物語
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アインクラッド編
血盟騎士団の誕生
前書き
スイマセン!
オリジナルストーリーはアイデアを考えるのが大変です・・・
少し投稿が遅れました!!
ではっ!
「じゃあな、キリト」
「ああ。またな、クライン」
その後は辛気くさい話を止めたキリトとクラインは、〈風林火山〉のギルドメンバーと共に雑談をしながら(基本的にはクラインとギルドメンバーがバカやってるのを、キリトは笑いながら傍観していただけだが)食事を終えて、宿屋へと帰るため別れた。
1人で食べるよりはだいぶ時間が掛かってしまったが、第25層ボス戦以来、久々に楽しい時間を過ごせてキリトは満足している。
―――本当に心の底から楽しいと思っている。
キリトは何度かクラインから〈風林火山〉に入らないか、と誘われたことがあるがアスカ同様に断ってきた。
嫌なわけではない。むしろ、女であることを隠すことに協力してくれているし、ギルドメンバーも優しい。男性だからと言って恐れる心配はないだろうし、きっと歓迎される。
だが、キリトはこれからも入ることはないと思っている。
キリトが〈悪の黒ビーター〉であるということも、無論理由には含まれるが、実はそのことはあまり関係ない。
キリトは半年前にクラインのことを〈始まりの街〉に置き去りにしたことを後悔している。
半年以上経って普通に男性プレイヤーとも話せる今とは違い、あの時のキリトにはクライン達と一緒に行動することは不可能だった。
クラインもそのことを理解してくれているので、キリトが罪悪感を感じているのはお門違いなのかもしれない。
でも、それだけではないのだ。
キリトはあの時、怖かったのだ。このゲームでの死は現実世界での死を意味する。つまり、クライン達を率いて行動することは彼らの命を預かることを意味する。
そんな覚悟、現実世界ではたかだか14歳、中学2年生のキリトには背負えなかった。恐れて、怯えて、逃げたのだ。
そんな自分が後から都合良く仲間に入れて貰うことなど、キリトにはどうしても許されなかった。
歩くこと数分。キリトは自分の宿屋の前へとたどり着いたが、そこには来客がいた。
「やあ、待ったヨ。キーちゃん」
キリトのことをそんな変なあだ名で呼ぶ者は1人しかない(止めて欲しいのだが、何度言っても聞かないので諦めた)。
「・・・・アルゴ、何の用だ?」
薄暗い路地裏から素早く身を出してきたのは第1層にて配布されていた攻略本の制作者にしてアインクラッド1の情報屋―――〈鼠のアルゴ〉。
キリトと同じく女性プレイヤーだが、変ったデザインのフード付きコートから覗く容貌からは何歳なのか見当も付かない。
金髪の髪に、頬には左右両方に真っ赤なペイントが3本ずつ。
そのペイント故に彼女が〈鼠〉などと言われているのだが、何故ペイントを付けているかの情報は聞き出すのに10万コルも掛かるので、キリト以外は誰も理由を知らないはずだ。
キリトは第1層ボス攻略の後にアルゴにタダで何でも1つ情報を教えてやると言われて、忍び装束のプレイヤー達との一悶着があった後、エクストラスキルの情報もご一緒に教えてもらっている。
エクストラスキル〈体術〉を手に入れるために超絶的硬度の岩を3日掛けてたたき割った苦い記憶を思い出しながら、キリトは続ける。
「あんたが宿屋まで来るなんてめずらしいな」
「まあナ。早急に伝えて欲しいって頼まれたからナ」
アルゴの発言で、キリトは彼女がここに何をしに来たのか理解する。
アルゴは情報屋だけでなく、極上げしている敏捷値(レベルもかなり高いので、キリトよりも速い)と〈隠蔽スキル〉などの隠密性を買われて、伝言屋みたいなこともしている。
つまり、彼女は誰かからのメッセージをキリトに伝えるためにここまでやってきたのだ。
「相手は?」
キリトはだいたい予想が付いているが、一応訊ねる。
「まあ、キーちゃんも予想は付いていると思うけど・・・ヒースクリフだよ」
その名前を聞いてキリトは隠そうとせずに盛大に溜息をつく。
ヒースクリフ。
キリトやアスカと同じく攻略組の中でも数少ないソロプレイヤーの1人であり、クライン率いる〈風林火山〉と同じく第15層くらいからボス戦にも参加している男だ。
性格は寡黙で冷静沈着。ぶっちゃけて言えば何考えてるか分からない。
キリトと同じ片手剣使いだが、少し大きめの盾を持っている。
実力は攻略組にてトップクラス。
レベルが極端に高いわけでも、レアドロップの高性能な武器――俗に言う魔剣――や防具を装備しているわけではない。
なんというか・・・・とにかくバランスが良い。
まるで教科書通りに動いているかのよう。
現実世界のスポーツである剣道などとは違い、この世界の剣士に決まった型や構えなど存在しない。各々、我流だ。
だが、ヒースクリフの構え、動きを見ていると、盾持ち片手剣プレイヤーの理想の姿かのように思える。
完成度が高く、隙がない。
特に盾による防御は圧巻の一言で、下手なタンクプレイヤーより堅い。
第25層ボスの攻撃すら止めてみせるほどであり、あの戦いで唯一、HPバーがイエローゾーンに落ちなかった男だ。
当然、アスカにも負けぬほどの回数ギルドに誘われているはずだが、彼がどこかのギルドに入ることはついぞなく、酔狂なことにソロプレイヤーを続ける気なのか、とキリトは思っていた。
しかし、第25層攻略後、ヒースクリフは動き出した。
驚いたことに、ギルドを作りはじめたのだ。
いつもの態度から、表舞台に立つことを避けるような人種であると思っていたので予想外だったが、キリトにとってなお一層の予想外な案件は、自分がこの男にギルドへと誘われている今の状況である。
キリトは自分のレベルが攻略組の中でもかなり高い方であることは自負しているが、〈悪のビーター〉ことキリトの悪名を背負ってまで、ギルドに誘うメリットが分からない。
「内容は分かっていると思うケド、ギルドへの勧誘だナ」
「またか・・・・。前に断ったと思うけどな?」
「おいらに文句を言うなヨ。」
それもそうだ。アルゴは頼まれたメッセージを伝えに来ているだけなのだから。
「で? 内容は?」
「・・・・ギルド加盟への興味があるのナラ、明日の午前9時にこの町の南東にある広場に来て欲しイ・・・・だってサ」
「・・・・分かった」
行かないけどな、と内心付け加える。
あの男が作るギルドに興味がないわけではないが、生憎と〈風林火山〉からの誘いを断っている身で他のギルドに入る気などにはなれない。
それにキリトは個人的にあの男が少し苦手だ。
「わたしの他にも何人くらい声が掛かってるんだ?」
「おいらを経由して勧誘されているのは10人くらいかナ。もちろん、アス坊も含まれてるゾ」
「・・・・・何でアスカだけ教えるんだ?」
クラインといいアルゴといい、アス坊、もといアスカのことを聞いたり、教えてくるのは何故なのか。それほど行動を共にしていただろうか、とキリトは過去を振り返る。
「まあ、アスカも行かないだろうけどなー」
「ん? そうなのカ? 結構興味あるみたいだったゾ」
「・・・・マジで?」
「マジマジだヨ。明日の招集にも応じるらしイ」
何気なく言うアルゴにキリトは驚く。
あれほどギルド勧誘を、有無を言わさずばっさりと断り続けてきていたアスカが興味を示しているのか、と。
一体全体、ヒースクリフのどこにアスカの琴線が触れたのかは分からないが、アスカがギルドには入る可能性があるということだ。
第1層でアスカにギルドに入ることを勧めたキリトは、アスカがギルドに入ろうとしていることを嬉しく思う・・・・はずなのに、
「複雑な顔してるナ」
キリトは自分の内心を当てられて体を震わせる。
そう、複雑なのだ。
喜ぶべき事のはずなのに、何故かそれ以外の感情も生まれてしまっている。
アスカがギルドに入るべきだと思っているのは偽らざる本音だ。
第1層以降は情報収集などにも熱心になったアスカは攻略組においてもトップクラスのレベルを保持しており、〈リニアー〉から見て取れた才能も確実に芽を伸ばしている。
大手ギルドのメンバーとして、攻略組だけでなく全プレイヤーの希望となることが出来る、とキリトは確信している。
だが、キリトとパーティーを組むことは無くなるだろう。
そう考えると、何故か少しだけ胸が痛む。
ボスを相手に、肩を並べて戦ったことを思い出す。
第2層では共に鍛冶屋プレイヤーの詐欺を協力して解き明かし、他の層でも必要なときはお互いの希望するクエストを手伝ったりもした。
が、あれはお互いが協力関係にあるからに過ぎないはずだ。
無償の恩や善意では無かった。どちらにも利益が生まれるからやっただけ。
それだけのはずだ。
なのに、何故自分はこんな感情・・・寂しいと思っているのだろうか?
「どうしたんだヨ?」
「いや・・・・別になんでもない」
キリトの心中の問いに答える者はいない。
「・・・・・じゃあ、おいらは行くヨ。まだ伝達し終わってないプレイヤーがいるからナ」
「そうか・・・・じゃあなアルゴ」
暗い路地裏に消えていったアルゴの姿は一瞬で確認できなくなった。恐らくハイレベルな〈隠蔽スキル〉を使っているのだろう。
1人残されたキリトは僅かばかりの寂寥を覚えながら、自分の宿屋へと入っていった。
クラインと夕飯を食べてアルゴと会ってから2日後、〈ラングール〉の1店の酒場にてボス攻略会議が開かれようとしていた。
キリトはいつものようにボス攻略会議の時のみ使用するフードケープを被り、奥のテーブルの1つに座っている。
周りにはクライン率いる〈風林火山〉と斧使いエギルもいるが、皆の表情は浮かない。
予想していたことだが、それ以上に集まりが悪かった。
会議開始時刻は午後5時からと言われたが、10分前になっても30人程度しか集まっていない。これではとてもではないが、ボス戦など行えない。
「アスカがいないな・・・・」
隣に座っているクラインがぼつりと呟く。
ちなみに、後からやって来たキリトの隣の席争奪戦が〈風林火山〉のギルドメンバーの中で行われたが、クラインはリーダー命令を使って強制的に奪い去っていた。
「ああ、他にも何人かソロプレイヤーがいない」
キリトは周りを見渡しながら答える。
キリトやアスカのようなソロプレイヤーは現状では100人くらいしかいない。
更に、攻略組として通用するようなレベルを保持しているのは10人ぐらいだけ。
この世界でのソロプレイヤーの死亡率が高すぎるのが理由だ。
それでも酒場には5人ほどしかソロプレイヤーの姿が見えない。
ソロプレイヤーはボス戦ではダメージディーラーを担当するのが基本なので,このままではボス戦でのアタッカー隊の火力不足が明白だ。
まあ、現状ではタンクも少ないので、どちらにせよどうしようもないのが・・・・。
「やっぱ、きついか?」
「だろうな・・・。こんな人数じゃ偵察隊を編成するだけで精一杯だ」
「参加しているギルド数が前回の半数近くだからな・・・・。まあ、そいつらを責めるのはお門違いだけどよう」
クラインがぼやいているように、ソロだけでなくギルド数もかなり減ってしまっている。
第25層で自らのギルドメンバーから死者が出たところも、出なかったところも、攻略に危機感を覚えたのは少なくない。
「・・・・どうするんだ?」
「一応会議には参加するさ。まあ、後はギルドの全員で考えるだけだな」
「エギルは?」
キリトに問われたエギルはスキンヘッドの頭をさすりながら答える。
「似たような感じだな・・・・。でも、他の奴らだけでボスが倒されてレアアイテムが手に入らないのも辛いんだよな、これが。ボス戦のレアアイテムは高く売れるからよ」
エギルはにっと人の悪い笑みを浮かべる。
エギルは一流の斧戦士であると同時に、商人として店を構えている。
スキルスロットの多くを〈職業系スキル〉で埋める必要があるので、攻略組では珍しい。
子供が泣いて逃げ出しそうな厳つい人相をしているが、意外とお店は好評らしいから不思議だ。キリトもクラインもお得意様としてよく通っている。
「まったく・・・・身も蓋もない言い方するなよな」
「分かってないな、キリト。この楽しみが分からない奴には商売はできないんだよ」
「わた・・・・俺には分かりそうにないな」
「だろうな。もう少しで店を構えれるほどの金額が貯まるからよ。そん時にはお客様第1号としてお前をご招待してやるよ」
「誰がそんなぼったくり商店に行くか」
エギルのお誘いを素気なくお断りしながら、キリトはお店に入ったときに頼んでいたお酒を口に含む。
さしものナーブギアも〈酔い〉を体感させることはできないようで、この世界でいくらお酒を飲んでも酔いつぶれる心配はない。まあ、未成年もプレイしているゲームで本物のお酒が出てきたらマズイだろうが。
グラスに残っているお酒を一気に飲み干すと、炭酸が通る爽快感がのどを刺激する。
いくら酔わないとはいえ、お酒の味を忠実に再現されているので、実は結構苦い。
小さい頃に親が飲んでいたビールをこっそりと口に付けたときは、思わず泣きそうになった事を覚えているが、この世界で長時間の狩りの後や、辛気くさい話をしている時に飲むと不思議と美味しく感じるのだから不思議だ。
「そろそろ始めるみたいだぞ」
クラインの声に合わせて1人の男が酒場の中央に歩みを進める。
第1層からボス攻略に参加し続けている男、リンドだ。
ディアベルのパーティーに入っていた彼は、亡き彼の意志を継ぐかの如く髪を青色に染めて、キバオウと共に攻略組リーダーの二枚看板の1人として攻略に貢献してきている。
そのリンドの表情は苦々しい物である。当然だろう。
壊滅した〈軍〉より被害は少なめだが、第25層ボス戦では彼の率いる〈ドラゴンナイツ〉からも数人の犠牲が出ていた。
巨大ギルドは多人数による安全な狩りができたり、ギルメンはステータスアップボーナスが貰えたりと、様々なメリットを持つが、レベルが攻略組の中でも平均より少し下になってしまうことは否めない。
全員をバランスよく強化したら、必然的にそうなってしまうものなのだ。
それでも普通の戦闘なら大人数のスイッチでカバーしたら良いのだが、ボス攻略だと戦線が崩壊したときに一番死ぬ危険性が高いことは事実だ。
重武装で盾役を買って出ているプレイヤーは筋力値にほぼ極振りするのが基本なので、走って逃亡するのが難しい。
転移結晶を使えばその限りではないが、便利なアイテムも万能ではなく、コマンド発声中に攻撃を受けたら転移がキャンセルされてしまう。
第25層のボスの猛攻は、受け止めながら逃げ出すことすら許さなかったのだ。
それでも生き残ったメンバーだけで攻略組に残る意志を示している〈ドラゴンナイツ〉には賞賛の言葉を贈りたいが、〈悪の黒ビーター〉ことキリトから貰ってもリンドはこれっぽちも嬉しくないだろう。
「じゃあ、ボス攻略会議を始めさせて貰うよ」
リンドがそう言って会議を始めようとするが、場の空気が陰鬱としたものであることはいかんともし難い。
その時だった。
ドアが勢いよく開けられる。
全員の目がリンドからそちらへと移る。
視線をそちらに向けたキリトやクラインだけでなく、エギルさえも目を丸くしている。
突如攻略会議へと突入してきたプレイヤーの先頭に立っていたのはアスカだった。
別にアスカが酒場に入ってきただけならそこまで驚くこともないだろう。攻略にいつも参加しているアスカが珍しく遅刻した、というくらいだ。
全員が唖然としている理由はアスカの装備、つまり服装だ。
今までの地味めで明度の低い色中心で揃えていたものが、180度入れ替わったように全身真っ白。
各所に光り輝く銀色の金属プレートが取り付けられており、一級の細工職人に頼んだのであろう赤色のラインでの装飾が映えている。
アスカ以外のプレイヤーも似たような装備だが、アスカだけ別格の存在感を放っている。
登場してきたメンバー全員の装備が似通っていることから、その装備がギルドで統一された装備であることは一目瞭然だ。
ギルド内で制服を作ることは別に不思議なことではない。
〈軍〉や、今目の前にいる〈ドラゴンナイツ〉もギルド内で統一された装備を付けている。
故に何も問題はない・・・・はずなのだが・・・・。
誰も何も言えない状態の中を15人近くのプレイヤーが入ってくる。
そこには、アスカだけでなく、攻略組として活動していたソロプレイヤーや、ヒースクリフの姿もある。
全員が酒場にはいると、彼らは綺麗に横一列に並んだ。
その中央からアスカが一歩前に出て、
「俺たち〈血盟騎士団〉もボス攻略に参加する。いいか?」
とよく通る声を響かせた。
誰からも否定の言葉は出なかった。
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