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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  軍の壊滅

 
前書き
すいません。

前半に数行ですが,修正して付け足しました。 

 
第1層が攻略されてから半年と少し。
アインクラッドの前線の攻略を行うプレイヤー,通称〈攻略組〉は最前線を第26層まで進めていた。

情報屋を通じて正しい情報が数多くのプレイヤーに伝搬していき,モンスターが落ち着いて対処すれば倒せないことはないことが判明するにつれ,死者数は目に見えて減り始めた。

とはいえ,たった1ヶ月の間に2000人が死に,その後,今の階層に来るまでに1000人が死んだ。

残るプレイヤー数は7000。そしてクリアできたのは全体のわずか4分の1。

そんな状況でも〈悪の黒ビーター〉ことキリトはやはりソロプレイヤーとして最前線の攻略に励んでいた。





「キシャアァッ!!」

鋭い奇声と共に勢いよく振り下ろされる片手剣。
剣には深い青色のライトエフェクトが輝いている。

「はあ・・・あぁっ!!」

恐怖を押し出すように短く声をはき出しながら、キリトも愛剣の片手剣に赤色のライトエフェクトを纏わす。
システムアシストによって、通常では起こり得ない加速が腕を押し出す。
青色と赤色の光芒が正面からぶつかる。耳をつんざくような衝撃音。
網膜が焼かれそうなほどのエフェクト光に目を閉じそうになるが、全神経を集中させて剣を振るい、敵の剣をパリィする。
凄まじい速度の衝突が4回立て続けに起きて、そこで相手の青色のライトエフェクトは消滅する――――が、こちらの剣の光は消えていない。
完全にソードスキルを相殺されて、硬直時間を課せられた敵へと躊躇無く剣先を叩き込む。
右斜め下から左肩口までばっさりと抉る。
右半身が前になるような体制になり、そのまま左肩に担がれた剣は体を捻るスピードを載せて、狙い違わず敵の首を跳ねとばした。

片手剣6連撃、〈クラッシュポール〉。

再度、奇声を上げた首無しの敵、爬虫類のトカゲのような顔をした亜人型モンスター〈スネークトール〉はHPバーが消え去ると同時に体を無数のポリゴン片へと変えた。
その光景を目にしながら、黒衣の剣士、キリトは全身から力を抜いて、安堵の息を吐く。


周りにモンスターが湧いていないことを確認してから、キリトはウインドウを操作、アイテムを整理しながら、現時刻を確認すると、既に午後の4時を回ろうとしていた。

かなり迷宮区の奥深くまでやって来ているので、そろそろ帰らなければ、完全に日が暮れてしまう。
夜になれば視界も悪くなり、モンスターの出現パターンも大きく変更される。
朝早くから8時間近く戦闘を続け、集中力の切れた状態では危険だ。
歩くのが面倒なので、転移結晶を使ってぱぱっと街まで帰りたいところだが、結晶アイテムはかなり高価な代物なので、緊急事態以外では金銭的な理由によりおいそれと使うわけにはいかない。

「はあ~・・・・歩いて帰るか・・・・」

大きめの独り言を呟きながら、キリトは街までの道を歩み始めた。



第26層の迷宮区に最も近い街〈ラングール〉に入り、圏内に保護されるという状況になってようやくキリトは緊張の糸を解いた。
お腹がぐうぐうと鳴りそうなほどに減っているが、取り敢えず宿屋に戻ってから夕飯にしよう、と決めて歩を進める。

小さな街であるが、キリトはこの街をかなり気に入っている。
ショップ、武器屋も街の大きさの割には豊富であり、街の大通りでは、夕飯時のこの時間でも賑やかな喧噪が場を包み込んでいる。楽しげな笑い声、商談の交渉をしている音がキリトの耳に届く。
その大通りの橋の下には、澄んだ水の流れる小川がある。
〈水〉を基調としてあるこの町には、数多くの噴水や、河川がある。
建物はコンクリート造りのシンプルなものが多いが、穏やかな水の流れと雰囲気がマッチしている。いかにも西洋的街作りだ。

転移門までの距離も遠くないので、キリトはこの街にねぐらを構えるのも悪くないと思っていたが、売りに出ている部屋の値段の桁数を数えて、そそくさと退散してしまった。
この世界で家を買うのには、笑えないくらいの大金が必要なのだ。

後ろ髪引かれる思いながらも、せめて、この街の宿屋を満喫しようと考えを改め、いつもより奮発して、少しお高い宿屋に泊まるくらいは許されることであろう。
この街では最高級に値する自身の宿屋へと、先ほどまでより足取りの軽くなった様子で向かっていたキリトに、

「よう! キリトじゃねーか!」

と、後ろから大きな声が掛けられる。
声の主が分かっていたキリトは、振り向きながら返事をする。

「久しぶりだな、クライン」

そこに立っていたのはやはりキリトの予想通りの人物、クライン。
無精ひげを生やし、微妙なセンスのバンダナを巻いた頭は髪の毛をつんつんと逆立てている。
侍を思わせる防具に、腰には1本の剣、否、刀が吊ってある。
最近、曲刀カテゴリの武器を根気よく使っていれば、入手可能であると判明されたエクストラスキルの1つ、〈刀スキル〉専用の武器だ。
野武士面と装備が似合っているので違和感を覚えない。

キリトと同じく攻略帰りなのだろう、クライン率いる〈風林火山〉のメンバーが後ろに控えている。

「今からおめぇも飯食いに行くんだろ、一緒にどうだ?」

クラインがキリトを夕飯に誘うと、クラインの後ろのギルドメンバーが、「ずるいっすよ、リーダーだけこんな可愛い女の子とお喋りして!」だの「その野武士面じゃあ、絶対に落とせないっすよー」などと騒いでいる。

その光景を見て、溜息をつきたくなる。

悪の〈ビーター〉として、女であることを隠し続けることを第1層ボス攻略後覚悟していたキリトだが、あれから半年以上経った今、アスカにプレゼントして貰ったマフラーを使った渾身の変装もあえなく、結構な人数に女であることがばれてしまっている。
アスカは言うまでもないが、〈始まりの街〉で最初に女であることを知られてしまったクラインとそのギルドメンバーだけでなく、第1層ボス攻略後も何度も一緒にパーティーを組んで、ボス攻略に挑んだエギルとその仲間達など、合計15人には知られてしまっている。
幸い、彼らはその秘密を広めることはしなかった。それどころか、隠すことに協力して貰っているのだから、一応は感謝している。
だが、こういう風に女扱いを受けることになってしまったのは少々頂けない。
対応に困る。まあ、だいぶ慣れたが。

「そっちの奢りなら、考えないこともない」
「じゃあ、決まりだな。あっちに結構イケるバーガー屋さんがあるから、そこにしようぜ」
「腹減ってるからな。遠慮無く頂くぞ」
「1個が結構大きいからよ、あんま調子乗って数頼むと大変なことになるぞ。実体験済みだからな」

軽口をたたき合いながら、キリトとクライン達はバーガーショップへと向かった。



大口を開けて、キリトはハンバーガーにかぶりつく。
クラインが「結構イケる」と言うだけあって、大ぶりのハンバーガーはぶ厚い肉と何かは分からない野菜と、これまた不思議なソースを掛けられているのだが、ウマイ。
本当に遠慮無く高めのバーガー2つと、ポテト(に似た何か)のフライとジュースを頼んだキリトは、立て続けに2回頬張る。

「おめぇよう。せめてもうちっと上品に食ったらどうだ?」

隣で少し呆れたように呟いたクラインの言葉に思わず、バーガーを喉に詰まらせそうになる。
慌てて、ジュースで流し込んだ後、キリトは仏頂面になる。

「いいんだよ。男として生活してるんだから、これも変装の一環だ」

女らしく振る舞うのが面倒である、というのも理由の1つではあるが。
「可愛い顔してるのにもったいねぇなあ・・・」と小声で言ったクラインが話題を変える。

「どうだ、マッピングの方は?」

何の、が抜けているが、当然迷宮区のマッピングのことである。
思い出そうと首を捻りながらキリトは答える。

「うーん・・・今日18階層で階段見つけたから、早ければ明日にはボス部屋までたどり着くかも」

目を見開くクライン。

「早いな・・・・。俺たちは今日ようやく16階層に登り始めたところなのによ」
「機動力で、ソロプレイヤーがギルドパーティーに負けるわけないだろ」
「そうだけどよ・・・・・。無茶な攻略だけはするなよ」

元からお節介焼きな男だが、ボス戦でもないのにこれだけクラインがキリトのことを心配しているのにはキチンと理由がある。

「大丈夫だよ。安全マージンは十分すぎるほど取ってるし、・・・・・・25層よりも強い敵は出てきてない」

25層、という単語にクラインの表情が僅かながら暗くなる。

「〈アインクラッド解放隊〉は・・・・どうなったんだ?」

キリトの質問にクラインは、俺も人づてで聞いただけだけどな、と前置きをしてから続ける。

「あれだけの被害が出たからな・・・。ボス攻略参加を諦めて第1層を拠点にして、中層ゾーンのプレイヤーの育成に取りかかるらしい・・・」
「となると・・・・次のボス攻略は人数的に厳しいな・・・・・・」

クラインの表情は浮かない。当然だ。
クラインがキリトのことをいつも以上に心配しているのは第25層ボス攻略においての〈アインクラッド解放隊〉壊滅があったからだ。


〈アインクラッド解放隊〉。
第1層にて、キリトを悪のビーターとして糾弾した男、キバオウが作り出したそのギルドは、フィールドに出ることを恐れて〈始まりの街〉に留まっていた2000人のプレイヤーの中からも多くのプレイヤーが加盟している、超巨大ギルドだ。
コルが無くなった者に、コルやアイテムを無償で提供する代わりに、訓練を課して集団戦闘ができるようにする事により、攻略に参加する人数そのものを増やそうとする考えだった。
ベータテスターを忌み嫌い、非テスターによる攻略を目指したキバオウらしいギルドだ。
レベルこそ攻略組平均よりは多少低いものの、大人数で連携して戦うことによって個々の
欠点を補い合い、攻略組になくてはならない存在として役割を果たし続けていた。


だが、〈アインクラッド解放隊〉は文字通り壊滅した。第25層フロアボスによって。


現在の最前線第26層は5日でボス部屋目前まで来ていることから分かるように、難易度は低めだ。恐らくボスもその例に漏れず、そこまでの強さではないはずだ。
それは、もしかしたら茅場なりの配慮なのかも知れない。

現在の1つ下の第25層は、全100層のクォーターポイントであることから、難易度が恐ろしく高く設定されていた。
フィールドに湧くモンスターからして強力であり、迷宮区にたどり着く前に既に数名の死者が出ており、フィールドボスが24層のフロアボスが可愛く思えるほどであった。
そんな状況だったので、当然、フロアボスが強敵であることは誰しも予想していたので、万全の準備、対策を練って挑もうとしていた。

だが、そこでキバオウは罠に掛けられた。
誰かから流された偽情報に騙されて、1レイドの上限人数にも満たないわずか40人足らずの〈アインクラッド解放隊〉のギルドメンバーだけで、他の攻略組プレイヤーに何も言わずに独断でボス部屋へと突入した。
その情報を〈鼠のアルゴ〉から聞きつけたキリトやアスカ含む攻略組プレイヤー達はすぐさまレイドパーティーを編成、この後を追った。
しかし、1時間近く遅れて出発したキリト達は全力で追いかけたが、間に合わなかった。

少し遅れてたどり着いたボス部屋の中は凄惨、としか言いようのない有様だった。
双頭巨人型ボスモンスターが巨腕で次々と〈アインクラッド解放隊〉のプレイヤー達を殺していて、なすすべもなく殺される仲間達をキバオウは呆然とした様子で見ていた。
その後、1時間にも及ぶ激闘の末、援軍としてやって来たキリトたちのパーティーからも数人の犠牲者が出たところで、ようやく第25層ボスは倒されたが、手放しで喜べる状況ではなかった。
キバオウの怨嗟の声がボス部屋に木霊したのだ。
偽情報を送りつけたのが、攻略組プレイヤーだと絶叫したのだ。
誰がその情報を送りつけたのかは、今でも判明していない。
キリトにも疑いは掛けられたが、アスカやクライン、エギル達が否定し、最終的にメッセージログを確認までして、免罪となった。
キバオウはその場で、攻略組とは縁を切ると言っていたので、攻略には参加してこないとは思っていたが・・・・・。

「・・・・〈アインクラッド解放隊〉を除いたら、1レイドの上限人数揃えるのも厳しいな・・・・」
「ああ、・・・・・他のギルドも攻略組を抜けるって言っている奴らが結構いるらしいからな・・・・」

思わず、苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
25層によるボス戦の大惨事は、当然中層プレイヤー、ひいては下層プレイヤーも含む全プレイヤーへと伝わっていった。
今まで、攻略組として半数近くの人数を占めていた〈アインクラッド解放隊〉の壊滅、攻略組からの脱退はあまり好ましい知らせでなかった。
これから攻略が進んでいくのか?と不安に思っている者も少なくない。
故に、比較的難易度が低めのこの層は可能な限り早急に突破したい。

しかし、いくら第25層よりは容易とは言っても、フロアボスは油断していい敵ではない。
1レイドの上限人数にすら満たない人数で挑むのには、不安要素が多すぎる。
1人として死者を出さないこと、これが何があっても守らないといけないことなのだから。

「・・・・〈風林火山〉は参加するのか?」
「今はまだ決まってねえな・・・・。参加できるようにレベリングはしとくけどよ、十分な人数が揃わなかったら、下りることも考えてる」
「・・・・そうか」

〈風林火山〉はクラインをリーダーとする、小規模ギルドだが、第15層でボス戦に初参加して以来、今では攻略組に必要不可欠なギルドの1つだ。
最初はクラインが他のネットゲームで知り合った4人と作ったわずか5人のギルドだったらしいが、クラインの人当たりの良さと、ギルドの居心地の良さを感じるのはキリトだけではないらしく、少しずつ人数が増えてきており、今では10人近くになっている。
キリトが怖くて逃げ出した、人の命を預かる責務をクラインは背負っている。
キリトは一瞬、〈始まりの街〉にてクラインを置き去りにしたことに対する罪の意識で胸が痛くなる。

「おめぇはどうすんだよ?」

クラインから返される問い。

「お・・・わたしは参加するつもりだけど、まあ、あまりにも無謀だと思ったら抜けるつもり」
「じゃあ、アスカはどうすんだ?」
「・・・・何で、アスカのことをわたしに聞くんだよ?」

意味が分からない。
クラインがあまりにも当然、といった風に聞いてきたので訝しむ。
アスカとは第1層でパーティーメンバーとして一緒に戦って以来、腐れ縁というやつなのか、かなりの頻度でボス戦ではおなじパーティーになることが多いが、キリトやアスカのような変わり者ソロプレイヤーを気軽にパーティーに誘ってくれるのが、エギルやクラインだけだからだ。
コンビというよりは、利害関係が一致しているから組んでいるだけだったはずだ。

「知らないのか?」
「知らない。まあ、アスカのことだからよっぽどのことが無い限り参加すると思うけど」

第1層で見せたほどの必死さは見られないが、それでもアスカは熱心にボス攻略をしている。
〈アインクラッド解放隊〉が壊滅したからといって攻略から下りるとは思えない。

「アイツもギルドに入ってないから心配なんだよな」
「クラインもあっさりと断られてたからな」

キリトの指摘にクラインはバーガーをうぐっと喉に詰まらせて、大急ぎでジュースを飲んでいる。
まあ、この世界では呼吸をする必要がないので、喉を詰まらせても何も問題にはならない。
ポテトをパクパクと食べながらクラインがしどろもどろ言う。

「べ、ベータテスターでも無いのにソロやってるのアイツだけだろ?だから俺は心配してだな・・・・・・」
「アスカがギルドに入ってくれたら女も入ってくれるかも、とか言ってなかったか?」

酒に付き合ったときに愚痴るように言っていたのをキリトは覚えている。

アスカの容姿は〈手鏡〉を使わずに元のアバターのままなのでは?と思えるほど圧倒的だ。
男女比率が9対1ほどのこの世界で逆に女子に言い寄られているのはアスカくらいだろう。
噂ではファンクラブが存在するらしい。
そのアスカがギルドに入れば、女子も入って来るのでは?と考えたらしい。

今度はポテトをうぐぐっと盛大に喉に詰まらせるクライン。
大急ぎでジュースを飲もうとするが、空になっているらしく、苦悶の表情を浮かべている。
クラインの手がキリトのジュースへと伸びるが、キリトは素早くジュースを手に取る。
なぜ?why?といった感じの表情の死にかけクラインに、呆れていたギルドメンバーの1人がジュースを渡してやると、クラインはそれを全て飲み干す。

「はあー・・・、死ぬかと思ったぜ」
「この世界じゃ、呼吸する必要ないんだから死ぬわけないだろ」

滅茶苦茶苦しいだけだ。

「てめぇがジュースくれねえからだろ!」
「やだよ、恥ずかしい」

クラインがさきほどのキリトの行動に文句を言っているが、キリトは素気なく答える。

「恥ずかしいって・・・。さっき男の変装の一環だとかで、大口開けてバーガー食ってた奴が言うか?」
「・・・・・・・それはそれ。これはこれだ」


キリトは再度、大口を開けてバーガーにかぶりついた。

 
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